8 / 22
2章 旅行から入学試験まで
8話 青い人形と空中鉄道
しおりを挟む
早朝にも関わらず、首都に位置するターミナルステーション内の様子は
運ばれてくる貨物や行き交う人々の熱気により、すでに大きな賑わいを見せていました。
様々な人々が訪れるステーション内には
お土産や雑貨を購入する事ができる売店や食事を楽しめる飲食店まで
旅行客や通勤者にも優しい、便利なお店がいくつも設けられています。
そして、ここにも一人、いえ、正しくは一人ではありませんが
美味しそうな香りに釣られた、人形がぽつんと一体で、小さな財布を片手に
販売用ワゴンに立てかけられた、メニュー表を吟味しています。
{ステーション限定メニュー販売中!!
タロストレインのフードワゴン 元気な毎日はおいしい朝食から!}
・フィッシュアンドチップスと濃厚タルタルソース 580レペ
・ミートパイと温野菜のセット 980レペ
・冷凍フルーツの縛り売り 350レペ
・テイクアウトドリンク 200レペ
(珈琲、カフェオレ、ストレートティー
ミルクティー、ホットジンジャー)
「困りました
どれもはじめて見る物ばかりで、とても気になります」
悩みに悩んで、財布の中身と相談した結果
アレンは、ミートパイのセットBOXを2つと温かい飲み物を2つ購入することにしました。
テイクアウト用の蓋が付いたカップには
それぞれに、カフェオレとミルクティーが注がれています。
彼の師匠が予約した、学園都市行きの列車の宿泊プランには
旅の最中でも、朝昼晩問わず、しっかりとした食事をとる事ができる
レストラン車両の利用料も含まれていた為、本来であれば不要なはずの買い物ではありましたが
旅先で食べ過ぎてしまう事はよくある話なので、気にしてはいけません。
二人分の朝食にしては、やや多めの料理を両手に抱えたアレンは
今頃、慌てふためきながら、自らの弟子の姿をあちこち探し回っているであろう
師匠ライルの元へと向かいます。
星の祝福が満ちる王国【星の都】
その中心に位置する首都【エウレぺ】の大型ターミナルから出発する
空中鉄道【タロストレイン】での3泊4日にわたる鉄道の旅路は
一人と一体による、発車時刻ギリギリの駆け込み乗車という
大変、慌ただしいスタートで幕を開けました。
「先頭の2列は走行用と従業員の専用スペースだから立ち入り禁止
3列目から乗客者用の宿泊スペース
宿泊料金や設備のランクが高い順に、一等車、二等車、三等車で
その後ろに、飲食用のレストラン車両が挟まってる
ルームサービスも頼めるらしいけど
せっかくだ、アレンがレストランでの作法とかに早く慣れるよう
食事はなるべくあっちでとることにしよう
そして後ろに、途中下車用の簡易的な座席スペースの車両が続いて
そこから先の車両は、全て貨物車両
駅から見た、あの長い列車のうち、割合的には人が乗るスペースが3~4割で
残りの6割程はすべて貨物車両だろう
この国の物流は、国の上空を横断し進む、空中鉄道を用いた運搬が主流だから
一度に運ぶ量でいえば、人よりも荷物の方がよっぽど多いんだよ」
「国の上空に、列車のレールを固定して走行させることで
地上に設置されていう面積は、レールを支えるための柱の断面積のみとなります
これならば、地上にレールを引くための、大規模な街の配置変更を伴わず
レールを支える柱の周辺工事のみに抑えられるため
すでにある建造物を、取り壊すことも少なくなり
とても良い方法だと思います」
「そうだな、文字にして読むだけだと
利点の多い、完璧な解決策に見えるよな
でも、魔法にしろ技術にしろ、完璧なものなんて存在しない
誰もが満足して、不平不満も無く、問題が何もない方法なんて、そうそうあるもんじゃない
実際、この方法でも
近隣住民との騒音トラブルが後を絶たなかったり、耐久性の計算ミスで倒壊事故が起きたり
まあ、いろいろ問題点や改善点も多かったらしいんだ
何度も失敗を繰り返して、そこから修正や改良を重ねていかなければいけない過程っていうのは
物づくりにおいて、絶対に避けることの出来ない作業だよ
まぁ、大規模な工事の場合、その失敗が人の死につながるから
そんなに簡単な話ではすまないけど」
走行を続ける、列車の揺れに耐えながら
魔法士ライルと人形アレンは、彼らが予約した二等車両の宿泊スペースへ向かいます。
やや横幅の狭い、列車内の渡り廊下を突き進んでいくと
ちょうど二等車両の中間地点と思われる位置にて、チケットが指し示す番号と
同じ数字が刻まれた扉を見つけました。
二等車両 502号室 と書かれた
趣を感じる木製の扉
古びた扉の取っ手として取り付けられた、金色のドアノブの下側には
白い塗料で描かれた、真新しい魔法陣が刻まれています。
あったあった、やっと見つけた、と
ライルが慣れた様子で、扉の魔法陣に向かい
手に持っていた、二人分の乗車チケットを差し出すと
パクリ
突如、扉から唐突に現れた
焦単語げ茶色の扉と同様の色をした、木目柄の大きな唇が
差し出された二枚の紙切れを、きれいに食べてしまいました。
モグモグと咀嚼を続ける唇の上部には
新たに { welcome } の文字が浮かび上がります。
ゴクン、気持ちの良い音を立てて、二枚のチケットを飲み込んだ大きな唇は
満足したといわんばかりに、その大きさを徐々に縮めてゆき
手のひらサイズほどの形状を落ち着けたところで、流調に挨拶を始めました。
『この度は、空中鉄道タロストレインでの宿泊プランをご利用いただき
誠にありがとうございます!
当鉄道では、お客様に快適なご旅行を楽しんで頂けますよう
宿泊用車両の各部屋には、防犯用人工精霊を組み込ませて頂いておりますので
何かお困りごとやご質問、当鉄道内の案内など必要でしたら
お気軽に! ワタクシ共、人工精霊にお声がけくださいませ!!!
あ、挨拶遅れましたが
ワタクシ、この二等車両502号室の守りを任されております
チャッティといいます
お客様もどうぞ気兼ねなく、チャッティ、と、お呼びいただければ
そう! 何度でも! いつ何時何回でも、是非ともワタクシの名前をお呼びくださいませお客様!! 』
「はい、はじめましてチャッティさん
僕の名前はアレン・フォートレスです、質問をしても良いですか? 」
『おや! 可愛らしい青い坊ちゃん!! なんと嬉しい! 質問とは何ですか!? 』
ドアから生えたおしゃべりな唇に
アレンは戸惑うことなく、今自身が感じた疑問を素直に伝えます。
「どうして、そんなに大きな声でしゃべるのですか? 」
『はい! それはですね
ワタクシが、おしゃべりが大好きすぎるが故の事なのです!
ワタクシは産まれた時から、人と話すことが好きなのですが
なのに、ワタクシのおしゃべりが喧しい!!! との苦情が多く
502号室には、あまりお客様が来なくなってしまって…
だから、久しぶりのお客様! 久しぶりの会話!! 独り言以外での、愉快なおしゃべり!!!
もう、嬉しく嬉しくてたまらなくて、先程から興奮が止まらないのです!!!』
そういえば
二等車にしては、えらくお安いお値段だったな、と
宿泊費が想定よりも安く済んで、内心喜んでいたライルは
浅はかだった自身の考えを、今更ながらに深く後悔しました。
無事、502号室にも入室し終え
それぞれの寝床に、旅の荷物を置いたアレンとライルは
かれこれ二時間以上しゃべり続けて止まらない、人工精霊チャッティーの喧しいおしゃべりから逃れるように
列車内に設けられた、レストラン車両へと移動しました。
昼食にはまだ早い時間帯ではありましたが
ガラス張りの窓が大きく設計された車両内では
既に、多くの乗客達が、軽食やお茶などを片手に
移り変わり続ける、窓からの美しい景色を楽しんでいる様子がうかがえます。
列車の中とは、とても思えない程
作りこまれた内装に圧倒されながらも
1人と1体は、ウエイターから案内された、二人用のテーブルに腰を落ち着けます。
白いテーブルクロスの上に置かれた、赤いカバーのメニュー表をペラペラとめくりながら
(アレンが買ってきてくれたミートパイ、結構デカかったな、ちっとも腹が空いてない
でも、たしかここの夕食は
城でも噂になるほど、美味いと評判だったはず……
よし! ここは夜に備えて、昼食は抜いておくことにしよう)
荷物整理の際、弟子からのお土産を、すでに摘まんでしまっていたライルは
夜に備え、昼は控えめに、紅茶とフルーツの盛り合わせを注文。
そして、こちらもそのデカいパイを
師匠との荷下ろし中に、いつの間にやらペロリと平らげていたアレンは
「これをおねがいします」
鶏肉のトマト煮込み、サラダ、パンがセットになった
ランチメニューの内の1つを注文しました。
トマトソースと沢山の野菜で、柔らかく煮込まれた鶏肉を
おぼつかない手つきながら、ナイフとフォークを懸命に使い
時折、苦戦しながらも美味しそうに食べ進めていくアレン。
それを横目にライルはというと
紅茶をすすりつつ、小さなフォークで、小皿に入ったリンゴや苺をちまちまと口に運びながら
窓の外に映る、流れるだけの景色、をぼんやりと見つめるのでした。
「お客様、これより当鉄道ご利用への感謝の気持ちとして
スモールケーキのサービスを行えるのですが、お茶のお供に如何ですか?」
「へー、そんなサービスまであるのか
えらく気前がいいな」
「日頃より、当鉄道をご利用下さるお客様方への、些細な感謝の気持ちです
それと、今度ターミナルステーション内にて、タロストレインのオリジナルケーキ等を購入できる
新店舗がオープンする事となりまして、そちらの宣伝も兼ねております」
「なるほど、後者が本命だな、ナットク、ナットク
それじゃあ二人分もらおうかな、アレンも食べるだろ?」
「はい、ケーキ食べてみたいです」
「かしこまりました、ではミニケーキをお二つと
追加の紅茶をお持ち致しますので、もう少々お待ちください」
予定には無かったサプライズに遭遇したライルとアレンは
思いがけない幸運に上機嫌です。
レストラン車両内の中央部分に、パフォーマンス用として設けられたステージの上では
空中列車お抱えのパティシエ達が、四角形の大きいケーキを、先の丸い細長いナイフでカットしています。
背の低い黄緑色の巨大ケーキは
手のひらサイズ程の可愛らしい大きさに、次々と切り分けられ
白い皿に盛り付けられて、今か今かと待ちわびる、乗客たちのもとへと順番に配られていきました。
「理由はなんであれ
美味しい物を頂けるんだ、ラッキーという事には変わらないよな」
ケーキが切られています。
「師匠、お腹の調子は大丈夫ですか?
先程は、過剰な満腹感に疲労している、とのことでしたが」
次々と配られます。
「うん、まだちょっと苦しいかな
やっぱりあのミートパイは、朝食にしてはデカすぎたと思う
あれを選んだアレンもすごいが
あれを販売している販売元もすごいよ、もっと小さくてもいいのに」
美味しそうに、ケーキを頬張る人々が増えてきました。
「師匠がくださった本の中に
ミートパイが登場してくるお話があり、前から興味がありました
この度、食べることが出来てうれしかったです
お話の通り、とても美味しかったです」
ケーキを配るウェイターが、忙しなく動き続けます。
「そうか、そりゃよかった
確かに、物語に出てくる食べ物や、絵とかに描かれた料理って
たまに、すごく美味しそうに感じる時があるよな
表現力の影響かな?
ちなみに、どんな話にミートパイが出て来たんだ?」
ケーキの順番は、まだもう少し先の様です。
「はい、家を襲ってきたオオカミを
魔女のおばあさんが、ミートパイにして食べる話でした」
「そ、それは、なんというか、過激なばあさんだな
………最近の児童書には、そんな話も書かれてるのか
もっと内容見て買うんだった」
食欲の無くなる会話内容のせいなのか
午前中に、油っぽいパイをたらふく食べて、列車に揺られたせいなのか
ライルは次第に、腹部に不快感を覚えてきました。
「アレン、俺ちょっとお手洗いに行ってくるから
ケーキと紅茶が来たら、先に食べててくれ、すぐ戻るから」
「師匠、なんだか顔色が先ほどより優れません
何か手伝えることがあるかもしれないので、お手洗いへは僕も同行します」
「無いよ!? トイレでそんなに
何か手伝ってもらう様な内容って、そんなに無いよ!? 大丈夫だから!
……というか、何をどう手伝う気だったんだ
二人してテーブルを離れてたら、ウェイターさんが困っちゃうだろ?
俺の事は大丈夫だから、席でケーキが来るの待っててくれ」
「分かりました、何かありましたら、いつでも呼んでください」
片手をひらひらと振りながら、ライルはそそくさと席を立ちます。
二人用の小さなテーブルには、人形のアレン一体だけが残されました。
「……師匠は無事でしょうか」
ケーキの配布が進んでいきます。
「………そういえば、アイスクリームに様々な味があるように
ケーキにも、色々な種類があるのでしたね」
人の出入りも増えてきました。
「あの黄緑色のケーキは、いったい何味なのでしょうか?
断面の構造的には……
三種類の異なった材料が、断層のように重なり、その上からクリームでコーティング
天端に当たる一番上の面に、飾りのような物が、いくつか乗っているのが見えますが」
お手洗いへ続く扉から、人が出てきました。ライルではありません。
「黄緑色のケーキの上に、薄紫の小さな花
あの花も食べられるのでしょうか? 」
扉から現れたのは、深い緑色の長い髪を、一つ結びで後ろにまとめた少年でした。
少し、体調が悪そうです。
「お待たせいたしました
こちら、ご注文のフレーバーティーになります
ミニケーキの方は、もう少々お待ちください」
「わかりました、ありがとうございます」
ふらふらと、よろけながら歩く少年に
慌ただしくケーキを運んでいた、ウェイターの一人がぶつかってしまいました。
「あ! この紅茶
果物と花の香りがします、おもしろいです」
よろけたウェイターはバランスを崩し、後側に倒れこみ
ケーキを切り分けていた、パティシエのエプロンを引っ張ってしまいます。
「早く師匠にも飲んでもらいたいです
そういえば、僕が鶏肉の煮込みを食べている時に
師匠が飲んでいたお茶は、鮮やかな赤色でしたが
今運ばれてきたお茶は、淡いオレンジ色をしています
ひょっとして、味も違ったりするのでしょうか?」
強く引っ張られ、バランスを崩したパティシエは
切り分け途中だった、大きなケーキが乗ったワゴンを、盛大にひっくり返してしまいます。
続けて、近くにいた別のウェイターが
飛んで行ったそのケーキを、なんとか受け止めようと飛び出しますが
勢い余って、より遠くへと投げ飛ばしてしまいました。
「窓の外から見える景色が変わってきました
建物の大きさが小さくなって、本に出て来た小人の家みたいです」
宙を舞うケーキは、クルクルと大きく回転しながら、落下を続け……
「あ、ケーキが運ばれてきました
師匠も早く、戻ってくればいいな」
しばらくした後
無事に、体調の回復したライルは
上機嫌で、アレンの待つテーブル席へと戻ってきます。
「アレン、遅くなって悪かったな
ケーキと紅茶はもう来……………え?
ア、アレン、どうしたこれ!?」
「師匠、おかえりなさい
バイタルの異常が回復傾向にあります
師匠の体調が戻ったようで、よかったです」
「申し訳ありません!!
すぐに、変わりのお召し物をご用意致しますので、本当に申し訳ありません!!! 」
戻ったライルを出迎えたのは
ナプキン片手に、大慌てのウェイトレス達
ステージの方で、転倒している数名の従業員
そして……
「ケーキという物は、すごくおいしいですね、素晴らしいと思います」
落ちてきたケーキを、避けることもなく
頭から大胆に受け止めた結果、全身クリームまみれになったアレンでした。
黄緑色のケーキは、ピスタチオクリームのナッツケーキだったようです。
薄紫色のスミレが可愛らしい。
夜も更けて、時刻は午前一時過ぎ
ガタンガタンと、揺れ続ける室内に響くのは
ライル一人分の寝息と、いまだに喋り続けているチャッティーの独り言のみでした。
(このしゃべり声の中でも、あっという間に眠ってしまうなんて
師匠は、よほど疲れていたようです
たくさん寝て、ゆっくり休んで欲しいです)
数日間による、不眠不休の学習活動に、すっかり慣れてしまった人形アレンは
眠り方を忘れてしまったのか
はたまた、壁から生えた唇の声がうるさすぎて寝付けないのか
ちっとも眠る事が出来ず、退屈な時間を過ごしていました。
(師匠から、他の乗客の迷惑になったり、迷子や誘拐の危険性があるため
車内での、無闇な探検は控えるよう言われてますが……
今の時刻は午前一時、つまりは真夜中です
この鉄道に乗車されている皆さんは
僕と違って人間ですし、きっと旅の疲れもあって、寝静まっている頃合いでしょう
だからきっと、探検しても大丈夫なはずです、たぶん)
勝手な理屈と言い訳を並べながら
音を立ててライルを起こさないよう、アレンはベットの中で、手早く身支度を整えます。
「チャッティーさん、僕は列車内を少し、散歩してきますので
鍵の開け閉めをお願いします
あと、師匠がもし目を覚ましたら、僕はトイレに行っていると伝えて下さい」
『あらあら悪い子いけない子
でも、止まらない冒険心は、分からなくも無いですよ?
あたたかくしてお出かけくださいませ、夜明けまでには戻ってね、坊ちゃん』
「はい、ありがとうございます
行ってきます」
編み上げブーツに、カーキ色の半ズボン
白いシャツのボタンを上まで留めて、赤いチェック柄の毛布を肩からかけると
人形アレンは、静まり返った深夜の列車内へと、出掛けて行くのでした。
(おまけ)
〔タロストレイン 宿泊者向けパンフレットより抜粋〕
〈三等車両〉
各室の定員 :1~2人用
備え付け設備:収納式ベット2台、収納式テーブル、着脱式照明具、収納スペース、目隠し用カーテン
説明 :座席スペースを活用した簡易的個室型宿泊プラン。
向かい合わせに設置された座席は収納式の簡易ベットとなっており
限られたスペースに機能を詰め込んだ
シンプルな形状の個室となっております。
三等車両には共用エリアとして
シャワールームやコインランドリー等も完備
毛布や枕、石鹸などの備品類も、こちらのエリアから
必要なものを選んで使用して頂く為
ご予算を抑えたい方におすすめのお部屋です。
〈二等車両〉
各室の店員 :1~4人用
備え付け設備:セミダブルベット2台、収納式ベット1台、折り畳み式ソファ1台、ミニテーブルセット
着脱式照明具、収納スペース、シャワールーム&洗面所
説明 :折り畳み式のソファやベットを活用することで
最大4名が泊まれる完全個室プラン。
各部屋には
それぞれシャワールームが設けられており、時間帯等に気を遣わず
使用することが出来、長旅でも快適な時間を過ごすことが可能です。
また、二等車両からはルームサービスをご利用いただくことで
レストラン車両に移動することなく
お部屋でお食事や軽食などを楽しんで頂けます。
希望者には娯楽品(チェス、トランプ、書籍など)の貸し出しも行っております。
〈一等車両〉
各室の店員 :1~3人用
備え付け設備:ダブルベット2台、可動式ソファ1台、テーブルセット、移動浮遊式照明器具
収納用クローゼット、バスルーム&洗面所、トイレ、上映スクリーン、投影機、本棚
音声再生機、空気清浄機
説明 :インテリアにもこだわった高級感溢れる完全個室プラン。
大きなダブルベットに加え、可動式ソファの座席部分を広げる事で、
最大3名同時に泊まることも可能な事に加えて
浴槽にもこだわったバスルーム付き
備え付けの投影機や音声再生機をご使用いただくことで
映像や音楽をお楽しみいただけます。
また、真横に広く作られた窓からは
移り変わる景色を存分にご堪能いただけます。
一等車両には
二等車両でもご利用可能でしたルームサービスや娯楽品の貸し出しに加え
ドリンクのサービスを行っています。
事前に時刻や内容を指定して頂くことで
モーニングティーやアフタヌーンティーなどもご提供可能です。
(このページはここで終わっている)
運ばれてくる貨物や行き交う人々の熱気により、すでに大きな賑わいを見せていました。
様々な人々が訪れるステーション内には
お土産や雑貨を購入する事ができる売店や食事を楽しめる飲食店まで
旅行客や通勤者にも優しい、便利なお店がいくつも設けられています。
そして、ここにも一人、いえ、正しくは一人ではありませんが
美味しそうな香りに釣られた、人形がぽつんと一体で、小さな財布を片手に
販売用ワゴンに立てかけられた、メニュー表を吟味しています。
{ステーション限定メニュー販売中!!
タロストレインのフードワゴン 元気な毎日はおいしい朝食から!}
・フィッシュアンドチップスと濃厚タルタルソース 580レペ
・ミートパイと温野菜のセット 980レペ
・冷凍フルーツの縛り売り 350レペ
・テイクアウトドリンク 200レペ
(珈琲、カフェオレ、ストレートティー
ミルクティー、ホットジンジャー)
「困りました
どれもはじめて見る物ばかりで、とても気になります」
悩みに悩んで、財布の中身と相談した結果
アレンは、ミートパイのセットBOXを2つと温かい飲み物を2つ購入することにしました。
テイクアウト用の蓋が付いたカップには
それぞれに、カフェオレとミルクティーが注がれています。
彼の師匠が予約した、学園都市行きの列車の宿泊プランには
旅の最中でも、朝昼晩問わず、しっかりとした食事をとる事ができる
レストラン車両の利用料も含まれていた為、本来であれば不要なはずの買い物ではありましたが
旅先で食べ過ぎてしまう事はよくある話なので、気にしてはいけません。
二人分の朝食にしては、やや多めの料理を両手に抱えたアレンは
今頃、慌てふためきながら、自らの弟子の姿をあちこち探し回っているであろう
師匠ライルの元へと向かいます。
星の祝福が満ちる王国【星の都】
その中心に位置する首都【エウレぺ】の大型ターミナルから出発する
空中鉄道【タロストレイン】での3泊4日にわたる鉄道の旅路は
一人と一体による、発車時刻ギリギリの駆け込み乗車という
大変、慌ただしいスタートで幕を開けました。
「先頭の2列は走行用と従業員の専用スペースだから立ち入り禁止
3列目から乗客者用の宿泊スペース
宿泊料金や設備のランクが高い順に、一等車、二等車、三等車で
その後ろに、飲食用のレストラン車両が挟まってる
ルームサービスも頼めるらしいけど
せっかくだ、アレンがレストランでの作法とかに早く慣れるよう
食事はなるべくあっちでとることにしよう
そして後ろに、途中下車用の簡易的な座席スペースの車両が続いて
そこから先の車両は、全て貨物車両
駅から見た、あの長い列車のうち、割合的には人が乗るスペースが3~4割で
残りの6割程はすべて貨物車両だろう
この国の物流は、国の上空を横断し進む、空中鉄道を用いた運搬が主流だから
一度に運ぶ量でいえば、人よりも荷物の方がよっぽど多いんだよ」
「国の上空に、列車のレールを固定して走行させることで
地上に設置されていう面積は、レールを支えるための柱の断面積のみとなります
これならば、地上にレールを引くための、大規模な街の配置変更を伴わず
レールを支える柱の周辺工事のみに抑えられるため
すでにある建造物を、取り壊すことも少なくなり
とても良い方法だと思います」
「そうだな、文字にして読むだけだと
利点の多い、完璧な解決策に見えるよな
でも、魔法にしろ技術にしろ、完璧なものなんて存在しない
誰もが満足して、不平不満も無く、問題が何もない方法なんて、そうそうあるもんじゃない
実際、この方法でも
近隣住民との騒音トラブルが後を絶たなかったり、耐久性の計算ミスで倒壊事故が起きたり
まあ、いろいろ問題点や改善点も多かったらしいんだ
何度も失敗を繰り返して、そこから修正や改良を重ねていかなければいけない過程っていうのは
物づくりにおいて、絶対に避けることの出来ない作業だよ
まぁ、大規模な工事の場合、その失敗が人の死につながるから
そんなに簡単な話ではすまないけど」
走行を続ける、列車の揺れに耐えながら
魔法士ライルと人形アレンは、彼らが予約した二等車両の宿泊スペースへ向かいます。
やや横幅の狭い、列車内の渡り廊下を突き進んでいくと
ちょうど二等車両の中間地点と思われる位置にて、チケットが指し示す番号と
同じ数字が刻まれた扉を見つけました。
二等車両 502号室 と書かれた
趣を感じる木製の扉
古びた扉の取っ手として取り付けられた、金色のドアノブの下側には
白い塗料で描かれた、真新しい魔法陣が刻まれています。
あったあった、やっと見つけた、と
ライルが慣れた様子で、扉の魔法陣に向かい
手に持っていた、二人分の乗車チケットを差し出すと
パクリ
突如、扉から唐突に現れた
焦単語げ茶色の扉と同様の色をした、木目柄の大きな唇が
差し出された二枚の紙切れを、きれいに食べてしまいました。
モグモグと咀嚼を続ける唇の上部には
新たに { welcome } の文字が浮かび上がります。
ゴクン、気持ちの良い音を立てて、二枚のチケットを飲み込んだ大きな唇は
満足したといわんばかりに、その大きさを徐々に縮めてゆき
手のひらサイズほどの形状を落ち着けたところで、流調に挨拶を始めました。
『この度は、空中鉄道タロストレインでの宿泊プランをご利用いただき
誠にありがとうございます!
当鉄道では、お客様に快適なご旅行を楽しんで頂けますよう
宿泊用車両の各部屋には、防犯用人工精霊を組み込ませて頂いておりますので
何かお困りごとやご質問、当鉄道内の案内など必要でしたら
お気軽に! ワタクシ共、人工精霊にお声がけくださいませ!!!
あ、挨拶遅れましたが
ワタクシ、この二等車両502号室の守りを任されております
チャッティといいます
お客様もどうぞ気兼ねなく、チャッティ、と、お呼びいただければ
そう! 何度でも! いつ何時何回でも、是非ともワタクシの名前をお呼びくださいませお客様!! 』
「はい、はじめましてチャッティさん
僕の名前はアレン・フォートレスです、質問をしても良いですか? 」
『おや! 可愛らしい青い坊ちゃん!! なんと嬉しい! 質問とは何ですか!? 』
ドアから生えたおしゃべりな唇に
アレンは戸惑うことなく、今自身が感じた疑問を素直に伝えます。
「どうして、そんなに大きな声でしゃべるのですか? 」
『はい! それはですね
ワタクシが、おしゃべりが大好きすぎるが故の事なのです!
ワタクシは産まれた時から、人と話すことが好きなのですが
なのに、ワタクシのおしゃべりが喧しい!!! との苦情が多く
502号室には、あまりお客様が来なくなってしまって…
だから、久しぶりのお客様! 久しぶりの会話!! 独り言以外での、愉快なおしゃべり!!!
もう、嬉しく嬉しくてたまらなくて、先程から興奮が止まらないのです!!!』
そういえば
二等車にしては、えらくお安いお値段だったな、と
宿泊費が想定よりも安く済んで、内心喜んでいたライルは
浅はかだった自身の考えを、今更ながらに深く後悔しました。
無事、502号室にも入室し終え
それぞれの寝床に、旅の荷物を置いたアレンとライルは
かれこれ二時間以上しゃべり続けて止まらない、人工精霊チャッティーの喧しいおしゃべりから逃れるように
列車内に設けられた、レストラン車両へと移動しました。
昼食にはまだ早い時間帯ではありましたが
ガラス張りの窓が大きく設計された車両内では
既に、多くの乗客達が、軽食やお茶などを片手に
移り変わり続ける、窓からの美しい景色を楽しんでいる様子がうかがえます。
列車の中とは、とても思えない程
作りこまれた内装に圧倒されながらも
1人と1体は、ウエイターから案内された、二人用のテーブルに腰を落ち着けます。
白いテーブルクロスの上に置かれた、赤いカバーのメニュー表をペラペラとめくりながら
(アレンが買ってきてくれたミートパイ、結構デカかったな、ちっとも腹が空いてない
でも、たしかここの夕食は
城でも噂になるほど、美味いと評判だったはず……
よし! ここは夜に備えて、昼食は抜いておくことにしよう)
荷物整理の際、弟子からのお土産を、すでに摘まんでしまっていたライルは
夜に備え、昼は控えめに、紅茶とフルーツの盛り合わせを注文。
そして、こちらもそのデカいパイを
師匠との荷下ろし中に、いつの間にやらペロリと平らげていたアレンは
「これをおねがいします」
鶏肉のトマト煮込み、サラダ、パンがセットになった
ランチメニューの内の1つを注文しました。
トマトソースと沢山の野菜で、柔らかく煮込まれた鶏肉を
おぼつかない手つきながら、ナイフとフォークを懸命に使い
時折、苦戦しながらも美味しそうに食べ進めていくアレン。
それを横目にライルはというと
紅茶をすすりつつ、小さなフォークで、小皿に入ったリンゴや苺をちまちまと口に運びながら
窓の外に映る、流れるだけの景色、をぼんやりと見つめるのでした。
「お客様、これより当鉄道ご利用への感謝の気持ちとして
スモールケーキのサービスを行えるのですが、お茶のお供に如何ですか?」
「へー、そんなサービスまであるのか
えらく気前がいいな」
「日頃より、当鉄道をご利用下さるお客様方への、些細な感謝の気持ちです
それと、今度ターミナルステーション内にて、タロストレインのオリジナルケーキ等を購入できる
新店舗がオープンする事となりまして、そちらの宣伝も兼ねております」
「なるほど、後者が本命だな、ナットク、ナットク
それじゃあ二人分もらおうかな、アレンも食べるだろ?」
「はい、ケーキ食べてみたいです」
「かしこまりました、ではミニケーキをお二つと
追加の紅茶をお持ち致しますので、もう少々お待ちください」
予定には無かったサプライズに遭遇したライルとアレンは
思いがけない幸運に上機嫌です。
レストラン車両内の中央部分に、パフォーマンス用として設けられたステージの上では
空中列車お抱えのパティシエ達が、四角形の大きいケーキを、先の丸い細長いナイフでカットしています。
背の低い黄緑色の巨大ケーキは
手のひらサイズ程の可愛らしい大きさに、次々と切り分けられ
白い皿に盛り付けられて、今か今かと待ちわびる、乗客たちのもとへと順番に配られていきました。
「理由はなんであれ
美味しい物を頂けるんだ、ラッキーという事には変わらないよな」
ケーキが切られています。
「師匠、お腹の調子は大丈夫ですか?
先程は、過剰な満腹感に疲労している、とのことでしたが」
次々と配られます。
「うん、まだちょっと苦しいかな
やっぱりあのミートパイは、朝食にしてはデカすぎたと思う
あれを選んだアレンもすごいが
あれを販売している販売元もすごいよ、もっと小さくてもいいのに」
美味しそうに、ケーキを頬張る人々が増えてきました。
「師匠がくださった本の中に
ミートパイが登場してくるお話があり、前から興味がありました
この度、食べることが出来てうれしかったです
お話の通り、とても美味しかったです」
ケーキを配るウェイターが、忙しなく動き続けます。
「そうか、そりゃよかった
確かに、物語に出てくる食べ物や、絵とかに描かれた料理って
たまに、すごく美味しそうに感じる時があるよな
表現力の影響かな?
ちなみに、どんな話にミートパイが出て来たんだ?」
ケーキの順番は、まだもう少し先の様です。
「はい、家を襲ってきたオオカミを
魔女のおばあさんが、ミートパイにして食べる話でした」
「そ、それは、なんというか、過激なばあさんだな
………最近の児童書には、そんな話も書かれてるのか
もっと内容見て買うんだった」
食欲の無くなる会話内容のせいなのか
午前中に、油っぽいパイをたらふく食べて、列車に揺られたせいなのか
ライルは次第に、腹部に不快感を覚えてきました。
「アレン、俺ちょっとお手洗いに行ってくるから
ケーキと紅茶が来たら、先に食べててくれ、すぐ戻るから」
「師匠、なんだか顔色が先ほどより優れません
何か手伝えることがあるかもしれないので、お手洗いへは僕も同行します」
「無いよ!? トイレでそんなに
何か手伝ってもらう様な内容って、そんなに無いよ!? 大丈夫だから!
……というか、何をどう手伝う気だったんだ
二人してテーブルを離れてたら、ウェイターさんが困っちゃうだろ?
俺の事は大丈夫だから、席でケーキが来るの待っててくれ」
「分かりました、何かありましたら、いつでも呼んでください」
片手をひらひらと振りながら、ライルはそそくさと席を立ちます。
二人用の小さなテーブルには、人形のアレン一体だけが残されました。
「……師匠は無事でしょうか」
ケーキの配布が進んでいきます。
「………そういえば、アイスクリームに様々な味があるように
ケーキにも、色々な種類があるのでしたね」
人の出入りも増えてきました。
「あの黄緑色のケーキは、いったい何味なのでしょうか?
断面の構造的には……
三種類の異なった材料が、断層のように重なり、その上からクリームでコーティング
天端に当たる一番上の面に、飾りのような物が、いくつか乗っているのが見えますが」
お手洗いへ続く扉から、人が出てきました。ライルではありません。
「黄緑色のケーキの上に、薄紫の小さな花
あの花も食べられるのでしょうか? 」
扉から現れたのは、深い緑色の長い髪を、一つ結びで後ろにまとめた少年でした。
少し、体調が悪そうです。
「お待たせいたしました
こちら、ご注文のフレーバーティーになります
ミニケーキの方は、もう少々お待ちください」
「わかりました、ありがとうございます」
ふらふらと、よろけながら歩く少年に
慌ただしくケーキを運んでいた、ウェイターの一人がぶつかってしまいました。
「あ! この紅茶
果物と花の香りがします、おもしろいです」
よろけたウェイターはバランスを崩し、後側に倒れこみ
ケーキを切り分けていた、パティシエのエプロンを引っ張ってしまいます。
「早く師匠にも飲んでもらいたいです
そういえば、僕が鶏肉の煮込みを食べている時に
師匠が飲んでいたお茶は、鮮やかな赤色でしたが
今運ばれてきたお茶は、淡いオレンジ色をしています
ひょっとして、味も違ったりするのでしょうか?」
強く引っ張られ、バランスを崩したパティシエは
切り分け途中だった、大きなケーキが乗ったワゴンを、盛大にひっくり返してしまいます。
続けて、近くにいた別のウェイターが
飛んで行ったそのケーキを、なんとか受け止めようと飛び出しますが
勢い余って、より遠くへと投げ飛ばしてしまいました。
「窓の外から見える景色が変わってきました
建物の大きさが小さくなって、本に出て来た小人の家みたいです」
宙を舞うケーキは、クルクルと大きく回転しながら、落下を続け……
「あ、ケーキが運ばれてきました
師匠も早く、戻ってくればいいな」
しばらくした後
無事に、体調の回復したライルは
上機嫌で、アレンの待つテーブル席へと戻ってきます。
「アレン、遅くなって悪かったな
ケーキと紅茶はもう来……………え?
ア、アレン、どうしたこれ!?」
「師匠、おかえりなさい
バイタルの異常が回復傾向にあります
師匠の体調が戻ったようで、よかったです」
「申し訳ありません!!
すぐに、変わりのお召し物をご用意致しますので、本当に申し訳ありません!!! 」
戻ったライルを出迎えたのは
ナプキン片手に、大慌てのウェイトレス達
ステージの方で、転倒している数名の従業員
そして……
「ケーキという物は、すごくおいしいですね、素晴らしいと思います」
落ちてきたケーキを、避けることもなく
頭から大胆に受け止めた結果、全身クリームまみれになったアレンでした。
黄緑色のケーキは、ピスタチオクリームのナッツケーキだったようです。
薄紫色のスミレが可愛らしい。
夜も更けて、時刻は午前一時過ぎ
ガタンガタンと、揺れ続ける室内に響くのは
ライル一人分の寝息と、いまだに喋り続けているチャッティーの独り言のみでした。
(このしゃべり声の中でも、あっという間に眠ってしまうなんて
師匠は、よほど疲れていたようです
たくさん寝て、ゆっくり休んで欲しいです)
数日間による、不眠不休の学習活動に、すっかり慣れてしまった人形アレンは
眠り方を忘れてしまったのか
はたまた、壁から生えた唇の声がうるさすぎて寝付けないのか
ちっとも眠る事が出来ず、退屈な時間を過ごしていました。
(師匠から、他の乗客の迷惑になったり、迷子や誘拐の危険性があるため
車内での、無闇な探検は控えるよう言われてますが……
今の時刻は午前一時、つまりは真夜中です
この鉄道に乗車されている皆さんは
僕と違って人間ですし、きっと旅の疲れもあって、寝静まっている頃合いでしょう
だからきっと、探検しても大丈夫なはずです、たぶん)
勝手な理屈と言い訳を並べながら
音を立ててライルを起こさないよう、アレンはベットの中で、手早く身支度を整えます。
「チャッティーさん、僕は列車内を少し、散歩してきますので
鍵の開け閉めをお願いします
あと、師匠がもし目を覚ましたら、僕はトイレに行っていると伝えて下さい」
『あらあら悪い子いけない子
でも、止まらない冒険心は、分からなくも無いですよ?
あたたかくしてお出かけくださいませ、夜明けまでには戻ってね、坊ちゃん』
「はい、ありがとうございます
行ってきます」
編み上げブーツに、カーキ色の半ズボン
白いシャツのボタンを上まで留めて、赤いチェック柄の毛布を肩からかけると
人形アレンは、静まり返った深夜の列車内へと、出掛けて行くのでした。
(おまけ)
〔タロストレイン 宿泊者向けパンフレットより抜粋〕
〈三等車両〉
各室の定員 :1~2人用
備え付け設備:収納式ベット2台、収納式テーブル、着脱式照明具、収納スペース、目隠し用カーテン
説明 :座席スペースを活用した簡易的個室型宿泊プラン。
向かい合わせに設置された座席は収納式の簡易ベットとなっており
限られたスペースに機能を詰め込んだ
シンプルな形状の個室となっております。
三等車両には共用エリアとして
シャワールームやコインランドリー等も完備
毛布や枕、石鹸などの備品類も、こちらのエリアから
必要なものを選んで使用して頂く為
ご予算を抑えたい方におすすめのお部屋です。
〈二等車両〉
各室の店員 :1~4人用
備え付け設備:セミダブルベット2台、収納式ベット1台、折り畳み式ソファ1台、ミニテーブルセット
着脱式照明具、収納スペース、シャワールーム&洗面所
説明 :折り畳み式のソファやベットを活用することで
最大4名が泊まれる完全個室プラン。
各部屋には
それぞれシャワールームが設けられており、時間帯等に気を遣わず
使用することが出来、長旅でも快適な時間を過ごすことが可能です。
また、二等車両からはルームサービスをご利用いただくことで
レストラン車両に移動することなく
お部屋でお食事や軽食などを楽しんで頂けます。
希望者には娯楽品(チェス、トランプ、書籍など)の貸し出しも行っております。
〈一等車両〉
各室の店員 :1~3人用
備え付け設備:ダブルベット2台、可動式ソファ1台、テーブルセット、移動浮遊式照明器具
収納用クローゼット、バスルーム&洗面所、トイレ、上映スクリーン、投影機、本棚
音声再生機、空気清浄機
説明 :インテリアにもこだわった高級感溢れる完全個室プラン。
大きなダブルベットに加え、可動式ソファの座席部分を広げる事で、
最大3名同時に泊まることも可能な事に加えて
浴槽にもこだわったバスルーム付き
備え付けの投影機や音声再生機をご使用いただくことで
映像や音楽をお楽しみいただけます。
また、真横に広く作られた窓からは
移り変わる景色を存分にご堪能いただけます。
一等車両には
二等車両でもご利用可能でしたルームサービスや娯楽品の貸し出しに加え
ドリンクのサービスを行っています。
事前に時刻や内容を指定して頂くことで
モーニングティーやアフタヌーンティーなどもご提供可能です。
(このページはここで終わっている)
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
同人女の異世界召喚
裏山かぼす
ファンタジー
主人公はARK TALEというゲームのオタクである。推しを愛し、推しカプを愛する同人書きだ。
ある日主人公は、公式のコンテストに投稿された非公式カップリング作品にブチギレていた所、こんな声を聞くことになる。
「――力が、欲しいか。忌むべきものを断罪し、悉く消し去る力が、欲しいか」
主人公は答える。
「そんな力より、今からでも推しカプを覇権に出来る画力(ちから)が欲しい!」
残念ながら画力は手に入らなかったものの、かくして主人公はARK TALEの世界へと喚ばれ、世界を救うための物語が始まった。
推しの恋愛事情を妄想して悶える気ぶりオタクが送る新感覚カップリング異世界ファンタジー、ここに開幕!
※この作品は他小説投稿サイトに投稿しています。
※8月が終わったので、今後はファンタジー大賞の結果が出るまで基本的に週二回(水・土)更新となります。
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
魔法使いに育てられた少女、男装して第一皇子専属魔法使いとなる。
山法師
ファンタジー
ウェスカンタナ大陸にある大国の一つ、グロサルト皇国。その国の東の国境の山に、アルニカという少女が住んでいた。ベンディゲイドブランという老人と二人で暮らしていたアルニカのもとに、突然、この国の第一皇子、フィリベルト・グロサルトがやって来る。
彼は、こう言った。
「ベンディゲイドブラン殿、あなたのお弟子さんに、私の専属魔法使いになっていただきたいのですが」
すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
サーラには秘密がある。
絶対に口にはできない秘密と、過去が。
ある日、サーラの住む町でちょっとした事件が起こる。
両親が営むパン屋の看板娘として店に立っていたサーラの元にやってきた男、ウォレスはその事件について調べているようだった。
事件を通して知り合いになったウォレスは、その後も頻繁にパン屋を訪れるようになり、サーラの秘密があることに気づいて暴こうとしてきてーー
これは、つらい過去を持った少女が、一人の男性と出会い、過去と、本来得るはずだった立場を取り戻して幸せをつかむまでのお話です。
嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。
なつめ猫
恋愛
宮内(みやうち)莉緒(りお)は、3年生の始業式まであと一か月という所で、夜逃げをした父親の莫大な負債を背負ってしまい、婚約者と語る高槻総司という男の元で働く事になってしまう。
借金返済の為に、神社での住み込みの仕事として巫女をやらされることになるが、それは神社の神主である高槻(たかつき)総司(そうじ)の表向きの婚約者としての立場も含まれていたのであった。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
無実の令嬢と魔法使いは今日も地味に骨折を治す
月山 歩
恋愛
舞踏会の夜、階段の踊り場である女性が階段を転げ落ちた。キャロライナは突き落としたと疑いをかけられて、牢へ入れられる。家族にも、婚約者にも見放され、一生幽閉の危機を、助けてくれたのは、見知らぬ魔法使いで、共に彼の国へ。彼の魔法とキャロライナのギフトを使い、人助けすることで、二人の仲は深まっていく。
義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む
小平ニコ
恋愛
「いくら高貴な大公っていっても、あんな変態ジジイの相手をするなんて、私、嫌だからね。だからシンシア、あんたが私の"身代わり"になるのよ」
主人公シンシアは、義妹ブレアナの身代わりとなり、好色と噂の年老いた大公に買われることになった。優しかった本当の母親はすでに亡くなっており、父はシンシアに対する関心と愛情を失っていて、助けてはくれない。そして継母グロリアは実の娘であるブレアナのみを溺愛し、シンシアを『卑しい血』『汚いもの』と蔑んでいた。
「シンシア。あなたは生まれつきの穢れた娘であり、汚いものよ。汚らしい好色の年寄りにはお似合いだわ。汚いものは汚いもの同士でくっついていなさい」
すべてを捨てて逃げ出そうかとも思ったシンシアだが、この世でたった二人、自分を愛してくれている祖父母の生活を守るため、シンシアは怒りと悔しさを飲み込んでブレアナの身代わりになることを受け入れた。
大公家でどんな苦難に遭遇してもくじけずに働き、着実に認められていくシンシア。そしてとうとう、卑劣な者たちが報いを受ける日がやって来たのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる