僕と君

成瀬 慶

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水割りをください

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奏は俺の直ぐ近くで
じっと見つめる

「奏・・・何言ってるのかよく分からないんだけど」愁

奏では少しむくれて

「隠してるの?
今更、隠さないでよ
あの子の事」奏

誰の事を言っているのか?
奏は何を言っているのか?

「誰のこと?」愁

すると奏は俺を睨みつけ

「唯香さんの事!!」奏

あっそうか
あの時
奏は唯香の事を誤解してたんだ
試合に負けて
俺が泣いているのを
唯香が慰めてくれた時の事を
奏では友情ではなく
恋愛関係だと誤解しているんだ
そうか
俺があの時
ちゃんと話してなかったから
話さないまま
会わなくなったから

「唯香は幼馴染だよ
マネージャーだし親友
あの時は試合に負けて
あいつが慰めてくれただけで
そういう関係ではないよ
ちゃんと言えてなかったね
ごめん」愁

奏では頬を膨らませて

「違う
その後
付き合ったでしょ?」奏

えっ?何で?

「だから・・・友達だって」愁

俺は少しむきになる
唯香は友達なのに
奏が変なこと言うから…

「ウソ!!
絶対にいい感じになったでしょ?」奏

どうして?
そう思う奏が分からない

「えっ?そんなわけないよ
あいつ・・・あの後
幸助と付き合ったし」愁

奏はにこりと笑って
態度を変える

「そうなの?
私、てっきり私と別れた後
彼女と・・・って思ってた」奏

ニヤニヤする
奏の表情に少しひく

「どうして?」愁

奏は肩を揺らしながら
笑いをこらえる

「彼女、あきらめたのね
へ~そうなんだ
幸助君と付き合ったんだ・・・へ~」奏

奏は何かを思いながら笑う

「何だよ?」愁

不愉快

「愁くんが鈍感で良かった!!」奏

バカにされてる?

「何だよ!教えろよ」愁

俺はなんだか
からかわれているようで
少し怒る

「彼女にだけは取られたくなかったのよね
私、初めて会ったときから嫌いだったから!!」奏

奏は冷たい表情になり
目の前にある牛肉をパクリとほおばって言った
そんなに唯香の事
そんなに嫌うほど知らないだろ?

俺はむっとした

「彼女、愁くんの事
好きだったよね」奏

奏の今まで見たことも無い悪い顔
美人だから怖さが増すな・・・
しかし
俺は奏の言う事に理解できなくて
聞きなおす

「は?」愁

奏は勝ち誇ったような表情で話し始めた

「言えなかったのね
あなたとの関係が崩れてしまいそうで・・・
はじめて会った時、覚えてる
私が直輝君とパンケーキを食べに行って
送ってもらってた時に
たまたま会ったよね
その時に感じたの
女の勘
そして
あなたと彼女が抱き合っている姿を見て
私は確信した
だからものすごく嫉妬して
悔しくて
こんな事はじめてだったから
彼女に会いに行ったの」奏

えっ?
奏と唯香
二人で会ったりしたなんて聞いたことない
俺の知らない間に会ったんだ・・・

「彼女は毅然とした態度で
おんなじこと言ってた

”愁とは友達だから”

って
私が感情的に泣きながら責めたけど
なだめるようにそう言われて
相手にされていない気がして
それがまた悔しくて・・・
揺さぶってみた

”あなたが不安にさせるから私は他の人の優しさに甘えたくなる”

って
そしたら急に怖い顔になって

”愁は、あなたの事が好きだから傷つけるようなことはしないで”

って言われた
その時の顔を見て
やっぱり好きなんだ・・・って思った

だけどあれね
残念ね
ずっと近くに居たのに
ず~っと見ていたのに
全く気持ちが届かないんだもんね
哀れね」奏

奏での言う事が良く分からなかった
唯香が俺を?ありえない
奏の話を聞いても
ピンとこなかった

だけど
奏が唯香の事を”哀れ”だと言った時
唯香の顔が浮かんだ

いつもいた
遊んでいた時も
勉強した時も
サッカーした時も
勝った時も
負けた時も
奏に恋をしていた時も
失恋した時も

そばにいてくれた

俺・・・気が付かなかった
当たり前すぎて
唯香がそばにいることは
俺にとって普通の事になりすぎていた

「奏の勘違いだろ?」愁

そう言ってみたけど
俺は俺の気持ちの中の唯香に気が付き始めてしまった
俺は奏から目をそらす
奏はニタニタして

「よかった
めでたしめでたし
私、それが気になっていたの
あ~すっきりした」奏

奏はニコニコご満悦だった
なんだか
嫌な奴に見えた

百年の恋も
冷めるよ
そんな顔されたら…

奏への
さっきまでの下心は
あっけなく引っ込んだ

俺は時計を見る

もう出なきゃ
幸助との約束の時間36分まえだ

「えっ?今日帰るの?」奏

俺は奏の肩にカーディガンをかけて

「久しぶりに会えて
楽しかった
あの時では聞けない話ばかりで
かなり驚いたけど・・・

じゃ、またね」愁

そう言って伝票を取った

奏は不満そうな顔

「普通帰る?
私、そんなに魅力ない?」奏

涙ぐむ奏は
まるで昔の
俺が好きだった時の
俺が勝手に彼女に描いていた可憐な彼女の様で
全部、聞いた俺にとっては
滑稽にも思える

でも可愛い人だと思う

俺は一度、立ち上がっていたけど
もう一度しゃがんで
奏に視線を合わせた

「奏は綺麗だよ
昔も今も
だからもっと
自分の事大切にしなきゃ
俺の初恋の人なんだから…
飲みすぎるなよ!!」愁

上目遣いの奏をしっかり見て
言うと
奏は目を逸らして
小さくため息をつく

「ウソウソ
愁くんの困った顔見たかっただけ
私、もう少し飲んで帰るから

伝票置いてって」奏

そう言って俺に背中を向けてグラスの酒をグッと飲み干す

「水割りをください」奏

その声を聞きながら俺は彼女を一人
そこに残し
幸助の待つ店へ向かった

振り返らない

俺はもう
あの頃の
俺の描いた初恋には・・・

そう思った





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