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1.幼馴染達の日常

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「お母さん、コハクと隣町まで野菜を売りに行って来るね!」
「あら、いつもありがとね。いってらっしゃい、二人とも。コハク、リュシルカのこと頼んだわよ」
「畏まりました、お母様。お任せ下さい。行って参ります」


 台所に立ち、今日のお昼ご飯であろう野菜を持って微笑みながら手を振っているのは、私のお母さんだ。
 黄金色の輝く長い髪にエメラルドグリーンの美しい瞳を持つお母さんは、今年四十歳になるけれど、昔と変わらずとても美人で。

 美味しいご飯を作ってくれるお母さんのお手伝いを少しでもしようと、私とコハクが家事と仕事を分担して行っていた。


 ――あ、そうそう、コハクの紹介をしなきゃね。
 彼女は、私の一歳年上の十七歳。珍しい艷やかな長い黒髪と、綺麗な琥珀色の瞳を持つ、こちらもお母さんに負けない美人さんだ。

 コハクは、七年前の私が九歳の時、このイーナ村の外れに傷だらけで倒れていて、驚いた私は彼女を背負って、足を引き摺りながらも頑張って歩いて、お母さんの所に向かったのだ。
 村のお医者さんに診て貰ったところ、幸い命に別状はなく、身寄りも誰もいないという彼女を、お母さんと私は家族として迎え入れた。

 血は繋がっていないけれど、コハクは私の大好きなお姉さんであり、親友だ。


 ……ん? ――あ! 私の紹介がまだだったね。失礼いたしました。
 私の名前は、リュシルカ・ハミルト。年は十六歳で、お母さんと同じ黄金色の肩で揃えた髪とエメラルドグリーンの瞳をしている。
 コハクは私を「お母様とよく似ています」なんて言うけれど、お母さんみたいに美人じゃないのは自分でも分かっている。
 怒るととても怖いけど、明るく優しいお母さんが大好きな私は、そう言って貰えると、とても誇り高い気持ちになれるんだ。

 お世辞でも嬉しいよ。ありがとう、コハク。



 少し歩いた所にある隣町で掛け声を上げつつ野菜を売り、お昼過ぎにめでたく完売した。
 ホクホク顔で、コハクと楽しくお喋りしながら帰路に就いていると、前から長身の男性が歩いて来るのに気が付いた。
 灰青色の無造作に短く伸びた髪に、アメジスト色の神秘的な瞳をした、誰が見ても美形なその男性を、私達はよく知っていた。


「あ、ホークレイ。どうしたの? 村の入口に何か用?」


 彼の名前は、ホークレイ。この村の村長さんの息子で、年は十九歳。私とコハクの幼馴染だ。
 イーナ村で、年の近い若い子は私達しかいなかったから、昔からこの三人でよく遊んでいた。

「いや、お前達の姿が見えたから来ただけ」
「わざわざお出迎え? ふふっ、ありがとう」

 私は頭一つ分以上高いホークレイを見上げて笑う。彼はそんな私を意味深にジッと見下ろすと、不意に視線をコハクに移した。
 コハクはその目線に微かに眉を顰めると、意味を掴み取ったのか「ハァ」と大きく溜め息をつき、言った。

「……三十分だけですよ。それ以上は絶対に許しませんからね」
「三十分? 短過ぎね?」
「私達はこれから家に帰って、家族三人仲良くお昼ご飯を食べるんです。その大事で貴重な時間を押してまで三十分で妥協した私の優しさに感謝して貰いたいですね」
「チッ……。分かったよ」
「貸しはミルクたっぷり苺ジュース三本で。――リュシルカ、先に家に戻っていますね。三十分経ったら迎えに来ますから」
「え? ちょ、待ってコハク――」

 コハクは肩を竦め、私にしか分からない角度で微笑みを向けると、家の方角へと歩き出した。

「コハク……」
「アイツはホントに時間きっかりで来やがるからな。急いでいつもの場所に行くぞ、リュシルカ」
「あ……」

 ホークレイは、コハクの背中を見送っていた私の手の指に自分の指を深く絡めると、そのまま引っ張って足早に歩き出す。


 ……いつもの場所……。また“アレ”をするのかな……。


 私の顔が、知らずに熱くなるのを感じる。そんな私をチラリと見て、ホークレイがフッと笑った。

「顔真っ赤だぞ? お前」
「うっ! だ、だって……っ」
何にもしてないだろ? もしかしてしてる?」
「ち、ちが……っ」
「俺は嬉しいけど?」

 ワタワタと焦る私にくつくつと笑いながら、ホークレイは村から少し離れた丘まで歩く。ここは、滅多に村人達が来ない場所なのだ。
 そしてホークレイは丘にそびえる一本の巨大な樹の根元に腰を下ろすと、私を引っ張り自分の膝の上に乗せた。


 同時にホークレイは、私を胸の中に閉じ込め、強く抱きしめてきた。



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