上 下
12 / 164
第一章 森の魔女

第11話 …………やっぱり師匠は師匠でした

しおりを挟む
「すでに、一般の業者にも水質調査をお願いしました。ですが……」

「異常がないって言われたんだね」

「はい。それでも、私は、どうにも腑に落ちないのです。だからこそ、あなた方へと依頼を出しました。我が町には、魔女様以上に魔法に精通した方はおりません。魔女様とそのお弟子様であれば、我々が気付かない異変にも気付くことができるのではと考えております。魔女様、お弟子様。どうかこの依頼を受けてはいただけないでしょうか。魔法薬がなければ、町の人々が不便な生活を強いられてしまうのです」

 そう言って、町長さんは深々と頭を下げました。

 魔法薬は、今や多くの人に重宝されています。怪我を治したり、建築に利用したり、食材の毒を中和したり。それが使えないとなると、どうなるかは目に見えて明らかです。

「師匠、どうします?」

「……ふむ。ま、依頼受けようかな」

 師匠は、ニコリと笑ってそう答えました。その言葉に、町長さんの表情が晴れやかになっていきます。

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」

「なんのなんの。すべて私に任せなさい」

 ドンッと自分の胸を叩く師匠。その姿は、頼もしさの塊と言っても差し支えないでしょう。

 そんな師匠を見て、僕の心はかつてないほど熱くなっていました。これこそ、『森の魔女』としての師匠なのだと。誰もが崇拝してしまうほどの魅力を持った魔女の姿なのだと。

「ところで、町長」

 ああ。本当に師匠はすごいなあ……。

「はい。何でしょう、魔女様」

 こんな師匠だから、僕は……僕は……。

「今回の報酬っていくらになるの? かなり出るって聞いたんだけど」

 …………ん?

「ああ。そうですね。その話もしないといけませんね。えっと、この袋に入っております」

 …………

「こ、こんなに!? うへへ。おいしいものたくさん買えるぞー」

 …………やっぱり師匠は師匠でした。

 町長さんから渡された袋の中を覗き込みながら、ニヤニヤと笑みを浮かべる師匠。心の中の熱さは、いつの間にかなくなっていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたに恋をして

四季
恋愛
第二回・恋愛詩祭り 第一作

愛玩犬は、銀狼に愛される

きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。 そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。 呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

悪役令嬢から『薬屋』に転職しました!

こうじ
ファンタジー
エリーナ・コートロールは一年前に婚約者を妹に盗られ更に家まで追い出された。現在はとある田舎で王妃教育で養った知識を元に薬屋を営んでいる。そんな彼女の元に自分を追い出した元婚約者や元家族が悲惨な目にあっている、と噂が入り……。

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

処理中です...