12 / 23
1章-責任のある仕事
11話-お城でゴミを見つけました
しおりを挟む
「困りました」
硬く閉ざされたお城の扉の前で私は途方に暮れていました。
衛兵さんもおらず、辺りに誰もいません。
どうすれば良いのでしょうか。
少し考えた私は、ここはお客様が通る入り口だと気づきました。
どこかにお仕事をする人用の裏口があるはずです。
私はその扉を探すために、お城の壁に沿ってぐるっと回ってみることにしました。
「…………行き止まりです」
思った方向はすぐに行き止まりでした。
お堀があり、木の柵で先に進めませんでした。
残されたのは反対側です。
来た道を引き返し、お城の扉を通り過ぎ、反対側へと向かいます。
花壇なのか茂みなのかわからないところの隙間へと入り、奥へと向かいます。
細い裏道のようなところを通ると木の扉がありました。
きっとここが裏口なのでしょう。
私は扉を叩いて「すいません」と呼びかけます。
ですが反応がありません。
近くで人の気配はするのですが聞こえていないようです。
声が小さいせいで聞こえないのでしょう。
このまま壁を登るということもできますが、見つかれば死刑確定ルートは選択したくありません。
扉の向こうに気配が近づいた時にもう一度呼びかけようと、目を瞑ります。
自慢ではないですが、私は人の気配にとても敏感なのです。
ロイさんは種族特性だろうと言っていました。
「…………」
その時おかしなことに気づきました。
お城の中に人の気配がするのですが、壁の外にも人の気配がします。
こんな時間からメイドさんが働いているなんて、やっぱり過酷なお仕事のようです。
すごいです。
「……?」
この気配の動き方は隠れようとしている動き方です。
この体重の動かし方が男の人です。
微かに聞こえる足音は石の上をゴムを張った靴で歩いています。
呼吸音が……ほとんどしません。
「……布を体に巻いた男の人です」
私はそう結論を出しました。
ですが、流石におかしいです。
ここはお城の堀の内側です。
こんな時間に誰かに隠れてコソコソと動き回る鼠なんて私以外居るはずがありません。
「…………」
私は身を低くし、なるべく地面と石壁にくっつくようにします。
そして靴を脱いで素足になります。尻尾のリボンは解いて靴に入れておきます。
呼吸を止め、裏口の扉から更に壁に沿って城の裏の方へと向かいます。
人に見つからないように隅っこを這い回るのは私のほうが得意です。
「…………(そろそろ)」
植木が生い茂るあたりを抜け、そろそろ壁が曲がる辺りまで来ました。
堀とお城の壁がかなり狭くなっています。
辺りには誰も隠れるようなところはありませんが、気配だけは感じます。
(上……です……)
そっと首を上に向けると全身真っ黒の布で身体を包んだ陰が二つ、壁に貼りつていました。
場所的にこの上……確か四階ですが、フレイアさんとお茶をした中庭のテラスです。
すぐ隣が寝室だと言っていました。
あれが、訓練中の兵士さんという可能性も考えましたが、衛兵の人は何も言ってませんでした。
『審判』を使うとすぐに分かりそうですが、魔法を使うとバレる可能性もあります。
「…………」
そんな事を考えているうちに、二つの影がするすると石壁を登っていきます。
手と足に鉤爪のようなものを装備していました。
あれで壁に引っ掛けて登っているようです。
私は素足を石壁に引っ掛けます。
崖登りも木登りも得意です。
もう一度息を止め、なるべく気配を消して身体を壁に擦らせるようにして登っていくことにします。
「…………」
私がまだ身長と同じぐらいしか登っていませんが、二つの影はテラスのほうへと消えました。
私は手の指を引っ掛け、足の指を引っ掛け、石壁を登っていきます。
ちょうど半分ぐらいまで登ったのですが、上からガラスにヒビを入れたような「パキッ」という音が微かに聞こえました。
「…………!!」
私は急いで残り1階分の壁を登ります。
流石に息も苦しく、手と足の爪が少し剥がれました。
でもそれ以上に急がなければならない時なのです。
奥歯を噛み締め、私は上だけを見て登っていきます。
「……はぁ…………はぁ……ーーっ!!」
ガラスの音が聞こえてから一分も立たないうちにテラスへたどり着きましたが、ゴミの姿が見当たりません。
あたりを見回すと、ガラス扉が少しだけ開いているのが見えました。
勝手に入ったら殺されるレベルの場所です。
(壁を登っている時点で殺されますが……私も同罪になるのでしょうか)
ですが、私が同罪になろうともフレイアさんに危害を加えようとするゴミは掃除しなければなりません。
私は気配を消したまま扉に近づくと、片方のゴミが手に武器を持っている姿が見えました。
ベッドのすぐ隣でした。
気配を消しての移動も、壁のぼりも、暗闇の中の視界も――鼠で良かったです。
私は目の前にガラスの扉があることも忘れ、部屋へと飛び込んでしました。
――ガシャァン
ありえないほどのガラス音が響いたと同時にゴミの掃除を開始しました。
「――『分別』っっ!!」
「ぐあっ!?」
「っっ!!」
「!? ーーきゃぁっ!? なにっ!?」
ガラスが割れる音と、私が出してしまった大声、男のうめき声、どれが原因でフレイアさんを起こしてしまったのでしょうか。
扉の外からドタドタと足音がいくつも聞こえます。
しかし私の仕事はまだ終わっていません。
薄汚いゴミは人に見られる前にきちんと掃除をしなくてはなりません。
「『分別――拘束』!!」
私は両手を前に突き出し、もう一度ゴミを『分別』します。
空中に浮いたゴミが二つ、それぞれ右と左に別れ武器と身体にまとっていた服や武器が本体と分裂しました。
ゴミ本体は私の魔力紐でぐるぐる巻きです。
「陛下っ!」
「陛下ご無事ですかっっ!!」
ちょうどその時、部屋のランプが全て灯って薄暗かった部屋がはっきりと見渡せるようになりました。
ベッドで胸元を押さえ震えている寝間着姿のフレイアさん。
駆け込んできた騎士鎧を身につけた人に、シンシアさんとマーガレットさん。
全員に掃除途中のゴミを見られてしまいました。
申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「すぐにゴミ掃除が終わります。もう少しお待ち下さい――『審判』」
フレイアさんに駆け寄るシンシアさんとマーガレットさんを視界の端に収めながら唱えた『審判』により二つのゴミが真っ黒に光りました。
粗大ゴミ確定です。
「…………『分別ー分別ー焼却』」
「――あがっ!?」
まずひとつ、粗大ゴミを掃除しました。
色々と持ってそうだったので、念入りに『分別』して、分解してから本体を焼却しました。
ゴミを右側と左側に分けてしまったので、纏めて片付けられませんでした。
粗大ごみはあと一つです。
硬く閉ざされたお城の扉の前で私は途方に暮れていました。
衛兵さんもおらず、辺りに誰もいません。
どうすれば良いのでしょうか。
少し考えた私は、ここはお客様が通る入り口だと気づきました。
どこかにお仕事をする人用の裏口があるはずです。
私はその扉を探すために、お城の壁に沿ってぐるっと回ってみることにしました。
「…………行き止まりです」
思った方向はすぐに行き止まりでした。
お堀があり、木の柵で先に進めませんでした。
残されたのは反対側です。
来た道を引き返し、お城の扉を通り過ぎ、反対側へと向かいます。
花壇なのか茂みなのかわからないところの隙間へと入り、奥へと向かいます。
細い裏道のようなところを通ると木の扉がありました。
きっとここが裏口なのでしょう。
私は扉を叩いて「すいません」と呼びかけます。
ですが反応がありません。
近くで人の気配はするのですが聞こえていないようです。
声が小さいせいで聞こえないのでしょう。
このまま壁を登るということもできますが、見つかれば死刑確定ルートは選択したくありません。
扉の向こうに気配が近づいた時にもう一度呼びかけようと、目を瞑ります。
自慢ではないですが、私は人の気配にとても敏感なのです。
ロイさんは種族特性だろうと言っていました。
「…………」
その時おかしなことに気づきました。
お城の中に人の気配がするのですが、壁の外にも人の気配がします。
こんな時間からメイドさんが働いているなんて、やっぱり過酷なお仕事のようです。
すごいです。
「……?」
この気配の動き方は隠れようとしている動き方です。
この体重の動かし方が男の人です。
微かに聞こえる足音は石の上をゴムを張った靴で歩いています。
呼吸音が……ほとんどしません。
「……布を体に巻いた男の人です」
私はそう結論を出しました。
ですが、流石におかしいです。
ここはお城の堀の内側です。
こんな時間に誰かに隠れてコソコソと動き回る鼠なんて私以外居るはずがありません。
「…………」
私は身を低くし、なるべく地面と石壁にくっつくようにします。
そして靴を脱いで素足になります。尻尾のリボンは解いて靴に入れておきます。
呼吸を止め、裏口の扉から更に壁に沿って城の裏の方へと向かいます。
人に見つからないように隅っこを這い回るのは私のほうが得意です。
「…………(そろそろ)」
植木が生い茂るあたりを抜け、そろそろ壁が曲がる辺りまで来ました。
堀とお城の壁がかなり狭くなっています。
辺りには誰も隠れるようなところはありませんが、気配だけは感じます。
(上……です……)
そっと首を上に向けると全身真っ黒の布で身体を包んだ陰が二つ、壁に貼りつていました。
場所的にこの上……確か四階ですが、フレイアさんとお茶をした中庭のテラスです。
すぐ隣が寝室だと言っていました。
あれが、訓練中の兵士さんという可能性も考えましたが、衛兵の人は何も言ってませんでした。
『審判』を使うとすぐに分かりそうですが、魔法を使うとバレる可能性もあります。
「…………」
そんな事を考えているうちに、二つの影がするすると石壁を登っていきます。
手と足に鉤爪のようなものを装備していました。
あれで壁に引っ掛けて登っているようです。
私は素足を石壁に引っ掛けます。
崖登りも木登りも得意です。
もう一度息を止め、なるべく気配を消して身体を壁に擦らせるようにして登っていくことにします。
「…………」
私がまだ身長と同じぐらいしか登っていませんが、二つの影はテラスのほうへと消えました。
私は手の指を引っ掛け、足の指を引っ掛け、石壁を登っていきます。
ちょうど半分ぐらいまで登ったのですが、上からガラスにヒビを入れたような「パキッ」という音が微かに聞こえました。
「…………!!」
私は急いで残り1階分の壁を登ります。
流石に息も苦しく、手と足の爪が少し剥がれました。
でもそれ以上に急がなければならない時なのです。
奥歯を噛み締め、私は上だけを見て登っていきます。
「……はぁ…………はぁ……ーーっ!!」
ガラスの音が聞こえてから一分も立たないうちにテラスへたどり着きましたが、ゴミの姿が見当たりません。
あたりを見回すと、ガラス扉が少しだけ開いているのが見えました。
勝手に入ったら殺されるレベルの場所です。
(壁を登っている時点で殺されますが……私も同罪になるのでしょうか)
ですが、私が同罪になろうともフレイアさんに危害を加えようとするゴミは掃除しなければなりません。
私は気配を消したまま扉に近づくと、片方のゴミが手に武器を持っている姿が見えました。
ベッドのすぐ隣でした。
気配を消しての移動も、壁のぼりも、暗闇の中の視界も――鼠で良かったです。
私は目の前にガラスの扉があることも忘れ、部屋へと飛び込んでしました。
――ガシャァン
ありえないほどのガラス音が響いたと同時にゴミの掃除を開始しました。
「――『分別』っっ!!」
「ぐあっ!?」
「っっ!!」
「!? ーーきゃぁっ!? なにっ!?」
ガラスが割れる音と、私が出してしまった大声、男のうめき声、どれが原因でフレイアさんを起こしてしまったのでしょうか。
扉の外からドタドタと足音がいくつも聞こえます。
しかし私の仕事はまだ終わっていません。
薄汚いゴミは人に見られる前にきちんと掃除をしなくてはなりません。
「『分別――拘束』!!」
私は両手を前に突き出し、もう一度ゴミを『分別』します。
空中に浮いたゴミが二つ、それぞれ右と左に別れ武器と身体にまとっていた服や武器が本体と分裂しました。
ゴミ本体は私の魔力紐でぐるぐる巻きです。
「陛下っ!」
「陛下ご無事ですかっっ!!」
ちょうどその時、部屋のランプが全て灯って薄暗かった部屋がはっきりと見渡せるようになりました。
ベッドで胸元を押さえ震えている寝間着姿のフレイアさん。
駆け込んできた騎士鎧を身につけた人に、シンシアさんとマーガレットさん。
全員に掃除途中のゴミを見られてしまいました。
申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「すぐにゴミ掃除が終わります。もう少しお待ち下さい――『審判』」
フレイアさんに駆け寄るシンシアさんとマーガレットさんを視界の端に収めながら唱えた『審判』により二つのゴミが真っ黒に光りました。
粗大ゴミ確定です。
「…………『分別ー分別ー焼却』」
「――あがっ!?」
まずひとつ、粗大ゴミを掃除しました。
色々と持ってそうだったので、念入りに『分別』して、分解してから本体を焼却しました。
ゴミを右側と左側に分けてしまったので、纏めて片付けられませんでした。
粗大ごみはあと一つです。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる