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第18話-兎の集団
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縄梯子を登り、縦穴を抜けた先はどこかの住宅の廊下のような場所だった。
「カリス、後の三人もこっち~」
リンの先導で、その廊下を奥へと進んでゆく。
パッと見た感じ、少し古い屋敷のような雰囲気だった。
歩くたびにギシギシと廊下が軋むが、土の壁や柱、天井を見回すと汚れのないとても綺麗だということがわかる。
「ここ、私の家の隣にある集会場みたいな建物なの~」
リンが私にそう教えてくれる。エアハルトが頷いているので、彼は入ったことがあるのだろう。
「ここよ~」
そしてリンが突き当たりの引き戸をガラッと開けた。
扉の先は板張りの部屋になっており、リンによく似た男女と少し筋肉質な男性が五人が車座で座っていた。
(――全員うさ耳だ……男の人も……)
なるほど、これは想像できなかった。
リンのような可愛い子しか知らないから想像もしなかった事実だ。
子供がうさ耳だということは両親もうさ耳。
少し考えれば当然の自然の摂理だった。
入り口で立ち尽くしてしまった私に、ムキムキうさ耳の男性五人と、リンに似た可愛いいうさ耳女性の視線が一斉に私に突き刺さった。
合計十二本のうさ耳もこちらを向く。
「カリス~こっちが私の両親~」
「娘がとても世話になったと聞いた。改めて礼を言わせてくれ」
「カリスさん、娘を助けたいただきありがとうございます」
一番奥に座っていた二人が深々と頭を下げるので「頭をあげてください」と両手を振ってお願いする。
この二人がリンの両親かと言われ納得する。
女性の方は確かに似ている。姉妹だと言われても納得してしまいそうな容姿だった。
男性――リンのお父さんのほうは「どうしてこうなった」と言いたくなるほどマッチョだった。
作務衣のような格好で胸元は胸筋がはっきりと浮かび上がっている。
(ひげ凄い……)
なんというか「ざ・長老!」というぐらいの立派なお髭をたたえている。
「おや? エアハルトくん、まだうちの娘に用が?」
そしてそのリンの父親が、とても冷たい視線をエアハルトへと向ける。
頭のうさ耳の毛がぶわっと膨れ上がっている。
「い、いえ、今回はこちらのカリスさんを護衛してまして」
「おかしなことを言うのだな? エアハルトくんは四日前、スルツゥェイの酒場のカウンターでホド男爵家ゆかりの人物から脱獄犯捕獲を依頼されていたはずでは?」
「うっ……それは……その、色々ありまして」
情報収集が得意だと聞いていたけれど、そこまで詳しく知っているなんて。
(リンの一族こわい……)
「まぁまぁお父ちゃん、それぐらいにして」
リンが父親の肩をポンポン叩くと、彼は私へと視線を向けた。
「改めてリンの父のマル・カネーションと申します。カリスさん、よろしく」
「母のミケ・カネーションです」
「あっ、こっ、こちらこそよろしくお願いしますします」
「事情はリンから聞いておりますが、改めてお聞かせ願えますか?」
マルさんはそういって、自分の隣にソファを出してくれた。
私はそこに大人しく座るとリンも隣に座ってくれた。
私はそこの面々の顔を一度見回してから、簡単に事情を伝えたのだった。
――――――――――――――――――――
「なるほど、大体事情は理解しました。タマは引き続きホド男爵の身辺調査だ。全部調べあげろ」
「おう、任せときな」
「ドラは先行しているクロと合流。一緒に城の憲兵の調査だ。全員の裏を取れ」
「すこしだけ時間かかるかもしれんぞ」
「かまわん。七日で頼む。それと、ハナは城からの依頼があったな、ついでに監獄棟で働いている奴らの裏取り」
「へいへい、人使いの荒いボスだ」
(……猫の名前かな?)
実際はコードネーム的なやつだろうなと思いながら、テキパキと指示を出していくリンの父親のマル。
「あの……その、すごく嬉しいのですが、私無一文で……その」
「何をおっしゃってるのかわかりませんな。これは娘を助けてくれた礼だと思ってください。それにこちらにも事情がありましてな、気にしないで頂きたい」
「あっ、ありがとうございますっ」
私は隣りにいるマルさんの手をギュッと握り、頭を下げてお礼を伝えた。
「お父さん――?」
後ろから上がったリンの声色が何故か怖かった。
「とっ、とにかく暫くはここで身を隠しなさい。うちも好きに使ってくれてかまわん」
「えへへ、カリスーお母ちゃんのご飯とっても美味しいから楽しみにしてて~」
「――うん、ありがとうリン」
「エアハルトの兄貴、こっちはどうしましょう……」
「……どうするかな」
完全に蚊帳の外に置かれたドルチェさんが困った顔をしている。
確かエアハルトから情報収集をお願いされていたが、マルさんたちが動くなら完全に出番はなさそうな感じだった。
「そっちの小僧どもは、ホド男爵の関係者から直依頼を受けたんだろ? 定期的に接触して適当な情報を流して時間稼ぎをしてくれ」
「――わかりました。では早速」
「まて」
立ち上がり出ていこうとするエアハルトたちをマルさんが呼び止め、エアハルトが恐る恐る振り返る。
「気を付けてな」
「あっ、ありがとうございます!」
「それと入り口から出るとバレるから、来た道を戻って入り口を隠しておくように」
「…………はい」
「ただ働きになる分はこっちで補填しよう。それと何かあれば……こちらに連絡を」
「わかりました」
エアハルト達がマルさんに礼をする。
私も出ていこうとするエアハルト達に頭を下げた。
「あの、エアハルト、ドルチェさん、ナルさん、ありがとうございました」
結果的にドルチェさんが拐ってくれたおかげでここに辿り着けたのだ。
傷も呪印も綺麗にしてもらい、感謝しきれない。
「礼を言われる筋合いはないって、こっちこそ色々すまなかった」
暫く「こちらこそ」「いやいや」と応酬が続いたが、結局エアハルトが根負けしたのだった。
◇◇◇
「疲れているだろうから今日は休みなさい」とマルさんに言われ、私はリンに連れられて隣にあるリンの家へとお邪魔した。
そこで振る舞われたリンの母親ミケさんの料理は本当に美味しかった。
お野菜がたっぷりはいったシチューに唐揚げのような揚げ物、それに焼き立てホカホカのパン。
リンも久しぶりの家庭の味なのか、とても嬉しそうに食べていたのが印象的だった。
私も余り実感が無かったが、相当お腹が空いていたようでぺろりと平らげてしまった。
ちなみに、食事中にあの方々の名前は全員本名だという衝撃の事実が発覚した。
◇◇◇
食事後はリンと二人でお風呂をいただき、至福の時間を過ごした。
一週間ぶりのお風呂は気持ちよかった。
ついでにリンの丸い尻尾もふにふにで気持ちよかった。
「久しぶりのベッドだ~カリスはそっち使って~」
私たちはリンの部屋ではなく、客間で二人で寝ることになった。
用意してくれたのはタンクトップのような肌着と短パン。
暖かいのでこれでも十分だったのだが、些か布面積が少なくて恥ずかしい。
リンも同じ服を着ていたが、こちらはさらにセクシーなことになっている。
(まぁいいか、リンしかいないし)
「おー、ふかふかー」
ボスン――と、ベッドに寝転ぶと、柔らかい布団が体を受け止めてくれる。
(あ、リンと同じ匂い……)
「カリス、しばらくはここに居るのよね~」
「え? うん、一旦七日間だけお邪魔するけれど、その後はまだノープラン」
「ノープ……?」
「あぁ、えっと、何も考えてませんって意味。あはは」
「そっか~」
リンは「私はどうしようかな」と溢して、ベッドに仰向けに寝転んだ。
「……冒険者になりたいって言ってたこと?」
「うーん……それもあるんだけどね……はぁ」
珍しくリンが悩んでいる感じだった。
まだ六日ほどしか一緒にいないけれど、リンは直線的な性格だ。
うじうじと悩む姿がちょっと信じられなかった。
「私でよかったら相談して? 大したことできないかもだけれど」
「うん~カリスありがとう~もう少し落ち着いたら相談する~」
「ん、待ってる」
「そういえばお母ちゃんが言ってたお客さんって誰だろうね~」
「んー私は関係ないだろうから……リンの知り合いじゃないの?」
「うーん……」
先ほどお風呂から上がったとき、ミケさんから「明日お客さんが来るから時間とってね」とお願いをされたのだった。
「まぁ~明日になれば~わかるよね~ふぁぁ~」
「ふふ、リン眠そうね。そろそろ寝よっか」
「うん~……カリスおやすみぃ~…………すぅ」
リンは相変わらず、驚きの寝付きの良さだ。
私もモゾモゾと布団に潜り込み枕に頭を埋める。
(あー気持ちいい……これならすぐに…………)
布団の気持ちよさに「しあわせー」というような事を考えた瞬間、すっと眠りに落ちたのだった。
「カリス、後の三人もこっち~」
リンの先導で、その廊下を奥へと進んでゆく。
パッと見た感じ、少し古い屋敷のような雰囲気だった。
歩くたびにギシギシと廊下が軋むが、土の壁や柱、天井を見回すと汚れのないとても綺麗だということがわかる。
「ここ、私の家の隣にある集会場みたいな建物なの~」
リンが私にそう教えてくれる。エアハルトが頷いているので、彼は入ったことがあるのだろう。
「ここよ~」
そしてリンが突き当たりの引き戸をガラッと開けた。
扉の先は板張りの部屋になっており、リンによく似た男女と少し筋肉質な男性が五人が車座で座っていた。
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「カリス~こっちが私の両親~」
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この二人がリンの両親かと言われ納得する。
女性の方は確かに似ている。姉妹だと言われても納得してしまいそうな容姿だった。
男性――リンのお父さんのほうは「どうしてこうなった」と言いたくなるほどマッチョだった。
作務衣のような格好で胸元は胸筋がはっきりと浮かび上がっている。
(ひげ凄い……)
なんというか「ざ・長老!」というぐらいの立派なお髭をたたえている。
「おや? エアハルトくん、まだうちの娘に用が?」
そしてそのリンの父親が、とても冷たい視線をエアハルトへと向ける。
頭のうさ耳の毛がぶわっと膨れ上がっている。
「い、いえ、今回はこちらのカリスさんを護衛してまして」
「おかしなことを言うのだな? エアハルトくんは四日前、スルツゥェイの酒場のカウンターでホド男爵家ゆかりの人物から脱獄犯捕獲を依頼されていたはずでは?」
「うっ……それは……その、色々ありまして」
情報収集が得意だと聞いていたけれど、そこまで詳しく知っているなんて。
(リンの一族こわい……)
「まぁまぁお父ちゃん、それぐらいにして」
リンが父親の肩をポンポン叩くと、彼は私へと視線を向けた。
「改めてリンの父のマル・カネーションと申します。カリスさん、よろしく」
「母のミケ・カネーションです」
「あっ、こっ、こちらこそよろしくお願いしますします」
「事情はリンから聞いておりますが、改めてお聞かせ願えますか?」
マルさんはそういって、自分の隣にソファを出してくれた。
私はそこに大人しく座るとリンも隣に座ってくれた。
私はそこの面々の顔を一度見回してから、簡単に事情を伝えたのだった。
――――――――――――――――――――
「なるほど、大体事情は理解しました。タマは引き続きホド男爵の身辺調査だ。全部調べあげろ」
「おう、任せときな」
「ドラは先行しているクロと合流。一緒に城の憲兵の調査だ。全員の裏を取れ」
「すこしだけ時間かかるかもしれんぞ」
「かまわん。七日で頼む。それと、ハナは城からの依頼があったな、ついでに監獄棟で働いている奴らの裏取り」
「へいへい、人使いの荒いボスだ」
(……猫の名前かな?)
実際はコードネーム的なやつだろうなと思いながら、テキパキと指示を出していくリンの父親のマル。
「あの……その、すごく嬉しいのですが、私無一文で……その」
「何をおっしゃってるのかわかりませんな。これは娘を助けてくれた礼だと思ってください。それにこちらにも事情がありましてな、気にしないで頂きたい」
「あっ、ありがとうございますっ」
私は隣りにいるマルさんの手をギュッと握り、頭を下げてお礼を伝えた。
「お父さん――?」
後ろから上がったリンの声色が何故か怖かった。
「とっ、とにかく暫くはここで身を隠しなさい。うちも好きに使ってくれてかまわん」
「えへへ、カリスーお母ちゃんのご飯とっても美味しいから楽しみにしてて~」
「――うん、ありがとうリン」
「エアハルトの兄貴、こっちはどうしましょう……」
「……どうするかな」
完全に蚊帳の外に置かれたドルチェさんが困った顔をしている。
確かエアハルトから情報収集をお願いされていたが、マルさんたちが動くなら完全に出番はなさそうな感じだった。
「そっちの小僧どもは、ホド男爵の関係者から直依頼を受けたんだろ? 定期的に接触して適当な情報を流して時間稼ぎをしてくれ」
「――わかりました。では早速」
「まて」
立ち上がり出ていこうとするエアハルトたちをマルさんが呼び止め、エアハルトが恐る恐る振り返る。
「気を付けてな」
「あっ、ありがとうございます!」
「それと入り口から出るとバレるから、来た道を戻って入り口を隠しておくように」
「…………はい」
「ただ働きになる分はこっちで補填しよう。それと何かあれば……こちらに連絡を」
「わかりました」
エアハルト達がマルさんに礼をする。
私も出ていこうとするエアハルト達に頭を下げた。
「あの、エアハルト、ドルチェさん、ナルさん、ありがとうございました」
結果的にドルチェさんが拐ってくれたおかげでここに辿り着けたのだ。
傷も呪印も綺麗にしてもらい、感謝しきれない。
「礼を言われる筋合いはないって、こっちこそ色々すまなかった」
暫く「こちらこそ」「いやいや」と応酬が続いたが、結局エアハルトが根負けしたのだった。
◇◇◇
「疲れているだろうから今日は休みなさい」とマルさんに言われ、私はリンに連れられて隣にあるリンの家へとお邪魔した。
そこで振る舞われたリンの母親ミケさんの料理は本当に美味しかった。
お野菜がたっぷりはいったシチューに唐揚げのような揚げ物、それに焼き立てホカホカのパン。
リンも久しぶりの家庭の味なのか、とても嬉しそうに食べていたのが印象的だった。
私も余り実感が無かったが、相当お腹が空いていたようでぺろりと平らげてしまった。
ちなみに、食事中にあの方々の名前は全員本名だという衝撃の事実が発覚した。
◇◇◇
食事後はリンと二人でお風呂をいただき、至福の時間を過ごした。
一週間ぶりのお風呂は気持ちよかった。
ついでにリンの丸い尻尾もふにふにで気持ちよかった。
「久しぶりのベッドだ~カリスはそっち使って~」
私たちはリンの部屋ではなく、客間で二人で寝ることになった。
用意してくれたのはタンクトップのような肌着と短パン。
暖かいのでこれでも十分だったのだが、些か布面積が少なくて恥ずかしい。
リンも同じ服を着ていたが、こちらはさらにセクシーなことになっている。
(まぁいいか、リンしかいないし)
「おー、ふかふかー」
ボスン――と、ベッドに寝転ぶと、柔らかい布団が体を受け止めてくれる。
(あ、リンと同じ匂い……)
「カリス、しばらくはここに居るのよね~」
「え? うん、一旦七日間だけお邪魔するけれど、その後はまだノープラン」
「ノープ……?」
「あぁ、えっと、何も考えてませんって意味。あはは」
「そっか~」
リンは「私はどうしようかな」と溢して、ベッドに仰向けに寝転んだ。
「……冒険者になりたいって言ってたこと?」
「うーん……それもあるんだけどね……はぁ」
珍しくリンが悩んでいる感じだった。
まだ六日ほどしか一緒にいないけれど、リンは直線的な性格だ。
うじうじと悩む姿がちょっと信じられなかった。
「私でよかったら相談して? 大したことできないかもだけれど」
「うん~カリスありがとう~もう少し落ち着いたら相談する~」
「ん、待ってる」
「そういえばお母ちゃんが言ってたお客さんって誰だろうね~」
「んー私は関係ないだろうから……リンの知り合いじゃないの?」
「うーん……」
先ほどお風呂から上がったとき、ミケさんから「明日お客さんが来るから時間とってね」とお願いをされたのだった。
「まぁ~明日になれば~わかるよね~ふぁぁ~」
「ふふ、リン眠そうね。そろそろ寝よっか」
「うん~……カリスおやすみぃ~…………すぅ」
リンは相変わらず、驚きの寝付きの良さだ。
私もモゾモゾと布団に潜り込み枕に頭を埋める。
(あー気持ちいい……これならすぐに…………)
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