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17.想定外の事態発生

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 私はすぐさまコハクと目で会話をする。

『コハク、やっぱり毒入ってた! 典型的過ぎるよ……!』
『典型的過ぎてビックリですよ。リュシルカが幼い頃から微量の毒を飲ませて耐性をつけてくれたお母様に感謝ですね』
『その度に頭痛や腹痛や吐き気に見舞われたけどね……。苦労が報われて良かった……のかな? ――ね、、やっぱりやらなきゃダメ?』
『犯人を特定する為にもお願いします。今後、その犯人には特に警戒が出来るようになりますから。頑張って下さいね、フフッ』
『ぐっ、他人事だと思って……。――分かったわ、やってやるわよ、見てなさいよ……!!』

 私は心を落ち着かせる為、目を瞑って小さく息を吐いた。

 そして――


「……ぐっ……? ――うぐっ、カハッ!!」


 私は突然ガバッと立ち上がり、椅子が音を立てて倒れるのも構わず、よろめきながら片手で喉を抑える。
 そして精一杯の苦悶の表情を浮かべ、もう片方の手を天井に向かってガタガタと震えながら伸ばし、そのまま床にドターン! とうつ伏せで倒れ込んだ。

 そしてチラリ、と誰にも分からないようにコハクを覗き見る。


「キャアアァァッ!! リュシルカ様……リュシルカ様がぁっ!?」


 コハクは瞳を大きく見開かせ、口を両手で覆いながら渾身の叫びを上げた。


 コハク……迫真の演技だけど、指の隙間から見える口元が笑ってヒクついてるよ!!
 何よ!? 私も迫真の演技だったよね!? 笑うところなんて一つも無かったよね!?


 ……これで、コハクが不自然な表情や動きをする誰かを見つけた後、私を抱えて部屋まで連れて行くまでが計画なんだけど……。


 コハク、早く見つけてここから連れ出して……!
 恥ずかしくてこのままだと羞恥で死んじゃう!!


 ……不意に、フワリと私の身体が浮いた。抱きかかえられたのだ。

 あ、コハク、上手く見つけられたのかな? 良かった……。

 私はホッと小さく息を吐き、薄目を開けてコハクの顔を見ようとし――


「――っ!!」


 危うく叫びそうになったのを、既の所で呑み込んだ。


 私を腕の中に抱きかかえていたのは、ホークレイだったのだ。


「……食事に毒が入っていたのですね。解毒法を知っていますので、私が対処致しましょう。コハク殿、今すぐオズワルドを呼んで来て下さい。何の毒か、誰が毒を混入したのかを至急調査させますので」


 ――えっ!? ホークレイが私を対処!?
 だっ、ダメダメそんなのっ!!
 コハクお願いっ、何とかして阻止して……!!


 私が薄目のままコハクに視線で訴えると、それに気付いた彼女は、無表情のホークレイを睨みつけて言葉を投げた。

「それなら最初からこの場にいらっしゃった貴方が直接調査した方が早いのでは? リュシルカ様は私がお預かり致します。今すぐ彼女をこちらに渡して――」
「おや? 侍女である貴女が解毒法を知っているのですか? 調査より解毒が最優先でしょう? リュシルカ王女殿下の命に関わるのですから」
「…………っ」
「彼女は私にお任せ下さい。大丈夫、決して死なせはしません。解毒には繊細な作業をしなければならず、時間が掛かるので、私が出るまで部屋には決して誰も入らないで下さい」
「っ!? そんなことな――」
「皆様、リュシルカ王女殿下が毒で倒れられたこと、大変心苦しくお思いかと存じます。王女殿下は私が必ずお救い致しますので御安心を。ですので皆様は御自分の部屋に戻られ、ゆっくりとお休み下さい。お手数をお掛け致しますが、犯人調査の御協力もよろしくお願い致します」

 コハクの言葉を遮り、ホークレイは私を深く抱え直すと、この場にいる全員に一礼しそう告げた。


「ちょっとホークレイッ!? そんな芋女なんてどうでもいいじゃないのよぉ! それに何でその女を抱き上げてるのぉ!? ワタクシにはそんなこと全くしてくれないじゃない!! 今夜はワタクシと一緒にいなさい!!」
「申し訳ございません。貴方様のは、必ずお救い致しますので」
「…………っ!!」

 ミミアンから言葉を失くしたホークレイは、食堂を足早に出て行く。


 こ、コハクが気圧されたっ!? そんなことって……!!


 ホークレイが歩く度揺れる振動と、鎧の冷たい感触を身体に受けながら、どうしよう逃げたら毒が効いてないのがバレちゃうしどうしようと脳内でワタワタし、再びコッソリと薄目を開いた。


「……っ!!」


 ホークレイは私をジィッと見つめ、目を細めて微笑んでいた。
 その愉悦な笑みにブルリと背筋が震えた私は、現実逃避を選びそれを見なかったことにして、また目をギュッと瞑ったのだった……。



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