8 / 38
7.私の出生の秘密
しおりを挟む「お母さん!!」
急いで家の中に飛び込み、お母さんの部屋の扉を開けると、お母さんはベッドで横になっていた。
「あら、おかえりなさい二人とも。ちょっと辛かったから寝ていたわ。――ねぇ、リュシルカ。さっきから何だかとても胸騒ぎがして止まらないの。だから、あなたに隠していたことを話そうと思うわ。きっと今がその時だと思うの。こっちにいらっしゃい。コハクも聞いておいた方がいいわ。さぁ」
私とコハクは顔を見合わせると頷いて、お母さんのベッドに近付く。
お母さんはゆっくりと上半身を起こすと、真剣な表情で話し始めた。
「落ち着いて聞いてね、リュシルカ。ずっと隠していたけれど、あなたのお父さんは、この国の王なのよ。私が昔踊り子をして各地を周っている時、この国の王に気に入られ、無理矢理手籠めにされたわ。その時に出来た子が、あなたなの」
「…………っ!!」
お父さんのことは、お母さんが何も言わなかったら、私も訊かずにいたんだ。何か言えない事情があるんだろうって。
……その事情が、そんな……。
王様が、無理矢理お母さんを……?
何て……何てヒドいことを……!!
「当時は、王を酷く憎んだわ。私を側室にしようとした王の元から何とか逃げ出し、実家があるこの村であなたを産んだのよ。あなたがお腹の中にいる時、王の遺伝子はこの子に絶対に入らないでと強く強く、毎日念じたわ。お蔭で、あなたは王の遺伝子を一個も持たずに産まれてきたわ。王に全く一欠片も似ずに、私にだけしか似てないもの。必死に祈った甲斐があったわ」
えぇっ!? そんなことが出来るなんてっ!?
お母さん凄いっ!! 祈りや念は偉大っ!!
「当時、私に対する王の執着は酷かったから、私を必死に捜し回ったと聞いたわ。でも、こんな辺境の田舎村までは捜せなかったようね。けれどもし、今もまだ諦めてなかったとしたら……。あなたは隣町によく出掛けているし、そこで当時の私によく似たあなたを王の関係者が見掛けてしまった場合、あなたが王城に連れて行かれるかもしれない。もしも王城から使いの者が現れたら、さっさと逃げてきて。いいわね?」
「……あ……。お母さん、えっと、そのことなんだけど……」
私は言葉を濁し、恐る恐る私とコハクの背後に立つオズワルドさんを指さした。
「……王城からの使いが、今ここに……」
オズワルドさんは、お母さんが私を身籠った時の状況を初めて聞いたのだろう。
とても分かり易い申し訳なさを全面に出しながら、頭を深く下げた。
「あの、本当に申し訳ありません……。リュシルカ様を城へ連れて来いとの国王陛下の御命令でして……」
「…………」
お母さんは、そんなオズワルドさんに向かって半目になり、冷めた表情で見上げる。
こ、こんなお母さんの表情初めて見た……!!
「……コハク。さっさと始末なさい」
「お母様の御心のままに。すぐに終わらせますので」
お母さんの言葉に、コハクは両手にクナイを構えると、スゥッと息を吐きオズワルドさんに対し戦闘態勢に入った。鋭い殺気と視線が彼へと向けられる。
「えっ、ええぇっ!? 陛下の命令でリュシルカ様を迎えに来ただけなのに、この場で即行殺されちゃうのボクッ!? それ余りにも理不尽過ぎないッ!? ボクの人生一体何だったの!? 今までもあんまりな人生だったのに、そりゃあんまり過ぎだよッ!? ――あ、いててっ、心労で胃痛が……」
オズワルドさんは涙目になりながら流れるように喚くと、突然お腹を抑えて呻き出した。
……この人、今までずっと苦労してきたんだな……。
立派な肩書き持ってると、色々大変だよね……。
「お、お母さん、コハク。この人は何も悪くないから、助けてあげて? ね?」
「……うふふっ、ちょっと脅しただけなんだけどね。逃げ帰ってくれれば良かったんだけど、そう簡単にはいかなかったわ。――コハク、武器を仕舞っていいわよ。私の茶番に付き合ってくれてありがとね」
「とんでもないです、お母様」
コハクが殺気を沈め、クナイを懐に入れたのを確認すると、オズワルドさんはお腹を抑えながら、ホッとしたように息をついた。
……この人、騎士団の副団長なんだから、相当強い筈なのに……。
コハクに武器と殺気を向けられても、腰に差してある剣に少しでも手を掛けようとはしなかった。
雰囲気からでも分かるけど、心から優しい人なんだろうな、きっと……。
95
お気に入りに追加
2,493
あなたにおすすめの小説
【R18】ヤンデレ侯爵は婚約者を愛し過ぎている
京佳
恋愛
非の打ち所がない完璧な婚約者クリスに劣等感を抱くラミカ。クリスに淡い恋心を抱いてはいるものの素直になれないラミカはクリスを避けていた。しかし当のクリスはラミカを異常な程に愛していて絶対に手放すつもりは無い。「僕がどれだけラミカを愛しているのか君の身体に教えてあげるね?」
完璧ヤンデレ美形侯爵
捕食される無自覚美少女
ゆるゆる設定
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
私を捕まえにきたヤンデレ公爵様の執着と溺愛がヤバい
Adria
恋愛
かつて心から愛しあったはずの夫は私を裏切り、ほかの女との間に子供を作った。
そのことに怒り離縁を突きつけた私を彼は監禁し、それどころか私の生まれた国を奪う算段を始める。それなのに私は閉じ込められた牢の中で、何もできずに嘆くことしかできない。
もうダメだと――全てに絶望した時、幼なじみの公爵が牢へと飛び込んできた。
助けにきてくれたと喜んだのに、次は幼なじみの公爵に監禁されるって、どういうこと!?
※ヒーローの行き過ぎた行為が目立ちます。苦手な方はタグをご確認ください。
表紙絵/異色様(@aizawa0421)
愛は重くてもろくて、こじれてる〜私の幼馴染はヤンデレらしい
能登原あめ
恋愛
* R18、ヤンデレヒーローの話です。
エリンとブレーカーは幼馴染。
お互いに大好きで、大きくなったら結婚するって約束もしている。
だけど、学園に通うようになると2人の関係は――?
一口にヤンデレと言っても、いろんなタイプがあるなぁと思う作者による、ヤンデレ物語となっています。
パターン1はわんこ系独占欲強めヤンデレ。全4話。
パターン2は愛しさと憎しみと傲慢俺様系ヤンデレ。(地雷多め・注意) 全4話。
パターン3は過保護が過ぎる溺愛系微ヤンデレ。全4話。
パターン4はフェチ傾向のある変態系あほなヤンデレ。全3話。
パターン5はクールを気取った目覚めたばかりのヤンデレ。全3話。
パターン6は執着心と独占欲の塊だと自覚のある根暗ヤンデレ。全3話。
登場人物の名前は共通、章によりヒーローのヤンデレタイプ(性格)や、関係性なども変わります。
パラレルの世界(近代に近い架空の国)だと思っていただければありがたいです。
* Rシーンにはレーディングか※マーク、胸糞、地雷要素ある時は前書きつけます。(前書き、後書きがうるさくてごめんなさい)
* コメントのネタバレ配慮しておりませんので、お気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成したものを使用しております。
義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。
悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~
一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、
十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。
ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は
その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。
幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、
目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。
彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。
訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、
やがて彼に対して……?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
姉の夫の愛人になったら、溺愛監禁されました。
月夜野繭
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、憧れの騎士エルネストから求婚される。しかし、年長者から嫁がなければならないという古いしきたりのため、花嫁に選ばれたのは姉のミレーナだった。
病弱な姉が結婚や出産に耐えられるとは思えない。姉のことが大好きだったリリアーナは、自分の想いを押し殺して、後継ぎを生むために姉の身代わりとしてエルネストの愛人になるが……。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる