雪の都に華が咲く

八万岬 海

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05-Chorus

079話-手帳の使い方

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 昼飯を食べ終わり、宿の部屋へと集合した俺とアイナ、エイミー、ヴァル。
 リーチェとケレスはまだ戻ってきていない。



「とりあえず、先に始めようか。六華を残しておくから『部屋』行こうか」
「「「はーい」」」

 三人とも良い返事が帰ってきたので、俺は手をかざして三人プラス俺自身を『見世物小屋フリークショー』で覆い、『部屋』へ移動した。
 この魔技、何度か試しているうちに例の臭い腰布を使わずとも手を翳すだけで使えるようになったのだ。


 対象は俺が視線でロックするというかそんなイメージで行けたのだ。
 今、目下練習中なのは『部屋』の分割。
 これができれば怪しい人物の隔離とみんなの練習同時に使えるようになる。


 そんなことを考えているうちに視界が暗転し、一瞬の浮遊感の後、いつもの部屋へとたどり着いた。



「あ、ねぇユキ、練習の前にちょっと」

 先に中に到着していたヴァルが肩を叩いてくる。

「なに? お腹でもすいた?」
「なんでよ! 違うわよ、この間言ってた名前の話!」

「おぉ! あれ? 何かとバーターじゃないの?」
「いいわよ……私を混ぜてくれたからそのお礼……むしろ貰いすぎなんだから」

 ありがたいことに、魔技の名前を変える方法を教えてくれるそうだ。

 俺はヴァルを二人でファーへと移動する。
 アイナとエイミーは今のうちに着替えるらしい。


「ユキ、今度衝立とか欲しいね」
「そ、そうだな……」


 二人とももう少し端に行けば良いのに、恥ずかしがりながらすぐ近くで後ろを向いて着替え始めるアイナとエイミー。
 なるべく見ないようにしようとするのだが、悲しいかなチラチラと視線を向けてしまう。



「えっとそれじゃあ……私の場合なんだけど」
「うん」

「こう、デフォ名で発動させてから発動し終わるまでに変えたい名前を併用するの。それを何度か繰り返して、デフォ名と変更名を入れ換えて発動させて、最後には変えたい方の名前だけで発動できれば成功……てな感じ?」

 ヴァルが早口でやり方を教えてくれるのだが、なんとなく言ってることはわかった。
 魂の系譜ではないが生まれつき使う素質を持っていた魔技を徐々に発動イメージと言葉をすり替えていくのだ。

 だが――俺には無理だ。



「ごめん……俺の場合ちょっと発動方法が違うんだ。こう、手帳のリストをタップすると発動するというか……説明しづらいんだけどそんな感じ」

「はぁ? 手帳? ワンクリで発動するの? なにそれ超便利そう」
「他人からは見えないんだけど……手帳に魔技が書かれてて……そのリストを選択する感じなんだよ。だから魔技の名前を言わなくても発動する」




「でもこの前、口に出して発動してたじゃん」
「そう言われてみれば……?」


 確かに言われてみればそんな気がする。
 あまり意識していなかったが、確かに指摘されて思い返してみると名前を口にするだけで発動させていた。

「でも、リストを選択……? なら右クリックとか長押ししてみれば?」
「そんなPCとかスマホじゃあるまいし……」



 そんなバカなと思いながらも目の前に出したままの手帳のページを開き、よく使う項目を選ぶ。

(……とりあえず『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』かなぁ)

 その名前の横に書かれている『実行』という文字を長押ししてみるが変化はない。

(そもそも右クリック?)

 マウスでもないのに右クリックとか意味がわからないが、なんとなく人差し指ではなく中指でポンと押してみる。

==================================
メニュー
 ・名前変更
 ・削除
 ・結合
==================================

「――うおっ!?」

 まさかとは思ったが、なんと『実行』と書かれた下に浮かび上がるようにメニュー項目ぽいのが表示されたのだった。


「で、でた……名前変更……結合?」

 名前の変更はわかるが、同時に結合というメニューも表示されたのだ。

「おぉっ、すごい……ほんとにできたんだ……」
「あ、ありがとうヴァル……さすが」
「ま、まぁ、半分冗談だったけどうまくいきそうでよかったわ」

 ヴァルが嬉しそうに羽をパタパタさせて「私は歌教えてくるね」と着替えの終わったアイナたちのところに向かって行った。




「ついに名前が変えられるのかぁ……結合も気になる……けど」

 そのまま捉えるなら魔技を二つ組み合わせるという意味なのだろうけど、何も考えずに実行するのは怖い。
 まずは名前だけやってみることにしたのだが、いざ考えてしまうと悩む。

 『収納』とかわかりやすいものは気にならないが……ある意味センスが問われるなぁと手帳とにらめっこしながら手を止めてしまう。

「とりあえず一つ……二つだけやってみよう」

まず、頻度の高い『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』の実行ボタンを中指で押して『名前変更』をタップする。

「……?」

 タップしたもののなにも開かず、反応がない。
 ボタンを押せた感覚はあったのだが……もしかして

「……『収納』」

 まさかとは思いつつ、そう口に出すと手帳に書かれていた『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』という文字が『収納』へと変化した。

「まさかの音声入力……すげぇ」



 タネがわかったところで『天空の偶像カムエル・イドラ』も『飛翔』と変更してみた。

「他は……あの二つかな」

 口に出すのはちょっと恥ずかしい、それでいて即効性が欲しかった『魂の束縛オプリガーディオ』と『愛 のリーベ・ 虜グファン』を『魔封』『洗脳』へと変更した。
 若干、見た目というか厨二病ぽさがないけれど、わかりやすさ重視だから仕方ない。

「次は……『全ては夢の近くアレス・トラオムナーエ』を『転移』に」

 他に『真実ゼールカロの鏡・イースチナ』を『鑑定』に、『小夜鳴オキュラス鳥の瞳・ルスキニア』を『千里眼』へと変更した。
 『千里眼』はちょっとかっこいい系を試しにやってみたかった結果の限界値だった。
 これ以上厨二病臭いのは俺の守備範囲外だ。ヴァルにでも考えてもらおう。

 あとはこの部屋、『見世物小屋フリークショー』という名の魔技はこの真っ白い『部屋』の名前を決めて、その名前にしてしまえばいいやと一旦保留にする。



「ほかは……どうしようかな……」

 ぺらっと一枚ページをめくると、例のヴァルが使っていたよくわからない魔技、もとい魔術のリスト。
 これには実行のボタンが出ていなかったのだが、名前の部分を中指で押してみる。

==================================
メニュー
 ・名称変更
 ・削除
 ・組み替え
==================================

 魔技とは違い、『結合』の部分が『組み替え』と変わっていた。
 ヴァルが「魔術は呪文の組み合わせ」と言っていたので、効果そのものが変わってしまう気がする。

 おそらく一番上が、例のデリンジャーのようなあの武器を出すものだろうか。

「いや違う……こっちだ」

 いつのまにか魔技のページに増えていた永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネがあの銃を出す魔技だ。
 ヴァルのステータスにも魔技の欄にはこの表記があった。

「だめだ、本人に聞かないと怖くて弄れない」

 魔術に関してはヴァルに聞いてみようと思い、いったんこれも保留にする。



「ほかは……」
『リーチェとケレス戻ってきたぞ』

 不意に六華からお声が掛かったので、俺は手帳を消した俺は二人を迎えに行こうと立ち上がったところで、続けて六華から『こっちから送る』と言われた。
 アイナたちに声をかけようとしたところだったのだが、六華のセリフと同じタイミングでリーチェとケレスが目の前に突然現れた。

「あ、今度はユキだーただいま!」
「ユキおまたせー! って、もうアイナたち練習してるし!」

 ケレスとリーチェが元気よくアイナたちの方へと向かっていくのを眺め、俺はもう一度ソファーへどかっと座り直す。



「――『管理の手帳デウス・リベル』」

 俺はもう一度手帳を出す。
 中指でタップすると違うメニューが出るという発見があったせいで、色々といじり倒したくなる。

 今まで、魔技のリストとしてしか見ていなかったのでじっくりとこの手帳を眺めたことがなかった。

 表紙をめくったところは真っ白なページ。
 ここはなにも反応がない。

 そして次のページが魔技のリスト。
 先ほど名前を変更した魔技もちゃんとそのままだ。

「この名前どうしようかな」

 アイナの魔技が一番使っているので『身体強化』とかにしてしまっても良いかもしれないが、少し寂しい気がしたのでこのままにしておこう。
 アイナたちと仲良くなってくると、この魔技がそのまま彼女たちとのつながりに思えてしまう。

 アイナの魔技の名前を指で触れ、アイナを頭を撫でるように魔技の名前を指先で擦った。

==================================
メニュー
 ・複製付与
 ・完全奪取
==================================

「――!?」

 不意に浮かんだ二つのメニューに俺は目を見開き、固まってしまった。
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