上 下
34 / 48

第34話−もどり道

しおりを挟む
 ファウストたちと戦っていた洞穴を村へ戻る方向へと歩く。
 前回と同じくエアハルトとドルチェさん、リンを先頭にして私とナルさんの順になっている。

 崩れてしまった天井の件はナックさんへ伝えるとして、その前にお母様とミケさんに先程の情報を共有する必要がある。

(まさかホド男爵が……監獄棟に居るんて……どこかに隠れているのかな)

 首都スルートに在る犯罪者を収容する施設である監獄は、いわゆる騎士団宿舎の離れである。
 地上部分はたしか四階ぐらいの高さで、取調官たちが寝泊まりするための部屋で、地下も四階ぐらいだったと記憶している。

(でもまずはお父様にこの情報を伝えて、捜索をお願いすることになりそうね)

 国王様から頂いた手紙を信じるなら、私はまだ手配されたままになっているはずだ。
 そんな私が堂々と監獄棟へ顔を出すことは出来ないだろう。

「なぁ、リン」
「なに~?」

 ふと前を歩くエアハルトが気まずそうにリンへ話しかけている。

「その、すまなかった」
「……?」

「そのっ、勝手に……妻などと……」
「……」

「あっ、あの時は咄嗟に……だからその……」
「……」

「…………その、すまん」
「……ふふ、おとうちゃんの説得は任せるわ、あなた」
「――っ!」



「……なにこれ」
「……なんですかこれ」

 多分、友達としては喜んあでげないといけないんだろうけれど、突然始まって突然終わった桃色の会話にナルさんと二人で顔を見合わせる。

 ドルチェさんはエアハルトの隣で砂糖を吐きそうな顔をしていた。

 私だったらこんな展開になったら恥ずかしくて逃げ出してしまいそうだ。
 そういう意味ではリンはしっかりしているなと思う。

「リンー、エアハルトー……その、なんていうかおめでとう?」
「あっ、ありがとう」
「ふふっ、カリスは優しいな~」

 後ろを振り返りながらそんなことを言うリンの顔はほんのり赤くなっていた。

(リン、かわいいなー……あぁ、そうか)

 どうも忘れがちだけれど、私と同級生程度に見えるリンだが、私の倍ぐらい年上なんだったと改めて思う。

(でも……)

 私にはそんな甘い恋愛はまだまだ考えられないだろう。
 クリスわたしが学園で恋に走ってしまった結果、こう言うことになっているのだ。

 そう思うと恋愛はしばらく無いだろうと考える。

(でも案外、困っている時に颯爽と助けてくれたらコロッと惚れそうな気もする)


 私だってまだまだ多感な十五歳だ。あっちの世界だと高校一年生。

 こちらの世界では、結婚適齢期手前といったところだろう。貴族の女性は社交界デビューをし、有力な上位貴族の男性に群がり始める。
 生まれたときから許嫁で十五歳になると同時に結婚することもよくある話だ。

 一般的な市民でも十八歳ぐらいまでには結婚する人が多い。
 逆にセリアンスロープと呼ばれている人たちは長い寿命を持っていたり、見た目がほとんど変わらなかったりすることが多いため、いい人が居れば結婚するというぐらいの感覚だそうだ。

 何れにせよ、私も結婚してみたいかと聞かれても、今はまだ――少なくともしばらくの間は男女云々といった話はお腹いっぱいだ。

(今は……やっぱり私は、世界を見て回りたい)

 そんなことを考えながら、前方で桃色のオーラを吹き出している二人と、完全に蚊帳の外になっているドルチェさんの後ろ姿を眺める。

 ドルチェさんはエアハルトとは対照的に、猫のようになってしまっている背中には哀愁が漂っている。

 ドルチェさんとナルさんは、冒険者のように派手な髪型や髪色ではなく、普通の市民に居そうな髪色と髪型だった。教会の人間として動く時にこのほうが便利だからと言っていた。ふたりとも黒に染めているそうだ。
 装備品も駆け出しの冒険者にしか見えない見た目のものを装備している。

 そのため、冒険者とその後ろをついていく一般人のようにも見える。

「あっ、そうだナルさん」
「……なんですか?」

 隣を歩くナルさんを観察していたら、先程考えていた事を聞いてみようと思った。

「【治癒ヒール】って何回ぐらい使えるんですか?」
「それは満タン状態からってことですか?」
「はい」
「コンディションにもよりますが十回程度でしょうか」

 私はそんな回数を使わなければならないような場面に直面したことはないが、感覚的に使えるかと言われれば多分余裕で使えるだろう。

「その……ナルさんの魔力量って平均的な感じですか?」
「うーん、教会では多い方でしたね。でも司祭の方々には流石に勝てないです」

 限られた人しか使えない回復魔法。教会で学び、修行をして【治癒ヒール】をつかえるようになることが司祭以上の役職に着くことができると聞いた。

 その習得はそれなりのセンスが必要で、教会へ入り修行僧となっても、ほんの一握りの人しかつかえるようにならないとのことだ。

 そしてその消費魔力も、攻撃魔法の【火球ファイアボール】や【飛翔フライ】に比べるとやはり多いそうで、【治癒ヒール】を習得したてだと二~三回使うのが限界だそうだ。

 そう思うと十回も連続でつかえるナルさんは優秀なのだろう。
 ……けれど。

(さっきの感覚からだと多分、百回ぐらいは余裕で使えそう……なんだけど私の魔力量どうなっているの……?)

 教会の同期たちの中でも魔力量が多い方だと言うナルさんの、十倍。
 やはり私の魔力量は、その辺の魔法使いや司祭のとは比べ物にならないらしい。

(……やっぱりあの練習が魔力量が増えた原因なのかなぁ)

 あの練習というのは森を出るまでの間にやっていたやつだ。
 魔力を全力で使い、空っぽにして吐きそうになってから眠って回復をバカみたいに繰り返していたことだ。

 今思えばあの時のわたしの精神状態は相当アレだったようだ。
 そもそも魔法使いにとって魔力の枯渇は命の危険を意味する。
 この世界の人間やセリアンスロープには全員等しく魔力がある。

 魔力が多いか少ないか。外に出せるか出せないか。
 それが魔法使いか、そうではないかの違いなのだ。

 そして自分の魔力を外に出せてしまうのが魔法使い。
 その特性を生かし、すべての魔力を外に出すとどうなるのか?

(そんなの簡単だ。体内に貯めた魔力が枯渇すると次は生命力が魔力に変換されていく。だから「魔力が放出されなくなる=死ぬ」だけだ)


 だから一度魔力枯渇に陥ると生命力が魔力に変換され始める時に、気持ち悪くなったり意識が無くなったりする。

 私はそれを何度も何度も、一日数十回と繰り返してきた。

(……超回復って言うやつなのかな)

 このような訓練法をしている魔法使いはいないだろう。
 何しろ危険すぎる。

 そのため、私の魔力がやたらと多くなってしまっている理由について、理解できる人はいないだろう。

(聞かれても教えられないなぁ~……)

 あのときは極限状態で必死に藻掻いていたからやってしまったのだ。
 正常な思考状態の時に態々やろうとは思えなかった。


 そんなことを話しているうちに、洞穴の端までたどり着いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

処理中です...