64 / 134
64.元《雷の聖騎士》登場
しおりを挟む「でもね、【闇堕ち】しても、昔の記憶はちゃんと持っているんだ。《聖騎士》のコトも分かるし、僕達のコトは昔の仲間だって分かってるみたいだしね。けれど、蕾さんと柚月ちゃんに関しては、スッポリと頭から抜けてしまっているみたいなんだよ」
「え……?」
「えぇ。封印が解けてからのシデンさんは、会話が出来るようになっていたから、蕾さんと柚月ちゃんのことを言ってみたんですの。そうしたら、『誰だソイツらは。オレは昔から家族なんかいねぇ』って……」
「…………っ!」
スミレさん、父さんの口調をよく掴んでる! お上手!
ってそれよりも、父さんが私達のことを忘れてる?
私はともかく、母さんのことまで!?
……そんな……。
「きっと、目の前で蕾さんと柚月ちゃんが貫かれたショックが大きかったんじゃないかな。シデン君は二人の命が消えた事実を受け入れられず、二人の存在自体を自分の中から消してしまった……って僕は思うよ」
「……あの! そんな状態から、【闇堕ち】する前の元の状態に戻すことは……可能ですか?」
ゴクリと唾を呑み込みながら訊いてみると、皆さんそれぞれ頭を左右に振りました。
「奴の娘である君に言うのは酷な話だが、そんな方法があればすぐにやっている……」
「……ゴメンね、柚月ちゃん。【闇堕ち】した者は、もう元に戻らないと言われているよ……」
「過去にも同じことが何度かあったようだけど、皆、元に戻らず最終的には処刑されたと聞いていますわ……。お役に立てなくてごめんなさい」
「……そう、ですか……」
辺りが重苦しい雰囲気に包まれたその時、旧闘技場の方からものすごい轟音が聞こえてきました。
「っ!!」
「何だいこの音はっ!?」
リュウレイさんとホムラさんが咄嗟に立ち上がり、イシュリーズさんが私の身体を守るようにギュッと抱きしめます。
「くそっ、シデンの奴が起きて暴れ出したか! セイラはいつも通り、自分達を結界の中に通したら急いで安全な場所に避難しろ!」
「えぇ、分かったわ!」
「行くぞ!!」
そう叫ぶと、ルザードさんが真っ先に旧闘技場に向かって走り出しました。皆さんも続けて後を追います。
「イシュリーズさん、あのっ」
私の呼びかけに、イシュリーズさんは分かっているという風に頷くと、私を軽々とお姫様抱っこして走り出しました。
……あっ、いえその、私の手を引っ張って走って下さいって言おうとしたのですが……。
人の話は最後まで聞いて下さーいっ!
「おっ♪ お熱いねぇお二人さん、ヒューヒュー♪」
隣でホムラさんがニヤニヤしながら冷やかしてきます……。
くっ、いつか「この人ドMですっ!」って大声で叫んでやりますからねっ!
……逆に喜ばれそう!?
セイラさんが結界に小さな穴を作ってくれ、そこから旧闘技場の中に入ります。
イシュリーズさんは中に入る前に、“剣”を呼び戻していました。
「“剣”と【本体】が揃ってないと、きっとあの方に敵いませんから……」
真剣な顔つきで、イシュリーズさんは言います。
私は、《勇者》に“剣”がなくなっていることが気付かれませんように、と強く祈ります。
イシュリーズさんと私は死んだと思ってるから、多分大丈夫だとは思いますが……。
そして私が中に入る時、
「止めても行くんでしょう? 十分気を付けてね。危険になったらすぐにここに逃げてくるのよ。もうあなたを危ない目に遭わせたくないの」
と、セイラさんに切実な瞳で言われ、私はしっかりと頷き返しました。
旧闘技場の中は、空から見たよりも、更に崩れて瓦礫が広がっていました。
奥の方は砂煙がモクモクと立ち上っており、よく見えません。
「……あー、寝坊しちまった……。今日は何だか更にムカムカするし、気分悪ぃし。さっさとお前らぶっ殺して、結界ぶっ壊して、この世界も全部ぶっ潰してやる」
不意に砂煙の向こう側から声がし、一人の長身の男性が、首を鳴らしながらゆっくりと歩いてきます。
「…………っ!」
その聞き覚えのある声に、私の心臓が大きくドクンと高鳴ります。
「あぁ……? 何か人数増えてね? まぁ何人増えようがオレには関係ねぇけどな。すぐに殺してやっから」
黒のくせっ毛の髪に、黒の切れ長の瞳。
母さんが父さんの誕生日の時にプレゼントした、年季が入ったファー付きの黒のロングコート。
細いけど、しっかりと引き締まった身体。
髪と瞳の色以外、あの頃と変わらない姿で。
父さんが今、私の目の前にいました――
14
お気に入りに追加
1,799
あなたにおすすめの小説
聖女と聖主がらぶらぶなのが世界平和に繋がります(格好良すぎて聖主以外目に入りません)
ユミグ
恋愛
世界に淀みが溜まると魔物が強くなっていく中ある書物に書かれてある召喚をウォーカー国でする事に…:
召喚された?聖女と美醜逆転な世界で理不尽に生きてきた聖主とのらぶらぶなオハナシ:
極力山なし谷なしで進めたいっ…!けど、無理かもしれない………ーーツガイ表現がありますが、出てきません
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる