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Ⅳ 魔王の娘
2節 会議は舞闘 ②
しおりを挟む会議が始まる。まずは、各報告から。
「まず、レイヴン、頼む」
「ああ。軍の撤退状況だが、私とエリゴスの隊以外は城に向けて撤収を開始している。物資と共にな。残した二つの隊は消耗が少ないので、このまま施設の防衛にあたらせる予定だ」
「……そうか。ノクト、モルガン」
「僕の担当は負傷者だね。少なくとも、重症者の確認と治療は終了したよ」
「負傷者の名簿も、もう少しで完成よォ。出来上がり次第、すぐ渡すわァ」
「ふむ、さすが仕事が速い。それが終わったら、健康な兵には休養をとらせてやれ。では、エレンさん」
「ハッ。哨戒騎士等ノ報告ニヨレバ、現在帝国軍及ビ王国ニ目立ッタ動キハナイ。敵ノ斥候モアル程度マデハ接近スルモノノ、接触スルコトハナク、スグニ引キ返シテイル」
「ほうほう、これは想定通り。そのまま警戒を維持しておいてくれ。さて、エリゴス氏、フォラス殿」
「吾からは、装備の損害状況の報告だ。まず、破城用の兵装は大半が消耗品であること、城壁が最優先攻略対象であったことから、ほぼ全て使い切った。兵士たちの装備は隊毎の交戦状況にも依るのだが、推定で全体の二割が大破、三、四割程は大小の欠損があると思われる」
「私からは主に魔道具を。まず、通信機自体は二つほど壊れてましたが、他はほぼ無傷です。ただ、よりコストの高い中継装置の方が損害が酷く、三分の一に再利用不可能なほどの損壊が見られました。また、戦闘に用いた魔道具のうち、消耗品は七割、耐久品は二割の損失です。エリゴスの報告と合わせると、これら損失はアンテナ以外は想定以下である、と言えるでしょう」
「なるほど、総括すると損害は少なめと。それは上々。さて、報告は以上か。議事録はとれたね? 質問ある方はいるか」
不服。けれど認めざるを得ない、それなりにできるということは。暫く黙って聴いてやることにする。
「オーケー。報告は終わりと。では……次やるべきことの話だ。さてエレンさん、今すぐやるべきことは何だと思う?」
「エッ……エエト、ナンデアロウカ……ウーン……」
突然指名され、慌てふためくエレン。その姿は珍しく、また新鮮であった。
「はい時間切れ。唐突ですまなかったね。では、レイエルピナ」
「は? わたし⁉︎」
またも、当てられた者は意外であったか、驚く。
「おや、分からない? ヒントは、成果のうち消耗品についてだ」
「ちょっとは待ちなさいよ! ……そうね。食料!」
「食料を?」
「輸送して保管するんでしょ」
「正解! よくわかりましたね」
「ふん、なめないでよね」
でもどこか誇らしげというか、嬉しそうというか。
「では、それをどう保管すればいい?」
「えっ! そのまま保管すればいいでしょ」
「ざんねん。違いますねぇ」
むくれて、ちょっと赤くなる。かわいい。
「今は夏。特に食材が痛みやすい時期だ。対策なしではすぐダメになってしまうぞ。さて、わかる人?」
「はい!」
次は誰に当てようか迷っていると、後ろから凛とした声がする。
「お、テミスさん! どうぞ」
「冷やせばいい! ですよね?」
「おお、流石は、食文化の発達した帝国の姫君! 知っていましたか」
「えへへ、それほどでも」
照れ臭そうに頰をかいている。これまたかわいらしい。
「はえ⁉︎ テミ、ス……?」
素っ頓狂な声がする。その方向を見ると、レイエルピナが固まっていた。
驚きからか、目は見開かれてまん丸である。どこか小動物を想起させる愛らしさがあり、またエイジはまだ鋭い目しか見たことなかったために、意外と目大きいんだなと思うのであった。そして、そのあまりの驚きぶりから、背景に宇宙が見えた気がする。
「なっ、なななななななんで、帝国の皇女が、ここに!!?」
「ああ、自己紹介していませんでしたね。遅れて申し訳ありません、テミスです。よろしくお願いします、レイエルピナさん」
優雅に挨拶をする。そして一息置いてレイエルピナに余裕を作ってあげてから、本題。
「さて、なぜ私がここにいるかというと……エイジさんに、誘拐されてしまいまして……ふふ」
「またアンタか!」
怒り、というよりどこか呆れまで入っているようだった。
「さーて、話を戻すぞう。折角手に入れた食料だ、腐らせては勿体無い。そのため、痛むのを防ぐには冷蔵・冷凍する必要がある。ゆえにだ、食糧が到着する前に、地下倉庫の一部を改造する。スペースは有り余っているから問題ない。これに関しては保温が容易な地下であること、そして潤沢な魔力から容易であると考えるが。どうかな、魔導院と兵站?」
話を振られた二人は考え込む。
「まず、冷蔵と冷凍はどのようなものです?」
「あー……10℃以下とか-18℃とか言っても、多分わからないよね……冷蔵は水が凍らない程度の低温で、冷凍は食材がガッチガチに凍りつくくらいの温度だ。これでなんとなくイメージはついたか?」
「ええ、おおよそ。それでしたら、専用の魔道具を設置するだけで事足りるでしょう。しかし……」
「しかし? なんだ」
「私の想定だと、冷却効率が極めて悪いですね。恐らく、かなりのエネルギーを消費することになるはずです」
「ん……設置場所や出力の計算、壁を断熱素材に変えていく、なんかの工夫をする必要があるか。まあいい、できるんならとにかく急ごう。レイヴン、輸送隊の到着まであとどのくらいだ?」
「先行隊なら、あと二日もかからんだろう」
「了解。じゃあ今日の午後から倉庫の整理始めて、明後日の昼までには冷蔵冷凍庫が稼働できるようにしよう」
エイジの提案はすぐさま書き留められ、関係するであろう者たちは案への考慮を始める。と同時に、会議はひと段落と捉えられたのか、空気が緩む。
「おっと、まだまだ会議は終わりじゃないぞ。次は、砦に駐屯する兵力についてだが」
弛んだ空気を締め直すように、声を張る。
「駐屯の兵力か? それなら、現行のもので十分だと思うが」
「いいや、過剰だよ」
「どういうことだ?」
エイジの言葉に怪訝な顔をするレイヴン。拡大した領土の防衛のためには、その程度の人員は必要だと考えていた。
「先程の話だと、既に砦にいた兵力に加えて、一万程度の兵を追加したということだね」
「ああ。それくらいはいなければ防衛に難があると思うのだが」
「なら……そうだね。今回の戦争以前から駐屯していた者たち、そしてゴグには、二月ほどの長期休暇を与えよう。しっかり休ませてくれたまえ。そして、拠点周辺に残すのは、五千もいれば充分だろう」
自分の補足はスルーされ、そのまま続けて放たれた台詞の内容に、レイヴンはムッとする。
「ん、アンタならわかると思っていたんだけどな」
「悪いが説明してくれ。どうやら今の俺は少し冷静さを欠いている」
「……わかった、話すよ」
明らかに伝わる不機嫌さに、対応を間違えたかと後悔する。険悪度合いが増しかけた空気に、頭と胸を痛め、緊張しつつ話し始める。
「まず、この戦争の主目的はなんだったかな?」
少しでも明るくしようと、語気を軽めに意識する。却って悪化する可能性も考慮し、内心怯えながら。
「帝国の弱体化、だったな」
「うん。で、その目論みは成功した、はずだ。戦争をすると、真っ先に被害が出るもの。それは……兵士だ。何より速く動いて迎撃に当たらなくてはならないからね。そして、今回我々は民間人ではなく、兵士達を狙った。だから、被害が最も大きいのは兵隊だと思われる」
「なるほどな、追撃に当てられる兵力がないと。だが、全くないとは限らないぞ」
「では続き、の前に確認。その兵隊の構成員のうち多数は若い男性だと思う。多分。そうだよね?」
仮にも兵法の達人である将軍に対し、間違った情報から頓珍漢な提言でもしようものなら失望されてしまうだろうから、少し慎重になっている。何せ、彼には外堀を埋めてもらわなければならないので。
というわけで、テミスに確認を取る。
「はい、その通りですよ。帝国兵の大半は男性、さらに若い人の方が多いです」
「そうか、よかった。帝国の若いの基準が何歳なのかは分からないけど、健康寿命的に。まあ若いと感じるなら若いのだろう、うん。ところで話逸れるけど帝国って徴兵制?」
「ええと、はい。全員ではないですが、多くの若者は、一度兵役を経験するはずです」
「そうか。なら、若者が多いと納得がいくな。……女性は?」
「女性も、男性ほど多くはありませんが、ありますよ」
「選出基準は?」
「それは確か__」
「おい、戻ってこい!」
「ごめんなさい!」
途中、テミスから帝国の情勢を訊く方に逸れ、レイヴンから叱責を受けて縮み上がる。
「まあ、ええと……現在帝国は、多くの兵士を失った。つまりこれは、労働力を失ったととることもできる。さて、帝国の損害だけれど。市街地での抗争だ、公共設備や民間の家屋にも多くの被害が出ているだろう。確か、俯瞰していた限りでもそう見えていた。そんな中、兵士をウチらの拠点まで派遣しようとしたら、どうなると思いますかね、魔王様?」
「む⁉︎ ああ、更なる損害が出て、復興が遅れる。距離も遠く、その行軍で消費する物資もバカにならんだろうな。……そんなことをすれば、力尽きてしまうか」
「その通りです。加えて、ただでさえ広く、使いきれていなかった土地を取り戻したところで益がない。かつてそこで暮らしていた農民たちからは反感を受けるだろうが、より力ある帝都民たちからの反対の方が大きい。それに、地方の民達を帝都に迎え入れる方策を取るだろう。復興への労働力を補えるからだ。もし仮に、帝国が残った兵力をかき集めて打って出てでもしてみろ。そんなことをした瞬間、帝国の崩壊は確定するさ」
レイヴンは片手で頭を抑え、考える素振りをする。
「つまり?」
「要は、こちらを攻めるメリットがなく、寧ろ損害を大きくし、国を崩壊させかねないということさ」
「なるほどな……王国軍は?」
「王国軍は、あくまで帝国の防衛協力と復興支援が目的だ。こちらの国力を削ろうにも、消耗が大きいし、大勝で勢いづいている今、攻め込むのは危険と考えるのが妥当だ。先と同様、現時点でわざわざこちらを攻めるメリットが一つもない。復興作業を邪魔されたくないから睨みを効かす、がせいぜいだろうね」
そこまで聞くと息を吐き、座り直した。
「わかった。では、その通りにしておこう。ああそれと、これはお前の説明に納得していないわけではないのだが、もし攻め込まれた際の対応も考えたい。宰相ならどうする」
「拠点としての用途は終わり、資源を奪った以上、もう集落に利用価値はない。取り壊すかは自由だが、守る必要はない。もし攻め込まれたら、潔く撤退して被害を最小限に留めて欲しい。ただし、砦の防衛線だけは死守すること。砦には転移陣が繋がっているから、戦線の維持さえできれば、直ぐにこの城から増援を飛ばせる」
「そうか、集落はもういらないと。参考にしておこう。だが、領土拡大もまた目標ではなかったか?」
「あれ、そうだっけ……」
はぁ……とため息を吐かれる。エイジは内心やっちまったと大慌て。
「我らは南下して豊かな土地を手に入れるのだ、と言わなかったか」
「……ああ、そういえばそうだな。忘れてた。けど……」
忘れていた理由を思い出し、その先へと考えを巡らせる。
「ああそうだ、そうする必要がなくなるかもしれないんだったな」
「ほう、この土地の貧しさを改善する策が、お前にはあると」
「ええ、そうです魔王様。改善と言うとアレですが、カバーする方法はあります」
「と、すると。それがお前がこの会議で話したい今後のことについて、か。聞かせてみせよ」
ベリアルが発言を促すが、促された当人は浮かない顔。
「……っ、ああ~っと、それなんですが」
「うむ。……どうした?」
「今のところ、いい考えが思い浮かんでいなくて」
「えっ……」
「はっ?」
間抜けた声が聞こえる。しかも一つだけではなかった。期待の裏返しでもあるのだが、彼にとっては失望のプレッシャーを強く感じる。
「それが、戦争に集中していて、それ以降のことはあんまり……」
目が泳いでいるエイジに、困ったようにベリアルはこめかみを掻く。
「手詰まりか?」
「あいえ、案が無いわけでは。けれど、それらの擦り合わせ、どこを発展させどこを削るか、順序などの具体的な考えがまとまっていないのです」
「まァ、エイジくんは誰より頑張ってたし、他の仕事まで手伝ってくれたんでしょ? ならちょっとは仕方ナイと思うの」
「だがそれは、管轄外を気にかけるあまり、自らの仕事が手についていないということでもある。これを機に、宰相殿には抱え込むものは少なく抑えることを学んでいただきたい」
即座に飛ぶ擁護と、憂慮の苦言。王女は親しき者より、彼の人望を計る。
「なるほど、まだまだできるのだな?」
「当然でございます、流石に。やりたいことはまだまだ大量にある、けれど手当たり次第はとっ散らかるのみで、収拾つかず逆に悪化が目に見えてるので。私はあれこれと手を出す癖がありますが、一つに絞った方がいいタイプなのです」
自信があるんだかないんだか。態度がフラフラしていてよくわからない状態だった。
「本当、なんでしょうね」
そこへ口を挟む者がいる。声音は高く、口調は女性的。となれば、件の人だ。
「信用ならない?」
「当たり前よ。具体案の一つでも示しなさい!」
「では、いくつか。例えば、魔力に依らない化学薬品の生産プラントや金属の製錬など。それに加えて、これまた魔力を必要としない動力で稼動する、大型の生産機械及び輸送機関の製造による、物流と加工技術の発展」
「…………」
「そんなこと可能なのか、と言いたげな目のようだが……知識はある。あとは魔王国の技術と物資、労働力がどれくらいあるかという話」
言葉も出ないほどに唖然としていた。誰も知らないようなこと、夢物語のような壮大な話を、さもこともなげに言い放ってのけたから。
「それは期待の持てる話だ。では、それに向けてどうすればよい?」
「今は忙しくて思考がまとまらないのです。数日の暇をいただければ考えも少しは固まるのですが、まだ優先的に片付けねばならない仕事も多く残っているものですから」
時が解決する、焦っても仕方なし。幹部らはなんとかしてくれると信頼しつつも、自らは何もできず、同時に不甲斐ない。
「じゃあ…私たちは…その考えが…まとまるまで…何してればいいの…?」
「「⁉︎」」
ちょうど途切れた時、その声はよく通った。誰かが発言していたら、か細い声などかき消されて聞こえなかっただろう。
メディア。幹部会において滅多に言葉なき者の発言は、大きな衝撃を与えた。
「あえ⁉︎ ……ともかく言えることは、木材や石材、鋼材やエネルギー源、そして人財。情報さえもだ。ありとあらゆる資源を集めてほしい。資源さえあれば、いざやろうという時すぐに動けるから」
「…そう…わかった。……それと…身体には…気をつけなさい……」
発言は僅かであった。しかし、それだけで必要な情報を引き出し、自らの立ち位置も示す。普段話さぬ者が口を開く時の影響は強かった。
「なるほど。撤退を急がせたこと、そして軍の駐留を最小限に留めるのは、労働力確保のためか」
「確かに、この乱れた体勢を整えずして次の段階、というのは心許ないですねぇ。ならば損失分の補填を生産せねば」
「いえ、フォラス殿。お主は新技術の開発に専念を。それは吾にお任せくだされ。先の戦争で、魔導の肝要さはよく理解した」
「だとしたら、ワタシの仕事、超増えるわよねェ……はぁ、憂鬱~」
「ホウ、ナラバテミス姫、モルガン殿ノ仕事ヲ、手伝ッテクレハシナイダロウカ」
「えっと、私、ですか? ううむ、不安はありますけれど……ええ、私にやれることでれば、やってみます!」
「ダッキさん、分かっていますね?」
「ええ、もちろん。わたくし達のお勤めは、仕事を片付け、彼の負担を減らして差し上げること、ですわね。予備人員の導入も検討いたしましょう」
「ウオー! ヨグワガンネケドモ、オラモナンダガヤルギガワイデギダゾ!」
「アハハ、いいねぇゴグっち。けど、エイジクンも言ってた通り、君は休むんだ。お疲れ様だからねぇ。久しぶりに、仲間の顔を見に行ってきたらどうだい? ああそうだ、いまなら美味しいお肉が食べ放題だ!」
「せ、静粛に! 発言は挙手して順番に__」
空気は一変し、いつもの、魔王国らしい、賑やかで朗らかな会議が再開した。……ただ一人を除いて。その子は端で不貞腐れていた
「どうだ、レイエルピナ。これが、今の魔王国だ」
ワイワイガヤガヤ、思い通りに話し始めるメンバーをエイジが収めようとしている傍らで、ベリアルはレイエルピナに声をかける。
「それが、どうかしたんですか」
「良いと思わないか? 活気があって。これもまた__」
「エイジのおかげ……」
レイエルピナの言葉に微笑し、頭に手を置く。その心底に気付かぬまま。
「ああ、そうだとも。彼奴のおかげで、魔王国には活気が満ちた、明るい道に向かっているように思えるのだよ。……そうだ、謝らねばなるまいな。お前を旅に出したのはよくなかったな。必要なく__」
「は? 何言ってんですかアンタ」
会議を閉じようとし、比較的静かになった部屋の中で、その低い声はよく通った。
「違うでしょ魔王様。なぜそこで否定する」
冷めた目で、責めるように告げられ、たじろぎ焦る。
「旅に出る、自分の目で知見を得る。それは決して無駄なことではない! オレやテミスがいるとか関係ない。子の努力を蔑ろにするなど、アンタそれでも父親か!」
そういうわけではない、彼の現れるターニングポイントに立ち会えなかった、こちらの動向を知らせぬまま動乱に巻き込ませてしまったこと……そう言い訳は浮かぶが、言えない。責める者の剣幕に、そして彼さえそう捉えたというなら、娘は__
「あなたは、上司として、王としては至高かもしれないが、親としては失格なのではない__」
「それ以上お父様を責めるな!」
反論できず打ちのめされる彼の前に、小さな影が割り込む。
「わたしはお父様に救われた。そして、愛してもらった。それだけでよかったの。そう、それだけで、わたしは……!」
今にも崩れそうな顔で、父を擁護する。その様に、エイジは__
「その目を、するな!」
鋭い金属音が鳴り響き、エイジの前に剣尖が差し向けられる。だが、彼はやめることはなかった。
「……お前も、魔王国の民だ。オレが護り、救わねばならぬ使命がある」
「はぁ⁉︎ 何を言って__」
「オレが受けた印象に過ぎない話ではあるが、君のように攻撃的な人は、弱い人が多い」
「なんですって……‼︎」
「自らが傷つかないために、威嚇するような態度で人を寄せ付けないようにしているだけだ。……現に君からは儚さすら感じている」
歯軋りをして、より一層雰囲気が刺々しくなる。その怒りは、図星を突かれた故か。
「一つ、聞かせなさい。アンタどこから湧いて出てきたわけ」
「ここより、遥か遠くの地だ」
「何をしていたの、なぜここに来た!」
「学習し、仕事をして、何不自由なく過ごしていたさ。だが、事故に巻き込まれ、ここに行き着いた。……そこで見たんだ、この国の有り様をな。そして、オレは苦しむ彼らを放って置けなかった。幸いオレには知識と技能、力があった。それを用いれば、この国を救えるかもしれないと考え、宰相に立候補した」
その言葉には、不覚にも心を打たれてしまった。だが、無性に嫌な感じがして反発してしまった以上、彼女だって後に退けなかった。
「アンタは綺麗事ばかり!」
「ああ、そうだな」
動じない。絞り出したような非難には。
「わたしたちが、どんな境遇を過ごしてきたかもよく知らないくせに!」
「ああ、そうだな」
「レイエルピナちゃん、エイジクンをいじめちゃ__」
「いいんだモルガン。ここは引いてくれ」
目線だけ向けて、黙らせる。今ここは挟まるべきに非ず。
「アンタはなんの不自由もない、ヌルい暮らしをしてきたくせに! わたしのことを分かったように‼︎」
「ああ、そうだ、オレは君がどんな境遇であったかなど何にも知らん」
「なら__」
「だからこそ!」
強き意志持つ一喝に、剣身が揺れる。
「だからこそだ! オレが言わずして、一体誰が! 綺麗事を言えるというのか‼︎ 戦いを知らなかったからこそ、飢えを知らないからこそ、苦痛を知らぬからこそ言えることもある‼︎ オレは、決して引かんぞ。例えどう言われようが! オレは、オレのあって欲しいという綺麗事の理想を、いくらでもほざいてやる!」
その目を、真っ直ぐ見つめて。一歩進む。
その目に耐えられなくなり、剣を下ろして、俯く。
「わたしは__」
落着。そう判断できた者は漸く体が動く。二名の剣幕に、まるで凍ったように硬直していた。
「お嬢……」
「落ち着きなさいましたか。では、席についてくだされ。すぐ終わりますゆえ」
宥めるように話しかけると、着席を勧める幹部達。しかし……しかしそれこそが、最後の一押しとなってしまった。
「もういい! アイツのことばかりでわたしを除け者にして……こんな邪魔な子なんていらないんでしょ‼︎」
「ま、待てレイエルピナ! そういうわけでは__」
「もう知らない‼︎」
発言に行動、その全てが曲解され、すれ違った結果、その関係に亀裂が入ってしまった。
「会議は終わりましたね。では、私はこれで。執務に戻ります。いくぞ」
「私は、どうすれば……」
「知りません。父親でしょう、自力で解決してください」
頭を抱えるベリアルを残し、渦中の二人は部屋を後にした。
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