【R18】「お前を必ず迎えに行く」と言って旅立った幼馴染が騎士団長になって王女の婚約者になっていた件

望月 或

文字の大きさ
上 下
17 / 38

16.胃痛の王族夕食会

しおりを挟む



 この二日間は特に人の接触は無く、何事も無いまま平穏に過ぎていった。
 国王の娘とはいえ、不貞の子の私に関わると面倒だという者が殆どなんだろう。
 私のお世話をしてくれる侍女はいるが、極力私とコハクだけで自分達の身の回りのことをしているので、最低限の会話しかしていない。


『お城の人達は基本信用しちゃ駄目よ。周り全てが敵と思って、油断しないようにね』


 お母さんのこの言葉を胸に刻み込み、常に警戒をしている。
 けれど、オズワルドさんにだけは心を許している。

「彼なら大丈夫だと私も思いますよ。バカ正直者で嘘はつけないし、本当にリュシルカのことを心配しているのが伝わってきますし。貧乏くじを常に引く可哀想な人でもありますが」

 と、コハクのお墨付きもあるので、きっと大丈夫だ。
 今度、胃痛を和らげるお薬を買ってあげよう……。


 ホークレイとすれ違うことはあるけれど、大抵ミミアン王女と一緒だ。ピットリと寄り添って腕を組み、時々ミミアン王女がホークレイに抱きついているのも見掛ける。


「ねぇ、ホークレイ。ワタクシの部屋に行きましょう? アナタと二人っきりになりたいのぉ。モチロンいいでしょぉ?」
「……畏まりました」


 二人の寄り添う姿と、これ見よがしに聞こえる会話に、胸の奥に痛みは走るけれど……それだけだ。


「チッ……あの第一王女、リュシルカにわざと聞こえるように言ってますね。このお盛ん猿どもめが……っ。タンス――じゃなくてテーブルの角に足の小指をぶつけて悶え苦しみやがれ!! です」
「あー……うん、それ地味にとっても痛いよね……」
「ボクは何も聞かなかったことにしますね。でも小指の痛みは激しく同意です……。何度ぶつけても慣れない……痛過ぎる……」
「そんなに頻繁にぶつけることは無いのですが……。どんだけオマヌケさんなんですか」
「うっ、ヒドイですコハクさんー……」
「……ふふっ」


 この二人のお蔭で、気持ちが随分と楽になれた。二人には本当に感謝だ。
 ホークレイの、睨まれるような視線も気にしないことにした。ここにいるまでの辛抱だ。


 私は、確実に前に向かって進んでいる。




 ――そして、王族が集う夕食の時間がやってきた。
 用意されたドレスを着て、重い足取りで食堂に向かう。


「あぁ、逃げ出したい……。胃痛までしてきたよ……。オズワルドさんは常にこの痛みと戦ってるんですね……。本当にお疲れ様です……」
「いやぁ、あっはっはっ。そうなんですよ、照れますねぇ。ありがとうございます」
「いやそこ笑う部分と照れる部分とお礼を言う部分では無いと思いますが?」


 いつの間にかボケとツッコミの間柄になっていた二人の、相変わらずの緊張感の無い会話に、私の沈んだ心がふっと軽くなる。

 もうなるようになれだ!

 気合を入れ、食堂に足を踏み入れると、既に全員が揃っているようだった。
 デイビット王子は頭の後ろで両手を組み、足も組んで姿勢悪く座っている。
 王子に作法を教えている先生、これ見たら涙目だよね……。
 ミミアン王女の後ろには、白銀の鎧を身に着けたホークレイが目を閉じ姿勢良く立っている。一緒には食べないようだ。


 そして――
 王の横に座る、ブラウン色の髪と同じ色の吊り目の女性が、王妃であるアマンダ様か……。
 初めて王城に来て王と謁見した時は姿を見掛けなかったから、今回が初の顔合わせだ。


 私は席に着く前に、王と王妃に向かってカーテシーをした。

「ゾルダン国王陛下、並びにアマンダ王妃陛下に御挨拶申し上げます。アマンダ様、御挨拶が遅くなり大変申し訳ございません。私はリュシルカ・ハミルトと申します。不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「ふーん……。貴女が、この人の捜していた女の子供なのね。ま、アタクシやアタクシの子供達に一切迷惑を掛けなければ、別にここにいてもいいわよ」
「……寛大な御心遣い、誠にありがとうございます」
「数日ぶりにお主の顔を見たが、相変わらずイレーナに似て美しいのう。目の保養になるわい、グフフ……。さぁ、席に座って夕食を食べようじゃないか」

 え、王妃の前で言っちゃうのそれ!? いいのっ!?

 慌てて王妃を見ると、彼女は特に気にした風でもなく澄まし顔をしている。
 内心ヒヤヒヤしながらも、私は入口に近い席に着く。そのすぐ斜め後ろにコハクが立ってくれた。
 オズワルドさんは、食堂まで護衛としてついて来てくれただけなので、この場にはいない。


 ――そして、緊張の夕食の時間が始まった。


 私は、初めに出されたスープに、心の中で盛大に溜め息をついた。
 他の皆のスープ皿は銀製なのに、私のは違うからだ。
 他のスープ皿とよく似た風に作られているけれど、私は一目で分かった。

 お母さんから、銀製の食器と他の食器の違いを頭に叩き込まれてあったから。


 ……てことは、入ってるよね……コレ。
 ……“毒”、が……。


 コハクにチラリと視線を投げ、目で会話をする。

『これ、絶対に銀製のお皿じゃないよね? やっぱり入ってるよね、“毒”?』
『えぇ、いきなり早速きましたね。リュシルカ、バレないように自然体ですよ?』
『うぅっ、分かってるよ……』

 私は心の中でメソメソと泣きながらスプーンを手に取り、スープをホンの少量掬い、静かに口に運ぶ。

 ……舌が、ピリピリする。



 ――やっぱり“毒”が入ってたーーっ!!



しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...