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103.イーファス王国の惨状

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「……ん? どうした、顔を隠してさ。父ちゃんのあまりのカッコ良さに感激してむせび泣いてんのか?」

 私が両手で顔を覆ったまま恥ずかしさで身悶えていると、父さんが笑いながらからかってきました。
 
「断じて違うっ! このナルシス父さんめっ。……そ……そのあいさつが、恥ずかしくて――」
「はははっ! そっかそっか、耳まで真っ赤になっちゃってかっわいーの。でもさ、昔はお前からも頻繁にしてきたんだぜ? 『とーちゃとかーちゃのまねー』とか言ってさぁ」
「ぐぅっ、幼児の私の純粋さと無邪気さが眩しくて羨ましい……!」
「ははっ、また慣れるまで父ちゃんがちょくちょくしてやろうか? 早速今から――」
「先程のもので十分でございます!! 謹んで御遠慮させて頂きたく存じます!!」
「ぷはっ、何だそのおかしな丁重語! ホントうちの愛娘は超かっわいーな、はははっ」
「っ!? くうぅ……っ」
『……おいシデンよぉ、ユヅキがからかい甲斐があるからってやり過ぎはよくねーぞぉ。昔みたいに拗ねちまって口聞いてもらえなくなっても知らねーからなぁ。それより、もうすぐ着くんじゃねぇか? 前方下に熱の密集地帯があるぜ』
「ははっ、そいつは非常に困るな。――あぁ、着いたな、イーファス王国に」


 ライさんの助け船に感謝しながら前方に視線を移すと、確かに大きな街が見えてきました!
 ブルフィア王国やグリーヴァ王国と同じ、高い外壁で囲まれたその街の建物は、黄色やオレンジ色が多くて。
 色的にもまさに“雷”の国って感じです。

 街の奥の方に高い丘があって、そこに黄金色の立派なお城が建っていました。
 あんなにキラキラさせて、一体何で出来ているんだろう?
 ま、まさか金塊とかっ!?

「けっ、相変わらず趣味悪ぃ城だな。つーかもっとヒドくなってんじゃねぇか。こんなんで大切な国民の税を使うなよなぁ。オレがいなくなって好き勝手やってんだろ。マジムカつくわ、あのタヌキ野郎め」
「ね、ねぇ父さん。あのお城の壁、何で出来てるの?」
「レンガに金箔を貼ってんだよ。流石に城全部に金塊は無理だからな。ったく、そんなのして何が楽しいんだか。かなり理解に苦しむぜ」

 心底イヤそうな声音に、父さんは王様をかなり嫌っているということが十分に伝わってきます。

「ねぇ、父さん。イーファス王国の王様ってどんな人?」

 気になって尋ねてみたら、父さんが大きく眉間をしかめながらも答えてくれました。

「あぁ、一言で言えば“超最悪”だな。このイーファス王国は、グリーヴァ王国と同じで【世襲君主制】と【長子相続制】でさ。まぁ簡単に言ったら、親から子に王を受け継いで、子は兄弟がいた場合、問答無用で上のヤツが跡を継ぐって制度だ」
「ふむふむ……」
「で、そうして前王から引き継いだのが今の王なんだが、ソイツがホンット最悪でさ。自分が常に一番にならないと気が済まない、気分が悪いと人や物に八つ当たりする、王国の貯蓄を適当に公的な理由を付けて私的に使う、他諸々! な? 文句のつけようがないくらい超最悪なヤツだろ?」
「うわぁ……。本当に……」

 よくそんな人が王様やってるな……。他に誰もなる人がいなくて仕方ないとは言え、余りにもひどい……。

「オレが《聖騎士》現役な頃は、宰相のセンと一緒にあの野郎の愚かな行為を止めてたんだけどな。オレがいなくなった後、アイツは一人で相当苦労してるんだろうな……」

 父さんは憂いの表情を浮かべながら、長い溜め息をつきます。

「あの野郎は王妃と子供がいなくてな。王妃はいたんたが、ヤツの過大な暴君具合に耐え切れず、子を成す前に一人逃げちまったんだ。それ以降、王妃を娶ってはすぐに逃げられを繰り返していて、あのタヌキ野郎の評判と性格は益々悪くなるばかりってワケさ」
「自業自得とはこのことだね……」
「ホントそうだよな。そんなこともあって、気に入らない臣下や侍女への暴言暴力、更に嫌がらせも日に日に強くなって……っと待てよ。そうなると、オレ達の家が気になるな……。ちょっとスピードあげるぞ。しっかり掴まってろよ」
「う、うん?」

 父さんは私をグッと抱え直し、漆黒の翼を数回羽ばたかせると、街に向けて勢い良く下降していきました。
 街の上まで来ると一旦動きを止め、キョロキョロと辺りを見回します。私も周りを眺め回してみましたが、街の人達の様子が何やらおかしい……?
 ブルフィア王国にあった活気が、ここには全くないのです。痩せている人が多いし、子供達も細い子ばかりで、皆笑顔がありません。
 路上の隅では、汚れた薄い服一枚で蹲って、ブルブルと震えている人も……。

「……父さん……」
「あぁ。思っていたより深刻な状態だな……。――くそっ、あのタヌキ野郎めっ! 民の税で自分ばかり豪遊してんだろ!!」

 父さんは苦虫を噛み潰したような面持ちで街を見下ろしています。
 やがて視線を定め、その一点をジッと見つめた父さんは舌打ちすると、大きな息をつきました。

「ちっ、こっちは思った通りだったわ」
「え、どうしたの?」
「オレ達の家が綺麗サッパリなくなって更地になってやがる。あのタヌキ野郎の命令で取り壊したんだろ、ヤツのやりそうなことだ。父ちゃん、あの野郎にかなり嫌われてたからな」


「えっ、えぇえっ!? 家が壊されたぁっ!?」


 その衝撃の言葉に、私は大空にこだまするぐらい盛大に叫んでしまったのでした……。



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