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25.危機
しおりを挟む「昨晩牢に入れられた刺客達ですが、昨夜から今朝までの間に毒を飲まされたらしく、全員死亡していたそうです。全く……前から感じていましたが、この城の警備はガバガバですね」
「そうなの……。きっとデイビット王子の仕業だよね。ミミアン王女の時と同じく、自分に疑いが掛からないように……。私は王位継承に興味なんて全く無いんだから、もう放っておいて欲しいよ……はぁ」
「人気者は辛いですねぇ」
「うぅ、そんな人気いらない……。――あ、偽の言伝を言いに来たデイビット王子の侍女は何て?」
「『勘違いしていた』の一点張りだそうですよ。それを言われてしまえばこれ以上深く聞けないですし、その時点でお手上げしたみたいです」
「……分かった。これからはデイビット王子とミミアン王女、両方共に気を付けなきゃね」
「そういうことです」
刺客に襲われた、次の日のお昼過ぎのこと。
私は今までに入ってきた情報をコハクに聞きながら、テーブルの上で溜め息と共に突っ伏した。
「もう……。互いに殺し合わなきゃいけない兄妹って何なの……。そんなの家族じゃないよ……。私の大切な家族は、お母さんとコハクだけでいい……」
「……ふふっ。私も、お母様とリュシルカだけが大切な家族ですよ」
私の言葉に、コハクが嬉しそうに笑った。
滅多に見れない素直に笑う彼女の顔は、本当に可愛くて美人さんで。
その笑顔に見惚れていると、扉からノックの音がした。
「失礼致します。コハク殿、侍女長がお呼びです。厨房においで下さいませ」
私達は扉の向こうから聞こえるその女性の声に、「分かりました」と返した後、顔を見合わせる。
「……これは、本物の呼び出し?」
「さぁ、何とも言えませんね……。取り敢えず行ってみますか。オズワルドさんは、夕方まで騎士団の用事で来れないみたいですが、一人で大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。今日は特に用も無いし、ここにずっといるから」
「分かりました。もしこの部屋を出る用事があれば、念の為に行き先を紙に書いてテーブルに置いておいて下さいね。何も無ければすぐに戻ります」
「分かった、気を付けてね」
「了解です」
コハクは私に向かって頷くと、部屋から出て行った。
程なくして、息つく間もなく再びノックの音が鳴る。
「……はい」
「失礼致します。リュシルカ王女殿下、デイビット王子殿下がお呼びです。『今すぐ絶対に来い』とのことです。至急王子殿下のお部屋へお越し頂けますか?」
「…………」
よりによって、どうしてこんな誰もいない時に!?
とっても行きたくないけど、向こうの方が立場が上だから、拒否権は無い……。
「……分かりました。すぐにお伺い致しますとお伝え下さい」
「畏まりました」
王子の侍女であろうその女性の気配が遠ざかっていくのを確認すると、私は大きな息を吐いた。
刺客の依頼主であろうデイビット王子からの突然の呼び出し……。絶対に何かある。
昨日の今日でいきなり殺しに掛かってくることは無いと思うけど、油断せずにいかなきゃ……。
私は紙にデイビット王子の部屋に行く旨を書いてテーブルに置くと、部屋から出た。
王子の部屋の前に着いた私は、唾を呑み込むと扉をノックする。
「入っていいぞ」
と、すぐに偉そうな声が聞こえた。
私は「失礼致します」と声を掛けながら、神経を周囲に張り巡らし、慎重にゆっくりと扉を開けた。
同時にヒュン、という音がしたかと思ったら、身体に小さな石みたいなものが当たる。
「……っ!?」
刹那、身体中に電撃が走ったみたいな衝撃を受け、私はその場に蹲ってしまった。
「ははっ、効いたみたいだな」
椅子に座っていたデイビット王子が笑いながら立ち上がると、こちらに向かって歩いてくる。そして、開いていた扉を閉めるとカチャリと鍵を掛けた。
「な……にを、した……の、ですか……」
身体全体がビリビリと痺れて動けない。口も上手く回らない。そんな私を、王子はニヤニヤとしながら見下ろした。
部屋には侍女が誰もおらず、王子一人しかいなかった。人払いをしたのだろうか。
「さっき投げた石に、麻痺魔法が込められていたのさ。僕は魔法が使えないからね。城の魔導士に頼んで作って貰ったんだ。こんなモノがあるなんて、田舎者のお前は知らなかっただろ?」
「う……」
「魔法石は対魔物用だから、本当は魔物にしか使っちゃ駄目な決まりなんだけどさ? ま、内緒にしておけばいいだろ。バレなきゃいいんだし。田舎者のお前が訴えても、誰も信じちゃくれないさ。ククッ」
「な……!?」
そんな危ないものを人間の私に使うなんて……!!
この王子、どうかしてる!!
「お前は僕のことを警戒していただろうけど、突然の不意打ちにはその警戒も全く無駄だったようだな」
意地悪い笑みを浮かべながら、王子は私を抱き上げると、自分のベッドに乱暴に放り投げた。
「ぃたっ……!」
フカフカのベッドだけど、荒々しく投げられるとやっぱり少し痛い。
そんな私に構わず、王子は私の上に覆い被さってきた。
「な……なにを……!? ど、どいて下さい……!」
「嫌だね。夜な夜な娼館に通うのも面倒になってきてさ。娼婦もマンネリになって飽きてきたし。だからお前で遊ぼうかなって思って」
私はその言葉に、大きく両目を見開いた。
「わたし……達、血が……繋がってるんですよ……?」
「それがどうしたって言うんだ? ずっと一緒に住んでいたのならまだしも、突然現れて『お前の妹だ』って言われても現実味全く無いし。血が繋がってると言っても、たった半分だけだろ? お前可愛いし、美人で胸もデカそうだから楽しめそうだな……ククッ」
「…………っ!」
そ、そんな考え狂ってる……!!
「さ、昨夜の刺客はあなたの指示でしょ……!? 殺そうとした相手に何で……!!」
「ふん、やっぱり気付いてたな。確かに僕が王になるのに邪魔だからお前を殺そうとしたよ。念には念を入れて四人も暗殺者を雇ったのに、お前の侍女が予想以上に強くて失敗してしまった。なら、お前を身体で服従させようと思ってさ。お前の身体に嫌と言う程分からせれば、王になるなんて考えは浮かばないだろうし」
「……っ!! わたし……は、最初から、王の座なんて、興味ありません……!!」
「はっ! とか言って、ある日突然『やっぱり王になりたい』って思うかもしれないだろ? 人はみーんな欲望の塊だからさ。それを断ち切っておきたいんだよ。僕は気持ち良くなれるし、一石二鳥だな。クククッ」
「はぁ……っ!?」
この人、自分勝手な考え過ぎる……!!
逃げ出したくても、身体が痺れて思うように動かせない。
「ククッ、無駄さ。麻痺魔法は暫く効果が続く。――さぁて、まずはずっと気になってたお前の胸を見てみようかなぁ? このドレス、どうやって脱がすんだ? ……あぁもう面倒だな……。ま、破けばいいか」
王子はそう呟くと、私のドレスの胸元をビリッと大きく破ってきた――
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