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第四章 戦花の魔女
第113話 ……夢
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「……夢」
懐かしい夢を見た。まさか、心の中に閉じ込めていたはずの記憶を思い出してしまうなんて。だが、不思議と嫌な気分ではない。最後の光景が、弟子君の姿だったからだろう。
ゆっくりとベッドから降りる。欠伸をしながら自室の扉を開けると、キッチンの方に弟子君の姿。ちょうど、夕飯を作る前といったところか。
「あれ? 師匠、もう起きて大丈夫なんですか?」
「うん。だいぶ体調良くなった」
「それはよかったです」
ニコリと私に笑顔を向ける弟子君。
私が弟子君と会ってからずいぶん経った。まさか、大人を目指していた私が、こんなふうになってしまうなんて、あの頃の私は想像できただろうか。わがままで。面倒くさがりで。弟子君に頼りっぱなしで。見た目は大人なのに、やっていることは子供のよう。でも、後悔はしていない。だって……。
…………あれ?
その時、ふと気が付く。弟子君の視線が、左の方に移動していくことに。何か悪いことを企んでいる時の癖だ。弟子君とはそれほど長い付き合いがあるというわけではないが、その好みや癖くらいは熟知している……と思う。
「弟子君、何か悪いこと考えてない?」
「あ、あはは。ソンナコトナイデスヨ」
弟子君は、焦って顔をそらす。どうして片言なのか。その答えは明白だった。
「……まあ、いっか」
本当は、弟子君を問い詰めたい。だが、その気持ちをグッと押し留める。今はそんなことより、もっとやらなければならないことがあったから。
数時間前、郵便屋である彼女から聞いた話が脳裏によみがえる。最近、国の中に、『戦花の魔女』を捕えようとしている連中がいる。もし、その連中が、私の居場所を突き止めたとしたら。一体どうなってしまうのか、想像もつかない。だからこそ、伝えておいた方がいいだろう。今、私が、狙われているということを。
「ところで、弟子君」
「何ですか?」
「…………」
唇が震える。言葉が上手く出てこない。最近、私を狙う連中がいる。そう告げるだけでいいはずなのに。本当に、それだけなのに。
「……師匠?」
「…………」
「…………」
無言の空間。居心地が悪くて仕方がない。目の前には、不安げな表情を浮かべた弟子君。
そんな顔、しないでよ。
「弟子君」
「は、はい」
「お菓子」
「……へ?」
「お菓子、食べてもいい?」
私の言葉に、弟子君が「はあ」と大きなため息を吐く。そこに、先ほどまでの不安げな表情はない。完全に、いつも通りの弟子君だ。
「夕飯の後ならいいですよ」
「やった!」
この幸せが、いつまで続くか分からない。明日には終わってしまうかもしれない。だからこそ、少しでも長く。
弟子君と……。
懐かしい夢を見た。まさか、心の中に閉じ込めていたはずの記憶を思い出してしまうなんて。だが、不思議と嫌な気分ではない。最後の光景が、弟子君の姿だったからだろう。
ゆっくりとベッドから降りる。欠伸をしながら自室の扉を開けると、キッチンの方に弟子君の姿。ちょうど、夕飯を作る前といったところか。
「あれ? 師匠、もう起きて大丈夫なんですか?」
「うん。だいぶ体調良くなった」
「それはよかったです」
ニコリと私に笑顔を向ける弟子君。
私が弟子君と会ってからずいぶん経った。まさか、大人を目指していた私が、こんなふうになってしまうなんて、あの頃の私は想像できただろうか。わがままで。面倒くさがりで。弟子君に頼りっぱなしで。見た目は大人なのに、やっていることは子供のよう。でも、後悔はしていない。だって……。
…………あれ?
その時、ふと気が付く。弟子君の視線が、左の方に移動していくことに。何か悪いことを企んでいる時の癖だ。弟子君とはそれほど長い付き合いがあるというわけではないが、その好みや癖くらいは熟知している……と思う。
「弟子君、何か悪いこと考えてない?」
「あ、あはは。ソンナコトナイデスヨ」
弟子君は、焦って顔をそらす。どうして片言なのか。その答えは明白だった。
「……まあ、いっか」
本当は、弟子君を問い詰めたい。だが、その気持ちをグッと押し留める。今はそんなことより、もっとやらなければならないことがあったから。
数時間前、郵便屋である彼女から聞いた話が脳裏によみがえる。最近、国の中に、『戦花の魔女』を捕えようとしている連中がいる。もし、その連中が、私の居場所を突き止めたとしたら。一体どうなってしまうのか、想像もつかない。だからこそ、伝えておいた方がいいだろう。今、私が、狙われているということを。
「ところで、弟子君」
「何ですか?」
「…………」
唇が震える。言葉が上手く出てこない。最近、私を狙う連中がいる。そう告げるだけでいいはずなのに。本当に、それだけなのに。
「……師匠?」
「…………」
「…………」
無言の空間。居心地が悪くて仕方がない。目の前には、不安げな表情を浮かべた弟子君。
そんな顔、しないでよ。
「弟子君」
「は、はい」
「お菓子」
「……へ?」
「お菓子、食べてもいい?」
私の言葉に、弟子君が「はあ」と大きなため息を吐く。そこに、先ほどまでの不安げな表情はない。完全に、いつも通りの弟子君だ。
「夕飯の後ならいいですよ」
「やった!」
この幸せが、いつまで続くか分からない。明日には終わってしまうかもしれない。だからこそ、少しでも長く。
弟子君と……。
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