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あつい

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あつい
あつい
あつい

それを言葉にしてしまうと
溶けてしまいそうなほど
あつい夏だった

高校一年生の夏

俺の部屋にはエアコンがない

「うちは母子家庭で
金銭的に苦しいから・・・」

母はそう言っていたけど
理由はそうではない
母は割といい会社で役職付き
忙しく働いているから
稼ぎは並みの男よりある
俺が部屋にこもってしまうのが嫌だからだ

だから
こんなにあついのに
汗をダラダラ垂らしながら
俺は窓全開でアイスクリームを食べている

蝉の声は日に日に大きくなっている

ふと向かいの家の窓が目に入る



「ここって
こんな子いたっけ?」

俺の目に映ったのは
同世代の女の子

彼女は絵を描いている
油絵かな?
本格的な画材が見える

彼女は
長く黒い髪を一つに編んでいて
夏だというのに
日焼けもしていない肌は
キャンパスよりも白く見えた

この辺では見かけたことない子だった

こんなにあついのに
窓を開けている
向こうにもエアコンついていないのかな?
でも、汗一つ見えない

彼女がこちらの方を向く
ぼんやりと間抜け顔で見ていたことがバレてしまうのが恥ずかしくて
一瞬、隠れようとしたけど
それもまた
より恥ずかしく思えたから
俺は不自然な動きで・・・
その後、固まった

彼女は、窓の方へ寄って

「こんにちは」

俺に話しかけた
俺は姿勢を正し

「こんにちは」

普通の挨拶を交わした
彼女は、自分の口元を指さして

「お口のまわりに
何かついてる」

俺は、自分の口に手で触れると
さっきまで食べていたアイスクリームがべっとりついていることに気が付き
慌ててシャツで拭いた

彼女は、それを見て
クスクスと笑った

レースのカーテンが風に揺れた
俺の瞳は
スローモーションのように
情景を映す
その笑顔が強い日差しに反射して
キラキラと美しすぎて
俺は、彼女に心を奪われた

恋をした





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