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92.先代《聖騎士》達、久しぶりの再会 2

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「……ねぇ、父さん。スミレさん、父さんに対する当たりがちょっと強かったように感じたけど……?」
「あぁ、そりゃ間違っちゃいねぇよ。アイツ、父ちゃんが蹴りを喰らわせて失神させたこと、ぜってぇ根に持ってんだろうなって思ってたしさ。ルザードの次にプライド高ぇからなぁ、アイツは……」

 溜め息混じりに言った父さんの呟きに、私は納得しました。確かにスミレさんは、雰囲気的にも“気高き美人騎士”って感じがします。
 不意打ちとはいえ、父さんの蹴りをまともに受けてしまって防げなかったのが悔しかったんだろうな……。

「結局謝りそこねちまったな……。ま、すぐに顔合わすだろうし、そん時でいいか。――よし、アイツの言う通り早くここから出るか。行くぜ柚月」
「あ、うん……?」

 てっきり手を引いて立ち上がらせてくれるものだと思っていた私は、肩と膝裏に腕が差し込まれ軽々と持ち上げられます。
 突然のお姫様抱っこに、私の目が白黒状態です。

 えぇ!? 立て続けにイケメンにお姫様抱っこされるなんて、ここは乙女ゲームの中!?

 ――まぁその内の一人は実の父親だけどね!? フラグが全く立ちようがない!

「あ、あの、父さん……? これは……」
「ん、どうした? ――あぁそうか、肩車の方が良かったか?」
「何でおんぶより先にソレが出てくるのっ!?」


 思わず想像してしまいました……。三十二歳の父に二十二歳の娘が肩車されてキャーキャーはしゃぐ姿を……。


 ……シューールッ!(巻き舌で)
 とってもシューーールッ!!(巻き舌で)


 私は想像したものを必死で腕を暴れさせて打ち消し、父さんに慌てて訴えます。

「……やっ、あの、私歩けるから! 重いから!」
「お前、ワインの匂いの所為で頭フラフラしてんだろ。そんなヤツがまともに歩けるワケねぇだろうが。それに全然重くねぇから気にすんな、羽根のように軽いわ。てかちゃんとメシ食ってんのか? 肉食え、肉」
「食べてるよ!? 充分食べてるからこんなにプニップニになってるんだよ!? 父さんにこの脂肪を無料で全部あげる! その代わりにその引き締まった筋肉全部ちょうだい!」
「……くっ、はははっ! 何だその不利過ぎな交換条件は? 不利にも程があるだろーが。ははっ」

 可笑しそうに声を出して笑う父さんを見上げて、私もつられて笑ってしまいました。


「――おやおや。こうして見ると、あの頃の君と蕾さんみたいだねぇ」


 不意に後ろから声が飛んできて、私と父さんが同時に振り返ると、そこにホムラさんのお父さん、ファイさんが微笑みながらこちらを見ていました。

「おっ、ファイじゃねぇか。久し振りだな。年は取っちまったけど、元気そうで何よりだわ」
「本当だねぇ。君は二十年前のまま若々しくて羨ましいよ。けど、こうしてまた君と普通に話せるなんて思ってもみなかったから、とても嬉しいよ。本当に奇跡だよねぇ」
「あぁ、そうだな――っと、その前にファイ、オレが蹴っちまったキズ大丈夫か? それに、色々と悪かったなぁ。さっき、その恨みでスミレにコテンパンにやられちまってよ……。その時のアイツの勝ち誇った顔といったらないぜ……」
「あははっ。君が言葉でスミレさんに言い負かされる姿が容易に想像できるよ。僕の方は大丈夫さ~、ただの打撲。きっと君の意識が、【闇堕ち】の自我に逆らって手加減してくれたんだと思うよ。でなければ、僕はあの蹴りで確実に死んでいただろうから。他の皆の時もそうさ。君、毎回殺す殺す言ってたけど、全員殺されるまでのダメージを受けなかったしねぇ」
「そうかぁ? 単にお前らが打たれ強かっただけじゃね?」
「君の蹴りは、一撃で超巨大な魔物を倒すほどだからねぇ。打たれ強くても死んじゃうって」

 ファイさんの言葉に、私はゾッとします。
 本当に、父さんが人殺しにならなくて良かった……。
 ――って、ちょっと待って。それ以前は……?

 私の表情と身体が一瞬硬直したのに気が付いたのでしょう。父さんは私の顔を覗き込むと、ニッと笑いました。

「お前の心配するようなことはしてねぇよ。オレの記憶の中では、だけどさ。なぁファイ、そこら辺どうよ?」
「うん、シデン君は誰も殺してないよ。【闇堕ち】直後はすぐに旧闘技場に誘い込んで封印したし、その後も定期的にちゃんと封印されているか確認に行ってたしね。安心していいよ~、柚月ちゃん」
「そう、ですか……。良かった……」
「心配してくれてありがとな、柚月」

 私は心の底から安堵の息を吐きました。
 折角会えたのに、殺人の罪で牢屋に入れられ再び離れ離れなんて、さすがに悲し過ぎますって……。

「積もる話をまだまだしたいけど、これから皆が客間に集まって、今後の話し合いをするんだって。シデン君と柚月ちゃんも行こう。他の皆はもう集まってるんじゃないかな?」
「スミレもそれ言ってたな。何かイヤな予感がするんだが、比較的軽い部類のヤツだし……。しゃあねぇ、行くか」
「え、父さんも? 私も何か変な感じが……」
「あぁ、お前もか。ライジン家は直感が鋭い家系だからな。ま、何かあったら父ちゃんが必ず守ってやっから、取り敢えず行ってみようぜ」
「うん……」


 そうして私達は、不安が胸によぎる中、皆が集まる客間へと足を運んだのでした。



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