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16.胃痛の王族夕食会
しおりを挟むこの二日間は特に人の接触は無く、何事も無いまま平穏に過ぎていった。
国王の娘とはいえ、不貞の子の私に関わると面倒だという者が殆どなんだろう。
私のお世話をしてくれる侍女はいるが、極力私とコハクだけで自分達の身の回りのことをしているので、最低限の会話しかしていない。
『お城の人達は基本信用しちゃ駄目よ。周り全てが敵と思って、油断しないようにね』
お母さんのこの言葉を胸に刻み込み、常に警戒をしている。
けれど、オズワルドさんにだけは心を許している。
「彼なら大丈夫だと私も思いますよ。バカ正直者で嘘はつけないし、本当にリュシルカのことを心配しているのが伝わってきますし。貧乏くじを常に引く可哀想な人でもありますが」
と、コハクのお墨付きもあるので、きっと大丈夫だ。
今度、胃痛を和らげるお薬を買ってあげよう……。
ホークレイとすれ違うことはあるけれど、大抵ミミアン王女と一緒だ。ピットリと寄り添って腕を組み、時々ミミアン王女がホークレイに抱きついているのも見掛ける。
「ねぇ、ホークレイ。ワタクシの部屋に行きましょう? アナタと二人っきりになりたいのぉ。モチロンいいでしょぉ?」
「……畏まりました」
二人の寄り添う姿と、これ見よがしに聞こえる会話に、胸の奥に痛みは走るけれど……それだけだ。
「チッ……あの第一王女、リュシルカにわざと聞こえるように言ってますね。このお盛ん猿どもめが……っ。タンス――じゃなくてテーブルの角に足の小指をぶつけて悶え苦しみやがれ!! です」
「あー……うん、それ地味にとっても痛いよね……」
「ボクは何も聞かなかったことにしますね。でも小指の痛みは激しく同意です……。何度ぶつけても慣れない……痛過ぎる……」
「そんなに頻繁にぶつけることは無いのですが……。どんだけオマヌケさんなんですか」
「うっ、ヒドイですコハクさんー……」
「……ふふっ」
この二人のお蔭で、気持ちが随分と楽になれた。二人には本当に感謝だ。
ホークレイの、睨まれるような視線も気にしないことにした。ここにいるまでの辛抱だ。
私は、確実に前に向かって進んでいる。
――そして、王族が集う夕食の時間がやってきた。
用意されたドレスを着て、重い足取りで食堂に向かう。
「あぁ、逃げ出したい……。胃痛までしてきたよ……。オズワルドさんは常にこの痛みと戦ってるんですね……。本当にお疲れ様です……」
「いやぁ、あっはっはっ。そうなんですよ、照れますねぇ。ありがとうございます」
「いやそこ笑う部分と照れる部分とお礼を言う部分では無いと思いますが?」
いつの間にかボケとツッコミの間柄になっていた二人の、相変わらずの緊張感の無い会話に、私の沈んだ心がふっと軽くなる。
もうなるようになれだ!
気合を入れ、食堂に足を踏み入れると、既に全員が揃っているようだった。
デイビット王子は頭の後ろで両手を組み、足も組んで姿勢悪く座っている。
王子に作法を教えている先生、これ見たら涙目だよね……。
ミミアン王女の後ろには、白銀の鎧を身に着けたホークレイが目を閉じ姿勢良く立っている。一緒には食べないようだ。
そして――
王の横に座る、ブラウン色の髪と同じ色の吊り目の女性が、王妃であるアマンダ様か……。
初めて王城に来て王と謁見した時は姿を見掛けなかったから、今回が初の顔合わせだ。
私は席に着く前に、王と王妃に向かってカーテシーをした。
「ゾルダン国王陛下、並びにアマンダ王妃陛下に御挨拶申し上げます。アマンダ様、御挨拶が遅くなり大変申し訳ございません。私はリュシルカ・ハミルトと申します。不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「ふーん……。貴女が、この人の捜していた女の子供なのね。ま、アタクシやアタクシの子供達に一切迷惑を掛けなければ、別にここにいてもいいわよ」
「……寛大な御心遣い、誠にありがとうございます」
「数日ぶりにお主の顔を見たが、相変わらずイレーナに似て美しいのう。目の保養になるわい、グフフ……。さぁ、席に座って夕食を食べようじゃないか」
え、王妃の前で言っちゃうのそれ!? いいのっ!?
慌てて王妃を見ると、彼女は特に気にした風でもなく澄まし顔をしている。
内心ヒヤヒヤしながらも、私は入口に近い席に着く。そのすぐ斜め後ろにコハクが立ってくれた。
オズワルドさんは、食堂まで護衛としてついて来てくれただけなので、この場にはいない。
――そして、緊張の夕食の時間が始まった。
私は、初めに出されたスープに、心の中で盛大に溜め息をついた。
他の皆のスープ皿は銀製なのに、私のは違うからだ。
他のスープ皿とよく似た風に作られているけれど、私は一目で分かった。
お母さんから、銀製の食器と他の食器の違いを頭に叩き込まれてあったから。
……てことは、入ってるよね……コレ。
……“毒”、が……。
コハクにチラリと視線を投げ、目で会話をする。
『これ、絶対に銀製のお皿じゃないよね? やっぱり入ってるよね、“毒”?』
『えぇ、いきなり早速きましたね。リュシルカ、バレないように自然体ですよ?』
『うぅっ、分かってるよ……』
私は心の中でメソメソと泣きながらスプーンを手に取り、スープをホンの少量掬い、静かに口に運ぶ。
……舌が、ピリピリする。
――やっぱり“毒”が入ってたーーっ!!
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