雪の都に華が咲く

八万岬 海

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05-Chorus

073話-誤解に誤解をコーティング

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 真っ白い部屋のど真ん中にふかふかの絨毯と大きなソファーが置かれた部屋。
 明かりもないが部屋全体がうっすらと光っており十分な明るさだった。

「およ、家具が増えてる」
「ソファーがあるだけでも全然違うねここ」

「昨日陛下にもらったんだ。あと、ヴァルごめん、あんまり良い思い出がない場所だと思うけど」
「んーん、気にしてないよう。今はユキの部屋だもんね」


 ソファーについてはどうでも良い話しだが、昨夜陛下と飲んでいる時にこの部屋の殺風景ぷりを力説したのだ。
 そしてなんとなく「家具ください」と零したらその場のノリでソファーと絨毯を一式でもらったのだった。

(あれはもう少し押せばベッドとかタンスとかも貰えたかもだけど……)

 このソファーセットとバランスが取れなくなるかもしれないが、残りの家具はみんなと買い出ししたいなと思っている。

(旅をしてるんだし家具の買い物する機会なんてほとんどしたことないだろうなー)

「ユキ、とりあえず座っても良い?」
「いいよ。ケレスもソレ離してあげて」
「ん、ユキが良いなら離すけれど」

 ケレスがゆっくりと指を開いていくと手の中からアウスが転がり出てきたので、すかさず鎖で巻き取り狐っ子とセットで縛っておく。

「えっと、じゃあ、ヴァルに聞きたいんだけどこの子は誰?」
「えっと……んー……そうだなー……」



 今のところ無事なのはヴァルだけなので、めんどくさい当事者が起きる前に事情だけでも聞いておきたかったんだがヴァルは明らかに言い淀む。
 俺の隣に座ったケレスをチラリと見たヴァルは、俺に「そっち行って良い?」と視線で合図してくるので仕方なく頷く。



「ちょ、なんであんたこっちくるのよ」

 ヴァルの突然の行動に、俺の腕にギュッとしがみつくケレス。

「大丈夫だよケレス。取られるわけじゃないから」

「そーそー、ケレスちゃんちょっとお話ししない?」
「やだ」

「あれれ? グリムス家の跡取りともあろうお方が話も聞かずにそんな感じでいいのかなぁ~? きっと損はさせないよ?」


 ――グリムス家。
 確かにケレスのステータスを見た時にそんな記載があったなと記憶を辿る。
 ぶっちゃけどういう家系なのかはそれだけではわからないので聞いていないフリをするが、ケレスの額には青筋が浮かんでいた。

「……おまえ」

「おっと、ほら、ここだとユキくんも心配しちゃうからさ、ちょっとおいで?」
「なんだか気に食わないけれど行ってくるね」

 ヴァルがいつかアイナにやっていたように、ケレスを連れて部屋の反対側まで歩いて行った。

 ヴァルの後を追うケレスを見送る俺。
 まだ意識が戻らなさそうなアウスと狐っ子。




「いい加減起きないと、心を勝手に読みますよ?」

 誰に聞かせるでもないが、俺が呟いた言葉に超反応で起き上がったのは狐っ子だった。

「……いつから気づいてた?」

 狐っ子が睨みつけながら唸るように聴いてくるので「最初から」と返事してみた。
 実際は起きているなんて全く思ってもなく、いきなり起き上がられてびっくりして心臓が飛び出そうになったのは俺のほうである。

(痛い独り言を聞かれた……はずかしい……しぬ……)

 だが聞かれてしまったのは仕方がない。
 俺はなるべく冷静を装いながら、簀巻き状態で上半身だけ起き上がった狐っ娘を睨みつける。

「で、君は? どうして街中であんな危険な戦闘行為を?」

「…………ごめんなさい……でも、お願い、鎖が痛くて……んっ、痛い……少し緩めて……?」

 幼い身体を捻らせ、顔に苦痛を浮かべる狐っ子。
 出るところも無く、凹んでいる所もないので全く色気がない。
 それどころか、こういうパターンは大体ヤバい展開になるのは目に見えている。


「……じゃあ、もっと絞めます。貴女からは危険な香りがします」

 俺の意識に沿う形で、鎖が更に締め上げられ狐っ子が「グッ」っと声を上げる。
 連動して締め付けられたアウスはなんかもう悲惨なことになっていた。


「とりあえず名前とか聞かせてもらえますか?」

「こ、この下衆が……この私を誰だと!」

「だからソレを知りたいんですけれど」

 頑張って怖そうに話してますといった声だが、見た目がキュートすぎるのでなんとも迫力に欠ける。



「――はっ、ガキが……生意気じゃぞ」

 ぶっちゃけ俺がギュッと力を込めるだけで身体が二つ折りにされてしまう状況なのにこの強がり。
 実際強いのかもしれないが、なんとも判断に困る。
 ヴァルが早く帰ってきてくれないかと思いながら狐っ子を観察する。

(こういう人って、セオリー通りなら面白いんだけどな)


 ヴァルと同じような空気を纏っている気もするので、俺はちょっとだけ遊んで見る事にした。
 要はヴァルが戻るまでの暇つぶしだけれど。




「……妖狐」
「――っ!?」

 俺がぼそっとつぶやいた言葉に、驚愕の表情を見せる狐っ子。
 先ほどの威勢をどこに置いてきたんだとばかりに動揺しているのがモロバレだった。




「いや……八つ……九つ? いや、十尾?(十尾ってキャラ居たかな……あれは狸だっけ?)」

 なんともアレな考えだが、狐耳といえば妖狐か九尾だろうぐらいしか知らないのだ。

「な……な……なん……で……そ、そんな……」

 だが、狐っ子の表情は動揺から驚愕へと変わり、絶望すら浮かんでいる。
 というより、もはやポロポロと涙をこぼし唇を噛み締めて泣いていた。

(あっれ……? えぇ……っ!?)

 今にも死んでしまいそうな顔で、えずき出した狐っ子。
 そしてオロオロするしかない俺。

「あ、ご、ごめんね? 冗談! 冗談だから!」

 女の子を鎖でぐるぐる巻きにしておいて何が冗談なのかわからないが、とにかく謝っておくが涙を零すばかりで泣き止む様子がない。
 何がいけなかったのか、泣き止まない女の子を目の前に俺はオロオロするしかない。



「ただいまー!」
「ユキ、帰ったよー……って、うわぁっ!? 隊長が泣いてる! えっ? あの鬼が聖母に見えてしまうほどの隊長が! 泣いてる!」

 心配しているのか煽っているのか分からないヴァルの叫び声。
 だがそれよりも。

「……ちょっと待て! 隊長? やっぱりヴァルの知り合いじゃないか!」

「あっ、え? あ、そっか、うん。知り合いというか、私の上司の上司的な、そんな感じ……です」

「…………『魂の束縛オプリガーディオ』」

「ひうっ!? なんでぇー! 私も縛られるのぉ~!」

「いや、もう話がこんがらがる一方だから」

 鎖でぐるぐる巻にされて喚くヴァルと、同じく嗚咽し続ける隊長とやら。
 起きる気配のないアウスはもういいやと思い、とりあえずケレスに話を聞くことにした。




「ケレス、おいで?」

 俺は落ち着くためにソファーに座りケレスを呼ぶと、てこてこと嬉しそうな表情で隣に腰を下ろす。

(かわいいなぁ……ギャップ萌えだなぁ)

「ユキ、とりあえずヴァルから話は聞いたよ……」
「うん?」

 嬉しそうな感極まったような、それで何かを決心したような表情のケレス。

「あのね? 私は大丈夫だから、ユキはユキの好きなようにして? 私は後ろから精一杯支えるし、必要なくなったら捨てても良いから。だから今は好きでいさせて?」

「……えぇっと…………え?」

 ケレスがなんの話をしているのか全く理解できなかった。

「……ヴァル?」

 鎖にギュッと力を入れると「グエッ」という鶏を絞めたような声が三つ聞こえる。

「あの……ケレスに何言ったの?」

「普通のことだよぉ~アイナちゃんに言ったのと同じだよ~」

「……ちなみになんて?」




 そういえばあの時、ヴァルの幻影のコットがアイナと話していた内容を聞くのを忘れていたなと思い出した。

「ユキが記憶を取り戻すためにはハーレムを築く必要があって、そのためにたくさんの女の子と子供を作っっ――ぎゃぁぁぁっっ」

 今度はヴァルが完全に静かになるまて絞めあげたのだった。
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