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二章
三十六話
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喫茶店を出て、岸本と別れる。板垣の見舞いについても約束を取り交わした。
夕日の差すアスファルトを歩きながら、鬱蒼とした気持ちになる。二日連続で自宅に帰らないのは流石にまずい。父親と和解する気はさらさらないが、戻ることにする。
父親の忌々しい顔と母親の微笑が同時に浮かんでくる。元気だった頃の母。
涙が零れそうになった。何故今までお見舞いに行かなかったのだろう。岸本が言ってくれなければ、あるいは板垣が入院しなければ、母の顔など思い出しもしなかったかもしれない。
俺は薄情だ。
風が吹いて、ポケットが僅かにはためく。少しだけメタリック仕様が施された、清々しい緑の機体。
そうだ。佐久間に連絡しておくか。挨拶くらいなら、相手にも悪くは思われないはずだ。
『メアド登録させてもらいました。初めまして、柿市翼です。色々と協力してもらって、ありがとうございます』
簡潔に礼の言葉を加え、送信する。
再び携帯電話をポケットにしまい、歩き出した。
自宅である一軒家が見えてくるにつれ、気が重くなる。入りたくない。強い抵抗感が、胸を塞いだ。
そんな俺を驚かせようとするかのように、ポケットが振動する。
厚い液晶に浮かんだ名前は「佐久間尊」。
意外に早く返信が来たな。おそらく挨拶だろう。メッセージを開く。そこには、簡潔にこう記されていた。
『お前の父親は会社に勤めているか?』
目の前の文字列が信じられず、首をかしげる。
間違えて送ってきたのだろうか? 文面も高圧的だし、意図も全く読み取れない。普段なら怒って返信しないところだが、内容が内容だけに困惑の方が勝っていた。
考えあぐねた挙げ句『そうだけど』と返信する。間もなく『そうか』短い返事が表示されて、やり取りはそのまま終わった。
夕日の差すアスファルトを歩きながら、鬱蒼とした気持ちになる。二日連続で自宅に帰らないのは流石にまずい。父親と和解する気はさらさらないが、戻ることにする。
父親の忌々しい顔と母親の微笑が同時に浮かんでくる。元気だった頃の母。
涙が零れそうになった。何故今までお見舞いに行かなかったのだろう。岸本が言ってくれなければ、あるいは板垣が入院しなければ、母の顔など思い出しもしなかったかもしれない。
俺は薄情だ。
風が吹いて、ポケットが僅かにはためく。少しだけメタリック仕様が施された、清々しい緑の機体。
そうだ。佐久間に連絡しておくか。挨拶くらいなら、相手にも悪くは思われないはずだ。
『メアド登録させてもらいました。初めまして、柿市翼です。色々と協力してもらって、ありがとうございます』
簡潔に礼の言葉を加え、送信する。
再び携帯電話をポケットにしまい、歩き出した。
自宅である一軒家が見えてくるにつれ、気が重くなる。入りたくない。強い抵抗感が、胸を塞いだ。
そんな俺を驚かせようとするかのように、ポケットが振動する。
厚い液晶に浮かんだ名前は「佐久間尊」。
意外に早く返信が来たな。おそらく挨拶だろう。メッセージを開く。そこには、簡潔にこう記されていた。
『お前の父親は会社に勤めているか?』
目の前の文字列が信じられず、首をかしげる。
間違えて送ってきたのだろうか? 文面も高圧的だし、意図も全く読み取れない。普段なら怒って返信しないところだが、内容が内容だけに困惑の方が勝っていた。
考えあぐねた挙げ句『そうだけど』と返信する。間もなく『そうか』短い返事が表示されて、やり取りはそのまま終わった。
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