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しおりを挟む「君、最近この『幻影魔法』に引っ掛からなくなりましたね。完璧な仕上がりで私と瓜二つで、感触も人の肌そっくりなのに。以前は見事に引っ掛かって、幻影に何度も喋り掛けたり肩叩いたりしてて、見ていてとても面白かったのですが」
「俺で遊ぶんじゃねぇよ……。こう何十回も引っ掛かってたら、いい加減区別もついてくるさ」
「ふふっ。君だけですよ、私と幻影の区別がつくのは。流石我が息子です。遠慮無く『お父さん』と呼んでくれていいんですよ」
「遠慮しとくわ」
「つれないですねぇ」
アストールが、執務椅子に座っている彼の幻影の肩をポンと叩くと、それは風のようにフッと消えた。
「アンタ結構うっかりモンだから何度も言うけど、他のヤツらには絶対見せんなよ、ソレ。魔族にしか使えない、脅威とされる『闇魔法』の一つなんだろ?」
「大丈夫ですよ、知っているのは君だけです。遠い昔、先祖に魔族の血を持った者がいたと聞いたことがあるので、先祖返りでもしたのでしょう。ま、仕事をサボった時の身代わりや、こういう遊びの時にしか使ってないので絶対にバレないですよ。ご心配なく」
「……そんな使い方される脅威の『闇魔法』が可愛く思えてくるぜ……。てか団長が仕事サボるなよな……。アンタ、頻繁に城下町行ってるだろ」
「おっと、ついうっかり口が滑っちゃいました。城下町には、何か問題が無いか様子を見に行く兼、君が町で悪さしていないかの確認ですからサボってはないですよ? 困っている人がいたらちゃんと助けますしね」
「……物は言いようだな。町じゃアンタの信者が続々と増えてんぜ? 色々おせっかい焼いてんだろ。――てか何だよ悪さって。俺はガキかよ」
「親にとって、子供は何歳になっても子供のままなんですよ。――そう言えば、ここに来たのは何の御用ですか?」
「おいおい、アンタが俺を呼んだんだろう?」
「……あぁ! そうでしたそうでした。うっかりしてました」
「ホントしっかりしろよ……。まだボケる歳じゃねぇだろ」
セリュシスは三度目の息をついて頭をガシガシ掻くと、近くにあるソファに乱暴に腰を下ろした。
「今朝、聖女召喚の場に同席したんですよ。で、どうしてか女性が二人召喚されてきましてね」
「あぁ、それ廊下で兵士達が話してたな。一人は『ニセモノ』だったから、どっかの部屋に閉じ込めたって」
「おや、知っていたのなら話は早いです。君にはその子のお世話係をして欲しいのです。騎士団から出してくれと命じられましてね。なら君が適任かなと」
「……はぁっ!?」
セリュシスは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「何で俺が!? その前に何で騎士団から出すんだよ!? 世話係なら侍女がいるだろーが!」
「『『ニセモノ』に我らの世話をする侍女を付けるのは勿体無い、だったら人の余ってる騎士団から出せばいい』――まぁ王族の考えはこんなところでしょうか。人が余ってるわけではないんですがねぇ。本当に上は下の状況が分かっていない者が多くて嫌になりますよ。しかも逆らえないから非常に困りものです」
「くっ……。だからと言ってどうして俺が――」
「君、仕事が何も無いと町に行って女性遊びをしてくるでしょう? 親としては心配なのですよ。女性のいざこざが一番怖いですからね」
「そこら辺は心配無用だ。ちゃんと毎回避妊薬を使ってるし、後腐れ無い女を選んでるからな。付き合えって迫られてもキッパリと断ってるぜ」
「君が選ぶ立場ですか……。君には今まで好きになった女性はいないのですか?」
「全くいないね。寧ろ『好きって何だ? 美味いのか?』って感じだ」
大きく肩を竦めるセリュシスに、アストールは眉間に指を置き溜め息をつく。
「……やれやれ。こんな話を聞かされては、親として心配するなと言う方が無理ですよ。君をそんな美形に産んだ実のご両親が非常に恨めしいです」
「それは天国にいるオヤジ達を捜して直接文句言ってくれ。俺は悪くねぇし」
「善行を沢山積んでそうします。とにかく、お世話係は君にお願いしますね。まず、着替えが入っている袋と晩ご飯をその子に届けて下さい。朝とお昼のご飯は他の者が届けるのでしなくてよいそうです。もう一つ、その子がちゃんと眠ったかを確認してから戻って来て下さいね。脱走防止の為らしいですよ」
「……決定事項かよ……。はぁ……。暫く夜遊びはお預けだな」
ガックリと頭を下げ、セリュシスは何度目かの溜め息を吐いた。
「ずっとではないので安心して下さい。定期的にお世話係は交代させますから。記念すべき最初のお世話係は君です。気を引き締めて頑張って下さいね? ご飯と着替えを運ぶのは今夜からお願いしますね」
「はいはい分かったよ、その分給料上げろよな」
「流石我が息子、私に似てちゃっかりしてますね。特別報酬あげますよ」
「よし、その言葉忘れるなよ」
こうしてセリュシスは『ニセモノ聖女』のお世話をすることになったのだが、彼女のいる場所を聞いて愕然とすることとなる。
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