雪の都に華が咲く

八万岬 海

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02-Verse

019話-魔具という便利なものもやはりある

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 朝ごはんを食べ終わり、男性陣は街へ買い物に行くこととなった。
 その間に女性陣は宿からお湯を借りてきて、湯浴みとお着替えらしい。



 この世界、お風呂もあるそうなのだが、まだ数は少なく基本は香油を垂らしたお湯で身体を拭くことが多いらしい。

 近くにあれば毎日でも入るという、それなりに衛生観念はきちんとしているそうだが、いかんせんこの宿からも近場の大浴場までは結構距離があるそうだ。

 旅をしている時から川で身体を洗っていた俺としては、そろそろ湯船に浸かりたい。

 俺は座長とサイラスに連れられ……いや、今日はなぜかサイラスの肩に座らせてもらい特等席から街の景色を眺め、そんな事を考えていた。


 俺としては遠慮したのだが、座長がたまにはサイラスも構ってやってくれと言うので、肩に座らせてもらった。

 35歳にもなってなにやってんだと思いながらも、今の俺の見た目だと変な目で見られることもないだろう。

 俺は銀色に光る前髪を指でつまむ。
 サイラスの巨大の上から見る街並みは、以前の俺より高く、少し感動した。

 古いヨーロッパのような綺麗な街並み。
 道ゆく人々は人間が多いがたまに犬のような顔の人や、アイナのような猫耳の人まで様々な人種が入り乱れていた。


「ユキ、到着だぞ」

 サイラスが肩のチラリと俺の方を見てニカッと笑う。

「ここ?」
「そうだよ、この街ではいつもここで道具を仕入れているんだ」

 昨日俺が迷い込んだ路地ほどではないが、それなりに狭い路地に忽然と現れた鉄扉。
 看板は何も出ておらず、外から見ただけでは何の店かも分からない。

 サイラスは片膝をついて、俺を地面に下ろすと座長の後ろをついて店内へと入っていった。
 俺はあたりを見回して、サイラスの後について鉄の扉を潜った。

――――――――――――――――――――

「うわ……すごい」

 その店は、四畳ほどの広さしかなく、サイラスがいるだけでかなりの圧迫感だった。
 全ての壁に天井まである鉄棚があり、そのすべてに用途のわからない道具が所狭しと並べられていた。

「アーベル、いらっしゃい」
「……アーベル?」

 店の奥から出てきたローブ姿の店員と思わしき人物が聞き慣れない名前を呼んだ。
 俺は隣のサイラスに視線を向けると「座長のことだ」と短く答えてくれた。

(座長、そんな名前なんだ……初めて知った)

「サイラスも久しぶりじゃないか。そっちの嬢ちゃんは初顔だね。アイナはどうした?」

「カーミラさん、ユキはこう見ても男です」
「…………本当か? どう見ても……まぁいいか。それで? 久しぶりに顔を出したからには何か買っていってくれるんだろうね?」

 話し方からすると老婆のようだが、声色は俺と同じぐらいの高い声だ。
 目深にローブを被ったままのせいで、女性ということぐらいしかわからない。

「声を大きくするような、観客の後ろまで声を届けられるような道具はありますか?」
「なんだい、歌でも歌うのかい? ちょっと待ってな」

 そう言ってカウンターから出てきたカーミラさんが俺の背後のカウンターへと向かってくる。
 

 俺は邪魔にならないよう座長の方へ避けて、カーミラさんが商品棚を漁るのを眺めながら、棚に並んだ道具を眺める。
 バケツのようなのから鉛筆のようなものまで、一体何屋なのかが全くわからない。



「ユキ、ここは魔具店だよ。魔具というのは魔力を染み込ませた宝石を使って作られた道具のことだ」

 俺が聞き返すのを予測できたのか、魔具についての説明までしてくれた。


「それは……何かの効果を持たせた道具ということですよね」
「そう、製作者のクセが強く出るからあまり一般的なものではない。どちらかといえばコレクター要素のほうが強い」


 昔はそれなりに重宝されていたそうだが、それなりに魔法や魔技が進化してからはあまり使われることはなくなったと座長。
 アイリスの授業でも、今でこそ「魔法=火をつけたりできる便利な力」程度の認識だが、はるか昔は異端の象徴だった時代もあったそうだ。

 それも数十年前に、人々はほとんど魔力を持っているということを発見した偉い学者さんのお陰だと習った。



(逆にいえばこれからは魔法を使った戦いが中心になりそうだよな……)

 まだまだ魔法は進化発展の途中だとアイリスは言っていた。
 それは火をつけるだけの力を利用して、敵を効率的に倒すことができる力へ昇華させるやつが出てくるということだ。

(実際、戦争の時はそういう敵のせいで王国は負けたと言っていたし、帝国とやらではそれが普通なのかもしれない)



「ほれ、これがそうだ。多分使えると思うがちょっと使ってみてくれ」

 そう言ってカーミラさんが手に持ってきたもの。
 声を拡張するための魔具だそうだが……。

(……! あれはまずい。 偉い人に怒られるやつだ)


 カーミラさんの手に乗せられていた魔具。
 それは赤い色をした小さな蝶ネクタイだった。



「確か声色も変えられたと記憶している。使い方は忘れたがね。ほれ」

(ますますヤバい)

「ユキ、試してみてくれるか?」

 そう言って座長が蝶ネクタイを受け取り、俺へ差し出してくる。

「わ、わかりました……」

 俺はそっと蝶ネクタイを受け取ると、ベルトを外して首に巻きつける。



「あ……魔力が」
「ちゃんと動くようだね」

「ユキ、魔具は使用者の魔力を使う。だからつけっぱなしにしていると倒れるから気をつけるんだよ」
「わかりました」

 俺が座長に返事すると、確かにほとんど声を出していないのに大声で話したような音量になっていた。

「魔力を込めれば込めるほど大きくなるからの」
「やってみます…………あーーっ!!」

「ユキ、大きすぎだ、もう少し魔力を落として」
「あ~~! これぐらいですか?」

「そうだな、人の数にもよるがそれぐらいから始めて、人が増えたら込める魔力を増やすといいだろうね」


 俺は首につけた蝶ネクタイを外して座長へ渡すと、座長はカーミラさんに代金を払い小さな硬貨のお釣りをもらっていた。

(そういえばお金に関してもよく知らないな俺……)

「カーミラ、いつも助かるよ。じゃあ次の店に行こうか」
「待ちな」

 座長がカーミラさんに礼を言い、店を後にしようとしたところで呼び止められた。

「どうしました?」
「…………」



「カーミラ?」
「…………ふむ」



 カーミラさんがフードの奥から鋭い視線を俺に向けてくるのがわかり、背筋が少しゾワっとする。

「嬢ちゃん……坊やだったか……ユキと言ったね」

「は、はい……そうですが」
「…………坊や、どこの出身だい?」


「カーミラ、彼は魔獣に襲われ、我々が助けたのだが、記憶をなくしているのです」
「…………そうかい。よく似た面影のヤツを知っていたからもしかしてと思ったんだが、勘違いってことか。引き止めて悪かったね」

「い、いえ、大丈夫です」
「ふむ……これ持っていきな。お守りぐらいにはなるだろう」



 そう言ってカーミラさんが小さな錠剤のようなものを渡してきた。

「これは……?」
「魔力を込めた宝石を砕いたものだ。飲んでおけば、魔封をされていても一度ぐらいは魔法を使える…………かもしれん」

「魔封……というのは、どういうものなんでしょうか?」
「……アーベル」

「はい。ユキ、魔封というのは魔力を封じることができる鎖で、犯罪者などを拘束するときに使うものだ」
「はぁ……」

 要は警察が使う手錠のようなもだろうかと想像してみる。
 だが、そんなものにお世話になる予定もないのでカーミラさんがどうしてこれを渡してきたのかわからない。

(一応捕まるようなことはしない……はずだけど)

 あり得るとしたら、俺の常識がこの世界では大変な罪で捕まるとか……だろうか。



「坊や、その見た目だからね……そういう目的を理由に拉致されるかもしれんよ?」
「んなっ……!?」

 それは思ってもみなかった方向の心配からだった。
 だが昨日実際にそういう目に遭いかけた俺としては、非常にありがたい魔具だ。



「ユキ、ありがたく頂いておきなさい。それなりに高価なものだ」
「あっ、ありがとうございます……!」
「困ったことがあればまたおいで」

 カーミラさんはそれだけ言うと、奥へと引っ込んでしまった。
 座長がカウンター越しに改めて礼を伝え、俺たちは店を出たのだった。
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