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24.殺意を向ける者
しおりを挟む「私達相手にたったの四人ですか。はぁ……。舐められたもんですね」
「や、逆だよコハク……。女性二人に刺客四人は多いでしょ……。この刺客を雇った人は、念には念を入れる慎重派なんだろうね」
「計算が出来ないお馬鹿チャンかもしれませんよ?」
「我等を無視して何をゴチャゴチャ言っている!? 覚悟はいいだろうな!?」
私達がコソコソと話していると、黒尽くめの刺客の内の一人が声を張り上げてきた。
「やれやれ、五月蝿いからさっさと黙らせましょうか。私は三人を相手するので、リュシルカは一人をお願いします」
「え? 私二人でも大丈夫だよ?」
「ふふっ、頼もしいですね。では万が一、私がやられそうになったらお願いします。まぁ、そんなことは億万一でも有り得ませんけど」
「もう、分かったよ。コハクがすごく強いことは知ってるけど、油断しちゃダメだよ?」
「分かっていますよ。雑魚相手でも、リュシルカに刃を向けるのなら容赦はしません」
「――この女ども、我等に舐め切ったことを言いやがって……!! お前ら、一気に仕留めるぞ!!」
「はっ!!」
刺客の頭らしき人の怒声と共に、四人が一斉に襲い掛かってきた。
私はその攻撃を難なくヒラリと交わし、刺客の背後に回り込みながら、懐から素早く白銀色に光る扇を取り出した。
これは私がお城に旅立つ時、お母さんから渡されたものだ。
「この扇は、あなたを必ず守ってくれるわ」
と、お母さんは微笑みながら、私にこれを預けてくれたんだ。
これには、念じると大きくさせたり小さくさせたり出来る珍しい魔法が込められていて、私はいつも最小限にさせて、シュミーズに裏ポケットを作ってそこに入れているんだ。
この扇は、お母さんが踊り子で各地を回っていた頃、気に入ってよく訪れていた国の王様と王妃様に貰ったそうだ。
その国で採れる、貴重で高度な鉱物を使って作られているから、とても硬いんだ。
その国はとても小さな国だけど、皆仲良くて、王様も王妃様も本当に優しくて、すごく居心地が良い所だって……お母さん、懐かしそうに目を細めながら話してたな……。
「………」
私は首を横に振って考えを止め、気持ちを切り替えると、刺客の首の後ろ目掛けて畳んだ扇を突き出した。
加減を間違えないように……気絶させる程度で!
「ガッ……!!」
刺客は呻き声を上げると、床に倒れ込み動かなくなった。よし……息はちゃんとある。
「ふぅ……。上手くいったみたい」
私は幼い頃から、お母さんに護身術を習っていたのだ。
お母さんは踊り子だったから、身のこなしは抜群で。主に相手の攻撃を交わす仕方を教わっていた。
こちらから相手を攻めることに関しては苦手だ。コハクから攻撃法も習ってはいたが、攻める時に相手を傷付けたくないという思いで一瞬躊躇してしまうので、その隙を突かれ、彼女には全敗で勝てたことがない。
「リュシルカは優し過ぎます」
と、コハクは言うけれど、こればっかりはどうにも……。
私が護身術を習っていたことは、ホークレイは知らない。何も出来ない、か弱い女だと思っているだろう。
……今もそう思わせておいた方がいいかもしれない。
彼が私を“殺し”に掛かってきた時、油断させることが出来るから――
倒れた刺客の呼吸を確認し振り返ると、コハクが最後の一人を華麗にクナイで気絶させるところだった。
「お疲れ様、コハク。相変わらず身のこなしが凄いね」
「ふん、刺客だか三角だか知りませんが、全く大したことありませんでしたね。私に挑むなら魔王を連れてこいや雑魚どもがッ!! ですよ」
「お、大きく出たね……。頼もし過ぎるよコハク……」
その時、廊下からバタバタと駆けてくる足音が聞こえ、ノックも無しに扉を勢い良く開けてきたのは、鎧姿のホークレイとオズワルドさんだった。
「お二人共っ! 御無事ですか――って、うひゃあぁっ!?」
オズワルドさんが、私達の足元に倒れている刺客達を見て素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「訓練場に行ったら誰もいなくて、おかしいなと思いながら騎士団長室に行ったら、そこに団長がいたんですよ。話をしたら、ボクを呼んでいないって言うし、まさかと思って駆けつけてみたら……そのまさかでしたかっ!! これは全てコハクさんが……?」
私は気付かれないようにコハクに目配せをすると、彼女は小さくコクリと頷いてくれた。
「はい。全然歯応えがなくて拍子抜けでしたよ。私達は全くの無傷です。全員気絶していますので、とっとと捕えて尋問でも何でもして下さい」
「お、おぉ……。コハクさん、本当にお強かったのですね……。素晴らしいです。お二人共、御無事で何よりでした。団長、ボクはこの四人を牢まで運びますね」
「……あぁ、頼む」
オズワルドさんは四人の首根っこを掴むと、ズルズルと床を引き摺って部屋を出て行った。
あ、あの運び方、途中で起きないか心配になるな……。
「ボーーッとしてないで、騎士団長殿も早く行ったらどうですか? 私達は無事だったんだから、もうここに用は無いですよね? 早く刺客の依頼主を捜して私達を安心させて下さいよ」
何故かその場から動こうとしないホークレイに痺れを切らし、コハクが彼に声を掛けた。
「…………」
するとホークレイは無言で私に近寄ると、ギュッと抱きしめてきた。
「……っ! また貴方はっ!! いい加減にして下さい!!」
憤慨するコハクに構わず、ホークレイは身を屈め、私のすぐ耳元で、私にしか聞こえない声音で囁く。
「無事で本当に良かった……」
……それは、本気で心配する声音だった。
「ホークレイ……」
「――お前を殺していいのは、俺だけだからな」
「っ!!」
身体に当たる鎧の冷たさの所為なのか、それとも恐怖の所為か。
ブルリと私の身体が強く震える。
瞳を大きく見開いて見上げる私に、フッと目を細め微笑んだホークレイは、私の身体を離すと部屋から颯爽と出て行った。
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