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33.『我慢』の行方や如何に
しおりを挟むシャワーを浴びた後は、このお家のシェフの方が消化の良いスープを作ってくれたので、お部屋のベッドの上で上半身を起こし、ありがたく戴きます。
久し振りの温かい手料理……。ここ最近はずっと携帯食だったから、嬉しさで胃袋に染み渡ります……。あぁっ、美味し過ぎる!
「本当に美味しそうに食べますね、柚月は」
「はい、とても美味しいです! 何杯でもいけそうですよ」
隣に座るイシュリーズさんが微笑みながら、私の食べる姿を見ています。
先程の騒動は、ウインさんとうーさんが何とか収めてくれたようです。
お二人方、ありがとうございます!
ちなみにウインさんはうーさんと少し話がしたいとのことで、リュウレイさんの所にいますよ。
いただきますをして食べようとした時、イシュリーズさんに「俺が食べさせますよ」と仰って頂きましたが、丁重にお断りいたしました。
今回はすんなりと引き下がってくれたので良かったです……。
だって緊張とドキドキで味が分からなくなりますから!
それに万が一、また口移しで……とかになったら大変ですから! 色んな意味で大ッ変ですから!!
それにまだ気まずくて、顔を合わせ辛くて……。
でもずっと引きずるのも嫌ですし、思い切って伝えて、いさぎよく玉砕しましょう!
頑張れ私! なけなしの勇気をまた再びこの胸にっ!
「あ、あの……、イシュリーズさん……」
「何でしょう?」
スープのお皿を脇に用意したテーブルに置き、ゴクッと唾を呑み込むと、意を決して口を開きます。
「さっき、シャワーを浴びる前、私……相当、くっ、臭かったですよね? 匂い我慢してましたよね!? 不快な思いをさせてしまって本当に本当にすみませんでした!!」
「……え? あぁ――」
目をギュッと瞑って、緊張に身を固めながら、私はイシュリーズさんの言葉の続きを待ちます。
「先程からこちらを全然向いて貰えなかったのは、その所為だったんですね。あの事を怒ってるんじゃないかと、謝るタイミングを計っていたんですよ」
「え……?」
「怒っていないのですか? 俺が、無理矢理貴女を……」
「あ……」
思い出し、私の顔が瞬時に真っ赤になります。
「お、怒ってはないです。その、とっても恥ずかしかったですけど……」
「嫌ではなかった? 少しでも気持ち良かったですか?」
「えっ?」
目を開けて横を見ると、イシュリーズさんが真剣な表情で私を見つめています。
そのエメラルド色の瞳がとても綺麗で、思わず吸い込まれそうに見つめてしまいます……。
私は沸騰して湯気が出そうな頭で再び目を閉じ、何とかコクリと頷きました。
「……ふふ、良かった。でも、さっきのは俺が完全に悪かったです。貴女を前に、歯止めが効かなくなってしまって、我慢が出来なく……。ウインにも窘められました。本当にすみませんでした、柚月」
「い、いえっ! そんな、大丈夫です大丈夫!?」
シュンとなって、頭に垂れた犬の耳の幻が見えるイシュリーズさんに、私は慌てて首を左右に振って答えます。
言った後に、何が大丈夫なんだ? と一人ツッコミしましたが。
イシュリーズさんは私の様子を見てフッと目を細めて笑うと、そっと額にキスをしてきました。
ま、またもやナチュラル過ぎて反応出来なかった……!
「柚月は全然臭くなんてないですよ。汗をかいても、身体を洗っていなくても、貴女の匂いはとても良い匂いです。俺好みの……ね」
「えっ? い……いやいやっ、そんなことはっ」
「本当ですよ? 俺は貴女のどんな匂いでも大好きです」
ちょっ、直球戴きましたーーっ!?
イシュリーズさんは微笑むと、私の首にすっと顔を寄せてきます。
こ、これもナチュラル過ぎて反応が遅れた……!
「イシュリーズさん……?」
「……石鹸の匂いと貴女の匂いが混ざって、更に良い匂いになっていますね。……これは……、結構……」
……“けっこう”? 結構、何でしょうか……?
「…………」
ここでだんまりですか!? 続き気になるからーーっ!
すると、おもむろにイシュリーズさんが私の耳に唇を近付けてきました。
「――先程の“続き”をしても?」
「えっ」
低く囁かれた言葉にバッと横を見ると、至近距離のイシュリーズさんが、妖しく光る瞳で私を見つめ――
これはマズイ、と思う間もなく、唇を塞がれてしまいました。
「…………っ!」
そして、再びベッドの上に押し倒されます。
いや待って、まだ返事してないからーーっ!
「はい」か「いいえ」を答える時間くらい下さいよ!?
――って、即座に舌が入ってきた!?
先程仰った『我慢』の言葉をどこに置いてきたんですか!?
そしてついさっきの謝罪の意味は!?
これは“無理矢理”に入らないんですかぁっ!?
「ん、ふっ……」
クチュ、といやらしい音を響かせ、イシュリーズさんの舌が、私の口の中を掻き回します。
逃げようとしても、両頬に手を添えられ動きを封じられてしまい……。
酸素不足で頭がボーッとしてくる頃、ようやくイシュリーズさんは唇を離してくれました。
「……ん、本当だ。スープの味、美味しいですね」
そう言って自分の唇をペロリと舐め、凄艶に微笑むイシュリーズさんの頭の両横に、今度は悪魔の角の幻が見えた気がします……。
「い、イシュリーズさん、ちょっと待――」
酸素を求めて深呼吸しながら、イシュリーズさんの胸を両手で押そうとしましたが、それより早く首筋に唇を付けられてしまいました。
その後すぐに大きな手が胸元をはだけさせ服の中へと入ってきて、直接胸を触……って、だから『我慢』はどこいったっ!? 良い子だから早く出てきてっ!!
そしてさっきの謝罪の意味はっ!?
私は自由になった口を開き、何とかイシュリーズさんに説得を試みます。
「あ、の……っ。待って下さい、まだスープが残ってますからっ」
「大丈夫、俺が後で口移しで食べさせてあげますよ」
せんせーい、“大丈夫”の意味が全ッ然分からないんですがー!?
どこをどう読んだら“大丈夫”になるんですかー!?
「まだ……んっ、起きたばかりで――」
「無理させないように、ゆっくりと……優しくしますね」
「あっ……」
「ふふっ……。可愛い……」
胸の先っぽを弄る度、こっちの反応を確認しないで下さいーー!
そしていちいち嬉しそうにフッて笑わないで下さーーい!
誰かこの肉食系のSと化した人を止めてーー!!
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