優しい魔王と勇者の俺

まるはる

文字の大きさ
上 下
2 / 2
始まり

2日目 とりあえず自己紹介

しおりを挟む
~魔王の城前~


「…また瀕死になって、街に送られてしまった……。今度こそ倒してやる!」
勇者は扉を開け、魔王がいる部屋へ向かう。


改めて考えると、いきなり火炎放射は酷いと思うぞ。
ああいうジワジワとHPを削る魔法は、意識が落ちる直前まで感覚が残っているわけで、肉体的にも精神的にもきつい。
瀕死にするなら一発でやってほしい。ダメ元で魔王にお願いするのもアリかもしれないな。


…グダグタと考え事をしているうちに、見覚えのある扉の前にいた。
魔王の部屋へ続く扉だ。前回は急いでいてじっくり見る暇は無かったが、改めて見ると、綺麗に植物の装飾がほどこされ、所々に蝶の模様が彫られている。

なんでこんなにお洒落なんだろう…?というか、一番上に小さく『ようこそ』と書かれている。
バカにしているのかあの魔王は。

沸き上がる怒りを抑えつつ、重たい扉を押した。


「おい魔王!!この勇者エリオットがお前を倒しに来たぞ!出てこい!」
だだっ広い部屋に自分の声が響くだけで、応答は無い。

「ったく、部屋に入るからなっ!!」
部屋の中に入ろうとして、一歩足を踏み入れたその時、


キンッ


ピカピカとしているゴミひとつない綺麗な床に、突然ナイフが突き刺さった。
ん?よく見るとナイフに赤黒い何かがこびりついているような…。

理解しがたいこの状況に体を硬直させていると、どこからか声が聞こえた。


「あははっ!エモノを見つけた!ゴハンゴハン~♪」
バサッと音とともに、俺の数メートル先に女の子が立っていた。

紫色のショートヘアーをしており、魔王と同じような角が生えている。
肌は雲のように白く、頰にはナイフと同じような赤黒い何かがこびりついている。


「エモノ?ゴハン?え?何が起こっているの?君は誰なのかな?」
思わず問いかける。

「エモノの問いに答える必要はなーーーーーしっ!!」
女の子は聞く耳を持たずに、こちらに攻撃を仕掛けて来た。


俺が防御体制に入る前に、女の子の武器であろう長い爪が片足に突き刺さった。

「なんだこいつっ!速い!」
思いもよらない出来事にたいせいが少し崩れる。

女の子はそこを見逃さずに隙を狙って攻撃を仕掛けてきた。恐ろしい。


「足の次は~腕!!腕の次は~胴体!!それから~~。」


やはりまだ子供だからなのか、次に狙うところを口に出してしまっている。
しかし、動きが速すぎて防御が間に合わない。


「次はここっ!」

ザシュッ…

腕を引っかかれ、赤い血が床に散らばる。

「次はここっ!」

ズプッ…

避けるのが遅すぎた。腹に深々と爪が刺さる。床には赤い血だまり。

「いてぇ……。」
痛みで意識が朦朧として来た…このままだと死んでしまう。

「よく弱ったなぁ~。冷たくなる前にさっさと食べちゃおかな♪」
無邪気な笑顔がこちらを見つめる。

もうダメだと悟ったその時、聞き覚えのある声が部屋にこだました。


「その方は勇者様ですよ。獲物じゃありません。さっきご飯を食べたばかりではないですか。」
朦朧とする意識の中で、魔王の姿をとらえた。


「ごめんなさーい兄様。だってお腹が減っていたから……。」


「え………?兄…様?」
もしかしてこいつら、血が繋がっているのか?


「殺す寸前まで攻撃してはいけませんよ?力加減をしないとすぐに死んでしまうのですよ。ただでさえ弱いというのに……攻撃をするなら瀕死程度にしてくださいね。」

「わかったよー兄様。今度から気をつけるね~~。」


人を半殺しにしといてそのノリかよっ!!もうあの子との戦いはごめんだな。


「失礼しました勇者様。すぐに回復の魔法をかけますね。」

淡い緑の光に包まれ、身体中の傷が無くなっていく。


「おい魔王。たくさん聞きたいことがあるが、一点に絞ろう。その隣にいる女の子は誰だ?」

「ああ、失礼いたしました。紹介が遅れていましたね。この子は私の妹、ルナです。先程はご迷惑をおかけしてしまって申し訳ございませんでした。」


妹……とは言っても、あまり似てないような気がする。


魔王の隣にいたルナがこちらに近づいて来た。

「あんたもじこしょーかいしてよ。一応勇者なんでしょ?」

一応ってなんだよ。

「ああ、わかったよ。俺の名前はエリオット。魔王を倒すために勇者に選ばれたんだ。今後ともよろしく。」
魔族相手に何丁寧に自己紹介しているんだろう。
自分に嫌気がさす。


「ん?そうだな…。魔王、お前まだ俺に自己紹介してねぇよな?」
そういえばまだ魔王の名前を聞いていない。


「ええ、そうでしたね。では改めまして、私は第87代目魔王です。名前は……その時が来たら教えますよ。」


その時が来たらって、どういう事だ?さっさと教えてくれればいいものを。


「あの…勇者様。今日はお疲れでしょうし、もしかして街に帰りたいとか思っていたりしてますか?」 


「ん…まぁ思ってるけどって、その手にある火の玉……もしやまた瀕死にn」
勇者は炎に包まれ、焼かれてしまった。

「」


「ルナ、転送魔法を使えるかい?」

ルナは答える。

「うーん、まぁまぁ使えるよ。もしかしてこいつに使うの?まぁ、いいや。街まで?」

「街の宿の中にしてくれないかな?道のど真ん中に送ってしまったら、馬にでも踏んづけられてしまうよ。」

「それでもいーんじゃない?だって勇者がいない方が、魔界は平和でいられるんでしょ?というか、なんで兄様は勇者を殺さずに、瀕死にして街に送り返すのさ?」

ルナは首をかしげる。

「別に……特に理由は無いよ。」
声のトーンが少し低くなる。

「変なの。兄様。一体何を考えているの?」


「……はいはい気にしない!さっ、早く街に転送してあげましょう。……死んでしまう前に。」




今日も勇者は、炎に身を焼かれて瀕死状態になってしまいました。





しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...