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第45話-非公式会談
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四方の壁がすべて破壊され風通しが良くなりすぎた部屋。
外からガチャガチャと鎧の音が徐々に近づいてくる。
「なんだこれは!?」
「一体何が起こった!? 壁が崩れてるぞ!」
「大臣は無事かっ! 手分けして探せ!」
そして大声を上げ、次々と部屋になだれ込んでくる鎧姿の兵士たち。
「お、おい、お前!」
「何者だ!」
その中の一人の兵士が私たちを見つけ大声を上げると、次々と兵士が集まってくる。
私があわあわしているとリンがすっと立ち上がり巻物を広げ、一番前に居る兵士に見えるように広げてみせた。
「カネーション家の者です。この意味が分からないなら、上司を連れてきなさい」
「なんだと!?」
剣を向けたままの兵士がリンの言葉に怒鳴り声を上げ、私の身体がビクッと竦む。
「時間が経てばそれだけあなたの出世に響くよ?」
「…………だ、大隊長! こちらへ」
また怒鳴りつけられるのかと身構えていたが、兵士は剣を仕舞うと軍服姿の一人に声をかけた。
「容疑者か?」
「いえ、こちらの女性たちの話を……」
「このお兄さん、話が分かりやすくて助かりました。大隊長さん? 彼は使える人材ですよ?」
リンが目の前の兵士の肩をポンポンと叩きながら軍服姿の大隊長とやらに向き直る。
(……リン、なんだか凄い)
物は言いようなのだろうが、その兵士は顔がすっかり緩んでいた。
「それで? 貴殿は?」
大隊長がまだ少し構えながら私たちを見渡す。
「私はリン・カネーション。そこに転がっている二人にとある事件の事情を伺いに来たのですが、監禁され殺されそうになったので反撃しました」
そう言いながらリンは国王陛下から下賜された巻物を大隊長へ広げて見せる。
マルさんから預かっていた『いつでも何処でも自由に捜査をする権利を認める』と書かれた勅書だった。
「こっ、これは……たしかに陛下の勅書……しかし詳しいお話をお聞かせ願えますでしょうか」
「わかりました」
◇◇◇
「――おい! 貴様無断で入るんじゃない! こら、止まれ!」
私たちが移動しようとしたところで、廊下の方から兵士の怒声が聞こえてきた。
「リン!」
「あっ、ボス。すいません、その人は私の上司です!」
「リン……それにクリス嬢も無事で何よりです。目標は……あれですか、なるほど」
いつもよ黒装束姿のマルさんが辺りを見回し状況を理解したのか、何やら勝手にウンウンと頷いている。
「あの二人が、私達のこと汚しながらナイフで切り刻むって言ってたからつい」
「――ほほぅ?」
そんなマルさんにリンがぼそっと周りに聞こえないような声色で事実を溢す。
一瞬でマルさんから溢れ出す恐ろしい量の殺気。
急に発生した異様な気配を察したのか部屋を捜索していた兵士たちが、バッと顔を上げた。
目の前にいる私も、冷や汗が額を流れ落ちてくる。
(……あれ?)
私が「マルさん怖いっ!」と思った瞬間、部屋の両端に転がされたままのホド男爵とリック大臣が「グエッ」と蛙が潰れたような呻き声を上げた。
(いま一瞬、マルさんの姿がブレたよね……まさか)
マルさんの足元をチラリと見ると、どこで付着したのかブーツに血の跡がくっきりとついていた。
「さて、私も同席させて頂きますので会議室をお借りしますぞ、マイケル殿」
「私のことをご存知……なのですか。貴殿とは初めてお会いするのですが」
「存じ上げております。可愛らしい奥様と、お二人の彼女のことまでよーく知っております」
「なっ!?」
マルさんがマイケルさんの耳元で呟いたセリフは私にもはっきりと聞こえ、マイケルさんの顔がサァッと青くなる。
「案内していただけますかな?」
「はっ、はい。こちらへ。 残りはそこの三人を取調室へ! 暴れるようなら独房へ移動して差し上げろ!」
「はっ」
マイケルさんが周りの兵士たちに指示を出し、大臣とホド男爵、ミルドを担いで連れ出していく。
(…………マルさんもリンも怖い……エアハルト大丈夫かな)
私はここにいないリンの旦那(予定)の将来が少し心配にってきたのだった。
――――――――――――――――――――
「事情はわかりました」
大きなテーブルが置かれた会議室に私とリン、フレンダが並んで座る。
三人ともメイド服だ。
しかも私とリンは胸元が大きく露出したメイド服で、正直ローブか何かを貸してほしかった。
(……はずかしい)
向かい側に座るのはお父様、アレックス・フォン・ガメイ伯爵とマルさん、何処かの部隊の大隊長のマイケルさん。
それと……。
「クリス・フォン・ガメイ嬢、あの部屋はどういう魔法で……一応この監獄棟自体には強力な魔力障壁が掛けられているのですが……」
額に浮いている汗をタオルで拭きながら、部屋を破壊した方法を聞いてくる宰相さん。
(……オスカル・フォン・アンノヴァッツィ大公……だったかな)
家名が間違えているかも知れないが、だいたいそんな感じだったと思う。
この国の大公といえば、貴族たちの一番上。国王陛下の直下だ。
「スルート王国が「大公国」だと王様にあたる人だなと」と眼の前に座っている人の良さそうな表情をした老人をちらりと見る。
「……クリス嬢?」
「あっ、はい、すいません。えっとあれは【神雷嵐鎖】……です」
「【神雷嵐鎖】…ですと? いや、あの威力は……」
「すいません、目の前にナイフが迫ってきてまして、脇腹にもナイフが刺さっていたので必死で……」
「なっ、クリス!? 怪我は!大丈夫なのかっ!?」
私の台詞を聞いたお父様がガタッと立ち上がる。
「はい、【治癒】で直しましたので……」
「なるほど、フレンダ嬢が居られましたな」
どうやらこの大公さんはフレンダが回復魔法を使えるのを知っていたようだ。
「いえ、あれはクリスが自分で…「そうなんですよ! ほんとフレンダが居てくれたおかげで」」
否定しようとするフレンダのセリフに私が被せるように言うと、フレンダが三白眼で私を睨んでくる。
けれどややこしくなるので、この場では勘弁してほしい。
「アンノビ……アンノヴィッチ……失礼しました。アンノビッチ大公――」
「……アンノヴァッツィでございますリン・カネーション嬢」
「すいません、アノビッチ大公、先程お願いしておりました契約書ですが見つかりましたか?」
「アンノヴァッツィで……いえ、契約書ですがそれらしいものをホド男爵がもっておりました。こちらをご確認ください」
大公が一枚の羊皮紙をケースから取り出してフレンダの前へ差し出す。
「はっきりと詳細まで見たわけではありませんが、このような契約書が発行されたことは甚だ遺憾であり、即刻私の判断で無効に致します。オーガスト辺境伯にも私からお伝えいたしましょう。フレンダ・フォン・オーガスト嬢、貴女がこのような状態になっていることに気づかなくて申し訳有りませんでした」
つらつらと契約書についての見解を述べた大公が、テーブルに両手をついてフレンダに頭を下げた。
非公式な会議だがこんな事があるんだとびっくりすると同時に、大公の人の良さがはっきりと見えた気がした。
「そんな! アンビッチ大公、頭をお上げください――し、失礼しました!」
「……アンノヴァッツィです。すでにオーガスト辺境伯には使いのものを走らせております」
「う~フレンダぁ~よかったねーっっ!!」
「……うん」
私は隣の席に座っているフレンダの首に両手を回しぎゅっと抱きしめた。
けれど、フレンダの反応が薄い。
もしかしたら振りほどかれると思ったのだが、私が顔を見上げると強気そうなフレンダがハラハラと涙を流していた。
唇をぎゅっと閉じ、流れ出る涙を両手で必死に拭っている姿は、クリスの記憶にあるあの雨の日の時と同じだった。
「さて、ガメイ伯爵」
「はっ」
「此度の件、最終的には陛下より裁可を頂こうと思います」
「承知しました」
流石に今回はことが大きすぎると判断されたらしい。
思えば、ティエラ教会による私の誘拐から始まり、ホド男爵令嬢による王女の殺害。
そして私へ罪を被そうとした事。
リック大臣とホド男爵には私とリン、フレンダに対する婦女暴行未遂と殺人未遂も追加されるそうだ。
教会執行部による暴走。
法務大臣による権力の違法行使。
男爵家による第一級犯罪の数々。
これが明るみにでれば国家を揺るがす大事件になるだろう。
しかし隠そうと思っても隠せるレベルは遥かに超えていた。
「……オスカル・フォン・アンノヴァッツィ大公、お伺いしたいことが」
「ク、クリス嬢!」
名前をフルネームで呼んでもらえたのが嬉しいのか、大公がパァァと顔をほころばせ「どうぞどうぞ!」と手で合図してくる。
(……普通に可愛いおじいちゃんに見えてきた)
「ホド男爵の娘さんは、どうなっているかわかりますか?」
私が片手を上げおずおず伺うと、少し立ち上がりかけていた大公がペタンを椅子に座り直し、背筋を正して口を開いた。
外からガチャガチャと鎧の音が徐々に近づいてくる。
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「こっ、これは……たしかに陛下の勅書……しかし詳しいお話をお聞かせ願えますでしょうか」
「わかりました」
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「――おい! 貴様無断で入るんじゃない! こら、止まれ!」
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「リン!」
「あっ、ボス。すいません、その人は私の上司です!」
「リン……それにクリス嬢も無事で何よりです。目標は……あれですか、なるほど」
いつもよ黒装束姿のマルさんが辺りを見回し状況を理解したのか、何やら勝手にウンウンと頷いている。
「あの二人が、私達のこと汚しながらナイフで切り刻むって言ってたからつい」
「――ほほぅ?」
そんなマルさんにリンがぼそっと周りに聞こえないような声色で事実を溢す。
一瞬でマルさんから溢れ出す恐ろしい量の殺気。
急に発生した異様な気配を察したのか部屋を捜索していた兵士たちが、バッと顔を上げた。
目の前にいる私も、冷や汗が額を流れ落ちてくる。
(……あれ?)
私が「マルさん怖いっ!」と思った瞬間、部屋の両端に転がされたままのホド男爵とリック大臣が「グエッ」と蛙が潰れたような呻き声を上げた。
(いま一瞬、マルさんの姿がブレたよね……まさか)
マルさんの足元をチラリと見ると、どこで付着したのかブーツに血の跡がくっきりとついていた。
「さて、私も同席させて頂きますので会議室をお借りしますぞ、マイケル殿」
「私のことをご存知……なのですか。貴殿とは初めてお会いするのですが」
「存じ上げております。可愛らしい奥様と、お二人の彼女のことまでよーく知っております」
「なっ!?」
マルさんがマイケルさんの耳元で呟いたセリフは私にもはっきりと聞こえ、マイケルさんの顔がサァッと青くなる。
「案内していただけますかな?」
「はっ、はい。こちらへ。 残りはそこの三人を取調室へ! 暴れるようなら独房へ移動して差し上げろ!」
「はっ」
マイケルさんが周りの兵士たちに指示を出し、大臣とホド男爵、ミルドを担いで連れ出していく。
(…………マルさんもリンも怖い……エアハルト大丈夫かな)
私はここにいないリンの旦那(予定)の将来が少し心配にってきたのだった。
――――――――――――――――――――
「事情はわかりました」
大きなテーブルが置かれた会議室に私とリン、フレンダが並んで座る。
三人ともメイド服だ。
しかも私とリンは胸元が大きく露出したメイド服で、正直ローブか何かを貸してほしかった。
(……はずかしい)
向かい側に座るのはお父様、アレックス・フォン・ガメイ伯爵とマルさん、何処かの部隊の大隊長のマイケルさん。
それと……。
「クリス・フォン・ガメイ嬢、あの部屋はどういう魔法で……一応この監獄棟自体には強力な魔力障壁が掛けられているのですが……」
額に浮いている汗をタオルで拭きながら、部屋を破壊した方法を聞いてくる宰相さん。
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「……クリス嬢?」
「あっ、はい、すいません。えっとあれは【神雷嵐鎖】……です」
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「すいません、目の前にナイフが迫ってきてまして、脇腹にもナイフが刺さっていたので必死で……」
「なっ、クリス!? 怪我は!大丈夫なのかっ!?」
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「はい、【治癒】で直しましたので……」
「なるほど、フレンダ嬢が居られましたな」
どうやらこの大公さんはフレンダが回復魔法を使えるのを知っていたようだ。
「いえ、あれはクリスが自分で…「そうなんですよ! ほんとフレンダが居てくれたおかげで」」
否定しようとするフレンダのセリフに私が被せるように言うと、フレンダが三白眼で私を睨んでくる。
けれどややこしくなるので、この場では勘弁してほしい。
「アンノビ……アンノヴィッチ……失礼しました。アンノビッチ大公――」
「……アンノヴァッツィでございますリン・カネーション嬢」
「すいません、アノビッチ大公、先程お願いしておりました契約書ですが見つかりましたか?」
「アンノヴァッツィで……いえ、契約書ですがそれらしいものをホド男爵がもっておりました。こちらをご確認ください」
大公が一枚の羊皮紙をケースから取り出してフレンダの前へ差し出す。
「はっきりと詳細まで見たわけではありませんが、このような契約書が発行されたことは甚だ遺憾であり、即刻私の判断で無効に致します。オーガスト辺境伯にも私からお伝えいたしましょう。フレンダ・フォン・オーガスト嬢、貴女がこのような状態になっていることに気づかなくて申し訳有りませんでした」
つらつらと契約書についての見解を述べた大公が、テーブルに両手をついてフレンダに頭を下げた。
非公式な会議だがこんな事があるんだとびっくりすると同時に、大公の人の良さがはっきりと見えた気がした。
「そんな! アンビッチ大公、頭をお上げください――し、失礼しました!」
「……アンノヴァッツィです。すでにオーガスト辺境伯には使いのものを走らせております」
「う~フレンダぁ~よかったねーっっ!!」
「……うん」
私は隣の席に座っているフレンダの首に両手を回しぎゅっと抱きしめた。
けれど、フレンダの反応が薄い。
もしかしたら振りほどかれると思ったのだが、私が顔を見上げると強気そうなフレンダがハラハラと涙を流していた。
唇をぎゅっと閉じ、流れ出る涙を両手で必死に拭っている姿は、クリスの記憶にあるあの雨の日の時と同じだった。
「さて、ガメイ伯爵」
「はっ」
「此度の件、最終的には陛下より裁可を頂こうと思います」
「承知しました」
流石に今回はことが大きすぎると判断されたらしい。
思えば、ティエラ教会による私の誘拐から始まり、ホド男爵令嬢による王女の殺害。
そして私へ罪を被そうとした事。
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「ク、クリス嬢!」
名前をフルネームで呼んでもらえたのが嬉しいのか、大公がパァァと顔をほころばせ「どうぞどうぞ!」と手で合図してくる。
(……普通に可愛いおじいちゃんに見えてきた)
「ホド男爵の娘さんは、どうなっているかわかりますか?」
私が片手を上げおずおず伺うと、少し立ち上がりかけていた大公がペタンを椅子に座り直し、背筋を正して口を開いた。
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