五里霧中

クロム

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兆し

一通のメール

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 僕はカミさんと別れた後、自分の最寄駅で電車を降り、家まで歩いた。ただ、ひたすら歩いた。いつもは長く感じる道だったたが今日はすぐに家に着いた。

「ただいまー。」
 リビングに入ると母は料理をしていた。
「おかえりー、トシちゃん。」
「ちゃん付けはやめろって。あっ良い香り。」
「何言ってんの、いつもと同じ、肉じゃがに味噌汁に白いご飯よ。」
「質素だな。」
「うちは貧乏なんです!」

 いつもと同じ、何でもない話。なのになんでこんなにありがたく感じるのだろうか。なんでこんなに恐れているのか。何に怯えているのか。

「お風呂入ったら、晩御飯よー!」
「はーい。」

 肉じゃがが無性に美味しく感じた。味噌汁は相変わらず薄味だったが、むしろそれが僕を安心させた。

「どうしたの?トシちゃん、そんなに急いで食べちゃうと体に悪いわよ?」

 心配そうに母は僕の顔を覗き込む。僕は聞いてないふりをして新聞を広げた。

「ごちそうさまー。」

 自分の部屋に戻る。随分荒れていた。っていってもいつものことだった。バックから英語の宿題を取り出し机の上に広げる。シャーペンを握ったが、全然集中できなかった。

 カミさん・・・どうして?どうして僕なの?どうして僕がカミさんに告られなければいけないの?僕はカミさんと付き合うの?カミさん、教えてよ。
 僕はカミさんの事が好きなのだろうか?カミさんは可愛くて格好よくて明るくて、でも、怖がりで寂しがり屋で笑顔の裏に涙が溢れている時だってある。親友だからカミさんの事はよく知っている。ほぼ一年間の間、ずっと時間を共有してきた。
 思えば僕はカミさんの事が好きなのかもしれない。今日だってカミさんと二人で将棋崩しした時ドキドキしていた。僕は、カミさんはグンマと付き合っているという事にして、自分に嘘を言い続けていたのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。
 
 僕は、カミさんが好きだ。

 メールが来た。カミさんからだろうか。違った。沙耶高慎二、確か同じクラスのうるさい奴だ。はっきりいって苦手だ。それに、こいつは花園さんをいじめるグループの中心メンバーだ。
 
 僕はメールの内容を見た。それは短かった。

 山田か? 俺はお前と同じクラスの沙耶高だ。一年間よろしくな。それで本題なんだがお前昼休みどこいってんだ?毎回弁当持って葛西とかと教室出てんだろ?

 なんと沙耶高らしい文章だろう。いきなり、山田か?はないだろ。それに高圧的な態度、気に食わない。

 同じクラスの山田です。昼休みどこへ行っているか、という事ですが中庭で昼ごはんを食べ将棋などをやってます。
 
 メール送信

 メール受信

 は?なんで敬語使ってんの?まあいいや。中庭って確か図書室の向こう側のとこだっけ?

 メール受信

 おい、無視すんなや。俺も昼休み中庭に遊びに行っていいか?お前とは気があうと思うぜ?俺、実は小学校の頃、将棋ならってたんだ。な?いいだろ?

 ああ、うるさい、うるさい。そんなん勝手にくりゃいいだろ?なんで許可もらいに来たんだろうか?僕はベッドに倒れた。スマホの光をずっと見てたせいか部屋が暗く感じた。片手で適当に文字をうつ。

 わかった。敬語は使わないよ。別にいつでも遊びに来ていいよ。僕だって将棋には自信があるぞ。

 メール送信

 送ってから不安になった。僕は別に沙耶高が来ても特に問題は特にない。歓迎はしないが。しかし残りの四人はどうだろう。沙耶高と四人は繋がりがあるのか知らないがもしかしたら沙耶高が来るのに反対する人もいるかもしれない。

 メール受信

 そうこなくっちゃ、トッシー。明日から一緒に飯食おうな。約束だからな。

 はいはい。了解しました。

 メール送信

 なんだったのだろうか?どうして急に僕らと遊ぼうとしてきたのか、不思議でならない。あいつにはそれなりに友達がいるというのに。
 眠くなってきた。朝から色々ありすぎるというのに夜までハプニング続きだ。このままだと過労死するのではないか、と半ば本気で思った。
 寒気がしたので布団に潜り込んだがそこまで暖かくはなかった。やけに静かな部屋の中で僕は浅い眠りについた。
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