雪の都に華が咲く

八万岬 海

文字の大きさ
上 下
48 / 92
03-Bridge

047話-山岳都市アペンド

しおりを挟む
「アイナ早かったね」

「うん、それよりも……」

 悲壮な顔をしたアイナの周りにみんなが集まり、アイリスも馬車から出てきた。
 クルジュナは薬を飲ませたので今日寝てれば問題はないらしい。

「それで、アイナどうだった?」

「うん……ユキの言った通りみんな死んでた。でも……」

 アイナが言うにはそれぞれが剣や包丁などを持っており、何かと戦おうとした形跡があること。
 死体は男の人や老人ばかりだと言うこと。通りに面した店を覗くと商品が荒らされてほとんど残っていなかったと説明してくれた。


「あと、どこかはわからなかったんだけど、人の気配がしたから何人かは隠れているのかも」

「アイナ、死体は新しいものだったのか?」

「サイラス……どう言うこと?」

「腐ってないならここ数日に事件が起こったと言うことだ」

 つまりすでに腐敗しているようなら、逆に事件が起こってから今まで街に訪れた人も全員がその都度殺されてしまっていると言うことだ。


「結構新しかった。多分数日ぐらいしか経っていないと思う」

「――敵の姿は?」

「殺気は特に感じられなかったけど大通りには大きな馬車の車輪跡がいくつも」

「となると、やはり大規模な盗賊団もしくは人買い専門の奴らだろうな」


 サイラスが頭をガシガシと掻きながらそう結論を出した。
 だが街を襲い男を全員殺して女子供を誘拐するなんて言う大規模犯罪が実現可能なのだろうか。戦った跡があると言うことは洗脳系では無いと思うが、強力な魔技を持った奴が関わっている可能性が高い。

「生存者の捜索と救出に行きたいんだけど、馬車ごと行っても大丈夫かな」

「ふむ……近くにまだ奴らがいるとなるとここに馬車を置いておくのは不安が残るな」

 馬車で乗り込んだところで、もし襲撃が有れば守りきれる自信はない。しかしここに馬車を置いていくのはもっと不安だった。

(座長の魔技で馬車を遠くに飛ばすか……あ、収納すればいいのか)

 果たして『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』はどれぐらいの容量を詰め込むことができるのか。ある意味実験半分だが、なんとなく問題なく収納できる気がする。
 俺はみんなにお願いしてクルジュナの馬車だけを残し、他の馬車に積んでいる荷物から戦闘に必要なものや救急関連の道具類を取り出してもらう。



「ユキ、全部出し終わったよー」

 リーチェが両手に持った警棒のようなものをぐるぐると回しながら報告してくれた。

「リーチェそれ武器?」

「武器というか自衛用って感じかなぁ、あんまり戦えないし。それで、どうするの?」

「えっと、みんな馬車からちょっと離れてね――『貪欲な貝ペルナ・アウァールス』」

 魔技が無事に発動し目の前に並んでいた馬車が消え去り馬だけが残される。どうやら生き物は収納できないようだ。

「えっ? 消えたっ」

「ユキ、まさか収納系? いつの間にこんな」

「昨日、森の中で倒した盗賊から貰った」

「ほえー……じゃぁ、これからは荷物気にせず買い物ができるね!」

 食糧担当のリーチェが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。ただでさえ短いスカートがひらひらとめくれ上がり目のやり場に困る。

「でも俺がいないと取り出せないから、収納するのは最低限にしておかないと、危ないからさ」

「ユキ、どんどん便利になっていくね」

「一家に一人欲しいね」

「ユキならそのうち分裂とかできるようになりそう」

 とんだ言われようである。

「でもユキ、さっき街の中の様子ってどうやって見たの? それも魔技?」

 このまま誤魔化そうとしていた痛いところをエイミーがぐっさりとえぐってくる。
 果たして同説明すれば良いのだろう。遠視だと言いうと街の中まで見れたことの辻褄が合わなくなる。

「うん……これも盗賊から手に入れたんだけど、よくわからないんだよね」

「ふぅ~ん……そっか。まぁいいっか。今はそれどころじゃないもんね」

 エイミーが口元に手を当てて頬を突いてくる。口元がにやけているので怒られるわけではなさそうだが色々と勘違いされている気がする。

「エイミー? 俺、悪用とかしてないからね?」
 
「バレないようにしなさいね?」

 エイミーは俺の耳元でつぶやくようにそう言うと「これも収納できる?」と差し出されたエイミーのリュックを大人しく収納する。
 これ以上は言い訳をしても抜け出せない沼にはまってしまうだけだ。

 ともかく、これで身軽になったのでアイリスとハンナ、ヘレスに馬車を任せて残りのメンバーは馬で街まで向かう。

「鞍も無いけど……みんな乗れるの?」

「なんとか大丈夫。それよりユキは乗れるの?」

「俺はアイナと一緒に先に走っていくよ」

 ひらりと難なく馬にのったエイミーは前に乗ってと言いたげな表情だったのだが、街の様子も気になるのでアイナと二人先行することにした。
 

「じゃあ、アイナ行こうか。サイラス、馬車の護衛よろしくね」

「おう、任せとけ。ユキも気をつけるんだぞ」

「ちょっとアイナ、ユキに怪我させたら承知しないわよ」

「わかってるって。じゃ、ユキ行こう――!」

 俺はアイナに続き『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を使い一気に街を目指して走り始めたのだった。


――――――――――――――――――――

 門が壊された街の外壁。
 そして高く積み上げられた遺体の数々が最初に目に飛び込んできた。


「う……酷い匂い……アイナ、気配探れる?」

「うん……なんとなくだけど……多分」

「じゃあ街を一周しながら人探しだね」

「ユキ、気をつけてね……敵が潜んでるかもしれないから」

 右手に巻き付けられるアイナの尻尾をキュッと握り返し、頭をポンポンと撫でる。
 そして二人で大通りに沿って街の中をなるべく見落としがないようぐるりと一周する。

「……ひどい…………」

「アイナ、誰か生きてる人居そう?」

「まだ……なにも……」

 街の中心部と思われる大きな広場だが、そこもひどい有様だった。
 オレンジ色だったと思われるレンガはどす黒く染まっており、あちこちに散らばる遺体は野犬か魔獣にでも食い荒らされたように損傷がひどい。

「アイナ……行こ?」

「ぐすっ……ん……うん」

 商店の扉は破壊され、あちこちに商品だったよあなものが散らばっている。それがどこまでも続いているのだった。

「ここで歌うはずだったのになぁ……」

「アイナ……」

 目元を拭うアイナの手を取り、さらに奥へと進んでいく。

 そうして十分ぐらい歩いただろうか。
 道端に転がされたままの遺体の数が減っていることに気付いた。

 道にこびりついた汚れはそのまま残されており、遺体だけが無くなっているようだった。

「これは……誰かが遺体を……?」

「あっ、見つけた……けどこの気配は……」

 アイナがキョロキョロと辺りを見回し、家と家の隙間を覗き、また隣の家との間を覗き込む。

「ユキ……多分近い……けど下の方から……なのよね」

「下ってことは地下室的な感じ?」

「うん……でも入り口がわからない……どこだろ……」

「アイナ、気配のする方向とかわかる?」

「多分……あっち……かなぁ、薄すぎて見逃すところだったよ」

 アイナが指差すのは、道の先に見えている広場のような場所。その下の方らしいのだが、方向さえわかればあとはこっちのものだ。

「ちょっと待っててね――『小夜鳴オキュラス鳥の瞳・ルスキニア』」

 地面をズームアップで観察し、さらに拡大すると敷いてあるレンガが透け、その下の地面が見える。そしてそのまま下の方へと視線を向けると、不意に地面が消えて天井のようなものが見えた。

 そしてその下の方、地面の方はモヤがかかったかのように見えない。
 距離に応じて透視する物の厚さが変わるのだろうか。アイナの手を引いて地面の下を見ながら広場へと向かうと徐々に床の方まで見えてきた。


「……居た! 子供が……入り口は……あっち!」
 
 透視で見た地下室の壁にあった階段は、広場の一角にある掃除用具入れのような倉庫の方へと続いているようだった。
 丸太を組んで作られたような小さな小屋。 扉のプレートにはご丁寧に「清掃用具」と書かれていた。

「ここ?」

「多分……階段はこっちの方へ続いてたから」

 扉をそっと開けると、そこには箒やちりとりにゴミ箱などが並んでおり、いかにも掃除道具倉庫という感じだった。
 俺はアイナに視線で合図をすると、ゆっくりと中へと足を踏み入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

処理中です...