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46.告白

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「…………」

 私は呆然として、ただイシュリーズさんを見つめます。
 そんな私の様子に何かを感じ取ったのか、イシュリーズさんは我に返ったように瞳を瞬かせると、顔を伏せ、小さく頭を振りました。

「……すみません、柚月。言葉が間違っていました。訂正させて下さい」
「は、はい……」

 そ、そうですよね。――びっ、ビックリしたあぁ!
 いきなり、え、え、エッチさせろだなんて、流石にありえませんよね?
 いくらイシュリーズさんでもそんなこと――


「貴女を愛しています、柚月。抱いてもよろしいでしょうか?」


 ヒェッ!? 更に直球来たあぁーーっっ!?

 私の頭はもうグルングルンのグワングワンです。――って、何だその頭の状態は。自分でも何を言ってるのか分かりません。

 ……というか、今、愛の告白もされました!?
 あ、愛してる、って……! 告白の最上級の言葉で!

 え、ちょっと待ってちょっと待って!? 脳が現実に追いつかない! 顔がものすごい熱いっ!


 私の真っ赤な顔と挙動不審な態度で、かなり混乱していると分かったのでしょう。
 イシュリーズさんはクスリと笑うと、私の額にそっと唇を落としました。

「大丈夫ですよ、ゆっくりで……。待ってますから、ずっと。貴女の返事を」

 そう言って、私を優しく抱きしめました。
 私の耳の位置が、丁度イシュリーズさんの心臓の場所にあって、彼の鼓動が聞こえてきます。

 鼓動が、早い……? イシュリーズさんも緊張している?

 それに気付くと、少し気持ちが落ち着いてきました。
 イシュリーズさんは、素直に自分の気持ちを伝えてくれました。それなら私も勇気を出して、自分の気持ちを正直に伝えなくては。


 ……例え彼に嫌われようとも――


「私、は……」
「はい」
「私は日本で、仕事が上手く出来なくて、その仕事を辞めて……家に引きこもっていました。人に会うのが怖くて、人の目が怖くて、顔も合わせられなくて……。母に甘えて、家事だけして、ダラダラと家で過ごしていました」
「……はい」
「今もまだ、人と目を合わせるのが怖いです。特技もないし、長所もない。私はそんな、駄目駄目な人間なんです」
「…………」


 イシュリーズさんの相槌が無くなりました。呆れているんでしょうか。それとも軽蔑したでしょうか。怖くて顔が見れません……。
 それでも私は、下を向いたまま、最後まで自分の気持ちを伝えます。

「イシュリーズさんは、とても立派です。《聖騎士》になって、皆を守って、ヒーローのようで。すごく強くて、優しくて。しかもイケメンで、格好良くて。背が高くて、細いのに意外に力持ちで、料理もかなり上手で、家事も出来て、その上――」
「柚月、――柚月」
「寝て――は、はい?」

 喋りを遮られ、私は思わずイシュリーズさんを見上げてしまいました。
 彼は私から目を逸らし、口に手を当てています。
 その顔全体が赤く染まって……?

「褒め過ぎです。もう……十分ですから、次へ……」

 イシュリーズさん、照れてらっしゃる!
 この後、「寝てる時ヨダレも出さないでイビキも掻かないで白目にもならないで……」って続く予定だったのですが、本人がそう仰るなら仕方ないですね……。

「だから……あの、そんなすごく立派な方と、駄目駄目な私となんかじゃ全然釣り合わないですし、そんな方に守って頂けるのも、大変おこがましいですし」
「柚月」

 またもや言葉を止められてしまいました。
 あの、返事をゆっくり待ってくれるんじゃなかったんですか……。
 イシュリーズさんは、視線を下げていた私の顎を指で持ち上げると、強引に自分の方に向かせます。


「あっ……」
「肝心な事を聞いていません。貴女は、俺の事をどう想っているのですか?」


 綺麗なエメラルド色の瞳が、私の顔を見据えます。
 急いで目を逸らそうとしても、顎に掛かっている指がそれを許してくれません。

 ……仕方ありません。ここまで言ってしまったのなら、これも正直に言いましょう。
 もっと勇気を出せ、私っ! 勇気は私の友達っ!


「……好き、です。――大好きです」
「…………っ!」
「《聖女》があなたのことを恋人にすると言った時、あなたを取られたくないって思ったし、魔物に殺されそうになった時も、あなたにもう会えないなんて嫌だって強く思いました。そんな気持ちは、その人のことを好きじゃないと生まれないと思いますし、私はいつの間にか、あなたのことが好きになってました。でも――」


 あなたと私とじゃ全然釣り合わない、あなたに見合った人が他にきっといるはず――と続けようと動かした唇は、イシュリーズさんの唇によって動きを妨害されてしまいました。
 すぐに舌が入ってきて、濃厚にそれらが絡み合います。

「んん、ふっ……」

 口からの息継ぎを許してくれず、次第に息が苦しくなり、慌ててイシュリーズさんの胸を手でトントン叩くと、ゆっくりと唇が離れました。
 透明な糸が唇同士を繋ぎ、静かに切れていきます。

 こ、この人は何故いつも突然キスをしてくるのか……っ!

 しばらく私の荒い息を吐く音だけが聞こえ、呼吸が落ち着いた頃、イシュリーズさんが静かに口を開きました。


「俺達、両想いですね。とても嬉しいです」


 ……と、ニッコリ笑いながら。


「……え、ええぇっ!? 何故にそうなるっ!? 私の決死の告白聞いてました!? 耳栓なんてしてませんよね!? あなたと私とじゃ全然釣り合わないって! あなたには他に見合った人が……っ!」
「貴女がそれを気にするようなら、俺は《聖騎士》を辞めて、ただのどこにでもいる男になりますよ」


 うええぇっ!?
 それ絶対やっちゃ駄目なやつじゃっ!?
 それにこんな美形イケメンはどこにでもいませんーーっ!!


「い、イシュリーズさんっ!?」
「貴女を手に入れる為なら、俺は何でも捨てられます。貴女に対する俺の気持ち、舐めないで下さいね?」

 そう言って、イシュリーズさんは目を細めて笑います。

「さぁ、観念して俺に抱かれて下さい」

 ……あれ、いつの間にか強制的に……なって……る……?
 あれ、おかしいな、あれれぇ?


「……あ、の」
「はい」
「こんな私で……いいんですか? 本当に……?」
「貴女じゃなければ駄目です。特技や長所がなく、駄目な人間だと貴女は自分を過小評価していますが、俺は貴女の良い所を沢山、沢山知っています。他の誰かではなく、貴女だけがいいんです。生涯、貴女だけが俺に必要なんです」

 知らない内に、私の両目から涙が溢れていました。
 何の涙なのかは、様々な気持ちが交ざっていて、自分でもよく分かりませんでした……。

「……ふ……」
「はい」
「ふ、不束者で恐縮ですが、よ、よろしくお願いいたします……」
「ふふっ。はい、こちらこそ。喜んで」


 イシュリーズさんは嬉しそうに笑うと、私の涙を指で拭き、もう一度キスをしてきたのでした。


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