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Ⅱ 魔王国の改革
9節 宰相のお仕事 其の二 ③
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三人が急行した先は三階、魔導院であったが__
「「「………………」」」
空いた口が塞がらないというか、壁が大きな口を開けていた。
「な、なにが……?」
「いやぁ、申し訳ない。私が席を外している間に、部下たちが軍用魔道具の実験をしていたら暴発してこんなことに。これは私の管理責任問題ですかね」
フォラスが後頭部を掻きながらへらへらと謝る。
「いやそれ地下でやれや! 何のための場所だと!」
「いやはや、これからはより一層気をつけます。で、どうしましょうかね、これ」
「…………はぁ……シルヴァ、城中にこのことを報告をしつつ、大事なしとして騒ぎを鎮めてくれ。パニックが大きいようなら、他の人員を応援として動員すること。ダッキは兵站の者たちに連絡して建材を持って来させて、修復作業を開始するよう頼め。オレはここで被害の全容を確認する。フォラスに始末書もとい顛末書も書かさねばならんしな。頼んだぞ」
「「了解!」」
秘書たちは実に優秀だった。騒ぎはものの僅かで鎮まり、修繕のための人員が直ぐに派遣された。その頃には、エイジの方も被害の確認が終わっている。穴は人二人分ほどの大穴で、幾つかの実験設備や作品が巻き込まれたものの、研究施設自体が頑丈であったために小さめの被害に収まっていたことが不幸中の幸いか。
「……なるほどね」
作業員が到着し工事が始められた中、エイジは石材を手に取り眺めていた。その顔はやや不満げ。形は整っているが、レンガというには大きく、石材同士の材質、大きさも疎(まば)らであったためだ。つまり想像とは違っていて、資料の作り直しに対する必要性を強く再認識していた。
そして、エイジは壁穴の修復作業も眺めていたのだが……どうにも彼らの手際が悪い。具体的には、壁の修復には石材を宛てがい、それをセメントで固めていくだけなのだが、作業員同士が顔を見合わせるばかりで遅々として進まない。遂に業を煮やしたエイジは__
「おい、何をしている。早くやらないか!」
「それが、我々は壁の修理なんて初めてなものですから、分からなくて……」
なんてことだ、とばかりにエイジは額に手を当て項垂れる。
「この城を建てたときにいた者たちは?」
「大半は死亡したり、この国を去りました……」
「……仕方ない、ここは私がやるか」
内心は、オレだって知らねえよ、だったが、このままだと日が暮れると思い、周りでオロオロしている作業員や研究員など気にも留めず作業を始める。
「任務、完遂致しました」
「わたくし達にお手伝いできることはあります?」
「おお、丁度いいところに。じゃあ、まずはこの破片を取り除いてくれ。それから……石材はオレが加工しておく。それにセメントを塗って、建材を重ねていってくれ。とりあえず、今見本を見せよう」
まず、中途半端に砕けた煉瓦を取り除く。次に石材を適当に宛てがい、必要数や大きさ等をざっくりと把握。それから、変形能力や剣での切断等を駆使し石材を加工。セメントを塗り、石材を重ね、途中でまた変形能力を使うなどして微調整を行い、カッチリと嵌めていく。その見本を見せたのち、エイジは加工しつつ指示を出し、部下や作業員に修理をさせる。
その結果、宰相の尽力のお陰で、数十分掛かったものの、修復はほとんど完了してしまった。
「あああ、疲れた……」
「……お疲れ様です」
爆発によって壊れた壁の修復作業をしているうちに正午を回っており、休憩時間になっていた。
「紅茶が飲みたい、お茶が……」
ソファに座り、ぼーっと虚空を見つめてぼやいているエイジの姿に、職員たちは同情を禁じ得ない。
「この前の報告書に茶葉ってあったはずだ。おーい、秘書。お茶の淹れ方わかるかい?」
「申し訳ございません。存じ上げないです」
「だよね、前まで存在を知らなかったくらいだし……ダッキは?」
「烏龍茶なら知っておりますわ」
「そうか……仕方ない、今日は自分で淹れるか」
エイジは秘書二名を引き連れ、一階食堂にやって来た。が、そこには置いてなかったので地下の保管庫に向かった。そして茶葉とカップにポット、茶漉しを回収して厨房へ。食器の購入も頼んでいたおかげで、道具一式を自作する必要がなく、エイジはホッと胸を撫で下ろした。陶器や金属ざるを作るのは、きっと骨が折れるだろうから。
セットを持って、厨房に行く。水道から出てくる軟水を薬缶に入れ、コンロの上に置く。コンロといっても魔道具が設置されていて、魔術陣がIHのようになっている。そこで加熱している間にポットに茶葉を入れておき、沸騰したらポットに入れて暫く待つ。この辺は、正直感覚。
いい感じになったなと思ったら、茶漉しをセットし、カップに注ぐ。その工程を、シルヴァが熱心にメモとっていた。
「うん、なかなかいい匂いだ」
匂いを堪能したら、カップを口元に持っていき、フーフーと息を吹きかける。そして一口含んだ。瞬間、彼の体がビクッと跳ねる。
「どうなさいました⁉︎」
「……舌やけどした。紅茶あちゅい……」
「……プッ」
堪らずダッキは吹き出してしまう。
「仕方ないだろ⁉︎ 猫舌なんだから‼︎」
エイジもヤケクソになって反論する。
「だって、わたくしの妖火を浴びてもピンピンしている方が紅茶で火傷……あははは!」
「それとこれとは、話が違うだろ! オレだって嫌だよ! 猫毛猫舌猫背……どこまで猫で統一するんかって感じさ!」
「……ダッキ様? わたくしの妖火とは? 話を聞かせてもらえないでしょうか。彼に、一体、何をしたのか」
「ひぇ⁉︎ い、いえ、なんでもないのですのよ……おほ、おほほほ」
ボロを出して、シルヴァに凄まれるダッキ。それを見たエイジは__
__さてはコイツ、あのこと話してないな? よっしゃ、弱みゲット。いざとなったら話してシルヴァにシメてもらおう__
なんてことをダッキへの保険に考えておくのであった。
「「「………………」」」
空いた口が塞がらないというか、壁が大きな口を開けていた。
「な、なにが……?」
「いやぁ、申し訳ない。私が席を外している間に、部下たちが軍用魔道具の実験をしていたら暴発してこんなことに。これは私の管理責任問題ですかね」
フォラスが後頭部を掻きながらへらへらと謝る。
「いやそれ地下でやれや! 何のための場所だと!」
「いやはや、これからはより一層気をつけます。で、どうしましょうかね、これ」
「…………はぁ……シルヴァ、城中にこのことを報告をしつつ、大事なしとして騒ぎを鎮めてくれ。パニックが大きいようなら、他の人員を応援として動員すること。ダッキは兵站の者たちに連絡して建材を持って来させて、修復作業を開始するよう頼め。オレはここで被害の全容を確認する。フォラスに始末書もとい顛末書も書かさねばならんしな。頼んだぞ」
「「了解!」」
秘書たちは実に優秀だった。騒ぎはものの僅かで鎮まり、修繕のための人員が直ぐに派遣された。その頃には、エイジの方も被害の確認が終わっている。穴は人二人分ほどの大穴で、幾つかの実験設備や作品が巻き込まれたものの、研究施設自体が頑丈であったために小さめの被害に収まっていたことが不幸中の幸いか。
「……なるほどね」
作業員が到着し工事が始められた中、エイジは石材を手に取り眺めていた。その顔はやや不満げ。形は整っているが、レンガというには大きく、石材同士の材質、大きさも疎(まば)らであったためだ。つまり想像とは違っていて、資料の作り直しに対する必要性を強く再認識していた。
そして、エイジは壁穴の修復作業も眺めていたのだが……どうにも彼らの手際が悪い。具体的には、壁の修復には石材を宛てがい、それをセメントで固めていくだけなのだが、作業員同士が顔を見合わせるばかりで遅々として進まない。遂に業を煮やしたエイジは__
「おい、何をしている。早くやらないか!」
「それが、我々は壁の修理なんて初めてなものですから、分からなくて……」
なんてことだ、とばかりにエイジは額に手を当て項垂れる。
「この城を建てたときにいた者たちは?」
「大半は死亡したり、この国を去りました……」
「……仕方ない、ここは私がやるか」
内心は、オレだって知らねえよ、だったが、このままだと日が暮れると思い、周りでオロオロしている作業員や研究員など気にも留めず作業を始める。
「任務、完遂致しました」
「わたくし達にお手伝いできることはあります?」
「おお、丁度いいところに。じゃあ、まずはこの破片を取り除いてくれ。それから……石材はオレが加工しておく。それにセメントを塗って、建材を重ねていってくれ。とりあえず、今見本を見せよう」
まず、中途半端に砕けた煉瓦を取り除く。次に石材を適当に宛てがい、必要数や大きさ等をざっくりと把握。それから、変形能力や剣での切断等を駆使し石材を加工。セメントを塗り、石材を重ね、途中でまた変形能力を使うなどして微調整を行い、カッチリと嵌めていく。その見本を見せたのち、エイジは加工しつつ指示を出し、部下や作業員に修理をさせる。
その結果、宰相の尽力のお陰で、数十分掛かったものの、修復はほとんど完了してしまった。
「あああ、疲れた……」
「……お疲れ様です」
爆発によって壊れた壁の修復作業をしているうちに正午を回っており、休憩時間になっていた。
「紅茶が飲みたい、お茶が……」
ソファに座り、ぼーっと虚空を見つめてぼやいているエイジの姿に、職員たちは同情を禁じ得ない。
「この前の報告書に茶葉ってあったはずだ。おーい、秘書。お茶の淹れ方わかるかい?」
「申し訳ございません。存じ上げないです」
「だよね、前まで存在を知らなかったくらいだし……ダッキは?」
「烏龍茶なら知っておりますわ」
「そうか……仕方ない、今日は自分で淹れるか」
エイジは秘書二名を引き連れ、一階食堂にやって来た。が、そこには置いてなかったので地下の保管庫に向かった。そして茶葉とカップにポット、茶漉しを回収して厨房へ。食器の購入も頼んでいたおかげで、道具一式を自作する必要がなく、エイジはホッと胸を撫で下ろした。陶器や金属ざるを作るのは、きっと骨が折れるだろうから。
セットを持って、厨房に行く。水道から出てくる軟水を薬缶に入れ、コンロの上に置く。コンロといっても魔道具が設置されていて、魔術陣がIHのようになっている。そこで加熱している間にポットに茶葉を入れておき、沸騰したらポットに入れて暫く待つ。この辺は、正直感覚。
いい感じになったなと思ったら、茶漉しをセットし、カップに注ぐ。その工程を、シルヴァが熱心にメモとっていた。
「うん、なかなかいい匂いだ」
匂いを堪能したら、カップを口元に持っていき、フーフーと息を吹きかける。そして一口含んだ。瞬間、彼の体がビクッと跳ねる。
「どうなさいました⁉︎」
「……舌やけどした。紅茶あちゅい……」
「……プッ」
堪らずダッキは吹き出してしまう。
「仕方ないだろ⁉︎ 猫舌なんだから‼︎」
エイジもヤケクソになって反論する。
「だって、わたくしの妖火を浴びてもピンピンしている方が紅茶で火傷……あははは!」
「それとこれとは、話が違うだろ! オレだって嫌だよ! 猫毛猫舌猫背……どこまで猫で統一するんかって感じさ!」
「……ダッキ様? わたくしの妖火とは? 話を聞かせてもらえないでしょうか。彼に、一体、何をしたのか」
「ひぇ⁉︎ い、いえ、なんでもないのですのよ……おほ、おほほほ」
ボロを出して、シルヴァに凄まれるダッキ。それを見たエイジは__
__さてはコイツ、あのこと話してないな? よっしゃ、弱みゲット。いざとなったら話してシルヴァにシメてもらおう__
なんてことをダッキへの保険に考えておくのであった。
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