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6.月夜の衝撃的な事実

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『この世界は〈バーラウズ〉といって、神によって作られた四つの国があり、それぞれを火水雷風の《聖騎士》が守っているのだ。
 
 レドナイト王国が《火の聖騎士》
 ブルフィア王国が《水の聖騎士》
 イーファス王国が《雷の聖騎士》
 グリーヴァ王国が《風の聖騎士》

 といった具合にな。ちなみにここはグリーヴァ王国。この男、イシュリーズ・フウジンが《風の聖騎士》だ。今は《勇者》によって剥奪されて、“元”が付いたがな』
「ふむふむ……」
『《聖騎士》とは、初代は神によって選ばれ、一般人より強靭な力を持ち、【聖なる武器】を扱える者だ。基本的に血筋で《聖騎士》と【聖なる武器】を継承していく。一人でも命を賭して守りたい者が出来ると、親から子へと継承される』
「ほぉほぉ……」

 何だか歴史のお勉強をしている気分です。
 せんせ~い、この部分はテストに出ますか~~?

「えーと、《ウインドブレイド》さん……?」
『長いから《ウイン》でいいぞ』
「おぉ、助かります。ではウインさん、気になっていたのですが、どうしてあなたの中に“剣”が入っていないのですか?」
『それはな、イシュリーズが拘束された時、勇者が私ごと“剣”を取ろうとしたんだが、触れられなくてな。仕方なく、あ奴は“剣”だけ奪っていってしまったんだよ』
「触れられない?」
『あぁ。私達【聖なる武器】の【本体】は、所有者以外が触ると、電撃が走り触った相手を攻撃するのだ。あの《勇者》も電撃を喰らって、髪と肌を焦がしていたぞ』
「うわぁ……。チリチリアフロヘアーになりそう……。なら不用心に触れられませんね……」

 私は無意識に、ウインさんから一歩退きます。

『《聖騎士》ではないのに私と話せる――波長がよく合う君なら触っても平気だと思うぞ。イシュリーズ、私をこのお嬢さんへ預けてくれ』

 イシュリーズさんは小さく首を縦に振ると、ウインさんを腰から取り外し、私の前にそれを差し出しました。
 イシュリーズさんが私を見て、優しく微笑みます。

「うぐっ……。私、焦げ焦げ爆発アフロヘアーになりたくないですよ……」
『大丈夫だ。私を信じろ』
「……嘘ついたら針千本飲まします……あ、鞘だから無理だった……。えぇと、嘘ついたら針千本鞘の中に入れますからねっ!」
『……それは何か意味があるのか?』
「えーいっ!」

 私は目を瞑り、勢いに身を任せてウインさんをぐっと掴みます。

「…………っ!」

 や……やった、何事もなく掴めましたぁーっ!
 ウインさんを持ってガッツポーズを決めると、イシュリーズさんは軽く目を瞠った後、フッと可笑しそうに笑いました。

 ……ぐっ、は、恥ずかしい……。すみません、年甲斐もなくはしゃいでしまって……。

『だから言っただろう? そのまま私を持っていてくれ。何かあった時、君の盾くらいにはなれるだろう。イシュリーズは素手でも十分強いから大丈夫だ』
「あ、ありがとうございます」

 私はお言葉に甘えて、ウインさんを両腕に抱えました。
 いつの間にか景色は薄暗くなり、城下町から外れ、家もポツポツと数件しか建っていない寂しい場所へと来ていました。

『もうすぐイシュリーズの家に着くぞ。……ユーナがどうなっているのか気になるな』

 最後の方は呟くように言ったウインさんの言葉に、私はハッと強く息を呑みます。


「そうです、ユーナちゃん! 私、ユーナちゃんに会って、頼まれ事をされたんでした!」
『何だって!? それは一体どういうことだ!?』


 ウインさんの吃驚した声に、イシュリーズさんが怪訝な表情になり、私達の方を向きました。

「えっと、この世界に転移する前に、真っ暗な場所でユーナちゃんに会ったんです。ユーナちゃん、イシュリーズさんを見つけて、自分の所に来て欲しいと言っていました」
『……何と……』

 ウインさんが、私から聞いたことをイシュリーズさんに伝えます。
 すると、イシュリーズさんが酷く動揺した顔で私の両肩を掴んできたので思わずビクッとし、身を固くしてしまいました。

『イシュリーズ、気持ちは分かるがお嬢さんが怖がっている。離してやれ』

 ウインさんが優しく諭すように言うと、ハッとしたように急いで手を離してくれました。
 そして、申し訳無さそうに頭を下げてきたので、私は大丈夫ですよ、と伝える為に慌てて首を振ります。

「……でも、あの真っ暗な場所に戻る方法が分からないんです。いつの間にかあの場所にいたので……」
『それは問題ない。ユーナはイシュリーズの家にいる。……急ごうか。イシュリーズ、お嬢さんを引っ張ってやれ』
「えっ!?」

 イシュリーズさんは頷くと、突然私の手を握ってきました。

「へっ!? あ、あのっ!?」

 不意の出来事に取り乱してしまった私の手を、イシュリーズさんは一瞬目を見開いて見つめましたが、すぐに表情を引き締めると駆け出しました。
 私は、引っ張られるままにその後を付いていきます。
 は、速い……! 引っ張られてるんですけど、私の走る足が追い付かずに浮いています。
 さ、さすが元《風の聖騎士》……。風のように速い……!
 今の私は……そう、風になびたこのよう……!

 …………。

 想像したら何だかとってもシュールでした!


 そして、あっという間にイシュリーズさんのお家の前に到着しました。
 その頃にはもうすっかり日も暮れ、夜空には、大きなお月様がポッカリと浮いています。
 イシュリーズさんのお家は、木造の二階建てのようです。玄関の前に、兵士さんが二人立っていました。
 恐らく、戒さんの部下でしょう。ここに来ることが分かっていて、見張る為に配置したに違いありません。

 イシュリーズさんは、私の手を握ったまま兵士さん達のもとまで歩くと、彼らに何かを言っています。
 兵士は頷くと、玄関から少し離れて通してくれました。

『旅の準備が必要だし、明日必ず出発するから、一晩ここで寝かせてくれと頼んだのだ』

 私が、不思議そうに兵士さんとイシュリーズさんを見比べているのに気付いたウインさんが、親切に説明してくれました。

『さて、中に入るが……お嬢さん、ユーナがどんな状態であっても悲鳴はあげないで欲しい。約束してくれ』
「え? それってどういう……?」
『すぐに分かる。――イシュリーズ、行こうか』

 イシュリーズさんは頷くと、私の手を引いて玄関の中に入っていきました。
 私は、イシュリーズさんの掌が酷く汗ばみ、震えていることに気付いていましたが、何も言えずただ付いていきます。

 居間らしき部屋に入ると、私はようやく、ウインさんの言っていた意味が分かりました。


 窓から入ってくる月の光に照らされ、床に横たわる、一人の女の子。
 その身体には、一枚の布が掛けられています。
 女の子の目は閉じられています。
 その瞼が永遠に開かないことを、彼女の青白い顔と、周りのあちこちに飛び散っている赤黒いものが証明していました。

 私は、その女の子に見覚えがありました。
 真っ暗な世界で、光を灯すように笑ってくれた、あの女の子。


「ユーナ、ちゃん……?」


 その問いかけに答える者は、誰もいませんでした。


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