隣人はクールな同期でした。

氷萌

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*戸惑い、揺れ動いています。

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アタシは
前からその香りを知ってる。

付き合ってたときに
抱きしめられて何度も感じた
仄かにする香水の
優しい匂い…

いつもそれで
“傍にいるんだ”って
確かめられてた。

いつだってそう。
体を重ねたときだって…


「セツナ?」

「え、あ、すみません
 何でしたっけ?」


アタシとした事が
過去の思い出に浸っちゃったよ。


「具合悪いなら
 まだ寝てた方がいいんじゃないか?」


どうやら陽向さんは
アタシがボーッとしていた事に
心配したらしい。


「いえ、大丈夫ですよ。
 ちょっと考え事をしていただけなので
 具合はもう大丈夫です」

「…そっか。
 それならいいけど…」


…あれ?


「どうか…しましたか?」

「え…?」


どうにも歯切れの悪い言い方と
どことなく物哀しそうな笑顔に
こっちが気になってしまい
逆にアタシが訊ねてみた。


「元気…ないですよ?」

「…そ、そうか?
 俺は元気だよ、大丈夫」


何かを誤魔化そうとしているのか
言葉がたどたどしい。

でも本人がそう言うなら…。


「…そうですか。
 じゃぁアタシは
 課長に昨日の報告をしてきます」


そう伝えて立ち上がり
彼に背中を向けた。

 
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