人形弟子の学習帳

シキサイ サキ

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2章 旅行から入学試験まで

8話 青い人形と空中鉄道

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早朝にもかかわらず、首都しゅとに位置するターミナルステーション内の様子は
運ばれてくる貨物かもつや行きう人々の熱気により、すでに大きなにぎわいを見せていました。

様々な人々が訪れるステーション内には
お土産や雑貨を購入こうにゅうする事ができる売店や食事を楽しめる飲食店まで
旅行客や通勤者つうきんしゃにも優しい、便利なお店がいくつももうけられています。

そして、ここにも一人、いえ、正しくは一人ひとりではありませんが

美味しそうな香りに釣られた、人形がぽつんと一体いったいで、小さな財布を片手に
販売用ワゴンに立てかけられた、メニュー表を吟味ぎんみしています。


{ステーション限定メニュー販売中!!
 タロストレインのフードワゴン 元気な毎日はおいしい朝食から!}

・フィッシュアンドチップスと濃厚のうこうタルタルソース 580レペ

・ミートパイと温野菜おんやさいのセット          980レペ

・冷凍フルーツのしばり売り            350レペ

・テイクアウトドリンク             200レペ
   (珈琲こーひー、カフェオレ、ストレートティー
       ミルクティー、ホットジンジャー)


「困りました
 どれもはじめて見る物ばかりで、とても気になります」

悩みに悩んで、財布の中身と相談した結果

アレンは、ミートパイのセットBOXを2つと温かい飲み物を2つ購入することにしました。

テイクアウト用のふたが付いたカップには
それぞれに、カフェオレとミルクティーがそそがれています。

彼の師匠が予約した、学園都市行きの列車の宿泊プランには

旅の最中でも、朝昼晩あさひるばん問わず、しっかりとした食事をとる事ができる
レストラン車両の利用料も含まれていた為、本来ほんらいであれば不要なはずの買い物ではありましたが

旅先で食べ過ぎてしまう事はよくある話なので、気にしてはいけません。

二人分の朝食にしては、やや多めの料理を両手に抱えたアレンは

今頃、あわてふためきながら、自らの弟子の姿をあちこち探し回っているであろう
師匠ライルの元へと向かいます。

星の祝福が満ちる王国【ほしみやこ
その中心に位置する首都【エウレぺ】の大型ターミナルから出発する
空中鉄道【タロストレイン】での3泊4日にわたる鉄道の旅路たびじ

一人と一体による、発車時刻ギリギリの駆け込み乗車という
大変、慌ただしいスタートで幕を開けました。


「先頭の2列は走行用と従業員じゅうぎょういんの専用スペースだから立ち入り禁止

 3列目から乗客者用の宿泊スペース
 宿泊料金や設備のランクが高い順に、一等車、二等車、三等車で

 その後ろに、飲食用のレストラン車両が挟まってる

 ルームサービスも頼めるらしいけど
 せっかくだ、アレンがレストランでの作法とかに早くれるよう
 食事はなるべくあっちでとることにしよう

 そして後ろに、途中下車用の簡易的な座席スペースの車両が続いて

 そこから先の車両は、全て貨物車両かもつしゃりょう

 駅から見た、あの長い列車のうち、割合的には人が乗るスペースが3~4割で
 残りの6割程はすべて貨物車両だろう

 この国の物流ぶつりゅうは、国の上空を横断おうだんし進む、空中鉄道をもちいた運搬うんぱんが主流だから
 一度に運ぶ量でいえば、人よりも荷物の方がよっぽど多いんだよ」

「国の上空に、列車のレールを固定して走行させることで
 地上に設置されていう面積は、レールを支えるための柱の断面積のみとなります

 これならば、地上にレールを引くための、大規模だいきぼな街の配置変更はいちへんこうともなわず
 レールを支える柱の周辺工事のみにおさえられるため
 すでにある建造物けんぞうぶつを、取り壊すことも少なくなり

 とても良い方法だと思います」

「そうだな、文字にして読むだけだと
 利点の多い、完璧かんぺき解決策かいけつさくに見えるよな

 でも、魔法にしろ技術にしろ、完璧なものなんて存在しない
 誰もが満足して、不平不満ふへいふまんも無く、問題が何もない方法なんて、そうそうあるもんじゃない

 実際じっさい、この方法でも
 近隣住民きんりんじゅうみんとの騒音そうおんトラブルがあとたなかったり、耐久性の計算ミスで倒壊事故とうかいじこが起きたり

 まあ、いろいろ問題点や改善点かいぜんてんも多かったらしいんだ

 何度も失敗を繰り返して、そこから修正や改良を重ねていかなければいけない過程っていうのは
 物づくりにおいて、絶対にけることの出来ない作業だよ

 まぁ、大規模だいきぼな工事の場合、その失敗が人の死につながるから
 そんなに簡単な話ではすまないけど」


走行を続ける、列車のれに耐えながら
魔法士ライルと人形アレンは、彼らが予約した二等車両の宿泊スペースへ向かいます。

やや横幅のせまい、列車内の渡り廊下を突き進んでいくと

ちょうど二等車両の中間地点と思われる位置にて、チケットがしめす番号と
同じ数字が刻まれた扉を見つけました。

二等車両 502号室 と書かれた
おもむきを感じる木製の扉

古びた扉の取っ手として取り付けられた、金色のドアノブの下側には
白い塗料で描かれた、真新まあたらしい魔法陣まほうじんきざまれています。

あったあった、やっと見つけた、と

ライルが慣れた様子で、扉の魔法陣に向かい
手に持っていた、二人分の乗車チケットを差し出すと

パクリ 

突如とつじょ、扉から唐突とうとつに現れた

単語げ茶色の扉と同様の色をした、木目柄もくめがらの大きな唇が
差し出された二枚の紙切れを、きれいに食べてしまいました。

モグモグと咀嚼そしゃくを続ける唇の上部には

新たに { welcome } の文字が浮かび上がります。

ゴクン、気持ちの良い音を立てて、二枚のチケットを飲み込んだ大きな唇は

満足したといわんばかりに、その大きさを徐々じょじょに縮めてゆき
手のひらサイズほどの形状を落ち着けたところで、流調りゅうちょう挨拶あいさつを始めました。


『この度は、空中鉄道タロストレインでの宿泊プランをご利用いただき
 まことにありがとうございます!

 当鉄道では、お客様に快適なご旅行を楽しんで頂けますよう
 宿泊用車両の各部屋には、防犯用人工精霊ぼうはんようじんこうせいれいを組み込ませて頂いておりますので
 何かお困りごとやご質問、当鉄道内の案内など必要でしたら

 お気軽に! ワタクシ共、人工精霊にお声がけくださいませ!!!

 あ、挨拶遅れましたが
 ワタクシ、この二等車両502号室の守りを任されております
 チャッティといいます

 お客様もどうぞ気兼ねなく、チャッティ、と、お呼びいただければ

 そう! 何度でも! いつ何時何回なんどきなんかいでも、是非ぜひともワタクシの名前をお呼びくださいませお客様!! 』

「はい、はじめましてチャッティさん
 僕の名前はアレン・フォートレスです、質問をしても良いですか? 」

『おや! 可愛らしい青い坊ちゃん!! なんと嬉しい! 質問とは何ですか!? 』


ドアから生えたおしゃべりな唇に
アレンは戸惑うことなく、今自身じしんが感じた疑問を素直に伝えます。


「どうして、そんなに大きな声でしゃべるのですか? 」

『はい! それはですね
 
 ワタクシが、おしゃべりが大好きすぎるが故の事なのです!

 ワタクシは産まれた時から、人と話すことが好きなのですが
 なのに、ワタクシのおしゃべりがやかましい!!! との苦情くじょうが多く
 502号室には、あまりお客様が来なくなってしまって…
 
 だから、久しぶりのお客様! 久しぶりの会話!! 独り言以外での、愉快なおしゃべり!!!
 もう、嬉しく嬉しくてたまらなくて、先程から興奮が止まらないのです!!!』


そういえば
二等車にしては、えらくお安いお値段だったな、と

宿泊費しゅくはくひが想定よりも安く済んで、内心喜んでいたライルは
あさはかだった自身の考えを、今更ながらに深く後悔しました。


無事、502号室にも入室し終え
それぞれの寝床に、旅の荷物を置いたアレンとライルは

かれこれ二時間以上しゃべり続けて止まらない、人工精霊チャッティーの喧しいおしゃべりから逃れるように

列車内に設けられた、レストラン車両へと移動しました。

昼食にはまだ早い時間帯ではありましたが
ガラス張りの窓が大きく設計された車両内では

すでに、多くの乗客達が、軽食やお茶などを片手に
うつり変わり続ける、窓からの美しい景色を楽しんでいる様子がうかがえます。

列車の中とは、とても思えない程
作りこまれた内装に圧倒されながらも

1人と1体は、ウエイターから案内された、二人用のテーブルにこしを落ち着けます。
白いテーブルクロスの上に置かれた、赤いカバーのメニュー表をペラペラとめくりながら

(アレンが買ってきてくれたミートパイ、結構デカかったな、ちっとも腹が空いてない

 でも、たしかここの夕食は
 城でも噂になるほど、美味いと評判だったはず……

 よし! ここは夜に備えて、昼食は抜いておくことにしよう)

荷物整理のさい、弟子からのお土産を、すでにまんでしまっていたライルは
夜にそなえ、昼はひかえめに、紅茶とフルーツの盛り合わせを注文。

そして、こちらもそのデカいパイを
師匠との荷下ろし中に、いつの間にやらペロリと平らげていたアレンは

「これをおねがいします」

鶏肉とりにくのトマト煮込み、サラダ、パンがセットになった
ランチメニューの内の1つを注文しました。

トマトソースと沢山の野菜で、柔らかく煮込まれた鶏肉を
おぼつかない手つきながら、ナイフとフォークを懸命けんめいに使い
時折、苦戦しながらも美味しそうに食べ進めていくアレン。

それを横目にライルはというと

紅茶をすすりつつ、小さなフォークで、小皿に入ったリンゴや苺をちまちまと口に運びながら
窓の外にうつる、流れるだけの景色、をぼんやりと見つめるのでした。

「お客様、これより当鉄道ご利用への感謝の気持ちとして
 スモールケーキのサービスを行えるのですが、お茶のおとも如何いかがですか?」

「へー、そんなサービスまであるのか
 えらく気前がいいな」

「日頃より、当鉄道をご利用下さるお客様方への、些細ささいな感謝の気持ちです

 それと、今度ターミナルステーション内にて、タロストレインのオリジナルケーキ等を購入できる
 新店舗がオープンする事となりまして、そちらの宣伝もねております」

「なるほど、後者こうしゃが本命だな、ナットク、ナットク
 それじゃあ二人分もらおうかな、アレンも食べるだろ?」

「はい、ケーキ食べてみたいです」

「かしこまりました、ではミニケーキをお二つと
 追加の紅茶をお持ちいたしますので、もう少々お待ちください」

予定には無かったサプライズに遭遇そうぐうしたライルとアレンは
思いがけない幸運に上機嫌じょうきげんです。

レストラン車両内の中央部分に、パフォーマンス用として設けられたステージの上では
空中列車おかかえのパティシエ達が、四角形しかっけいの大きいケーキを、先の丸い細長いナイフでカットしています。

背の低い黄緑色きみどりいろの巨大ケーキは

手のひらサイズ程の可愛らしい大きさに、次々と切り分けられ
白い皿にり付けられて、今か今かと待ちわびる、乗客たちのもとへと順番じゅんばんくばられていきました。

「理由はなんであれ
 美味しい物を頂けるんだ、ラッキーという事には変わらないよな」

ケーキが切られています。

「師匠、お腹の調子は大丈夫ですか?
 先程は、過剰かじょう満腹感まんぷくかん疲労ひろうしている、とのことでしたが」

次々と配られます。

「うん、まだちょっと苦しいかな
 
 やっぱりあのミートパイは、朝食にしてはデカすぎたと思う

 あれを選んだアレンもすごいが
 あれを販売している販売元もすごいよ、もっと小さくてもいいのに」

美味しそうに、ケーキを頬張ほおばる人々がえてきました。

「師匠がくださった本の中に
 ミートパイが登場してくるお話があり、前から興味がありました

 この度、食べることが出来てうれしかったです
 お話の通り、とても美味しかったです」

ケーキを配るウェイターが、せわしなく動き続けます。

「そうか、そりゃよかった

 確かに、物語に出てくる食べ物や、絵とかに描かれた料理って
 たまに、すごく美味しそうに感じる時があるよな
 
 表現力の影響えいきょうかな?

 ちなみに、どんな話にミートパイが出て来たんだ?」

ケーキの順番じゅんばんは、まだもう少し先のようです。

「はい、家を襲ってきたオオカミを
 魔女のおばあさんが、ミートパイにして食べる話でした」

「そ、それは、なんというか、過激なばあさんだな

 ………最近の児童書には、そんな話も書かれてるのか
 もっと内容見て買うんだった」

食欲の無くなる会話内容のせいなのか

午前中に、油っぽいパイをたらふく食べて、列車にられたせいなのか
ライルは次第しだいに、腹部ふくぶに不快感を覚えてきました。

「アレン、俺ちょっとお手洗いに行ってくるから
 ケーキと紅茶が来たら、先に食べててくれ、すぐ戻るから」

「師匠、なんだか顔色が先ほどよりすぐれません
 何か手伝えることがあるかもしれないので、お手洗いへは僕も同行どうこうします」

「無いよ!? トイレでそんなに
 何か手伝ってもらう様な内容って、そんなに無いよ!? 大丈夫だから!

 ……というか、何をどう手伝う気だったんだ

 二人してテーブルを離れてたら、ウェイターさんが困っちゃうだろ?
 俺の事は大丈夫だから、席でケーキが来るの待っててくれ」

「分かりました、何かありましたら、いつでも呼んでください」

片手をひらひらとりながら、ライルはそそくさと席を立ちます。
二人用の小さなテーブルには、人形のアレン一体だけが残されました。

「……師匠は無事でしょうか」

ケーキの配布が進んでいきます。

「………そういえば、アイスクリームに様々さまざまな味があるように
 ケーキにも、色々な種類があるのでしたね」

人の出入りも増えてきました。

「あの黄緑色のケーキは、いったい何味なのでしょうか?

 断面だんめん構造的こうぞうてきには……

 三種類さんしゅるいことなった材料が、断層だんそうのように重なり、その上からクリームでコーティング
 天端てんばに当たる一番上の面に、飾りのような物が、いくつか乗っているのが見えますが」

お手洗いへ続く扉から、人が出てきました。ライルではありません。

「黄緑色のケーキの上に、薄紫うすむらさきの小さな花
 あの花も食べられるのでしょうか? 」

扉から現れたのは、深い緑色の長い髪を、一つむすびでうしろにまとめた少年でした。
少し、体調が悪そうです。

「お待たせいたしました
 こちら、ご注文のフレーバーティーになります

 ミニケーキの方は、もう少々お待ちください」

「わかりました、ありがとうございます」

ふらふらと、よろけながら歩く少年に
あわただしくケーキをはこんでいた、ウェイターの一人がぶつかってしまいました。

「あ! この紅茶
 果物くだものと花の香りがします、おもしろいです」

よろけたウェイターはバランスをくずし、後側うしろがわに倒れこみ
ケーキを切り分けていた、パティシエのエプロンをってしまいます。

「早く師匠にも飲んでもらいたいです

 そういえば、僕が鶏肉の煮込みを食べている時に
 師匠が飲んでいたお茶は、鮮やかな赤色でしたが

 今運ばれてきたお茶は、淡いオレンジ色をしています
 ひょっとして、味も違ったりするのでしょうか?」

強く引っ張られ、バランスを崩したパティシエは
切り分け途中だった、大きなケーキが乗ったワゴンを、盛大せいだいにひっくり返してしまいます。

続けて、近くにいた別のウェイターが
飛んで行ったそのケーキを、なんとか受け止めようと飛び出しますが

いきおい余って、より遠くへと投げ飛ばしてしまいました。

「窓の外から見える景色が変わってきました
 建物の大きさが小さくなって、本に出て来た小人の家みたいです」

ちゅううケーキは、クルクルと大きく回転しながら、落下を続け……

「あ、ケーキが運ばれてきました
       師匠も早く、戻ってくればいいな」


しばらくした後

無事に、体調の回復したライルは
上機嫌で、アレンの待つテーブル席へと戻ってきます。

「アレン、遅くなって悪かったな
 ケーキと紅茶はもう来……………え?

 ア、アレン、どうしたこれ!?」

「師匠、おかえりなさい

 バイタルの異常いじょう回復傾向かいふくけいこうにあります
 師匠の体調が戻ったようで、よかったです」

「申し訳ありません!!
 すぐに、変わりのお召し物をご用意いたしますので、本当に申し訳ありません!!! 」

戻ったライルを出迎でむかえたのは

ナプキン片手に、大慌おおあわてのウェイトレス達
ステージの方で、転倒てんとうしている数名の従業員

そして……

「ケーキという物は、すごくおいしいですね、素晴らしいと思います」

落ちてきたケーキを、けることもなく
頭から大胆に受け止めた結果、全身クリームまみれになったアレンでした。

黄緑色のケーキは、ピスタチオクリームのナッツケーキだったようです。
薄紫色のスミレが可愛らしい。


夜もけて、時刻は午前一時過ぎ

ガタンガタンと、れ続ける室内にひびくのは
ライル一人分の寝息と、いまだにしゃべり続けているチャッティーのひとごとのみでした。

(このしゃべり声の中でも、あっという間に眠ってしまうなんて

 師匠は、よほど疲れていたようです
 たくさん寝て、ゆっくり休んで欲しいです)

数日間による、不眠不休ふみんふきゅうの学習活動に、すっかりれてしまった人形アレンは

眠り方を忘れてしまったのか
はたまた、壁から生えたくちびるの声がうるさすぎて寝付ねつけないのか

ちっとも眠る事が出来ず、退屈たいくつな時間を過ごしていました。

(師匠から、他の乗客の迷惑になったり、迷子や誘拐ゆうかいの危険性があるため
 車内での、無闇むやみ探検たんけんひかえるよう言われてますが……

 今の時刻は午前一時、つまりは真夜中まよなかです

 この鉄道に乗車されている皆さんは
 僕と違って人間ですし、きっと旅の疲れもあって、寝静まっている頃合いでしょう

 だからきっと、探検しても大丈夫なはずです、たぶん)

勝手かって理屈りくつと言い訳を並べながら
音を立ててライルを起こさないよう、アレンはベットの中で、手早てばや身支度みじたくととのえます。

「チャッティーさん、僕は列車内を少し、散歩してきますので
 かぎの開け閉めをお願いします

 あと、師匠がもし目を覚ましたら、僕はトイレに行っていると伝えて下さい」

『あらあら悪い子いけない子
 でも、止まらない冒険心は、分からなくも無いですよ?
 あたたかくしてお出かけくださいませ、夜明けまでには戻ってね、坊ちゃん』

「はい、ありがとうございます
 行ってきます」

み上げブーツに、カーキ色の半ズボン
白いシャツのボタンを上までめて、赤いチェック柄の毛布もうふかたからかけると

人形アレンは、静まり返った深夜の列車内へと、出掛でかけて行くのでした。



(おまけ)

〔タロストレイン 宿泊者向けパンフレットより抜粋〕

〈三等車両〉

各室の定員 :1~2人用

備え付け設備:収納式ベット2台、収納式テーブル、着脱式照明具、収納スペース、目隠し用カーテン    

  説明  :座席スペースを活用した簡易的個室型宿泊プラン。
       向かい合わせに設置された座席は収納式の簡易ベットとなっており
       限られたスペースに機能を詰め込んだ
       シンプルな形状の個室となっております。
       三等車両には共用エリアとして
       シャワールームやコインランドリー等も完備
       毛布や枕、石鹸などの備品類も、こちらのエリアから
       必要なものを選んで使用して頂く為
       ご予算を抑えたい方におすすめのお部屋です。

〈二等車両〉

各室の店員 :1~4人用

備え付け設備:セミダブルベット2台、収納式ベット1台、折り畳み式ソファ1台、ミニテーブルセット
       着脱式照明具、収納スペース、シャワールーム&洗面所

  説明  :折り畳み式のソファやベットを活用することで
       最大4名が泊まれる完全個室プラン。
       各部屋には
       それぞれシャワールームが設けられており、時間帯等に気を遣わず
       使用することが出来、長旅でも快適な時間を過ごすことが可能です。
       また、二等車両からはルームサービスをご利用いただくことで
       レストラン車両に移動することなく
       お部屋でお食事や軽食などを楽しんで頂けます。
       希望者には娯楽品(チェス、トランプ、書籍など)の貸し出しも行っております。

〈一等車両〉

各室の店員 :1~3人用

備え付け設備:ダブルベット2台、可動式ソファ1台、テーブルセット、移動浮遊式照明器具
       収納用クローゼット、バスルーム&洗面所、トイレ、上映スクリーン、投影機、本棚
       音声再生機、空気清浄機

  説明  :インテリアにもこだわった高級感溢れる完全個室プラン。
       大きなダブルベットに加え、可動式ソファの座席部分を広げる事で、
       最大3名同時に泊まることも可能な事に加えて
       浴槽にもこだわったバスルーム付き
       備え付けの投影機や音声再生機をご使用いただくことで
       映像や音楽をお楽しみいただけます。
       また、真横に広く作られた窓からは
       移り変わる景色を存分にご堪能いただけます。
       一等車両には
       二等車両でもご利用可能でしたルームサービスや娯楽品の貸し出しに加え
       ドリンクのサービスを行っています。
       事前に時刻や内容を指定して頂くことで
       モーニングティーやアフタヌーンティーなどもご提供可能です。

(このページはここで終わっている)


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