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94.強力高速穴掘り機を所望です
しおりを挟む「……っ!? 柚月、どうしたんですか!? 何故泣いて……っ!?」
イシュリーズさんの焦った声も響き、私の近くに駆け寄ってくる気配がしました。
父さんは何故か私を隠すように深く抱きしめ、イシュリーズさんに伝えます。
「誤解する前に言っとくけどな、原因はお前の父ちゃんだぜ」
「え……父上が!?」
「……そうね。今のはあなたが悪いわ。言葉足らずもいいところよ。しかもいきなりシデンさんに手まで出しちゃって。……本当にごめんね? 柚月ちゃん。この人を止められなくて……。こんな無愛想で言葉も足りず誤解されちゃう人だけど、あなたを傷つけるつもりは全くなかったのは確かだから……」
申し訳なさそうなこの声は、イシュリーズさんのお母さん、セイラさんですね。セイラさんが、後ろから優しく私の頭を撫でてくれるのを感じます。
ごめんなさい、セイラさん……。返事をしたいけど、まだしゃくり上げが……。
「母上……?」
「誰が言葉足らずだと――」
「ふぅ……。あなたは昔からいつもそう。あなたのお祖父さんが《聖騎士》だった頃、お祖父さんの大切な人が嫉妬に狂った者によって殺されてしまい、彼は【闇堕ち】してしまった。その後お祖父さんは処刑され、優しく大好きだった彼との別れは、悲しみと絶望に満ちたものになってしまった。あなたはそれを教訓にし、《聖騎士》としての“覚悟”を身につける為に、幼い頃からイシュリーズに厳しく指導したのよね。大事で大切な唯一の息子が、どんなことがあっても【闇堕ち】しない為に……ね」
「……父上が、そんな思いで俺を……?」
「ごめんね、イシュリーズ。何か誤解しているみたいだったから、もっと早く伝えるべきだったんだけど、この人が『絶対に言うな!』 って毎回本当うるさくて……」
「セイラ!!」
イシュリーズさんの呆然とした呟きが聞こえ、ルザードさんの鋭い制止の声がしたけど、セイラさんはそのまま続けます。
「ついさっき、シデンさんに言った言葉もそうよ。要約すると、『お前が《聖騎士》になっていなければ、お前と大事な家族が苦しむこともなかった。騎士のまま平和に暮らせて、辛い思いをせずに済んだ。それなのに、《聖騎士》になったお前にずっと頼りっぱなしだった自分が心底情けない。自分がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったはずだ。本当にすまなかった』って言いたかったんだと思うわ。シデンさんを殴ったのは、ちゃんと正気に戻ったかどうかを見極める為と、皆に心配を掛けた分の痛みを感じろ! ってとこかしら。――ね、あなた? 大体合ってるわよね?」
「……そ、そこまでは言っていない!!」
「ぶはっ! ってことは合ってるんだな? どんだけ表の言葉と裏の本音が違うんだよお前! 不器用にもほどがあるだろーが!」
「だ、黙れっ!!」
いつもは冷静沈着なルザードさんが焦りまくっています。父さんのように見かけで誤解されちゃうけど、実は息子想い、仲間想いの優しい人なんですね……。
それにしても、ルザードさんの言葉を正確に解読するセイラさん、すごい! さすが長年連れ添った夫婦ですね!
……あ、フウジン家夫妻の掛け合いを聞いていたら、何だか落ち着いてきた感じです。しゃくり上げも止まったし、良かった……。
しかしここで、この事件最大の問題が発生してしまいます……!
私は父さんに、顔を押しつけたまま小声で話し掛けました。
「と、とうさ……」
「……ん? 落ち着いたか、柚月? もう大丈夫か……?」
いつになく、とても優しい口調で私の髪を撫でながら、父さんが頭を下げ耳元で訊いてきました。
私はそれに、父さんにしか聞こえないように小声のまま答えます。
「……父さんの服に、盛大に鼻水がついた……。離れたら、ビヨ~ンって伸びてボタッと落ちると思うから僅かでも動けない……。救世主……救世主のティッシュ様を今すぐここへ……っ」
「ぶふっ! お、お前が平常運転に戻って何よりだわ……っ。救世主のティッシュ様って……くはっ……」
笑いを懸命に堪えている父さんだけど、それよりも早急にティッシュ様を持ってきて貰いたい!!
その後父さんは、無事私の手にティッシュ様が渡り鼻をチーンとかんでいる間、上だけ着替えに部屋へと戻っていきました。
いやホント手間掛けさせてごめんね父さん……。
父さんを待っている間に体育座りで鼻をかんでいる私を、フウジン家父子を除いた皆さんは、子供を見るような温かい眼差しで頭をヨシヨシしたり、ギュッとしてきたりします。……え、もしかして子供扱い決定ですか!?
――って、ホムラさん? 何ですかその慈愛に満ちたキラキラした瞳と差し出した掌に乗ってるアメ玉は!
近所のおばちゃんが、泣いている子供に「おやまぁどうしたの。アメちゃんいるかい?」ってどこからともなくアメ玉を取り出して泣き止ませる手法ですよ!? もはや完璧に子供扱いしてますね!?
ていうかホムラさんもどこからアメちゃん出したの!? おばちゃんみたいに常に持ち歩いてるの!? 折角なので一個戴きますね!?
イシュリーズさんは、皆さんのヨシヨシギュッが終わったと同時に私を腕の中に閉じ込めて離してくれないし……。
私の赤くなった目と頬に残った涙を見つめて、切なそうな表情で皆さんがいる前で目尻に唇を当ててくるし……! フウジン家夫妻のあの驚いた顔よ!
お願い周りを見てイシュリーズさん……!
――ああぁっ! もう、もう……っ!
あの時の私は正気じゃなかったんだ! 一見怖そうなルザードさんに一人で立ち向かうなんて! しかも最後はタメ口で八つ当たりまでしちゃうなんて! 普段の私じゃ絶対にありえない!
その上私を殴れだなんて豪語しちゃうし! あの父さんに口から血を流させた拳だよ!? もし本当に殴られていたら、絶対に打撲だけじゃ済まなかった……! 想像しただけで冷や汗が出るくらい恐ろしい……っ!
それもこれも、ワインだ……あのワインの匂いの所為だ……!!
それにいい大人が、皆の前で涙と鼻水をボタボタ流しながら大泣きするなんて……思い出しても恥ずかし過ぎて今すぐに死ねるっ!
ああぁっ! 穴があったら地底まで高速で掘り進めて突っ伏したいーーっ!!
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