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2章-少しずつ前へ

22話-月光の下で、二人

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「ナザックそっち!」
「おう! 『風槍エアランス!」

 ナザックの魔法であっさりと逃げだしたターゲットを処分が完了する。

「それにしても、あの中庭の死屍累々なのどうするよ」
「……はぁ、めんどいけど私が処理しておくわ」

 ここに入るまで散々倒しまくったモブの方々の量を想像し、残りの魔力を考えるとまだ大丈夫そうだ。

「そう言えばこの後一度王都に戻るんだっけ」
「そうよ、最近ナザックって物忘れひどくない?」

「いやぁ……昨日リエが中々寝かせてくれなかったら疲れ――「『水球アクアボール!!」――いでぇぇっ!」


「……ナザック嫌い」
「まっ、まってって、冗談だからさ」

 いくら仲の良い相方同士だとしても、こういうところでそういうことは言わないでほしい。
 最近フレイア女王・・・・・・に表情が増えて良くなったと言われてるが、こういう恥ずかしいときはつい真顔になってしまう。


「あー……それでさっきの話だけど、フレイアさんに報告したあと今度は直ぐに南よ」

「そっか、ガラムのギルマスが何とかっていう案件だっけ」
「そうよ、冒険者ギルドのほうの副マスターの情報捜査。こっちは殺しちゃダメって言われてるからナザック気をつけてね?」

 最近の前にもまして過保護になってきたナザックは魔獣だろうが、犯罪者だろうが私がタゲられたものを直ぐに処分してしまうことが多い。
 守られてるなーと嬉しくなる一方、こいつダイジョブか? と心配にもなってしまう。



「じゃぁ、どうしようか、俺としては二人で一緒に飛びたいんだけど」

 中庭の諸々を処理し終えた私の後ろから抱きついてくるナザック。
 青々と茂った芝生がすっかり真っ黒の液体に沈んでしまっている情緒もない場所だが、私はくるっと振り返りナザックへギュッと抱きついた。

「あ、そうだ最後に体液やら色々……『分別―焼却』」

「じゃ、飛ぶぞ」


 今度こそ処理終了と思った途端ナザックがバッジに魔力を通し、次の瞬間には審議所のロビー……では無く、二人で同棲している部屋へと戻ってきたのだった。


「はぁー今回は長かったなぁ……やっぱり家が一番だよ」
「そう……だけど、ほら、先に城へ行きましょ……あれ?」

 この町で生まれて18年。
 この街で寝起きしている時はほとんど朝の日課のように部屋の窓から眺めていた大きな大聖堂。

 それが縦真っ二つ・・・・・・に割れていた。

「……ナザック、教会が……ティエラ教会の大聖堂が割れているんだけど」
「んあ? あぁ、それ俺先月聞いたよ。アサヒナから」

 あっさりと答えるナザックだが、普通は建物はああいう風に割れるわけがない。
 誰がどうやったらああなってしまうのだろう。

「どうして教えてくれないの……」
「いやほら、仕事に差し障ると思って」

 理由はわからないが、あんな大きな教会が物理的に裂けるなんて、どうやればそんなことができるのだろうか。

 でもこれからフレイアさんへ報告に上がるし、ついでに色々と教えてもらおう。

 私はそんなことを考えながら、服を脱ぎクローゼットから新しい服を取り出す。

「リエ、もう行く?」
「行かないの?」
「ちょっとぐらいゆっくりしたなーって」

「んん……わ、私だってゆっくりしたい……けど、報告が終わるまでがお仕事だから。ほら、行こっ」

 私は気だるそうにするナザックの手を取り、どういう理由か縦に割れてしまっているティエラ教会を眺めながら城へと急いだのだった。

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