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5章:疑惑の目、不穏な空気。
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しおりを挟む早いとこ切り上げて帰りたいし、これ以上この子に構ってもいたくなくて『この辺でそろそろ――』と口を開いた時だ。
「俺達は先に帰らせてもらう」
桐葉さんはそう言って席にも座らずビジネスバッグから財布を手に取ると、中から諭吉を数枚取り出してテーブルの上に置いた。
俺達って何、まさか……――
「そんな……もう帰っちゃうんですか? まだ私、桐葉さんと乾杯してないんですが……」
上目遣いに甘く訴える茉莉愛ちゃんからは、なんとしてでも桐葉さんが帰るのを阻止したい一心さが伝わってくる。
けれど彼自身はそんな事は一切お構いなし。
「悪いが色仕掛けなら他をあたってくれ。そういうのは迷惑だ」
それどころか茉莉愛ちゃんの思惑に気が付いていたようで、鬱陶しそうに冷たい眼差しを向けながら、あしらい交わしている。
ここまで言われてしまったのが相当嫌だったんだろう。プライドを傷つけられた屈辱からか、彼女は頬を赤くさせ睨むように目力を強くし、その不機嫌面が隠しきれていない。
これは後々が怖い……
「俺は棗を送っていくから、先に失礼する」
「えっ、ちょっ」
この状況下で彼はいきなり私に振ってきて、かと思えばこっちが驚くのも束の間『行くぞ』と言い放ち、私の腕を後ろに置いてあった鞄を代わりに持ってこの場をあとにする。
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