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7.私の出生の秘密

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「お母さん!!」


 急いで家の中に飛び込み、お母さんの部屋の扉を開けると、お母さんはベッドで横になっていた。

「あら、おかえりなさい二人とも。ちょっと辛かったから寝ていたわ。――ねぇ、リュシルカ。さっきから何だかとても胸騒ぎがして止まらないの。だから、あなたに隠していたことを話そうと思うわ。きっと今がその時だと思うの。こっちにいらっしゃい。コハクも聞いておいた方がいいわ。さぁ」

 私とコハクは顔を見合わせると頷いて、お母さんのベッドに近付く。
 お母さんはゆっくりと上半身を起こすと、真剣な表情で話し始めた。


「落ち着いて聞いてね、リュシルカ。ずっと隠していたけれど、あなたのお父さんは、この国の王なのよ。私が昔踊り子をして各地を周っている時、この国の王に気に入られ、無理矢理手籠めにされたわ。その時に出来た子が、あなたなの」
「…………っ!!」


 お父さんのことは、お母さんが何も言わなかったら、私も訊かずにいたんだ。何か言えない事情があるんだろうって。

 ……その事情が、そんな……。
 王様が、無理矢理お母さんを……?
 何て……何てヒドいことを……!!


「当時は、王を酷く憎んだわ。私を側室にしようとした王の元から何とか逃げ出し、実家があるこの村であなたを産んだのよ。あなたがお腹の中にいる時、王の遺伝子はこの子に絶対に入らないでと強く強く、毎日念じたわ。お蔭で、あなたは王の遺伝子を一個も持たずに産まれてきたわ。王に全く一欠片も似ずに、私にだけしか似てないもの。必死に祈った甲斐があったわ」


 えぇっ!? そんなことが出来るなんてっ!?
 お母さん凄いっ!! 祈りや念は偉大っ!!


「当時、私に対する王の執着は酷かったから、私を必死に捜し回ったと聞いたわ。でも、こんな辺境の田舎村までは捜せなかったようね。けれどもし、今もまだ諦めてなかったとしたら……。あなたは隣町によく出掛けているし、そこで当時の私によく似たあなたを王の関係者が見掛けてしまった場合、あなたが王城に連れて行かれるかもしれない。もしも王城から使いの者が現れたら、さっさと逃げてきて。いいわね?」
「……あ……。お母さん、えっと、そのことなんだけど……」


 私は言葉を濁し、恐る恐る私とコハクの背後に立つオズワルドさんを指さした。


「……王城からの使いが、今ここに……」


 オズワルドさんは、お母さんが私を身籠った時の状況を初めて聞いたのだろう。
 とても分かり易い申し訳なさを全面に出しながら、頭を深く下げた。
 

「あの、本当に申し訳ありません……。リュシルカ様を城へ連れて来いとの国王陛下の御命令でして……」
「…………」


 お母さんは、そんなオズワルドさんに向かって半目になり、冷めた表情で見上げる。

 こ、こんなお母さんの表情初めて見た……!!


「……コハク。さっさとなさい」
「お母様の御心のままに。すぐに終わらせますので」


 お母さんの言葉に、コハクは両手にクナイを構えると、スゥッと息を吐きオズワルドさんに対し戦闘態勢に入った。鋭い殺気と視線が彼へと向けられる。


「えっ、ええぇっ!? 陛下の命令でリュシルカ様を迎えに来ただけなのに、この場で即行殺されちゃうのボクッ!? それ余りにも理不尽過ぎないッ!? ボクの人生一体何だったの!? 今までもあんまりな人生だったのに、そりゃあんまり過ぎだよッ!? ――あ、いててっ、心労で胃痛が……」


 オズワルドさんは涙目になりながら流れるように喚くと、突然お腹を抑えて呻き出した。


 ……この人、今までずっと苦労してきたんだな……。
 立派な肩書き持ってると、色々大変だよね……。


「お、お母さん、コハク。この人は何も悪くないから、助けてあげて? ね?」
「……うふふっ、ちょっと脅しただけなんだけどね。逃げ帰ってくれれば良かったんだけど、そう簡単にはいかなかったわ。――コハク、武器を仕舞っていいわよ。私の茶番に付き合ってくれてありがとね」
「とんでもないです、お母様」


 コハクが殺気を沈め、クナイを懐に入れたのを確認すると、オズワルドさんはお腹を抑えながら、ホッとしたように息をついた。


 ……この人、騎士団の副団長なんだから、相当強い筈なのに……。
 コハクに武器と殺気を向けられても、腰に差してある剣に少しでも手を掛けようとはしなかった。


 雰囲気からでも分かるけど、心から優しい人なんだろうな、きっと……。



 
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