33 / 47
33.もう二度と離さない
しおりを挟む『偽聖女、もう何もしてこないね……。――結局何もなかったってことだ。これで主の潔白が証明されたね』
『当たり前だ。オレはぜってぇにしてねぇって言ったろ? けど、この魔法はオレ達以外に使っちゃダメだし、他のヤツらに見せちゃダメだ。これは“刻”を扱う最上級の魔法だ。貴族以上のエラいヤツらが、フレイシルがこれを使えると知った途端、目の色を変えてコイツを欲しがるだろう。権力争いにコイツを巻き込みたくねぇ』
『あぁ……確かにそうだね。それはアタシも絶対にイヤだよ。――じゃあ、他にどう証明すれば……』
『シオン、アディ!』
『ん? フレイシル、どうした? 何か言いたいのか?』
『――!! 皆さん、見て下さい! 扉の所を!』
『扉……? ん、少し開いてる? あの女、鍵を閉め忘れたのか――って、誰か覗いてっぞ!? 過去のオレに集中してて気付かなかったぜ……』
『私もです。一体誰でしょうか……。陰になってよく見えませんね……。男性……のようですが、パーティーに参加しているのなら貴族ですね。この男性がもしも一部始終を見ていたのなら……重要な参考人になりますよ!?』
『この……男……。――ちょっと心当たりを探ってみるから、暫く時間をくれないかい?』
『心当たりがあるのか!? オレは他の貴族に興味ねぇから名前に疎いし、少しでも情報が手に入れば助かる。頼んだぜ、アディ。――フレイシル、もういいぞ。この魔法は使用中、莫大な魔力を消費し続ける。もう殆ど魔力が残ってないハズだ。ありがとな、すっげぇ助かった』
セリュシオンの言葉とほぼ同時に、三人の視界が真っ暗に戻る。
三人がそっと目を開けると、そこは先程と同じセリュシオンの部屋だった。
不意に、フレイシルの身体がグラリと傾いた。それを分かっていたかのように、セリュシオンが彼女に腕を伸ばし、しっかりと支える。
「フレイシル! 大丈夫かい!?」
「やっぱり魔力が枯渇寸前だったか……。――二人共、今日はこれで解散だ。オレはフレイシルを休ませる。『魔力回復剤』を飲ませて少し寝れば大丈夫だ。だからそう心配すんな」
「そっか、良かった……。フレイシル、お疲れ様。ゆっくり休みな?」
「フレイシルさん、主様の疑惑を晴らしてくれてありがとうございました」
二人はフレイシルに優しく声を掛け、部屋を出て行く。グッタリとしているフレイシルをベッドに静かに寝かせると、セリュシオンは棚に保管してあった『魔力回復剤』を取り出し持ってきた。
それを自分の口に含むと、フレイシルに口移しで飲ませる。
……えっと……。わざわざソレしなくても自分で飲めるのに……。
流し込まれる『魔力回復剤』をコクコクと飲みながら、フレイシルはボンヤリとした思考で思った。
「……気分良くなったか?」
セリュシオンの問い掛けに、フレイシルはコクリと頷き、彼の手を取ると、手のひらに人差し指で文字を書き始める。
「は? 『ありがとう、良くなったから自分の部屋に戻る』って? 何言ってんだバカ、帰すわけねぇだろーが。オレん中に魔物はいなくなったけど、これからもお前は毎晩オレと寝るんだ。お前を口説き落とすって言ったろ? お前がオレに落ちるまで、毎日一日中口説きまくってやる。覚悟しとけよな」
とんでもない発言に、フレイシルは顔がトマトのようになったり目が白黒になったり忙しかった。
「けど、今日は勘弁しといてやるよ。国境から帰って来たばかりだし、魔力もかなり使って疲れただろ? もう寝ていいぞ。起きたら料理長にお前の好きな飯沢山作って貰うからさ。ホント色々とありがとな。お前のお蔭で何とかなりそうだ。大好きだぜ? オレのフィーア」
ニッと眩しい笑顔で、セリュシオンはフレイシルの頭を撫で、唇にキスをした。
恥ずかしさで、慌てて毛布を頭まですっぽり覆ったフレイシルは思った。
「今日は勘弁しといてやるよ」とか言いながら、バッチリ口説きに掛かってるじゃない! と。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
フレイシルは、その後すぐに寝息を立て始めた。
顔を毛布で覆ったままで。やはり余程疲れていたようだ。
セリュシオンはフッと笑い、毛布を彼女の首まで下げる。あどけない寝顔のフレイシルがそこにあり、セリュシオンはその頬を優しく撫でると、再びそっと唇を重ねた。
最上級の魔法を使えること、上級魔導士以上の魔力の量、そして“二つ”の名前を持っている――
(……コイツは、きっと――)
彼女の“立場”なら、もしかしたら既に『婚約者』がいるのかもしれない。その『婚約者』が彼女の好きな男であったとしても――
「悪ぃな、フィーア。オレはもう、お前を二度と手離したくねぇんだわ」
独りごち、セリュシオンはフレイシルの額に唇を寄せると、美しく長い銀髪を指で梳く。
「“身分”が違うことで、例え周りから反対されようとも、オレは必ずお前を手に入れる。――決めたんだ。もう迷いはない」
離れている六年間の年月は長過ぎた。
勿論、何もしなかったわけではない。『浮遊魔法』を取得後、王国中を捜して回ったけれど、“彼女”は見つからなかった。
“彼女”の母、クロエが言っていた「私達、この国の者じゃないから」の言葉が確かなら、もうこの王国にはいない可能性が高い。
そうなると、国境を守る立場の自分は勝手にこの国を出ては行けないし、“彼女”を捜すことが非常に難しくなる。
だから……もう会えないと思い、何度も諦めようとした。
辺境伯を継いだ後、セリュシオンの事情を知らない貴族からの縁談が次々と舞い込んで来たので、良さそうな所をカイに選んで貰い、何人か実際に令嬢と会ってみた。
しかしどうしても“彼女”と比べてしまい、比較してしまう自分の愚かさと、他の女とこれ以上一緒にいたくないという耐え難い気持ちでいつも途中退席し、どの女性とも一回会っただけで断りの内容の手紙を送った。
“彼女”以上の女性がいないのなら、一生独身でいいと諦め掛けていた。
そんな中、奇跡的に“彼女”と再会することが出来たのだ。六年振りでも、彼女はあの頃と同じ“彼女”のままだった。
心の奥に閉じ込めて燻っていた“彼女”への想いが、一気に溢れて飛び出してきた。
それは再び閉じ込められないほど、深く大きくなっていて。
自分の方が、“彼女”ともう離れられないと悟った。
――だから。
「オレはお前をもう二度と離さねぇ。その為に障害になるものは全てブッ潰す。多分いるだろう婚約者も、ニセ聖女も、フェブラーン子爵のクソ娘も、デッセルバのドラ息子も全部……全部だ。全て片付いたら、オレとお前はいつまでも永遠に一緒だ。――なぁ……フィーア?」
セリュシオンはそう呟くと、光のない狂愛を孕んだ紅い瞳を細めて笑い、穏やかに眠るフレイシルへと向けた――
1,553
お気に入りに追加
3,268
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。
完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた
まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。
その上、
「お前がフリーダをいじめているのは分かっている!
お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ!
お前のような非道な女との婚約は破棄する!」
私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。
両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。
それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。
私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、
「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」
「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」
と言って復縁を迫ってきた。
この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら?
※ざまぁ有り
※ハッピーエンド
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。
小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける
高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。
幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。
愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。
ラビナ・ビビットに全てを奪われる。
※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。
コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。
誤字脱字報告もありがとうございます!
幼なじみで私の友達だと主張してお茶会やパーティーに紛れ込む令嬢に困っていたら、他にも私を利用する気満々な方々がいたようです
珠宮さくら
恋愛
アンリエット・ノアイユは、母親同士が仲良くしていたからという理由で、初めて会った時に友達であり、幼なじみだと言い張るようになったただの顔なじみの侯爵令嬢に困り果てていた。
だが、そんな令嬢だけでなく、アンリエットの周りには厄介な人が他にもいたようで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる