雪の都に華が咲く

八万岬 海

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02-Verse

028話-鎖の雨

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「さて、えっとユキ君だっけ? あれ? ユキちゃん? どっちでもいいや」
「…………」

 何かを警戒するように、部屋の入口で立ち止まったままのカイル。
 深く被ったローブのせいで顔はよく見えない。

 俺は念のため、アイナの魔技を発動させる。

「どうやってグノワールに喋らせたのか知らないが、お前は大人しく俺と一緒に来てもらおうーーかっ!」

 突如俺の前方の地面から赤黒い鎖が出現し、俺に向かって飛んできた。


 アイナの強力な身体強化『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を発動していてもなお、目で追えきれないような速度で迫る鎖。
 俺は身を屈めなんとか躱すと同時に、お返しとばかりにカイルへ『魂の束縛オプリガーディオ』を発動させる……が。



(しまったっ……ここ使えないんだった!!)

 カイルがこの部屋へ立ち入らないのはそれが理由のようだ。
 俺は咄嗟にアイナの魔技を発動させる迫りくる鎖を躱す。




「……へぇ。それキミの魔技? それともキミの中の人の御業?」
「御業……ってなんだよ」

「あれぇ? 聞かなかったの?」
「……俺は神じゃない」

「おっかしいなぁ……元の素体……銀髪ってことは……あれ? キミ男のほう? 女の子かと思ったよ」



「……」
「あはは、そう睨むなって。神の世界から魂を引き寄せる魔技の実験体――それが君だ」

(……もしかして死者の世界というものが本当にあって、俺が……死んで……そこに辿り着く前にこいつらにこの世界につれてこられたの……か?)

 
 こいつらの話を鵜呑みにするのは癪に障るが、そう考えると色々と合点がいってしまう。
 だがこいつが嘘を言っている可能性もある。


「まぁいいや……」

 カイルが再び地面から鎖を発生させ、俺に向けて一斉発射する。
 だがアイナの身体強化は問題なく使えることがわかったので、俺は再びアイナの魔技『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を発動させた。

 ライフルのように迫りくる鎖を躱すと、間髪入れず捨て身の特攻とばかりにカイルへ向かって突進する。
 アイナの魔技もそんなに長く持たないため、カイルの脇を通って一気に逃げようと体を屈めた。



(――よし! このまますり抜け……ぐあっ!?)

 カイルのすぐ脇を通り過ぎた瞬間、足首に激痛が走る。
 だが、少しでもスピードを落としてあの鎖に捉えられ、魔技が使えなくなるのは避けなければならない。


(ぐうぅぅぅっっ! )

 痛む足を必死に無視し、部屋から出た石畳の通路を走るが――。
 ジャラジャラと不愉快な音がし、目の前の屋根から大量の鎖が降ってきて通路が塞がれた。

 まるで鎖で作った壁のように幾重にもピンと張られた鎖の束。




「俺から逃げられるとでも思ったのか? いや、まぁ一度逃げかけたところは褒めておくよ。すごいねキミの身体強化」

「…………お前はなんであいつに協力していたんだ?」
「ん~……? 逆だよ逆。あいつが俺に協力していたんだ……よっと!」

 カイルの指先から何本もの鎖が俺を突き刺すように飛来し、俺は頭が理解するより早く身をよじる。
 顔のすぐ横を通過していった鎖で頬が少し切れ、血がタラッと流れ落ちてきたのがわかった。




「やっぱり強化系は相性が悪い……悪いけど……ふっ――」
「ぐあっ!?」

 背後の通路を塞いでいた鎖が一斉に俺に巻き付いてき、あっけなく鎖でぐるぐる巻にされてしまった俺は支えもなく床に倒れてしまう。


 俺は縛られた状態のまま、出しっぱなしだった手帳に視線を向け『魂の束縛オプリガーディオ』を起動した。

「ほら、鬼ごっこは終わりだ――なにっ!?」

 俺を捕らえていた鎖が一瞬で解け、逆にカイルに向かってライフルのように伸びその体に突き刺さった。


「ぐっ……ぐぁぁぁぁっ……いでぇ……きっ、貴様……っ!」

 鎖が突き抜け穴が空いた腕を抑えながら立ち上がるカイル。

(良かった……魔封を使われてもその前に手帳を出しておけば使える……!)

 魔法を封じる鎖と聞いていたが、おそらくこれは魔法を新たに発動させないためのものだ。

(つまり、先に起動させておけば魔封で封じられても使える――)
「もうやめだ……もう面倒だ……潰れろぉぉぉお!!!!」


 手帳を改めて出現させた瞬間、カイルの叫び声と共に天井を突き破り恐ろしい量の鎖が俺目掛けて降り注いできた。


(――っ!!)


 咄嗟に『猫の反乱コーシカ・ヴァスターニエ』を発動させるるが、隙間なく落ちてくる鎖の雨に逃げ場が見つからない。



「くそぉっ! 『影の旋風チエーニ・ヴィールヒ』!」

 視界が鎖に埋め尽くされていく瞬間、針の先程の隙間から見えたカイルの顔。
 俺は防御を捨て、その隙間を目掛けて全力でクルジュナの魔技『影の旋風チエーニ・ヴィールヒ』をぶっ放した。
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