雪の都に華が咲く

八万岬 海

文字の大きさ
上 下
36 / 92
03-Bridge

035話-後をつけるのは

しおりを挟む
「はぁ……相変わらずカーミラってばよくわかんない事ばっか言うんだよねー」
「ははっ、確かに……」

 カーミラさんの店を出てアイナと二人で大通りへと向かう。
 手には別れ際に押し付けるように渡された小さな箱を持ったままだ。



「ねぇ、それより貰ったその箱って何が入ってたの?」
「それが……開かないんだ」

 この小箱、明らかに中に何かが入っているような感じがするのだが、蓋がない。
 木で出来ているようなので壊せば取り出せそうなのだが、どういうわけか剣で斬ったとしても壊れる気がしないのだ。



「まったくカーミラ……せめて何が入っているかとか教えてくれても良いのに」
「まぁ……これは大事に仕舞っておくよ」

「ふふっ、それで? あとはどこか行くの?」



 俺たちは大通りへと戻り、公演をしていた噴水広場を横切り服屋などが並ぶ通りへと向かう。
 
 結局この町での公演は二回しか出来なかった。
 街の広場の使用許可が昨日までしか取っていなかったそうだ。


 俺たちはこのまま次の街に移動する予定なのだが、せっかくの長い移動時間に新しい演目の練習をしようと思っている。



「この間の服屋さんにね……アイナたちの衣装を買おうかなって」

「えっ!? 服買ってくれるのっ! やったぁー」
「衣装だよ衣装。座長には公演のお捻りは好きに使って良いって言われているし」

「それでもやったーうれしー」

 アイナが俺の足に尻尾を巻きつけてくる。
 可愛いのだが正直歩きづらい。


 俺が無理やり着せられたあの可愛らしい服。
 今まで見かけた中では一番アイドルっぽい衣装だった。

 あれを買って、アイナとエイミー用に改造しようという魂胆だった。

「アイナ、エイミーの服のサイズわかる?」
「んーだいたい解るよー」

 エイミーのサイズはアイナに任せ、俺は記憶を頼りに先日座長と一緒に入った服屋の扉を潜ったのだった。


――――――――――――――――――――

 紙袋に入った二着の服とリボンや生地が多数。
 糸と針などの簡単な裁縫道具一式。
 型紙に使えそうな一番安くてペラペラの布も買っておいた。


(服は作れないけれど、イメージを作って誰か得意な人に頼めばできるかなぁ)

 そんなことを考えながら、アイナと二人並んで夕暮れの街中をぶらぶらと宿へと向かう。


「すっかり遅くなったね……」
「んふふ、私は楽しかったよー! ユキの新しい服も手に入ったし……ねっ?」

 そう、服屋のオヤジは先日、俺があの服を着て舞台に出たところをバッチリ見ていたそうだ。
 自分のところの服を着てくれたことにいたく感激したと熱烈に語ってくれた。
 店に入った途端あれよあれよと可愛らしい服から、きわどすぎる服まで大量に押し付けようとしてきたのだった。



「ほんと勘弁してほしい……この辺りで髪切ってくれるお店とか無い?」

「髪……切るのにわざわざお店に行くの?」
「えっと……あ、みんな……ええっと、街の人たちとかも髪ってどうやって整えているの?」

「え……普通にこうやって、ナイフでバサッと」

 アイナが自分の髪を束にして手刀で切る仕草をしてくれる。

「まじか……どおりでみんなパッツンだと思った……アイナやエイミーは?」
「私はあんまり興味ないから適当にナイフでしゅしゅっと。エイミーは他の子と同じくケレスかな」

 言われてみればうちのメンバーは全員、髪型がきちんとしている。
 ケレスがきちんと頭の形や流れを計算してカットしているようだ。

(帝国だとちゃんとカットする文化があるのかな……『ちゃんと』というのはおかしな表現か)

「ねーねーユキぃ……」
「…………なに?」

 アイリスが突然甘い声を出してくる。
 猫撫で声とはこういう声のことだなと思いながらも、めんどくさい予感がするのでぶっきら棒に答えてみる。



「ふふっ、ちょっと……ギュッてして?」
「なんでさっ……」
「ほら、いーからいーから」


 そんなことを言われても人通りもそれなりにある大通りだ。
 アイナのスタイルと服装はそれなりに目立つので、歩いているだけで向かい側から来る通行人の視線がすごく気になるのだ。

 正直恥ずかしいのと、色々反応してしまいそうになるので、なんとか丁重に断る。
 だがそんな俺の気持ちを無視したアイナは俺の腕を胸の間に挟み、頬に唇を近づけてくる。


 こんな往来でキスされるのかと、あたふたとしたのだが、アイナの口から出たのは思ってもいなかった言葉だった。

「……静かにね、さっきからつけられてるわ」
「……!」

 俺は振り返ろうとしてしまうのを必死に堪えて、アイナに少し寄りかかり歩調を合わせる。



「誰かはわからないよね……」
「そうね、男が一人……いや多分屋根の上にもう一人いる気配がする」


 アイナがあっさりというが、俺は何も感じない。
 そもそもこの大通りの両橋の建物は三階建がずらっと続いているのだ。
 その上に居る人の気配がわかるというのは正直凄い。


「裏路地に逸れて、ヤッちゃおうか」
「……なんでそんなに好戦的なの、アイナ」
「……もう油断しないって決めたの。ユキやみんなを守るためならなんだってする」

 アイナがにっこりと俺に微笑むと、先ほどと変わらず前を向く。
 流石に恥ずかしがってられないので、二人でイチャイチャと歩いているように身を寄せながら後ろの気配を探る。


「あ、カーミラさんの魔技使えるかな」

「あれ使うの? バレない?」
「バレるかも……けど、バレていることがバレてもやる事は変わらないだろ?」

「ふふっ、それもそーね」

 アイナがニヤリとした笑みを向けてきて、俺の指の間に指を差し入れてきて恋人繋ぎをしてくる。

(これは……多分いざという時、上に飛び上がる準備かな)


 流石に何度か経験しているので、アイナが何をしようとしているのか理解して、俺もその手をギュッと握り返す。
 にへらっと微笑むアイナに背後からついてきている人物の姿を聞き、あたりを見回すフリをして背後を確認する。

(あのカウボーイみたいな男か)

 そして手帳を目の前に出現させ、いつものページが開きリストの一番下に書かれていた魔技を確認する。

(――『真実ゼールカロの鏡・イースチナ』)

 なるべくバレないよう、露天商が並べている商品を手に取りながら背後に視線を向けたままにしておく。

「あれ……これ結果ってどうやって表示されるんだ?」
「わからなかった?」
「カーミラさんは何も無い空中を見ていたんだけど……何も出ない」

 カーミラさんの仕草的に、空中にウィンドウぽいものがポップアップするのかと思っていたのだが、何も起こらなかった。
 だが魔力が少しだけ流れた気がしたので、問題なく発動したような気はする。




「あ、もしかして……」

 俺はなぜか消えていなかった手帳のページを数枚捲る。
 すると今まで空白だったページに何行かの文字が書かれているのを発見した。

「ぐっ……読めないっ!」

 一番上の行に書かれている文字はこの世界の文字らしいが、全く読めない。
 二十八という数字はあるので、これは年齢だろうか?

「ごめんアイナ、ちゃんと使えたみたいなんだけど文字読めないや……」
「え? あっ、あははっ、そっか、そうだったね」
 
 アイナに読んでもらおうにもこの手帳は俺にしか見えないらしい。
 あとでペンを借りて俺が模写するしか無いようだ。

「どうしよっか……」
「んーそうねぇ……」

 するとアイナが何かの合図のように、繋いだままの手をニギニギしてくる。

「じゃあ、俺は向かって右側で」
「ふふっ、ユキってば言わなくてもわかってくれるんだね。じゃあ三つ数えたら……」

 俺はアイナとタイミングを合わせ『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を発動した。


 あたりの景色が灰色に見え、動きが止まったようにスローになる。
 そんな景色の中、唯一動いているアイナと視線を合わせて背後にいた男の背後へと回り込み男の右手を後ろへと捻り上げた。

 アイナが左の手首を掴み上げる、そのまま地面へと引き倒し首を膝で押さえつけた。

「――っ!! いっ、いでででっ!」
「あんたダレ? どうしてつけてくる?」

 黒髪でつり目のいかにもチンピラ風の男。
 やはり二十八というのは年齢だったのかと思いながら、身につけているものを観察する。

 白のシャツに皮のベルトと腰巻、カウボーイのようなブーツに焦げ茶色の帽子が転がっている。


「……王国軍諜報部だ」

 アイナの問いかけに男がそれだけをボソッとこぼしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

処理中です...