絶望の世界へ

如月 幽吏

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奴瘉の記憶

奴瘉の記憶1

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美明と梨花は階段を上る。
そして光に霞んでいた目の前からは段々と霞が消え古びた鳥居が姿を見せ始めた。
その鳥居の大きさに美明は立ちすくんでしまう。
「行こ!」
梨花はそんな美明の手を取り再び歩み始める。
鳥居をくぐる時、額に強い衝撃が走り美明は倒れ込む。
      
                        
気が着くと美明は巫女装束を来て竹箒で板張りの床を掃いていた。
竹箒をぎゅっと握ろうとすると掌にヒリヒリとした傷みが走る。
美明は恐る恐る掌を確認する。
赤い擦り傷が無数に着いた手のひらは見るからに痛々しい。
梨花がいないことに気がついた美明は箒を壁に立てかけ、梨花を探す。
廊下の曲がり角を曲がる時、美明と同じ巫女装束を着た中年女性とすれ違う。すれ違いざまに女性は美明に強い口調で言い放つ。「奴瘉、床の掃き掃除は終わったのですか。」
美明はその威圧感に押されて思わず「ハイ。」と言ってしまう。
しかし美明は奴瘉では無い。だが女性は美明を奴瘉だと思っているようだ。
美明は意を決して本当のことを言ってみることにした。
「あの……私、美明です……」
美明は自分が緊張するとこんなにもたどたどしくなってしまうのかと少し落胆する。
そして思い返すとその声はとても落ち着いた声で美明のものでは無いように感じてしまい自分は本当に美明なのかとも思ってしまう。
そんな美明に女性は睨みつけながらピシャリと言う。「奴瘉。貴女、自分の名前も分からないのですか。そんなのでは山神神社の巫女が務まりませんよ」
美明はもう何もかもがどうでも良くなり、女性に思っていた事を全て言う。
「貴女誰なんですか?私は美明です。 奴瘉でもなければ巫女でもありません!」
美明の態度に女性は顔の顔は真っ赤になり言い放つ。
「私は水夜。奴瘉、貴女の母ですよ。貴女は山神神社の巫女なのですよ。」
美明は水夜に恐怖感を抱く。
この場所すら恐ろしくなった美明は屋敷を逃げ出し川に沿って山を下る。
山を下り切るころには装束は乱れ、息も荒くなっていた。
すると宮司のような装いの一人の男性がこちらに近づいて来た。
美明は男性に助けを求めようとする。
たすけ……
そちらに向かい歩き出すと、男性はこちらに飛びかかり、美明を縄のようなものでしばりつけた。
背中に衝撃が走る。
視界は遮られ、声も出せない。誰の声も聞こえない。
手足も縛られて動かせない。身体が揺れる。揺れる。
何時間くらいたっただろうか。縄は解かれ体が自由になり、視界に光が差し込む。
布団に横たわる美明を水夜と十代位の少女が覗き込んでいる。
「奴瘉…起きた?」
少女が美明に話しかける。
美明はばっと起き上り、「あなた、誰?」と少女に問う。
「奴瘉……」
少女は美明を哀しげな目で見つめながら涙を流していた。
そして少女に代わって水夜が言い放つ。
「奴瘉、彼女は天夜ですよ。貴女の妹の天夜ですよ。
 奴瘉、貴女は悲歌ばかり歌って、巫女が務まると思っているのですか。」
水夜は相変わらずの責め立てるような口調で美明に話しかける。
「いいから、奴瘉。寝てなさい。」
水夜は強い口調で言葉を続け、天夜と共に部屋を出て行った。

                            
水夜と天夜が部屋を去ってすぐ、美明は疲れていた為かすぐに眠りについた。
「奴瘉の…御霊の石碑……」
「蛇々神川の生贄……」
「葬る……」
隣の部屋から人々の声が聞こえる。
シャ――……
麩が開く。
シャ――……
別の麩が開く。
ダッダッダッダ
黒い着物の人々がいっせいに入ってくる。
人々が美明に飛びかかる。
二人の男が美明を縛り付ける。
二人の男が美明を持ち上げる。
二人の男が美明を屋敷から連れ出す。
二人の男が美明を社に閉じ込める。
怖い
辛い
憎い
嫌だ
助けて
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
負の感情が美明の心を埋め尽くす。
憎い
憎い
憎い
憎い
憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎しみの感情が美明の心を埋め尽くす。
絶対に貴方を許さない。
ウギャ゙ー
背後から炎を纏った獣が迫る。
怖い
怖い
怖い
怖い
怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
恐怖の感情が美明の心を埋める。
ウギャ゙ー
魔物はどんどん迫って来る。
そして美明を飲み込む。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
            

「美明!美明!起きて? 」
美明は梨花の声で目を覚ました。
さっきまで美明の心を埋めていた憎悪の感情を思い出す。
ウギャ゙ー
神殿の中から聞こえる獣の雄叫びが脅威で神域と美明の心を埋め尽くす。
ウギャー…………
 

 
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