雪の都に華が咲く

八万岬 海

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05-Chorus

076話-ミユキという少女

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 ヴァルを落ち着かせてから色々と話を聞いた。
 彼女はこっちの世界で気づいた時は、俺と同じようにすでに今と同じ身なりだったらしい。

 切り立った山頂に建っている朽ちた洋館の地下室だったそうだ。
 もちろんヴァル以外生きているものの気配はなく近くに人が住んでいる様子もないような場所だったらしい。

 自分の状況がわからず誰もおらず、食べるものも飲むものもない。

「それで……私は死んであの世に行く前に寄り道させられたのかなって思って……」

 一週間以上飲まず食わずで辺りを探し回り、自分の体調が何も悪くならないことに気づいたそうだ。



「色々と調べたんだけど、私の一族はもう全員殺されていて……でも特殊な方法でしか死なないみたいでね。放って置いたら数千年ぐらい生きるみたいなの」

 いったい自分がいつ生まれたのかはわからないが、ずっと地下室に封印されていたという書き置きが見つかったそうだ。



「まぁ、誤差みたいなもんだし目が覚めた日が生まれた日ってことにしてるの」
 
 それから自分が立場を認識して、勉強し、色々と納得してから洋館に残されていたお金や、売れそうなものを持ち出して人里におりて人間に紛れて暮らしていたそうだ。
 時折洋館へ戻りこの世界のことを独学で勉強したりもしていたとヴァルはゆっくりと語って聞かせてくれたのだった。


「いろんなところへ行ったわよー海の向こうにある国も行ったし、いろんな人に会って、結構楽しい人生を謳歌してるわよ私。だからそんな悲しそうな顔しないの」

 ヴァルの前向きな性格のせいだろう。
 俺がヴァルと同じ状況だったら果たして正気でいられただろうか。



「あ、でも一度だけ同族に会ったわよ。魔術のこととかはその人に教えてもらったの」

 だがそれも既に数百年前の話らしく、その人は今どこで何をしているのかは知らないそうだ。



「あ、他の大陸で日本へ転生しちゃってから帰ってきた人にもあったわよ」
「……こっちの世界の人?」

「そうそう。戦争で死んで気づいたらこっちの記憶を持ったまま向こうに居たんだって。それで向こうで死んだらまたこっちの世界に戻ってきたらしいよ」
「もしかしてこっちでやたらと文明がおかしいのって」

「うん、その人が色々と持ち帰ってきたんだって。ガラスとか鉄とか作る手法とかね。だって死ぬ前なんて車ぽいの作ってたんだよ、凄くない?」
「じゃあ服とかたまによくわからないセンスがあるのもその影響?」

「服……あー……服ね……」

 俺の質問にヴァルがあからさまに目を逸らす。
 まさかこれは……。

「もしかしてヴァルが?」
「あー……うん。昔、そっち方向で働いてたことがあって……そのせいかも」

 なるほど。
 やたらといろんな服装が融合したようなセンスはヴァルのせいだったらしい。



「まぁ、いろいろあって一年ぐらい前かなぁ……暇つぶしで今の組織に入って今に至るってわけ」

 いろいろあっての部分が随分と大きな割合が占めてそうだが、とりあえずこれで状況はなんとなく理解できた。



「ヴァル、うちもある意味何でも屋だけどさ、いまアイナやエイミー、ケレスに歌を教えてるんだけど一緒にやらない? 今の曲五人組の曲だから、パートがたらなくて」
「……本当にいいの? 私でいいの?」

「もちろん。っていっても、俺作曲の能力とかないからさ、昔担当していたグループの曲なんだけどさ」
「…………もしかして『reaDys』だったりする?」


「え、なんで知って……あぁ、俺より後の時代だから知っているのか」
「わっ、すごい……あのグループの担当プロデューサーが行方不明になったって一時期噂にになったんだよ」


「……死んだんじゃなくて行方不明扱い……なのか?」
「そうそう、行方不明って言ってた」

「あいつらの……ヴァルの知ってる『reaDys』ってどんなグループになってたんだ?」
「確か、初ライブの後しばらく活動してなかったんだけど、私が研修生のときはチャートトップだったよ」

「…………そっか……そうか、よかった」

 担当についたばかりのグループのことが心残りだったのだが、無事にデビューできたと解り肩の荷が下りた気分だった。



「ねぇ、ほかに担当してたグループとかあるの?」
「一応『S’mail Kiss』とか『twilight』とか担当してたけど」

「えっ、マジで? スマキスとか超ファンだったんだけど……てか、スマキスの鏡花ちゃんに憧れてスクールに入ったんだけど!」

 なんだか大興奮のヴァルは頭の羽がすごい速度でパタパタしている。
 アイナやリーチェもそうだが耳の生えている亜人は基本的に感情に連動して耳やらしっぽが動く子が多い。



 ともかくこれでヴァルが予想以上に戦力になるということがわかった。
 ツクモさんにお願いして舞台をするときだけでもヴァルを借りれるように交渉しよう。
 むしろ『荒野の星』からの仕事として依頼してもいいかもしれない。

「いやぁ……ユキ思ってたよりすごい人だったのね……はぁ、久しぶりに懐かしい話しちゃったぁ~」

 俺もヴァルと二人で話をしていると、ここがどこか忘れてしまいそうになる。

「ヴァルのステータスとか見せてもらってもいい?」
「いいよ、私もユキの情報知っているしフェアじゃないもんね」

 俺はヴァルに許可を貰ってから『真実ゼールカロの鏡・イースチナ』を起動した。
 別にヴァルのことを疑っているわけではないのだが、今までかなり謎な行動ばかりをしていたので確認の為だった。
 
(色々とヴァルの数値に興味がないと言えば嘘になる……嘘になるけど)

――――――――――――――――――――
名前:ヴァレンシア・ストリゴアイカ
本名:本条深雪
年齢:717歳
種族:半魔人-血姫ヴァンピール
身体:165cm/105cm/62cm/90cm/赤髪、赤眼
職業:『ルミノックス(暗殺者)』『テラ・メエリタ(魔術師)』
武器:永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネ
魔法:精霊魔法、元素魔法、血魂魔法
魔技:『永遠の終焉を運ぶものアエテルニタフィーネ
魔術:
Încă curgeリバースバレット
Sange rece grindină de gloanțe冷血の弾豪雨
Trandafirul roșu al lui Nosferatuノスフェラトゥの赤薔薇
Sufletul întunecat suge闇の吸魂
称号:暗殺者、狩人、探偵、転生者、真祖
思考:
やばいやばい……まさかユキが知ってるほど有名な人だっただなんて……嬉しすぎる……私もユキと一緒に居たい
――――――――――――――――――――

「なんか、魔術がどえらい厨二病全開なんだけど」
「えぇ……カッコいいじゃん。名前考えるの楽しかったよ?」

 あの『部屋』で口にしていた魔術も鑑定したことで読み方が手帳へと書き込まれた。
 名前だけで効果は解らないが、表示された名称はほとんど……かなり痛々しいものばかりだ。
 武器と魔技が同じ名前だったりするが、『血魂魔法』というのも聞いたことがないものだった。


 
 だが、その時先程ヴァルから飛び出したセリフを思い返した俺はちょっとした衝撃を受けた。



「え? 名前考えたって、魔技の名前って変えられるの?」
「そりゃ変えられるよ? 魔技も……私は一つしか使えなかったけど、魔術も同じだよ。魔力をイメージでふくらませるんだから自分が一番イメージしやすい名前にしたほうがいいよ?」

 なんということだ。
 あれほど何度もややこしくて苦労していた魔技のリストの名前が整理できる可能性が出てきた!
 アイナやクルジュナの魔技は何度も使いすぎたので逆にこの名前じゃないと気になるけれど、適当にコピーした魔技の名前を変えられるならこんなありがたいことはない。

「それどうやるの?」
「ん? んふふ……教えてほしい?」
「教えてほしい」

 俺の腕を掴んでいるヴァルがぎゅっと力を入れて顔を近づけてくる。
 チラリと唇の間から真っ赤な舌先が見え、背中にゾクリとしたものを感じる。

「じゃぁさ……後でまた時間頂戴?」
「うー……わかった」

 何を要求されるのかなんとなくわかってしまったのだが、俺としては切実にその方法を知りたいので仕方なく承諾する。
 ヴァルは満足げな笑みを浮かべると「あっ」と何かに気づいたような声を出す。

「ね、ちなみにさ、ユキのその鑑定系の魔技ってどこまで情報が出るの?」
「…………黙秘します」
「わ、私が知っている高位の鑑定系だと種族名とかまで表示されたりするんだけどさ、まさかそれ以上の情報が出たりしないよね?」

 種族名どころか、スリーサイズや今考えていることまで表示されると言うべきか言わざるべきか。
 正直表示されているヴァルのステータスは種族名から所属組織、称号まで気になる部分だらけだ。



「……もしかしてやばいレベルで情報が筒抜けなのっ? それだったら私もユキのこともっと知りたいんだけど!」
「お互いを知るには時間が必要なんだ深雪ちゃん」
「――なっ!? なっ、なっ……な……そこまで……久しぶりに聞いたわ……びっくりした」

 俺が取れる情報がかなりの量だというのは俺の表情からバレバレだったらしいので、諦めて本名を告げてみると顔を真赤にして顔をそらしてしまうヴァル。
 そもそも俺の情報を知ったところで――あぁそうだ。ヴァルが俺と同じぐらいの情報を知れるとなると、俺の持っている大量の魔技や人に言えない事まで……色々とバレてしまうことになる。



「俺の情報って……知ってるんだろ?」
「あれはユキの血液が私の魔力に触れたからわかっただけの表層だもん。飲ませてくれたらもっとよくわかるわよ」

「飲ませて……ってまさか」

 ヴァルのステータスに記載されていた『血姫ヴァンピール』の文字列。
 ついでに話すたびにずっと気になっていた口の端から覗く驚く程に長い八重歯。

「……いいよ、吸血されるなんて経験ないからちょっと興味はある」

 そう、物語ではよく見かけるシチュだが、実際に吸血されるとどんな気持ちなのか非常に興味津々だった。
 しかもヴァルなら俺に危害を加えることはないだろうし採血だと思えばどうってことない。
 それに俺もヴァルの情報を一方的に知ってしまったわけだし、ここはもう色々と諦めた。
 もし二人とも相手のやばい情報を知ったら、紳士協定を結んでお互いを締め付けるしかないのだ。

「じゃあ、どれがいい?」

 ヴァルが俺の肩を両手で押さえ、顔を近づけてくる。
 その瞳が妖しく光、唇を舐める舌がやけに艶かしい。

「体液ならなんでもいいよ。血でも唾液でも精液でも」
「血で」

「えぇっ! 即答?」
「というか、なんだよその選択肢」

「わかんないけど本能的に? そういうのやったことないんだけど行けそうな気がするの」

 ヴァルの話っぷりから普段からそんなことをしているのかと思っていたが、初めての経験らしい。
 今まで本能的にそういう気持ちになったことはあったが、そのたびに我慢していたらしい。
 怖いとかそういうのではなく、単純に「これは大事な人」にしかやっちゃダメだと思っていたそうだ。

(でも初めてって……逆に怖いぞ……)

「痛くないようにしてくれ」
「ぐぬっ……わ、わかったわよ……せっかく人が覚悟を決めたってのに……」

 少し拗ねた口調のヴァルがゆっくりと俺の首筋に顔を近づけてきて、甘噛みをするように俺の首元へ口を触れさせる。

(すげぇゾクゾクする……!)

 そして――なんの前触れもなくチクッとした痛みを首筋に感じたと思った瞬間、ありえない痛みが首筋を襲ったのだった。
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