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腹ペコ魔法使いの昼食
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家から持ってきた食料はいつもと違って今日の朝食の残りのパン。
しかも白パンだ。普段はライ麦パンだし、家族が食べ終わった残りを貰うので、そもそもパンが無いことも多い。
ただ最近は辺境伯が滞在していて、おもてなしのために貴重な小麦を慌てて製粉して小麦粉を作った。
白パンなんてお祝いの時にしか焼かないから姉さんたちとエイギットが材料を集めるのに苦労していたな。
辺境伯がどのくらい食べるかわからないから多めに焼いておいた白パンは少しだけ余り、それを兄さんや父さん達がお昼ご飯として持って行った。
だから俺の分は無いだろうと思っていたらエレナ姉さんがこっそり取っておいてくれたのだ。
「みんなには内緒よ。ウォル。」
布に包まれた白パンを俺に渡しながら姉さんはいたずらっぽく笑った。
「ありがとう、姉さん。何か森で採って来るよ。何がいいかな。」
「無事にあなたが帰ってきてくれればいいのよ。……でもそうね、できれば何か果物があったら採って来てくれる?」
「わかった。探してみるよ。」
というわけで俺は今日姉さんのために果物を探す仕事がある。お昼を食べたら午後は狩りと果物採集だ。探索する範囲が広いからお昼はしっかり食べないと。
作業台の上にパンの包みと、ついでに持って来たヤギのチーズとナイフも置いて小屋の片隅にある木箱を開ける。
中にあるのは秋に作ったエレックのあばらの燻製肉と川魚の干物だ。小さな壺の中には塩の塊がいくつか入っている。もう一つの壺にはエレックの脂が半分ぐらい入っていた。
「野菜がないな……。ああ、そうだ。確か小屋の後ろに……。」
小屋の後ろには細長い葉の植物がさわさわと風にあおられて揺れている。この植物はビルノと言って球根はネギのような味がするので玉ねぎ代わりによく使っている。球根が食べられるのはちょうどこの時期で貴重な食料だ。
細長い葉の部分を掴んでちぎらないようにゆっくり引き抜く。すぽん、と抜けた球根は大体親指の先ぐらいの大きさだけど丸々としていておいしそうだ。
これもたくさん集めて酢漬けにするとシャクシャクとした食感が楽しい、美味しいピクルスになる。
付け合わせとしても使えるし刻んで何かと混ぜてソースにしても美味しい。このソースは脂身が多い肉料理によく使われている。お土産用に多めに採って帰ろう。
ビルノを両手でつかめるくらいにまとめて束にする。3束ほどのビルノを抱えて小屋に戻った。
10個くらいのビルノを洗って皮を剥き、細かく刻む。竈に火を入れて、ちょうどよく当たるように位置を調整した深めの鍋にエレックの脂を匙ですくって落とす。
白っぽい脂がゆっくりと溶けていって鍋底を滑るように動いていく。
脂が完全に溶けるように塊を木べらでつつき、脂が完全に溶けたらそこへ刻んだビルノを入れた。
しゅわわ、とビルノについていた水分と温められた脂がはじける音がする。ビルノが半透明になるくらいに炒めたら、壁にかけてある乾燥したハーブの束から臭み消しのハーブをいくつか取って枝から扱いて粉にする。
壺から塩の塊を取り出してナイフで必要な分だけ削ったらさっきのハーブの粉と一緒に鍋の中に入れた。調味料が入った鍋の中はこれだけでもおいしそうな匂いでいっぱいだ。
焦げ付かないように少し火から遠ざけるように鍋を動かしたら今度はエレックのあばら骨燻製肉を作業台に置いた。
あばら骨のを切り離すように骨と骨の間にナイフを入れて一本一本切り分けていく。
10本くらいのあばら骨を鍋の中に入れて一緒に軽く炒めたら、汲んできた水を鍋の8割くらいまで注いで、後は燻製肉が柔らかくなるまでじっくり煮込んだら完成だ。
鍋はそのまま置いておくとして、今度はパンに一工夫しておこう。取り出した白パンはほんの少しだけ固くなっているけど十分柔らかい。
このまま食べたって美味しいけど今日はヤギのチーズがあるからこれを乗せて軽くパンを炙ろう。今炙ってしまうとせっかくとろけたチーズが固くなってしまうからパンとチーズは切って乗せておくだけにして準備万端だ。
「よし、完成!」
煮込んでいる間は冬の間に痛んだ小屋の修理と点検をしていた。やっぱり雪の重みで少し扉の枠が歪んでしまっていたみたいだからもう少し温かくなって来たら修理をしよう。
さっそく熱々の鍋から深皿にスープをよそう。この深皿も自分で作った特別製だ。白樺のこぶの中でも一番大きなものを一冬かけて丁寧に削り出した大容量のスープ皿。
スープは表面を覆う脂がきらきらと光り、熱が通ってふくらんだハーブの香りが鼻を抜けていく。一緒に取り分けたあばら骨の燻製肉はじっくり煮込まれたおかげかトロトロで、今にも骨から滑り落ちてしまいそうだ。
ワクワクしながら皿をテーブルの上に置き、さっき用意しておいたチーズ乗せパンを炙りに行く。鍋をかけていた竈の火はまだ落としていないし、チーズを炙るにはちょうどいい熱になっている。
木の串に刺したパンとチーズが落ちないように、ゆっくりと回転させながら火の熱が全体に回るように炙っていく。
パンの上に乗せられたチーズが少しずつ輪郭を和らげていき、ゆるゆるとパンの上に広がっていく。パンの断面がじわじわときつね色に姿を変え、ふつふつととろけたチーズにカリカリの美味しい黒点が出来たら炙りチーズパンは完成だ。
いそいそとテーブルに戻り、パンを並べればお腹の音が待ちきれないとばかりにぐるるると鳴った。
「今日の恵みに感謝します。……よし、食べよう!」
食前のお祈りは自分しかいないことだし省略してスープとパンが冷めないうちに早速食べることにする。まずはあばら骨のスープからだ。
スプーンですくって一口。美味しい!
エレックの脂のコクと燻製肉から出た旨みたっぷりの出汁が口の中いっぱいに広がる。
みじん切りにしたビルノも熱が加わって甘くなっているけどわずかにシャキシャキとした食感が残っていて最高だ。スープだけでも美味しくて半分ぐらい夢中になりながら飲む。
「危ない、パンがあったんだった。」
スープに夢中になって忘れてしまうところだった。一度スプーンを置いて炙りチーズパンに手を伸ばす。パンはまだ温かく、チーズもかぶりつくのにちょうどいい温度になっている。
「あつっ!」
油断してかぶりついたらチーズの表面は少し冷めていたけど中のチーズがまだトロトロで上顎をやけどしてしまった。でもこれも美味しい!カリカリのパンに少し塩気の強いチーズがよく合っている。
「んー、でも何かもう少し刺激が欲しいな……。胡椒かな?いやさっぱりしたいから森リンゴのスライスなんかを挟んだらもっと美味しくなりそう!」
とろとろチーズにかりかりパン、そこへしゃくしゃくの森リンゴはきっとよく合うに違いない。森リンゴの季節になったら試してみよう。
炙りチーズパンを何枚か食べた後いよいよメインに取り掛かる。ほろほろに煮込まれたあばら骨の燻製肉部分を食べよう。
スプーンでこそげないか軽く骨を押さえて骨から肉を外すようにスプーンを動かす。すると何の抵抗もなく燻製肉は骨からするん、と外れた。
「すごく柔らかくなってる!うーん……ビルノのおかげかな?」
取り分けたあばら骨全てから肉の部分を取り外して食べやすくする。骨は竈の中に入れて薪の代わりに焼いてしまおう。
骨の処理も終わってやっとお肉にありつける。ぷるぷるの脂部分とほろほろ崩れる赤身肉の部分の一番バランスがいい場所を掬い上げる。
パクッと一口お肉を口に入れると口の中は旨みの大洪水だった。燻製されて臭みが完全に無くなった甘い脂に肉の繊維一つ一つにたっぷりと含まれたスープの旨み。赤身肉の部分は噛めば噛むほどじゅわじゅわと肉のうまさが溢れてくる。
さっきのスープだけでも十分に美味しかったけど燻製肉はそれ以上だった。気が付けばすっかりスープもお肉も飲み干していて空っぽだ。
「あー、美味しい。」
思わず幸せなため息が出てしまう。スープは飲み干したけどまだまだ大鍋の中にたっぷりと残っている。残りのスープとお肉のことを考えながら俺はニコニコでおかわりをよそいに竈へ向かった。
しかも白パンだ。普段はライ麦パンだし、家族が食べ終わった残りを貰うので、そもそもパンが無いことも多い。
ただ最近は辺境伯が滞在していて、おもてなしのために貴重な小麦を慌てて製粉して小麦粉を作った。
白パンなんてお祝いの時にしか焼かないから姉さんたちとエイギットが材料を集めるのに苦労していたな。
辺境伯がどのくらい食べるかわからないから多めに焼いておいた白パンは少しだけ余り、それを兄さんや父さん達がお昼ご飯として持って行った。
だから俺の分は無いだろうと思っていたらエレナ姉さんがこっそり取っておいてくれたのだ。
「みんなには内緒よ。ウォル。」
布に包まれた白パンを俺に渡しながら姉さんはいたずらっぽく笑った。
「ありがとう、姉さん。何か森で採って来るよ。何がいいかな。」
「無事にあなたが帰ってきてくれればいいのよ。……でもそうね、できれば何か果物があったら採って来てくれる?」
「わかった。探してみるよ。」
というわけで俺は今日姉さんのために果物を探す仕事がある。お昼を食べたら午後は狩りと果物採集だ。探索する範囲が広いからお昼はしっかり食べないと。
作業台の上にパンの包みと、ついでに持って来たヤギのチーズとナイフも置いて小屋の片隅にある木箱を開ける。
中にあるのは秋に作ったエレックのあばらの燻製肉と川魚の干物だ。小さな壺の中には塩の塊がいくつか入っている。もう一つの壺にはエレックの脂が半分ぐらい入っていた。
「野菜がないな……。ああ、そうだ。確か小屋の後ろに……。」
小屋の後ろには細長い葉の植物がさわさわと風にあおられて揺れている。この植物はビルノと言って球根はネギのような味がするので玉ねぎ代わりによく使っている。球根が食べられるのはちょうどこの時期で貴重な食料だ。
細長い葉の部分を掴んでちぎらないようにゆっくり引き抜く。すぽん、と抜けた球根は大体親指の先ぐらいの大きさだけど丸々としていておいしそうだ。
これもたくさん集めて酢漬けにするとシャクシャクとした食感が楽しい、美味しいピクルスになる。
付け合わせとしても使えるし刻んで何かと混ぜてソースにしても美味しい。このソースは脂身が多い肉料理によく使われている。お土産用に多めに採って帰ろう。
ビルノを両手でつかめるくらいにまとめて束にする。3束ほどのビルノを抱えて小屋に戻った。
10個くらいのビルノを洗って皮を剥き、細かく刻む。竈に火を入れて、ちょうどよく当たるように位置を調整した深めの鍋にエレックの脂を匙ですくって落とす。
白っぽい脂がゆっくりと溶けていって鍋底を滑るように動いていく。
脂が完全に溶けるように塊を木べらでつつき、脂が完全に溶けたらそこへ刻んだビルノを入れた。
しゅわわ、とビルノについていた水分と温められた脂がはじける音がする。ビルノが半透明になるくらいに炒めたら、壁にかけてある乾燥したハーブの束から臭み消しのハーブをいくつか取って枝から扱いて粉にする。
壺から塩の塊を取り出してナイフで必要な分だけ削ったらさっきのハーブの粉と一緒に鍋の中に入れた。調味料が入った鍋の中はこれだけでもおいしそうな匂いでいっぱいだ。
焦げ付かないように少し火から遠ざけるように鍋を動かしたら今度はエレックのあばら骨燻製肉を作業台に置いた。
あばら骨のを切り離すように骨と骨の間にナイフを入れて一本一本切り分けていく。
10本くらいのあばら骨を鍋の中に入れて一緒に軽く炒めたら、汲んできた水を鍋の8割くらいまで注いで、後は燻製肉が柔らかくなるまでじっくり煮込んだら完成だ。
鍋はそのまま置いておくとして、今度はパンに一工夫しておこう。取り出した白パンはほんの少しだけ固くなっているけど十分柔らかい。
このまま食べたって美味しいけど今日はヤギのチーズがあるからこれを乗せて軽くパンを炙ろう。今炙ってしまうとせっかくとろけたチーズが固くなってしまうからパンとチーズは切って乗せておくだけにして準備万端だ。
「よし、完成!」
煮込んでいる間は冬の間に痛んだ小屋の修理と点検をしていた。やっぱり雪の重みで少し扉の枠が歪んでしまっていたみたいだからもう少し温かくなって来たら修理をしよう。
さっそく熱々の鍋から深皿にスープをよそう。この深皿も自分で作った特別製だ。白樺のこぶの中でも一番大きなものを一冬かけて丁寧に削り出した大容量のスープ皿。
スープは表面を覆う脂がきらきらと光り、熱が通ってふくらんだハーブの香りが鼻を抜けていく。一緒に取り分けたあばら骨の燻製肉はじっくり煮込まれたおかげかトロトロで、今にも骨から滑り落ちてしまいそうだ。
ワクワクしながら皿をテーブルの上に置き、さっき用意しておいたチーズ乗せパンを炙りに行く。鍋をかけていた竈の火はまだ落としていないし、チーズを炙るにはちょうどいい熱になっている。
木の串に刺したパンとチーズが落ちないように、ゆっくりと回転させながら火の熱が全体に回るように炙っていく。
パンの上に乗せられたチーズが少しずつ輪郭を和らげていき、ゆるゆるとパンの上に広がっていく。パンの断面がじわじわときつね色に姿を変え、ふつふつととろけたチーズにカリカリの美味しい黒点が出来たら炙りチーズパンは完成だ。
いそいそとテーブルに戻り、パンを並べればお腹の音が待ちきれないとばかりにぐるるると鳴った。
「今日の恵みに感謝します。……よし、食べよう!」
食前のお祈りは自分しかいないことだし省略してスープとパンが冷めないうちに早速食べることにする。まずはあばら骨のスープからだ。
スプーンですくって一口。美味しい!
エレックの脂のコクと燻製肉から出た旨みたっぷりの出汁が口の中いっぱいに広がる。
みじん切りにしたビルノも熱が加わって甘くなっているけどわずかにシャキシャキとした食感が残っていて最高だ。スープだけでも美味しくて半分ぐらい夢中になりながら飲む。
「危ない、パンがあったんだった。」
スープに夢中になって忘れてしまうところだった。一度スプーンを置いて炙りチーズパンに手を伸ばす。パンはまだ温かく、チーズもかぶりつくのにちょうどいい温度になっている。
「あつっ!」
油断してかぶりついたらチーズの表面は少し冷めていたけど中のチーズがまだトロトロで上顎をやけどしてしまった。でもこれも美味しい!カリカリのパンに少し塩気の強いチーズがよく合っている。
「んー、でも何かもう少し刺激が欲しいな……。胡椒かな?いやさっぱりしたいから森リンゴのスライスなんかを挟んだらもっと美味しくなりそう!」
とろとろチーズにかりかりパン、そこへしゃくしゃくの森リンゴはきっとよく合うに違いない。森リンゴの季節になったら試してみよう。
炙りチーズパンを何枚か食べた後いよいよメインに取り掛かる。ほろほろに煮込まれたあばら骨の燻製肉部分を食べよう。
スプーンでこそげないか軽く骨を押さえて骨から肉を外すようにスプーンを動かす。すると何の抵抗もなく燻製肉は骨からするん、と外れた。
「すごく柔らかくなってる!うーん……ビルノのおかげかな?」
取り分けたあばら骨全てから肉の部分を取り外して食べやすくする。骨は竈の中に入れて薪の代わりに焼いてしまおう。
骨の処理も終わってやっとお肉にありつける。ぷるぷるの脂部分とほろほろ崩れる赤身肉の部分の一番バランスがいい場所を掬い上げる。
パクッと一口お肉を口に入れると口の中は旨みの大洪水だった。燻製されて臭みが完全に無くなった甘い脂に肉の繊維一つ一つにたっぷりと含まれたスープの旨み。赤身肉の部分は噛めば噛むほどじゅわじゅわと肉のうまさが溢れてくる。
さっきのスープだけでも十分に美味しかったけど燻製肉はそれ以上だった。気が付けばすっかりスープもお肉も飲み干していて空っぽだ。
「あー、美味しい。」
思わず幸せなため息が出てしまう。スープは飲み干したけどまだまだ大鍋の中にたっぷりと残っている。残りのスープとお肉のことを考えながら俺はニコニコでおかわりをよそいに竈へ向かった。
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