魔王国の宰相

佐伯アルト

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I 宰相始動

8節 関門たる試練 ②

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 円卓の部屋にて__

「……ということがあったのです。まっことたまげましたなぁ、ハッハッハ!」

 エリゴスが、ベリアルに事の顛末を説明した。

「ふむ、エリゴスから一本取るとは大したものだな……さて、エイジよ。そろそろ頃合いであろう。お前の秘密を、その不思議な力についてを、話してほしい」

__遂にこの時が来たか。あまり手の内は明かしたくないんだが__

「はい、わかりました」

 信用を得るためには仕方ない。隠し通せるものではないし、使わなければ宝の持ち腐れ。

 エイジは一呼吸おいて頭を整理し、話し始める。

「ですが、私がこの世界に来た経緯、まだ説明していなかったですよね」

 エイジが話し始めたことで、注目が集まった。

「互いに信頼関係もできてきたので、そろそろもう明かしたいと思います。この説明をしないと能力についてうまく話せないので、まず話させてください」

__さあ、オレの能力を知ったら、彼らの表情がどうなるか、見物だなぁ__

 内心ワクワクしながら、エイジは種明かしを始める。

「私はこの世界に来る前、自身を神の遣いである天使だと名乗る、正体不明の存在と接触しました。つまり、元の世界から直接来たのではなく、その者が言うには天界を経由しました。ですが、ご安心下さい。彼らと接触したのはその時だけで、今は関係ありませんし、あなた方と敵対せよとも言われておらず、自由にしてよいとのことでしたので」

 信頼七割、疑い三割といった視線だ。まあ実際、幾らか虚偽が交えられているが。

「その時に天使から、この世界にそのまま行くのはかわいそうだ、という理由で、転移前に力を授けようと言われまして、その時に私は幾らか能力を得ました」

 いよいよ能力の話だ。今までの話もとても興味深いが、今一番知りたいことだ。幹部たちは喉を鳴らした。

「では、まず一つ目。それは、『全ての体系立った言語に対する知識の理解、及び自動翻訳』。話し言葉にも書き言葉にも対応します。本来私とあなた方が話す言語、読み書きする言語は違うのですが、難なく話せるようになったのはこの能力のおかげですね。頑張れば人より知性の劣っている魔族たちとも、言語の概念さえあれば会話できるかもです」

 この能力が無ければ、まず魔族語を学ぶ必要があり、この世界について等をすぐには理解できなかっただろう。それ以前に、転移直後にレイヴンに殺されていたかもしれない。

「そして二つ目、『自身の所有物を召喚、及び収納する能力』です。自身の所有物を私専用の亜空間に収納したり、それを手元に喚び寄せたりできる能力です。喚び出す時には、亜空間の孔を開けて、そこから取り出します。もしくは孔を開けずとも、直接取り出すことも可能です。さらに、手元に喚び出すだけでなく周囲に展開し、能力で指向性を与えて飛ばして、間合いに関係なく直接攻撃することもできるのです。更に、一度ここに収納した物はよほど遠くにない限り離れた所にあっても回収できます。飛ばした武器はこれで回収していますね」

「それが、先ほど披露した能力なのだな」
「なるほどな。弱点はあるのか?」

__うっ、言いたくないな。だが信用を得る為だ、仕方ない……__

「ええ、当然ありますとも。まず、使用する度に魔力を消費しますね。さらに、検証していないからまだ分かりませんが、生物は収納できません。収納したら多分ですが死にます。恐らくですが、亜空間は生物の生きられる領域ではないかと。怖いので実験したくはないですし、入れる気もありませんが。ただ、有機物がダメというわけでもないようです。食品を収納することができましたから。そして、重要なのが『自身の所有物』という点です。自分の魔力を流し込む、もとい私専用の特殊な印をつけたり、しばらく持ち歩いたりすることで、それは私のものとなります。つまり、収納するまでには手間や時間がかかります。なので、他人の物を奪うことはできません。例えば一人の人間に長期間使い込まれたり、他人の魔力が強く残っているような物は、物自体が拒むので、これも収納不可ですね。実はこっそりエリゴスさんの剣で試してみてわかった事です。印を刻もうとしても、すぐに掻き消されました。まあでも、この能力があれば、兵站の面に於いて大きなアドバンテージになるかと」

 さらにこの能力、亜空間について念じる(考える)と、中に何が収容されているか分かる。何を入れたか忘れたり、何を取り出そうかと迷うこともあまりない。容量はほぼ無限だが、念じることで亜空間の大きさを変えることができ、仕切りを作って分類することもできる。端的にいえば、ゲームの持ち物欄のような感じだ。エイジは整理が大好きだから、こういうのとても助かっている。

「もう驚いておられる様ですが、こんなの序の口ですよ。三つ目は強大な魔力です。具体例を出さなかったので、詳しい総量はわかっていません。今使えているのは、ほんの一部です。そして、そんな強大な魔力を制御するために四つ目の能力、『自己封印・制限能力』です。これにより、出力の調整が容易く行えます」

 どよめきが広がる。それが収まるのを待ってから、口を開く。

「そして、これが最も重要な能力、『千里眼』です。この能力があれば、現在世界で起こっていることの全てを見通し、未来すら予測可能です」

 この場にいる全員が、あり得ないモノを見たかのように凍りついた。

「な、そんなの無敵ではないか‼︎」

 流石の魔王様すら声を荒げる。

「しかし、残念ながら今の私には扱えません。何となく使い方がわかっただけで、現在視はせいぜい遠見の魔術、未来視に至っては全く発動条件がわかりません。少し前にまぐれで発動しましたが、望んだ通りの時間や出来事を見ることはできませんし、意識的に発動したら、なかなかの魔力を持っていかれました。しかも、前回任意発動した千里眼で見えたのはたった数秒先。身に付けるには相当時間がかかりそうですね」

「そ、そうか……それは少し残念であるが、安心もしたな」
「これで以上です。どれもとても有用なのは間違い無いですし。千里眼はいざってときのとっておきなので、あってないようなものと思って下さい」

 彼が隠している能力はまだあるが、言いたくないのと、使い方がまだよく分からないとで言う気はないようだ。千里眼だけ明かしておけば十分信頼されるだろう、一番の強みを曝け出したのだから、と判断してのこと。

__まあ、他のは気が向いたら明かそうか。そしていずれ、全ての能力を十全に扱えるようにしなければね__

「なるほど、辻褄は合う。ひとまず、お前の話は信じることとしよう。では、次に与える試練で以ってお前の能力を測り、その結果次第でお前を信頼し、宰相の座に就く者に値するかを決めよう。エリゴス、彼はもう実戦に出られるかな?」
「おう、十分すぎるほどですなぁ」

「ふむ、エリゴスのお墨付きがあれば問題ないだろう。ではエイジよ、勅命を下す。明日より我らの前線拠点に赴き、戦果を上げて見せよ! さすれば汝を宰相と認め、執政を任じよう。急なことで悪いがな」

 魔王様直々の命令である。どうやらそれ次第で、本当にエイジを認めるようだ。

「喜んで拝命いたします、陛下」
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