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8.四人パーティー
しおりを挟むおれ達が冒険者ギルドに入って、半年が経った。
ギルドの依頼の為、人数調整でギルドで知り合った二人の冒険者とパーティーを組み、洞窟内へと入る。
洞窟内で一日中魔物と戦っていたおれ達は、疲労困憊でヘトヘトになりながら宿屋へと戻ってきた。
「あーっ、畜生! めちゃくちゃ疲れたぞ! 肉食いてぇ肉っ!! それに酒ーっ!!」
宿屋内に響く勢いで喚いているのは、戦士のガードンだ。屈強な身体を持ち、豪快で明るい性格の、このパーティーのムードメーカー的存在だ。
「煩いですよガードン。食事よりも私は一刻も早く身体を洗いたいですね。汗まみれ埃まみれでもう耐えられませんよ」
そう言って顔を顰めたのは魔法使いのシェルだ。細身で、紫色の長い髪と切れ長の翡翠の瞳が印象的な、知識豊富で頼れる仲間だ。
「確かにな。風呂上がりでサッパリした後の発泡酒は美味ぇし! じゃあ早く部屋割り決めようぜ! 今日も二人部屋を二つ取ってあるし、どうすっか……」
「あ、あのっ」
そこで、おれは素早く声を上げた。
「おっ、どうしたリュー。希望でもあんのか? いーぞいーぞ、おにーさんに言ってみな?」
おれの肩に腕を回し、ニヤリとしながらガードンが訊いてくる。
ガードンは俺より七才も年上だから、こうやって何かと年上ぶってくるのだ。
おれも、もう一人の兄貴が出来たみたいで悪い気はしない。
「うん……」
ぐっと息を呑み、おれは決意して口を開いた。
「おれ、今日はガードンかシェルと一緒の部屋がいい」
「おっ! いいぜいいぜ? お前さん、なんだかんだでこの一週間アルと一緒の部屋だったもんな? じゃあオレんとこ来るか? んで一緒に筋トレしようぜ! お前さんはもうちょっと筋肉つけた方がいいしな!」
「ふぅ……相変わらず暑苦しいですね、貴方は。私のところへ来なさい、リュー。貴方とは補助系の魔法について色々と語りたかったのですよ。貴方の魔法とそれをかけるタイミングは私から見ても素晴らしい。是非ともお話を伺いたいですね」
「う、うん、二人ともありがとう……! じゃあ今日は――」
おれはホッとなりながら二人に笑顔を向けた時、不意にガードンの腕が離れ、自分の手が引っ張られたかと思うと、誰かの胸の中に拘束されていた。
「悪いな二人とも。今日もコイツは俺と約束をしてるんだ。……約束を忘れるなんて酷いなぁ、リュー?」
最後は囁くように耳元で言われ、その妖しい響きの低音にゾクリと肌が粟立つ。
そろそろと振り向き顔を上げると、腰まで伸びた黄金の髪を煌めかせ、澄んだ蒼色の瞳でこちらをジッと見つめているアルの顔があった。
「アル……」
スラリとした体躯で、金糸のように美しい髪を持ち、まるで天使のように端麗な顔立ちのアルは、すれ違う女性達を次々と虜にして、頻繁に声を掛けられている。
そんなアルは女性に対して物腰柔らかで、常に微笑を浮かべながら接する為、巷では本当に『天から舞い降りた麗しき天使様』と呼ばれているのだとか。
「ちが、おれは……っ」
「約束、してただろ? 今日も一緒の部屋になろうって。な、リュー?」
慌てて否定の言葉を紡ごうとするが、アルの被さってくる声に遮られてしまった。
有無を言わさないその鋭い眼光が、おれの口から音を奪い取る。
「今日だけでなく、これからも宿に泊まる時はずっと俺と一緒の部屋だろ? ガードンとシェルも分かってくれるよな? 俺達は例のあの村で幼馴染だったんだ。色々と積もる話もあるからさ」
ニコリ、と綺麗な笑みを浮かべてアルは二人に言った。
それを聞いて、ガードンとシェルは顔を見合わせ、互いに肩を竦める。
「……分かったよ。リュー、いつでもオレ達の部屋に来いよ。歓迎するぜ」
「えぇ、遠慮せずに来て下さいね」
「……ありがとう。ガードン、シェル」
おれは、それしか言うことが出来なかった。アルに肩を掴まれ、半ば強制的に部屋へと向かう。
その時、アルがボソリと、
「誰が行かせるかよ」
と呟いたのを、おれは聞こえない振りをして下を向いた……。
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