19 / 38
18.決別の時
しおりを挟む結局何も良い考えが浮かばず、私は瞼を閉じ苦し気な表情を作ったまま、ホークレイに抱きかかえられどこかの部屋に入った。
その後、すぐに扉の鍵がカチャリと閉まる音が聞こえ、ホークレイの何か小さく呟く声も聞こえる。
……え? どうして鍵を閉めるの!? 治療するだけなら必要ないじゃないそんなの!
呟き終わったホークレイは、また少し歩くと、柔らかい布団のような場所に私をそっと寝かせた。
彼が離れた気配がしたので、そぉっと瞼を開くと、ここはやはりベッドの上だった。
ホークレイは、ベッドの脇で何故か鎧を脱いでいる。
……え? どうして鎧を脱ぐの!? 解毒法をするだけなら脱がなくても良くない!?
嫌な予感をヒシヒシと感じた私は、もうこの部屋から逃げることにした。
毒はすぐに良くなったということにしよう!
ホークレイのことを吹っ切って前を向いて進むと決めたのだから、今、彼と二人きりの状況は危険かもしれない……。
あの鎧は脱ぐのに時間掛かりそうだし、逃走は今がチャンスだ!!
そう思うや否や、私はベッドから勢い良く飛び起きると、ホークレイの方は見ず一目散に入口へ向かって駆け出した。
ベッドのある部屋は、奥の方にあったようだ。
その部屋を出ると、執務室のような場所に出た。本棚には難しそうな書物が並び、机には山のような書類が積まれている。
ここって、もしかして騎士団長室……?
――ううん、考えている暇はない……!
部屋の入口の扉に体当たりするように飛びつくと、急いで鍵をカチャリと開ける。
そして、扉を開けて廊下へ――
…………っ!?
「えっ!? どうしてっ!? 何で開かないのっ!?」
取っ手をガチャガチャと回しても開かないのだ。
鍵は確かに開けたのに。
まるで強い力に抑えつけられたかのように、押しても引いても全く開こうとしない。
「――リュシルカ王女殿下? どうされたのですか? 毒が身体に回っているというのに、急に動かれたら危ないですよ?」
「……っ!!」
不意に真後ろからよく知った声が飛び、私はビクリと大きく肩を跳ねさせた。
いつの間にか鎧を脱ぎ終わり、長袖のシャツとスラックス姿のホークレイが、私のすぐ背後に立っていた。
私は扉とホークレイに挟まれ、身動きが取れない。
……冷や汗が、タラリと背筋に流れていくのを感じた。
「あんなに勢い良く床に倒れ込んで……。怪我をされたのではと心配していたのですよ。何事も無くて本当に良かったです」
ホークレイの穏やかな声音と共に、私の背中のボタンが外されている感覚がする。
今着ているドレスは、背中に付いているボタンで着脱出来る形式のものだ。一人じゃ着られず、コハクに手伝って貰った。
ま、まさか……。
嫌な予感と同時に、私の着ていたドレスがストンと下に落ちた。私の格好は、肩から紐を吊るしたシュミーズ一枚だけの姿になってしまった。
コルセットは、苦しいからを理由に装着していなかった。
……それが今、仇になってしまった。
「あ……っ」
「……ふふっ、可愛らしい下着ですね。貴女の綺麗な肌がよく見える……。とてもお似合いですよ、王女殿下?」
ホークレイはクスリと笑うと、後ろから私を抱きしめ、互いの身体を密着させた。
そしてすぐに胸元から中に手を滑り込ませ、私の胸を直接掴む。
「……っ」
「……アレが演技だということくらい、始めた瞬間から気付いていましたよ。何年一緒にいたと思ってるんです? その反応で、怪しい言動をする者をコハクが見つけ、今後の警戒の対象にするという寸法だったのでしょう? ふふ、貴女達にしてはなかなかの計画ではないでしょうか」
私の耳元で低く囁やきながら、胸をゆっくりと揉み上げていく。
「ん……っ」
「けれど、毒を本当に少し飲みましたね……。それでも全く平気ということは、毒に耐性がある……? 貴女のお母様が、徐々に貴女に耐性を付けていたのでしょうか? 万が一、こういう事態になるのを見越して……。流石ですね」
「…………」
図星で何も言い返せない中、ホークレイの指が胸の先端を摘んで擦り上げた。と同時に、私の耳の中に舌を差し込みザラリと舐める。
「やぁ……っ!?」
私の身体がビクンと大きく震えた。
「……ふふ、相変わらずいい反応ですね。六年前と変わらず、とても可愛くて堪らない……。さて、お伺い致しますが、貴女はどちらの口調がお好みでしょう? 今の“王女殿下”に対する敬語口調か、それとも――」
そこで言葉を区切り、ホークレイは私の顎に指を添えると、無理矢理自分の方に顔を向かせた。
「……っ!?」
すぐ目の前に、アメジスト色の神秘的な瞳がある。その瞳は、驚く私の顔を映し出していて。
「昔の口調の方がいいか? ――なぁ、“ルカ”?」
「………っ!」
私の顔が、意図せず熱くなったのが分かった。その反応に、ホークレイは「ははっ」と声を立て、満足そうな笑みを浮かべる。
「ホンットお前は嘘がつけねぇな。やっぱこっちの方がいいか。昔を思い出すから? そうだよな、あの頃は俺とお前、ほぼ毎日一緒にいてさ、誰も来ない丘で戯れ合ってたよな? こんな風に、さ……」
そう言いながら、ホークレイは私の胸を揉みしだき、首筋に唇と舌を這わせていく。
私はその甘い刺激に懸命に耐えていた。
……ダメ、流されちゃ! 私は前に進むと決めたんだから。
けれど、ミミアン王女がいるのに、どうして私にちょっかいを掛けてくるの……。
コハクの言う通り、やっぱり二股をしようと……?
でも、ホークレイはそんな人じゃ……。
それに、“初対面の設定”はもういらないの?
あの頃のように、普通に話してもいいの……?
……っ!
そうだ! 今なら、ホークレイに直接聞ける絶好の機会だ……!!
「……ホークレイ、あなたに訊きたいことがあるの。どうしてミミアン王女と婚約したの? 彼女を好きになったの?」
「……っ」
私の問いに、ホークレイは一瞬言葉を詰まらせた後、頭を上げ、真顔で言った。
「……それは、今は……何も言えない。俺の“為すべきこと”が終わるまでは」
「ホークレイの“為すべきこと”って何?」
「……それも……今は言えない。”全て”が終わるまでは」
「…………」
……あぁ……。
予想はしていたけれど、やっぱり何も言ってくれない……。
何回訊いたって、きっと同じ結果だろう。
何も話してくれないって、ことは……。
私を、“信用”してくれていないって……ことだよね……。
……こんなの、どうやってあなたを“信じて待つ”ことが出来るっていうの……。
――改めて、決めた。
もう……迷わない。
前へ、進もう。
あなたを吹っ切って、あなたを忘れて、前へ――
114
お気に入りに追加
2,520
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる