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11.楽しい城下町観光……の筈が?
しおりを挟むオズワルドさんが案内してくれる城下町は、どこも新鮮で初めてなことばかりで、とても楽しかった。
城下町なだけあって、すごく広くて、様々なお店があって、活気もあって。村の隣町とは規模が全く違う。
村の静けさに慣れていた私達は、どれも驚くことばかりだった。
「リュシルカ様達の反応が初々しくて、案内をしているボクも楽しくて嬉しいですよ」
珍しいものを見る度声を上げている私達に、オズワルドさんはニコニコしながらそう言ってくれた。
城下町に連れ出してくれた彼には、本当に感謝だ。
ホークレイのことは、やはりそう簡単には消えてくれず頭の片隅にはあるけど、それ以上に心躍りが勝っていて、観光をしている間悲しい気持ちには一切ならなかった。
「はい、とても楽しいです! オズワルドさん、付き合って下さって本当にありがとうございます」
「いえいえ、ボクも用事を済ませられたので良かったですよ。――っと、もうお昼なんですね。名残惜しいですが、そろそろ王城へ戻りましょうか。またここに来る機会はありますから――」
その時、遠くに見える路地の奥から、誰かの声が聞こえた気がした。
コハクを見ると、彼女も私と同じ方向を見ている。
「コハク……」
「えぇ。女性の悲鳴……でしたね」
「え? ボクには何も聞こえませんでしたよ?」
「私達は自然に囲まれて暮らしていましたから、耳は良いんです。――オズワルドさん」
「……っ、そうですね……。誰かが襲われていたら大変ですし、様子を見に行ってきます。貴女達はここで待っていて下さい」
そう言って、走り出そうとしたオズワルドさんをコハクが呼び止めた。
「ちょっと待って下さい。向こうがもし大人数だったら、不意打ちを喰らった場合、貴方の命が危ないです。私達も行きます。こう見えて、私とても強いですから。リュシルカと貴方を守ることくらい出来ますよ」
「オズワルドさん、本当にコハクは強いので大丈夫ですよ」
「……リュシルカ様がそう仰るなら……。でも、貴女様まで行かれるのは――」
「何言ってるんですか。リュシルカをここに一人残す方が危ないですよ」
コハクの言葉にオズワルドはハッとし、大きく頷いた。
「……確かにそうですね。では二人共、よろしくお願いします」
そして私達は路地の奥へと急いだ。
ここは表通りと違って薄暗く、ゴミがあちこちに散乱していて治安が悪そうな場所だった。
路地の行き止まりに、その悲鳴の主がいた。
一人の若い女性が、四、五人の男性達に囲まれて、まさに襲われようとしているところだった。
「……っ!!」
オズワルドさんは女性のもとに駆けつけようとしたけれど、その足を止めた。
男性達全員が武器を持っているのだ。ナイフや剣、棍棒等……。それらで女性を脅して、ここまで連れて来たに違いない。
女性と私達の間に結構距離があるから、駆けつける前に自暴自棄になった男性達が女性を攻撃してしまったらとオズワルドさんは考えたのだろう。
「……オズワルドさん、衛兵を呼んで来て下さい。それまで私達が時間を稼ぎます」
「いや、でも……!」
「私はとても強い、と言ったでしょう? リュシルカは必ず私が護ります。あの女性も無事に逃がします。大丈夫です、私を信じて下さい」
オズワルドさんはコハクの真剣な瞳をジッと見つめると、程なくして同じ表情で頷いた。
「すぐに衛兵を連れて来ますから、それまで何とか踏ん張って下さい……!」
オズワルドさんは小声でそう言うと、踵を返し走り出す。
「……さて。行きましょうか、リュシルカ」
「うん」
私達は頷き合うと、男性達の方へと歩き出した。
「あの、すみません……。私達、迷ってしまって……。人がいてくれて良かった……」
コハクがか弱気で不安そうな声を作り、男性達に話し掛ける。男性達は一斉にこちらに振り返ると、ニヤリと口の端を持ち上げだ。
「おぉー、二人共上玉じゃーん。ラッキー♪」
「へへっ、この女より全然いいなぁ」
「え……? あの、どういうことでしょう……? それよりも、表に出る道を教えて頂けますか……?」
「足、痛い……。私、もう歩けないよ……。お姉ちゃん――」
コハクが潤んだ瞳で男性達に訊いている横で、私は足元をふらつかせながら、呆然として座り込んでいる女性の傍にへたり込んだ。
衣類も乱れていないし、まだ何もされていないようだ。良かった……。
私は女性の耳元に顔を近付け、彼女にしか聞こえない声音で囁いた。
(逃げて下さい)
(……え?)
(この道を真っ直ぐ突っ切れば、表通りに出られます。連れが衛兵を呼んでいますので、彼らに会ったら助けを求めて下さい。さぁ、走って。早く!)
(は、はいっ! ありがとうございます……!)
女性は慌てて立ち上がると、男性達がコハクに視線を移している間に走り去って行った。
「……あっ! くそっ、逃げたぞ!!」
「いやいい、追うな。ただガタガタ震えていたあの女じゃ、衛兵を呼ぶ勇気も無いだろ。怯えるだけじゃつまんなかったし、その分アンタ達には期待出来そうだなぁ」
男の一人が舌舐めずりをし、手に持っていたナイフを構えた。
「――さて。人質も無事に逃げたことですし、どうしましょうか、リュシルカ。盛大に暴れてやりますか?」
「うーん……。ここに来たばかりだし、今目立っちゃったら後々面倒なことになると思うの。だから衛兵が来るまで大人しく時間稼ぎをしよう?」
「ふむ、確かにそうですね。何事も無く平穏無事にお母様のもとへ帰りたいですし。このクズどもを成敗してやりたいところですが、我慢してやりますか」
「あぁ? 何をブツブツ言って――」
「え……ギャッ!?」
その時、男性の叫び声がし、彼らの一人がバタリとそこに倒れた。間も置かず、男達が短い悲鳴を上げ次々と倒れていく。
最後の一人が呻き声を上げドサリと地面に倒れるのを、私達はポカンとした顔で眺めていた。
薄暗い路地だったので、何が起こったのか分からなかったのだ。
……えっ? な、何っ? オズワルドさんが衛兵を呼んで来た? けれどそれにしては早過ぎる――
「――貴女達は、一体ここで何をしているのですか?」
ジャリ、と地面を踏みしめる音と共に聞き覚えのある声がし、私とコハクは二人同時に顔を上げる。
……そこには、右手に長剣を持った、ここにいる筈の無いホークレイの姿があった――
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