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41.今後も投げさせて頂きます

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「それがさ、最近魔物の数が多くなってきててさ~。その原因が闇を放ってるシデンさんの影響だとすると、早く彼を倒すか再封印するかしないとでしょ? ボク達の親でも、彼をそこに留めておくだけで精一杯だし、だからリュウちゃんを誘いに来たの」
「それは奇遇ですね。俺もその件でブルフィア王国に来たんですよ」
「へぇ、そうなんだ~? でもあの兵士達は何なの? リュウちゃんが水の縄で縛ったってコトは、味方じゃないんでしょ?」
「それが……」


 イシュリーズさんとリュウレイさんが、今までの経緯をホムラさんに説明します。
 私が見た、フードを被った人が森に入って行ったことも含めて。

「……ふぅん。じゃあ、黒幕は《勇者》ってワケだ。きっとそのフードの人、風の国の召喚術を使える人だね。《聖女》を召喚した人さ。そいつが森ん中で、魔界への小道を無理矢理開けたんだと思うよ。そんで、魔物をイシュちゃん達に襲わせた。兵士達だけじゃ倒せないと思って」
「当然、《勇者》は兵士達も魔物に襲われてしまう事を分かっていた筈だ。彼らは捨て駒にされたんだな。……この事実は彼らには言わない方がいいな。只でさえ任務を失敗して、城に帰れば殺されると怯えているんだ。これ以上のショックは与えない方がいい」
「だね~。じゃ、あの兵士達、どうしよっか? ブルフィア王国で保護と言っても、この国の守護者である《水の聖騎士》のリュウちゃんを襲っちゃったワケだし、皆牢獄行き……下手すりゃ死刑でしょ? どちらにしろ悪い待遇しか出来ないよねぇ」

「……その件に関しては、俺に考えがあります。取り敢えず兵士達の所へ参りましょうか」

 そうイシュリーズさんが言うと、兵士達がいる場所に向かって歩き出しました。私達も彼の後ろについていきます。
 私はリュウレイさんとホムラさんに、気になったことを訊いてみました。

「あの、《勇者》はリュウレイさんも魔物に襲われることを分かっていたんでしょうか? あんなにリュウレイさんを自分のところに来させようとしていたのに……」
「えぇー? あの《勇者》、まだリュウちゃんを諦めてなかったの~? シツコイ男はキラわれるのにね~?」

 ホムラさんが呆れるように肩を竦め、リュウレイさんは苦笑しながら答えてくれました。

「いや、あの《勇者》の性格だと、そこまで頭は回らなかったと思う。ただイシュリーズを始末したいという一心だったんじゃないかな」
「なるほど……。下劣外道鬼畜間抜けアンポンタン野郎ですね」

 ……しまった! つい思ったことをポロリと言ってしまった!
 リュウレイさんはプッと吹き出し肩を震わせ、ホムラさんは私の返答に大笑いをしています。

「柚月ちゃん、見掛けによらず毒舌だね~。そういうギャップのある子、ボク好きよ~?」
「あ、ありがとうございます……?」

 頭を撫でられ、私は褒められたのかよく分からないホムラさんの言葉に、一応お礼を返します……。


 ふとイシュリーズさんが立ち止まり、振り返ると私に向かって手を差し出しました。
 ニッコリと笑って。

「柚月」

 ……えぇ、えぇ。手を握れと、そういうことですね。
 抵抗は無意味だと今までの経験から分かっているので、素直に手を出すと、やっぱり恋人繋ぎで握られました。
 そのままデフォルトでくっついて歩きを再開します。
 二人に見られていると思うとすごく恥ずかしくて、視線が自然と下を向いてしまいます……。


「ちょっ、イシュちゃ~ん、そんなに睨まないでよ~? その冷たい視線にゾクゾクしちゃうからさぁ♪」


 後ろからホムラさんの嬉しそうな声が聞こえ、私が不思議に思い顔を上げた時には、後ろを見ていたイシュリーズさんが視線を前に戻すところでした。
 目が合うと、イシュリーズさんは優しく微笑みを浮かべます。そして、空いている方の手で頭をナデナデされました。
 何故か結構長く。一体何なのでしょう……?


『やっほー、みんな! 元気だったー? 僕はとっても元気だよ!』
『《ブレイズボウ》か。相変わらず騒がしい奴だな』
『……うん。変わらずやってる』


 おや、こちらでは【聖なる武器】同士の会話が始まりましたよ。
 元気な男の子の声、渋い男性の声、可愛い女の子の声……バリエーションが豊富で聞いていて楽しいですねぇ。


『でも、ホムラからいっつも乱暴に扱われてさぁ、もう嫌になっちゃう! ヘンな呼び名も付けられちゃうし! 皆のとこはどう?』
『……わたしはリュウレイにすごく大切にされてるよ』
『私は毎回全力で投げられているな』


 うぐぅっ! それ絶対私のこと言ってますよね!? 意外とチクチクきますね、ウインさん……。
 イシュリーズさんが苦笑しているのが雰囲気で伝わってきますよ……。

「す、すみません……。今後は直前にウインさんの許可を取って投げますね」
『今後も投げる予定なのか。しかも直前なのか』
「はい、投げ始めてからです」
『とんでもない直前だな。許可を取る頃にはもう既に投げ終わっている気がするのだが』
「いやだなぁウインさん、そんなの気の所為ですよ気の所為」

 私達二人のやり取りに、イシュリーズさんが堪らず吹き出します。

『……笑ってるけどな、イシュリーズ。お前がもっとしっかりしていれば、柚月が私を投げる事は無いんだぞ』
「……すみません、精進します」

 あぁっ! イシュリーズさんにとばっちりがいってしまった……!
 ごめんなさいイシュリーズさんっ!!

 そこへ《ブレイズボウ》さんの驚いた声が響いてきました。

『あれっ? お姉さん、僕達の声聞こえてお話できるの? へぇ、すごいやっ!』
「へ? い、いやぁ……」
「なになに? 柚月ちゃん、ブーちゃんと話せるの? 持ち主しか声が聞こえないハズなのに、すごいじゃんか~」

 そこへホムラさんが会話に割り込んできました。

「ブーちゃん?」
「そ、《ブレイズボウ》、略してブーちゃん♪ 可愛いでしょ?」
「……ふふっ。はい、そうですね」
『全っ然可愛くないよー! 僕はカッコいい呼び名がいいんだよー! めちゃくちゃカッコいいの付けてよー! それブタみたいだよ、もーっ!』

 名前の通りに、ブーブー文句言ってます、ブーちゃん……。

 ピッタリな名前だね、の言葉を何とか呑み込んだ私なのでした……。


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