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Ⅱ 魔王国の改革
11節 外交 〜妖精編 ①
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其処は魔王城より遥か東の森の中、その中にあるには相応しからぬ白亜の古城が聳えていた。それは、ウッドエルフの王が座す居城である。その城主の間へと、何者かが飛び込む。その者はウッドエルフ軍勢の斥候員であった。
「王よ、報告致します。あの忌々しいダークエルフ共に、第三防衛線が突破されてしまいました‼︎」
「なんということだ……。もう後がないではないか……」
その報告に王は苦い顔をし、城内は俄に騒がしくなった。
「静粛にせよ!」
王が一喝したことで幾らか静かになったが、まだ皆動揺を隠せないでいる。
「ううむ、どうすれば良いのだ……。もう、降伏するしかないのか……」
「王よ! それは……」
玉座に重い沈黙が満ちる。ところがそれも長くは続かず、声が響き静寂を引き裂いた。
「やあ、何かお困りのようですねえ?」
「な、何者だ!」
玉座から見て右側、大きな窓に何者かが脚を組んで腰掛けていたのだ。その者は、黒い外套を羽織った白髪の、超然とした男だった。
「おっと、失礼、申し遅れました。私は魔王国の宰相、エイジと申します。どうぞ、お見知りおきを」
窓枠から降り、優雅に一礼しつつ、その男は名乗った。
「なっ、魔王国だと⁉︎ 魔王国が何の用だ!」
「おやおや、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。今回は戦いに来た訳ではないので。私はね、あなた方と和平、いや、同盟を結びに来たのですよ」
「同盟だと⁉︎ 魔王国が? 何の冗談だ!」
「ふ、冗談ときたか。……いえいえ、我々は大真面目ですよ。では、これから大事な話をするので、許可するまで余計な口を挟まずにちゃーんと聞いてくださいね」
そう言いながら、彼は再び窓枠に寄り掛かった。敵地のど真ん中でありながら、緊張感のない悠々とした振る舞いだ。
「我々魔王国はですね、そろそろ本格的にヒトの国に攻め込もうと思ってるんですよ。しかしそうすると後ろにいるあなた方が、正直に言うと邪魔でしてね。攻め込んで滅ぼすのは簡単ですが、流石にそれは可哀想ですし、こちらも無駄な消耗は避けたくて。だからまあ、あなた方にチャンスをあげることに致しました。明々後日、ダークエルフも交えて、妖精国間の停戦及び三国同盟を結ぶ会合を催すつもりです。ああ、今決めなくても大丈夫ですよ。明日遣いを送るので、詳細はその折で。その際に返事を聞かせてください。こちらからは以上です。何か質問はありますか?」
「もし断ったら、我々はどうなる⁉︎」
許しが与えられた直後、国王が真っ先に問うた。
「先程申し上げた通り、あなた方を滅ぼします。まあ、二日もあれば十分ですかね」
「ふ、二日で、だと……。魔王国は、もうそれほどまでの力を持っているというのか……」
当然の如くさらりと言われた言葉に、エルフ王はこの世の終わりのような顔をする。場の空気は冷え切っていた。
「あれ、もうよろしいんですかね? では、明日返事を伺います。いい返答を期待していますよ。では、さようなら~」
そう言うと男は後ろに倒れ、窓枠から真っ逆さまに消えていった。
「なっ!」
見張りが窓に駆け込み下を見たが、そこにはもう誰も居なかった。まるで気ままなつむじ風のような男だった。
「むう、魔王国にダークエルフとの停戦か……」
ウッドエルフの王は思い詰めたような顔をした。
「ダークエルフどもは、受けますかね?」
「儂と考えが同じなら、間違いなく来るだろう。彼らは我々エルフ同士の戦争では優勢だが、魔王国に干渉されればなす術がないのは同じだからだ…………重臣を集めよ、会合に向けて協議を始めるぞ」
「王よ、報告致します。あの忌々しいダークエルフ共に、第三防衛線が突破されてしまいました‼︎」
「なんということだ……。もう後がないではないか……」
その報告に王は苦い顔をし、城内は俄に騒がしくなった。
「静粛にせよ!」
王が一喝したことで幾らか静かになったが、まだ皆動揺を隠せないでいる。
「ううむ、どうすれば良いのだ……。もう、降伏するしかないのか……」
「王よ! それは……」
玉座に重い沈黙が満ちる。ところがそれも長くは続かず、声が響き静寂を引き裂いた。
「やあ、何かお困りのようですねえ?」
「な、何者だ!」
玉座から見て右側、大きな窓に何者かが脚を組んで腰掛けていたのだ。その者は、黒い外套を羽織った白髪の、超然とした男だった。
「おっと、失礼、申し遅れました。私は魔王国の宰相、エイジと申します。どうぞ、お見知りおきを」
窓枠から降り、優雅に一礼しつつ、その男は名乗った。
「なっ、魔王国だと⁉︎ 魔王国が何の用だ!」
「おやおや、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。今回は戦いに来た訳ではないので。私はね、あなた方と和平、いや、同盟を結びに来たのですよ」
「同盟だと⁉︎ 魔王国が? 何の冗談だ!」
「ふ、冗談ときたか。……いえいえ、我々は大真面目ですよ。では、これから大事な話をするので、許可するまで余計な口を挟まずにちゃーんと聞いてくださいね」
そう言いながら、彼は再び窓枠に寄り掛かった。敵地のど真ん中でありながら、緊張感のない悠々とした振る舞いだ。
「我々魔王国はですね、そろそろ本格的にヒトの国に攻め込もうと思ってるんですよ。しかしそうすると後ろにいるあなた方が、正直に言うと邪魔でしてね。攻め込んで滅ぼすのは簡単ですが、流石にそれは可哀想ですし、こちらも無駄な消耗は避けたくて。だからまあ、あなた方にチャンスをあげることに致しました。明々後日、ダークエルフも交えて、妖精国間の停戦及び三国同盟を結ぶ会合を催すつもりです。ああ、今決めなくても大丈夫ですよ。明日遣いを送るので、詳細はその折で。その際に返事を聞かせてください。こちらからは以上です。何か質問はありますか?」
「もし断ったら、我々はどうなる⁉︎」
許しが与えられた直後、国王が真っ先に問うた。
「先程申し上げた通り、あなた方を滅ぼします。まあ、二日もあれば十分ですかね」
「ふ、二日で、だと……。魔王国は、もうそれほどまでの力を持っているというのか……」
当然の如くさらりと言われた言葉に、エルフ王はこの世の終わりのような顔をする。場の空気は冷え切っていた。
「あれ、もうよろしいんですかね? では、明日返事を伺います。いい返答を期待していますよ。では、さようなら~」
そう言うと男は後ろに倒れ、窓枠から真っ逆さまに消えていった。
「なっ!」
見張りが窓に駆け込み下を見たが、そこにはもう誰も居なかった。まるで気ままなつむじ風のような男だった。
「むう、魔王国にダークエルフとの停戦か……」
ウッドエルフの王は思い詰めたような顔をした。
「ダークエルフどもは、受けますかね?」
「儂と考えが同じなら、間違いなく来るだろう。彼らは我々エルフ同士の戦争では優勢だが、魔王国に干渉されればなす術がないのは同じだからだ…………重臣を集めよ、会合に向けて協議を始めるぞ」
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