魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅴ ソロモン革命

4節 着手 ⑥

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「おらぁ! はぁ……はぁ……これで半分くらい……ようし、もういいだろ。もっかい魔力補給!」

 これだけやれば十分だろうというところで、一旦投擲をやめて魔力吸収の休憩を挟む。

「いやしかし、ちょっと雑だったかな。巻き込まれて怪我とかしてないだろうな?」

 今更そんな心配をする。木を投げている最中にも頭を過ったが、結局全てを使うわけではないだろうからいいだろう、と考えるのをやめた。それに、誰も近づこうとしないだろう、という予想をして。そんなわけで、シルヴァが撃ち落としていたことも知らないまま一心不乱に投げ飛ばしていた。

「さあて、では採掘場に……いや、その前に報告か」

 少しは成長したようだ。勝手に動く前に、本部に向かってひとっ飛び。

「やあシルヴァ」
「ッ! エイジ様、お疲れ様です」

 何かに集中していたようだ。エイジも音を抑えていたとはいえ、シルヴァが彼の接近に気づかないのはかなり珍しい。

「ある程度やったし、ちょっと休憩だ。……おや、お姫さん方は?」
「角材に加工した木を移動し、仮設住宅建設予定地へと運送、第一号棟の建設説明会をしています」

「そうか。ダッ__」
「ダッキはモルガン様に代わり、人事を。私は各部署の進行状況の整理と共有をしています」

「オレは採掘を__」
「はい、了解しました。お気を付けて」

 礼をすると、シルヴァは背を向ける。

「……怒ってないか」
「いえ? そのようなことはありませんが」

 食い気味の返答に、どこかあっさりした対応。苛立っているのではないかと少し怖かったが、当のシルヴァはキョトンとしている。

「……ノクト」
「高炉の建設は、まだ始まっていません。まだ採掘場の本格稼働には至っておらず、建設材に加工する物も何もないからと。しかし、すぐにでも動けるようにと、ノクト様自ら情報の共有をしております」

「レイヴン」
「はい。先程彼は、エイジ様の絶技をご覧になった後、後発隊の坑内労働者たちに安全指導をしておりました。おそらく現在、追加の魔導具の運び込みの指示をしているものと思われます」

 淀みなくスラスラと返答するシルヴァ。頼もしい。

「そういえばさ、アレってどうした?」
「アレ、とは?」
「教えな~い。思いついたものを言ってごらん」

 顎に手を当て、しばし考え込むシルヴァ。目を瞑り、ハッとして顔を上げる。

「貴方様の書物の紙片でしたら、レイエルピナ様が城に持ち帰り、研究室の金庫に保管しているとのことですが」
「よく分かったな」

 豆鉄砲を食ったような表情で、頬をうっすら朱に染める。

「秘書が板についてきたね」
「ッ……お、お褒めに預かり、恐縮です」

「引き続き、よろしく」
「了解!」

 照れ照れシルヴァが可愛らしくて内心悶絶しながら、エイジは次の仕事へ向かう。

 単語で自分の欲しい情報を全て答えてくれて、指示語だけでおおよそ察してくれなど、頼り甲斐がありすぎる。結婚生活も上手くいきそうで、嫁に欲しいくらいだ。間違っても口には出さないが。


 なんて風に考えながら、エイジは洞窟の入り口までやってくる。

「よお。遂に、このオレが来ちまったぜ!」

 皆から微妙な反応をされるのを分かった上で、堂々と正面からゆっくりと入っていく。

 周りを見て、作業の邪魔にならないようにしながら、エイジは坑内を進む。見渡すと、壁あるいは天井に照明となる魔道具が吊るされ、奥からはゴウンゴウンと音を立てながら、強過ぎない程度の風が吹いてくる。換気用の魔道具であろう。坑道は後々トロッコを敷設することも考え、広々としている。

「へえ、いいじゃないの」

 数十メートルおきには、描きかけの坑内マップが掛けられている。さらに分かれ道にも出口への看板が立てられている。これで道にも迷いにくくなる。

 エイジがある程度奥に進むと、軽い振動と、鶴橋の振るわれる甲高い音が少しずつ聞こえるようになる。音に誘われるように進むと、立って指示するレイヴンと、その周辺に屈んで作業する魔族たちが見える。それを確認すると、満足したようにエイジは入り口へと戻っていく。その戻り道では、先ほどは気付かなかった、堀りかけの階段なども見かけて、エイジのテンションは上がる。

 そして、入口に戻ったエイジは、改めて周辺を観察する。

「おお、エイジではないか」

 キョロキョロと楽しそうに見回すエイジに、声が掛けられる。

「エリゴスさん……いいですね。いろんな配慮が見て取れる」
「お主に褒められるとは、誇らしいものだな」

「ふ……私はそんな、あなたが誇りに思えるような、偉大な人間でも優れた者でも、なんでもないですよ……それはともかく、何か手伝えることはないですか? エレベーターとか」

「え、あ、いや……大丈夫だ、何もないぞ?」
「…………はぁ、分かりますよ。確かに、私は力加減が下手です。坑道は危険ですからね、大人しくしておきますよ……」

 少し落ち込んだように、肩を落として立ち去ろうとする。

「ああ、一つ頼みが」
「……なんでしょう」

「外に、既に幾らかの鉱石を運び出してある。それを、加工場まで運んでもらえないだろうか」
「また運搬か……はい、分かりました。運んできますよっと!」

 少し飽きたか不満そうだが、飲み込んで仕事へ向かう。ちょっと不満そうな態度は、エリゴスにはお見通しだったが。
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