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33.迫りくる決着の刻
しおりを挟む「なぁアルジよぅ。このまま城から逃げてもさ、またあのクズ王が追っかけてくると思うぜ。イシェリアに対して気持ち悪ぃほどの執念持ってっし。どうするよ?」
「よし、暗殺しますか」
「『よし、寝ますか』みたいな軽ーい調子で物騒なこと言わないで下さいッ!?」
イシェリアの威勢の良いツッコミに、クスクスとユーリは笑うと、彼女の頭を優しく撫でた。
「ふふ、冗談ですよ。ちなみに訳あって一時的に“暗殺業”をやっていますが、人っ子一人殺していないので安心して下さいね」
「はい、それは分かっています。ユーリアスは絶対にそんなことしていないって」
「イシェリア……」
感慨の面持ちで、微笑むイシェリアを抱きしめキスをしようとしたユーリの頭を、アーテルはポンッと出したハリセンでスパンッ!! と叩きつける。
『隙あらばイチャつくんじゃねぇ!! さっさとどうにかする方法考えろよな!?』
「……いてて……。僕の召喚した【精霊】が主の僕に対して手厳しい……」
ユーリが後頭部をさすっていると、廊下からバタバタと誰かが駆けて来る音が聞こえ、部屋の扉が勢い良く開かれた。
そこにいたのは――
「フレデリック様!? ムートン様っ!?」
「イシェリア、大丈夫かい!? 『洗脳』はっ!?」
慌てて駆け寄って来るフレデリックに、イシェリアは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫です、解けていますよ」
「あぁ、良かった……! 兄上とあの女が君を連れて戻って来た時は、驚きで固まってしまったよ……。しかもまた君を『洗脳』をして! 二回目の『洗脳』は簡単には解けない筈なのに、どうやって解いたんだい?」
「彼が助けに来てくれて、解いてくれたんです」
イシェリアの言葉で、彼女の隣に黒髪の男がいることに気付いたフレデリックは、少し驚きながらも彼に礼を言った。
「本当にありがとうございます。イシェリアを助けてくれて……。もしかして、外の魔物達は貴方が……?」
「――えぇ、まぁ」
「やはり……。あの魔物達、暴れてはいるんですが人に全く危害を加えていなかったので、陽動かなと思ったんです。兄上達は全く気付かずに、今も戦闘が長引くような滑稽な指示を出して戦っていますけどね」
「……よくお分かりで。感服致しました」
「いえ、そんな……。――あの、間違っていたら申し訳ないのですが、ウォードル公爵家の次男であるユーリアス様、ですよね……?」
おずおずと尋ねるフレデリックに、ユーリは驚きの仕草をして彼を見返す。
「何故分かったのです?」
「うちの国の貴族達の顔と名前は、大体把握していますので……」
「フレデリック様は、本当に勉強熱心で聡明なお方なんですよ。この国と国民のことを常に考えておられるんです」
「いやいやそんな……」
宰相のムートンが急いで持ってきた清楚なワンピースを着たイシェリアは、フレデリックを褒め称える。
彼女の言葉に大いに照れるフレデリックを、ユーリはジッと見つめた。
「……貴殿が、あの変態クズ野郎に代わって王になってくれたら、この国は永劫安泰ですね。我ながら良い案です。そうしましょう」
「えっ!? 私がですかっ?!」
自分で言って自分で納得しているユーリに、フレデリックは驚愕の顔つきで素っ頓狂な声を上げた。
「わたくしめも前々から常々そう思っておりました」
ユーリの提案にムートンもうんうん頷き乗っかる。
「……フレデリック様。私がいなくなってから、あの人はきちんとお仕事されていましたか? メローニャさんは?」
イシェリアがフレデリックに尋ねると、彼の顔が曇る。
「……一応してはいたんだけど、適当な部分が多くて……その度に私が直していたよ。大事な案件の決定も、面倒臭がってよく考えずに決める節があって、国の運営に関わる重要な件は、私とムートンが一緒に決めることが何度かあったね。あの女は相変わらず全く仕事をしてないよ。イシェリアがやっていた仕事がどんどん溜まる一方さ」
「決定ですね」
「決定ですな」
『けってーい!』
「……フレデリック様、何卒よろしくお願い致します……」
「え、ええぇっ!?」
その場にいる全員一致の可決に、フレデリックは驚き戸惑いワタワタしている。
「そうなると、まずはあのド変態クズ王を玉座から引き摺り落とさなくてはですね」
「あぁ、それは何とかなると思います。イシェリア様……よろしいでしょうか?」
ムートンがイシェリアにそう尋ねると、彼女はその意図にすぐに気が付き、しっかりと頷いた。
「……イシェリアがあの金庫の暗証番号をこの国の建国年にしたのは、『初心に返って頑張って欲しい』という願いを込めたんだよね? 残念ながら兄上には届かなかったけど……」
「……いいんですよ、もう……」
イシェリアは少し悲しそうに笑うと、首を横に振った。
「イシェリアが金庫に残してくれた書類を見て、私とムートンも秘密裏に色々と調べて、決定的な証拠も手に入ったよ。後は二人を問い詰めるだけだ」
「では、外の魔物を全員魔界に還しますね。あの二人が戻って来たら早速始めましょうか」
ユーリの言葉に、全員が真剣な表情で頷いた。
――決着の刻まで、あと少し――
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