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05-Chorus
088話-羽の噛み心地
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固唾を呑んでアイリスの魔技の成功を祈る俺たち。
数秒、数十秒が経過し、アイリスは「ふぅ」とため息をつきぐったりと肩の力を抜いた。
「アイリス……どうなった?」
「とりあえず成功したわ……けれど……ユキ」
成功したという嬉しい報告なのに深刻そうな表情のままのアイリス。
「……どうしたの?」
「いま、二つ壊れたわ。たぶん一つは『森の記憶』。これはたぶんゆっくりと効果が切れていくからそのうちみんな思い出すと思う」
「そうか……良かった……。それで二つ壊れたっていうのは?」
「もう一つこの子には精霊魔法がかかっていたわ……自分でかけたような痕跡だったけれど……心当たりある?」
「――っ!?」
俺がアイリスの説明を聞き一つのことに思い当たってしまった。
それはエイミーの情報を知ってから色々と推測していたことの一つ。
その精霊魔法が「エイミーが自分で自分にかけた」というのならいくつかの推測のうち一つが事実だということだ。
だが、そんな事を考えている時、不意にリーチェとアイナが驚いた表情を浮かべた。
「エ、エイミー!」
「エイミーだ! 思い出せた……よかったぁ、良かったよぉ……」
そしてケレスもクルジュも、他のみんなも次々とエイミーの事を思い出せたようで、未だに眠ったままのエイミーを取り囲んでいる。
エイミーは薬で眠らされているらしくもうしばらくは目を覚さないといつのがアイリスの診断。
ともあれ、これで一安心であることは間違いない。
あとはこの男の処分だけなのだが――。
「ミラ、どうすればいい?」
「とりあえず殿下が無事と確認されるまでは生かしておきましょう。その後は殿下の望む通りに」
「ねーねー、ミラさん? だっけ? その殿下って誰のこと?」
アイナがいつのまにか俺の隣にいて、ミラとの会話を聞かれていた。
むしろリーチェにはずっと聞かれていたと思うが……もはや今更である。
「……んー」
俺は一瞬ごまかそうかと思ったが、俺の予想通りならもはやその必要はないだろう。
何より俺たちは仲間だ。
変に隠し事するよりも悩みを共有して皆で乗り越えていければいいと思う。
「エイミーは森人族の国の王女様だってこと」
「その通りです。殿下は戦火の混乱が続く中、自ら囮となり森へと入ってその後行方不明となっておりました。私や家族もずっと殿下のことを探しておりました」
「そうなんだ……エイミー、綺麗だと思ってたけど本当にお姫様だったんだね」
アイナは驚きこそしたが、特にいつもと変わらない様子でエイミーのことを受け入れる。
むしろエイミーの昔が判明したことを喜んでいるようで、しっぽがフリフリと動いていた。
「ミラ、このアイナがエイミーを最初に見つけてくれたんだって」
「そうですか……改めてお礼を申し上げます」
「いえ……それでエイミーは……その、これからどうなるんですか?」
そして一転してアイナが不安そうな声でミラに質問する。
それはそうだろう。
記憶喪失の彼女を保護し、行くところがないため一緒に旅をしていたのだ。
帰る場所はもう無いかもしれないが、王女という立場が判明した今、この先も一緒に旅をするとはいかないだろう。
「それは、殿下のご判断にお任せいたします。我々は殿下のお言葉に従うまでです」
だが、ミラははっきりとアイナへ伝える。
全てはエイミーが決めればいい。
そういうミラに改めてお礼を伝え、まだ目を覚さないエイミー連れて全員で『部屋』へと移動したのだった。
――――――――――――――――――――
「ユキ様、あの男だけ見えないところに隔離するということは難しいでしょうか?」
ミラが『部屋』の隅に気絶させて転がしてある犯人の男について文句を言ってくる。
俺もこのだだっ広い体育館のような部屋を分けることができないから試行錯誤中なのだが……。
仕方ないので、上からでかい布をかぶせて荷物のように見せかけておくことにした。
「それよりエイミーはまだ目が覚めない?」
この『部屋』に全員を入れ、俺一人で宿の部屋に戻ったあと再び『部屋』へ戻ったのだがまだエイミーは目を覚さず眠ったままだったのだ。
だがアイリスとミラどちらの見立ても、睡眠薬のようなもので一日寝れば普通に起きるというので俺たちは待つしかできないが、まずは一安心だ。
エイミーの記憶のこともあるが、たとえどうなってもエイミーが元気で幸せならそれでいい。
エイミーが寝かされているのはお城で泊まったときのようなベッド。
その下には上等なカーペットが敷かれ、クローゼットやテーブルなど寝室に必要なもののほか、衝立も用意されており『部屋』の一角が豪華な寝室のように様変わりしていた。
マーガレットさんは先に城へと戻ってもらっている。
アイリスにハンナとヘレスは宿の方で勉強……というかそろそろ寝る時間だそうでサイラスと共に外へ戻って行った。
そのサイラスは念のため明日の公演の用意をしてくれるそうだ。
他のメンバーはソファーに座ったりベッドサイドでエイミーが目覚めるのをまっている状態だ。
「飲み物などだせれば便利なのですけれど……これだけでも十分ですね。ユキ様は本当に便利な魔技をお持ちで、感服いたします」
ミラさんはエイミーのこととなると目の色が変わるようで、この寝具一式やら家具は全て城から持ってきた。
なんでも直接王様に交渉してもらってきたらしい。
「殿下にエイミー様のことは伝えておりませんのでご安心ください」
一体どういう事情を話せば寝室セット一式を手に入れられるのか非常に気になる。
気になるといえばアイナだ。
エイミーの事を忘れてしまっていた自分へのショックが今頃やってきたのか、あんなにも艶々だった尻尾がすっかりぼろぼろになって、耳がずっとペタンと垂れ下がってしまっている。
クルジュとケレスが一生懸命おやつを与えて餌付けをしているが、あまり効果が出ていない気がする。
俺はというと、手緒を見ながらそこに追加されていたマーガレットさんの探索系の魔技を眺める。
(これがあれば殿下の依頼は案外楽かもしれない……名前も格好いいしこのままでいいかな)
その次に記載されている、今回の犯人が使っていた魔技。
対象の存在を限界まで薄めるというものだ。
そしてアイリスの魔技。
これは対象に掛けられた魔法を消去する事ができるが失敗すると何故か幼児化してしまうという意味不明のものだ。
どちらも使う機会が無さそうだが、これは後でゆっくりと考えよう。
そして、ヴァルの魔術が記載されていた次のページには精霊魔法が二つ追加されていたのだった。
一つは対象の存在を忘れさせる『森の記憶』。
それから魔法に対しての耐性魔法の『樹木の姉妹』で、これはミラが使っていたものだ。
ぶっちゃけ、エイミーが消えたときこの手帳を確認すればもっと話が早かったのかと思うと少し後悔する。
(これも俺には使う機会が無さそうだな……耐性魔法は使えたら嬉しいけど)
精霊魔法も魔術と同じで効果が分解されるようで、中指でクリックすると魔術と同じようなメニューが現れた。
(エリアを指定して耐性魔法とか回復魔法とか使えないかな……)
そんな事を考えているところにちょうどヴァルがやってきた。
「ねぇねぇ、ユキユキ」
「……なんか軽いな。どうした?」
「あの男が狙ってたっていうミラさんだっけ? エイミーちゃんもそうだけどさー」
「…………ヴァル待って、それ以上言うとその羽に噛みつくよ」
「犯人がどっちを拐っても意味なかったって言うオチ?」
「……………………」
「――にぃぎゃぁぁぁぁっっ!!」
宣言通りヴァルの頭に生えている羽根にパクっと噛み付いておいた。
とりあえず誰にも聞かれていないのは幸いだったが、ミラあたりに聞かれてしまうと非常にまずい気がする。
ヴァルとエイミー……ミラ本人にも色々と一人ずつ口止めをしなければいけない。
「ユキ、どうしたの? なんだかすっごい声が聞こえたけど」
「リーチェごめん、ヴァルが変なこと言い出したからさ」
「うぅ……ひどい目にあった」
「んん…………なぁにぃ……どうしたの~……」
「――!!」
「エイミーっ! よかったぁー目が覚めて……エイミー私のこと解る?」
「エイミーやっとおきたーっ! もう寝坊しすぎだよぉ~」
ヴァルの声に反応したのかずっと眠っていたエイミーが目を覚まし、ベッドの近くにいたアイナやリーチェが抱き合って喜ぶ。
「エイミー!!」
「きゃっ!? あれ? ユキ?」
俺もエイミーが寝ているベッドへ駆け寄ると、上半身を起こしたエイミーへと抱きつき勢い余ってそのままベッドへ押し倒してしまった。
数秒、数十秒が経過し、アイリスは「ふぅ」とため息をつきぐったりと肩の力を抜いた。
「アイリス……どうなった?」
「とりあえず成功したわ……けれど……ユキ」
成功したという嬉しい報告なのに深刻そうな表情のままのアイリス。
「……どうしたの?」
「いま、二つ壊れたわ。たぶん一つは『森の記憶』。これはたぶんゆっくりと効果が切れていくからそのうちみんな思い出すと思う」
「そうか……良かった……。それで二つ壊れたっていうのは?」
「もう一つこの子には精霊魔法がかかっていたわ……自分でかけたような痕跡だったけれど……心当たりある?」
「――っ!?」
俺がアイリスの説明を聞き一つのことに思い当たってしまった。
それはエイミーの情報を知ってから色々と推測していたことの一つ。
その精霊魔法が「エイミーが自分で自分にかけた」というのならいくつかの推測のうち一つが事実だということだ。
だが、そんな事を考えている時、不意にリーチェとアイナが驚いた表情を浮かべた。
「エ、エイミー!」
「エイミーだ! 思い出せた……よかったぁ、良かったよぉ……」
そしてケレスもクルジュも、他のみんなも次々とエイミーの事を思い出せたようで、未だに眠ったままのエイミーを取り囲んでいる。
エイミーは薬で眠らされているらしくもうしばらくは目を覚さないといつのがアイリスの診断。
ともあれ、これで一安心であることは間違いない。
あとはこの男の処分だけなのだが――。
「ミラ、どうすればいい?」
「とりあえず殿下が無事と確認されるまでは生かしておきましょう。その後は殿下の望む通りに」
「ねーねー、ミラさん? だっけ? その殿下って誰のこと?」
アイナがいつのまにか俺の隣にいて、ミラとの会話を聞かれていた。
むしろリーチェにはずっと聞かれていたと思うが……もはや今更である。
「……んー」
俺は一瞬ごまかそうかと思ったが、俺の予想通りならもはやその必要はないだろう。
何より俺たちは仲間だ。
変に隠し事するよりも悩みを共有して皆で乗り越えていければいいと思う。
「エイミーは森人族の国の王女様だってこと」
「その通りです。殿下は戦火の混乱が続く中、自ら囮となり森へと入ってその後行方不明となっておりました。私や家族もずっと殿下のことを探しておりました」
「そうなんだ……エイミー、綺麗だと思ってたけど本当にお姫様だったんだね」
アイナは驚きこそしたが、特にいつもと変わらない様子でエイミーのことを受け入れる。
むしろエイミーの昔が判明したことを喜んでいるようで、しっぽがフリフリと動いていた。
「ミラ、このアイナがエイミーを最初に見つけてくれたんだって」
「そうですか……改めてお礼を申し上げます」
「いえ……それでエイミーは……その、これからどうなるんですか?」
そして一転してアイナが不安そうな声でミラに質問する。
それはそうだろう。
記憶喪失の彼女を保護し、行くところがないため一緒に旅をしていたのだ。
帰る場所はもう無いかもしれないが、王女という立場が判明した今、この先も一緒に旅をするとはいかないだろう。
「それは、殿下のご判断にお任せいたします。我々は殿下のお言葉に従うまでです」
だが、ミラははっきりとアイナへ伝える。
全てはエイミーが決めればいい。
そういうミラに改めてお礼を伝え、まだ目を覚さないエイミー連れて全員で『部屋』へと移動したのだった。
――――――――――――――――――――
「ユキ様、あの男だけ見えないところに隔離するということは難しいでしょうか?」
ミラが『部屋』の隅に気絶させて転がしてある犯人の男について文句を言ってくる。
俺もこのだだっ広い体育館のような部屋を分けることができないから試行錯誤中なのだが……。
仕方ないので、上からでかい布をかぶせて荷物のように見せかけておくことにした。
「それよりエイミーはまだ目が覚めない?」
この『部屋』に全員を入れ、俺一人で宿の部屋に戻ったあと再び『部屋』へ戻ったのだがまだエイミーは目を覚さず眠ったままだったのだ。
だがアイリスとミラどちらの見立ても、睡眠薬のようなもので一日寝れば普通に起きるというので俺たちは待つしかできないが、まずは一安心だ。
エイミーの記憶のこともあるが、たとえどうなってもエイミーが元気で幸せならそれでいい。
エイミーが寝かされているのはお城で泊まったときのようなベッド。
その下には上等なカーペットが敷かれ、クローゼットやテーブルなど寝室に必要なもののほか、衝立も用意されており『部屋』の一角が豪華な寝室のように様変わりしていた。
マーガレットさんは先に城へと戻ってもらっている。
アイリスにハンナとヘレスは宿の方で勉強……というかそろそろ寝る時間だそうでサイラスと共に外へ戻って行った。
そのサイラスは念のため明日の公演の用意をしてくれるそうだ。
他のメンバーはソファーに座ったりベッドサイドでエイミーが目覚めるのをまっている状態だ。
「飲み物などだせれば便利なのですけれど……これだけでも十分ですね。ユキ様は本当に便利な魔技をお持ちで、感服いたします」
ミラさんはエイミーのこととなると目の色が変わるようで、この寝具一式やら家具は全て城から持ってきた。
なんでも直接王様に交渉してもらってきたらしい。
「殿下にエイミー様のことは伝えておりませんのでご安心ください」
一体どういう事情を話せば寝室セット一式を手に入れられるのか非常に気になる。
気になるといえばアイナだ。
エイミーの事を忘れてしまっていた自分へのショックが今頃やってきたのか、あんなにも艶々だった尻尾がすっかりぼろぼろになって、耳がずっとペタンと垂れ下がってしまっている。
クルジュとケレスが一生懸命おやつを与えて餌付けをしているが、あまり効果が出ていない気がする。
俺はというと、手緒を見ながらそこに追加されていたマーガレットさんの探索系の魔技を眺める。
(これがあれば殿下の依頼は案外楽かもしれない……名前も格好いいしこのままでいいかな)
その次に記載されている、今回の犯人が使っていた魔技。
対象の存在を限界まで薄めるというものだ。
そしてアイリスの魔技。
これは対象に掛けられた魔法を消去する事ができるが失敗すると何故か幼児化してしまうという意味不明のものだ。
どちらも使う機会が無さそうだが、これは後でゆっくりと考えよう。
そして、ヴァルの魔術が記載されていた次のページには精霊魔法が二つ追加されていたのだった。
一つは対象の存在を忘れさせる『森の記憶』。
それから魔法に対しての耐性魔法の『樹木の姉妹』で、これはミラが使っていたものだ。
ぶっちゃけ、エイミーが消えたときこの手帳を確認すればもっと話が早かったのかと思うと少し後悔する。
(これも俺には使う機会が無さそうだな……耐性魔法は使えたら嬉しいけど)
精霊魔法も魔術と同じで効果が分解されるようで、中指でクリックすると魔術と同じようなメニューが現れた。
(エリアを指定して耐性魔法とか回復魔法とか使えないかな……)
そんな事を考えているところにちょうどヴァルがやってきた。
「ねぇねぇ、ユキユキ」
「……なんか軽いな。どうした?」
「あの男が狙ってたっていうミラさんだっけ? エイミーちゃんもそうだけどさー」
「…………ヴァル待って、それ以上言うとその羽に噛みつくよ」
「犯人がどっちを拐っても意味なかったって言うオチ?」
「……………………」
「――にぃぎゃぁぁぁぁっっ!!」
宣言通りヴァルの頭に生えている羽根にパクっと噛み付いておいた。
とりあえず誰にも聞かれていないのは幸いだったが、ミラあたりに聞かれてしまうと非常にまずい気がする。
ヴァルとエイミー……ミラ本人にも色々と一人ずつ口止めをしなければいけない。
「ユキ、どうしたの? なんだかすっごい声が聞こえたけど」
「リーチェごめん、ヴァルが変なこと言い出したからさ」
「うぅ……ひどい目にあった」
「んん…………なぁにぃ……どうしたの~……」
「――!!」
「エイミーっ! よかったぁー目が覚めて……エイミー私のこと解る?」
「エイミーやっとおきたーっ! もう寝坊しすぎだよぉ~」
ヴァルの声に反応したのかずっと眠っていたエイミーが目を覚まし、ベッドの近くにいたアイナやリーチェが抱き合って喜ぶ。
「エイミー!!」
「きゃっ!? あれ? ユキ?」
俺もエイミーが寝ているベッドへ駆け寄ると、上半身を起こしたエイミーへと抱きつき勢い余ってそのままベッドへ押し倒してしまった。
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